わたくし、前世では世界を救った♂勇者様なのですが?

自転車和尚

文字の大きさ
334 / 430

第二八四話 シャルロッタ 一六歳 使役する者 〇四

しおりを挟む
「神滅魔法……聖なる七海セブンシーズオブライ
「混沌魔法……病魔のエンジェルオブ使徒ディジーズ

 同時に放たれた超魔法同士の魔力が周囲の地形を破壊していく……わたくしの聖なる七海セブンシーズオブライは天界の大渦巻メイルストロームを召喚し、圧倒的な質量で対象を粉砕する神滅魔法の中でも範囲攻撃に特化した攻撃魔法の一つだ。
 絶対的な質量で相手を押し潰し、引き裂き……そして粉砕するという面においてこの魔法以上の破壊力を生み出すものはないと言っても良い。
 今わたくしが扱える魔法の中でも屈指の物理攻撃力を有していると自負しているが、それと系統は違うものの病魔のエンジェルオブ使徒ディジーズは押し負けることもなく拮抗した破壊力を有しているらしい……らしい、と言うのも見ただけで魔法を再現できるほどわたくしは器用ではない。
 全ては訓練と努力の末に手に入れた結果……だが、これほどまでに邪悪な魔力を放出する魔法だと、もし使えたとしても行使する気にはなれないな。
「これもほぼ互角か……いや?」

「クハハッ! 素晴らしい……ッ!」
 耳障りで引き攣るような笑い声を上げる使役する者コザティブの醜い顔に歪んだ笑みが浮かぶのを見つつ、双方の魔力が激突していくのを観察していく。
 そう、わたくしは観察をしている……まずは混沌魔法と言うもの自体がそもそも魔王が使ってたくらいしか理解していないし、自分で再現ができない。
 今の時点でわかっているのは、彼が行使している魔法は攻撃に触れた瞬間、生物の肉体は瞬時に腐って溶け落ち絶命するだろうという点だけだ。
 それともう一つ、ほんの少しだけわたくしの聖なる七海セブンシーズオブライの方が優勢、微妙な差ではあるが三回目の発動で明らかに使役する者コザティブ側に押し始めている。
 使役する者コザティブはまだ気がついていないのかニタニタと笑みを浮かべているが……四回目の神滅魔法で確実に自らが不利だと悟るはずだ。
「……我慢比べと洒落込もうかしらね」

「クハハッ! 貴様のような人間如きが何を馬鹿な……」
 双方の魔法が消滅し一瞬だけ静寂が訪れるか、周囲の地面が崩壊しつつある中やはり先ほどの拮抗していた二回までと違い、聖なる七海セブンシーズオブライの領域がほんの少しだけ広がっているのがわかった。
 つまり双方の能力差で考えればわたくしに分がある……かなりの力押しになるだろうけど、押し切ろうと思えばいつでもやれるってことだ。
 だがそれには膨大な魔力を叩きつけ続けなければならず、ぶっちゃけて言えば周囲の地形が崩壊してしまう危険性を孕んでいる。
 実際にすでに周囲は先ほどの三回の超魔法の衝突で地面が割れ、あちこちが崩壊しかかっている……この世界では地面を掘り進めていくと冥界へとつながるとされており、巨大な穴などは冥界への入り口にもなっている。
 こんなどうでもいい場所にそんな大穴開けてしまったら……観光名所くらいにはなるだろうけど、あんまりよろしくないのは明白だ。
「つまり……削るッ!」

「クハハッ!」
 四回目を放たずに一気に距離を詰めてきたわたくしを見て使役する者コザティブはその歪んだ三本の腕を広げて同じように前に出た。
 腐敗と疫病を象徴する混沌神ディムトゥリアの眷属は基本的に戦闘には不向きだとされていて、それ故に静かなる侵食……つまり相手を弱らせることに特化したものが多いのだが、こいつはそんなことはお構いなしに前に出てくる。
 基本となる戦闘能力も非常に高く、近接戦闘と魔法能力のバランスが素晴らしく取れている。
 古より生きてきたというのが嘘ではないというのを如実に感じさせる存在だな……わたくしの振るう不滅イモータルを右手で受け止めると、そのまま先ほど生やした三本目の腕から凄まじい拳をわたくしへと叩きつけてきた。
 ドゴン! という鈍い音と共にその拳はわたくしの寸前で何かに阻まれるように静止するが、そのまま左腕で横殴りで拳を叩きつけてきた。
 だがその攻撃も鈍い音と共に防御結界へと阻まれるものの、わたくしの華奢な肉体はその衝撃に耐えきれずに大きく跳ね飛ばされる。
「……カアアッ! 漆黒のショットイン弾丸ザダーク!」

「ちっ……」
 使役する者コザティブの咆哮と共に凄まじい数の漆黒の光線がわたくしへと放たれる……こいつは前に下級悪魔レッサーデーモンのなんとかって雑魚が使ってた魔法、漆黒のショットイン弾丸ザダークか。
 恐ろしい勢いで光線がわたくしへと伸びるが、左腕に込めた魔力と共にわたくしは神速の拳で飛来する迫り来る魔法を叩き落としていく。
 威力は以前見たものなど比べ物にならないほどのものではあるが、それでもわたくしの防御結界を貫通するほどの威力はないようにも思える。
 全ての光線を叩き落とすと、わたくしは剣をくるりと回してから再び使役する者コザティブとの距離を一足飛びに詰めていく。
 この魔法程度では相手が消耗しない、これを散々ぱら撃たせたところでそれほど意味があるわけじゃない……そもそも神滅魔法や混沌魔法のような超魔法と違って、一般的な魔法というのは人間が扱うための知識であり、人間外の存在にしてみれば息をするようなものでしかないのだから。
 つまりこいつを倒すためには超魔法に匹敵する強力な攻撃が必要になるのだ。
 距離を詰めるわたくしの体の表面を電流のような魔力が伝う……それを見た使役する者コザティブの表情が一瞬で変わる。
「——我が白刃、切り裂けぬものなし」

「こ、これは……!?」

剣戦闘術ブレードアーツ一の秘剣……雷鳴乃太刀サンダーストラックッ!」
 まさに雷鳴の如き神速、轟く轟音と共にわたくしは雷鳴乃太刀サンダーストラックを解き放つ……一瞬で超加速したわたくしは使役する者コザティブを確かに切り裂くはずだった。
 だが……剣が触れる瞬間、それを狙ったのかはわからないがボンッ! という音と共にその肉体を変質させ致命の一撃を回避してみせた。
 驚いた……この世界で雷鳴乃太刀サンダーストラックを躱せる存在がいるとは予想すらしていなかったのだから。
 この技は前世の魔王ですら回避できず、無理やり受け止めて防御していたくらい神速の一撃であるため、まさかという気分にさせられる。
「……まさかここまでとはね……」

「……クッ……なんだその技は……」
 実体化した使役する者コザティブだったが完全な回避ができなかったようで、彼の三本目の腕がゆっくりと切断されて地面へとゴトリという音を立てて転がっていく。
 黒く刺激臭を伴う血液が地面へと軽く滴るものの、すぐにそれは止まると右手で小さな顎をさする様な仕草を見せつつ彼はわたくしを興味深げに見つめて何事かを考えている。
 ダメージは入ったが、おそらくあの三本目の腕はすぐに再生できるだろう、他の訓戒者プリーチャーがそうであったように、肉体よりも魂の存在そのものにダメージを負わなければ死ぬようなことはないのだろう。
 いや死ぬという表現自体があっているかというと違うかもしれない、存在が抹消されるという言い方が良いかもな。
剣戦闘術ブレードアーツ……この世界では存在していない太古より受け継がれし技よ」

……クハ……そうかそうか、やはりそうなのだな……盟約を破りし強き魂そのものということか」

「気がついたところで聞きたいのだけど、そもそも混沌神はなぜ強き魂を探しているのかしら」
 聞きたいことは山ほどあるんだけど……まずは無難なところから聞くのが良いだろうとわたくしは彼へと問いかける。
 ずっと強き魂というものを探しているという話を聞いて、あまりその理由を聞けていないままだったからだ……聞く前に大体相手を倒しちゃってるから仕方ないんだけど。
 使役する者コザティブは見た目のキモさはさておき、太古より混沌神に仕える身であると名乗っていたから、彼にしか知らされていない情報があるかもしれないのだ。
「盟約を破ったからだ」

「その盟約というのがよく分からないのよね……どんなものなの?」

「別の世界に生きる者を移動させること自体は認められている、だがその魂の大きさには限りがある」
 わたくしの問いに使役する者コザティブはなんだそんなことも知らねーのか、とばかりにこちらの動きを警戒しつつ知識をひけらかす学者のごとく答え始めた。
 おいおい、と思ったがこれはこれで好都合だなとわたくしは黙って相手を見つめているが、まるで知識を持たない相手へ講釈でも垂るかのごとく、彼は流暢に盟約についての話を続けていく。
 本質的には悪魔デーモンに近いのだろうか? 質問に対して律儀に答えてくれるのはありがたいのだけど……わたくしが内心呆れのようなものを感じていることには気がついていないようで、使役する者コザティブはそのまま続けた。
「規定以下の魂を移動させたところで世界は変わらん、できることに限界があるからな……だが強き者を移動させると世界が変わる可能性もある、それが盟約として定められた」

「……なるほど、わたくしが強き魂だなんだと言われるのはそこに引っかかっているからか……」

「自覚がないようだが、お前の存在で本来たどるべき歴史は大きく変わっている、それを予測したからこそ混沌四神はお前を滅ぼせと命じられている」

「本来の歴史ぃ? 対して変わらないんじゃないの?」
 本来の歴史とやらにわたくしがいたところでたいして変わらんだろ……とは思う。
 クリスと婚約する相手が誰になるか分からなくて相手によっては一悶着あるだろうけど……アンダース殿下が順当にいけば国王になったとか、クリスは当初の予定通り大公としてどこかの領地へと赴くとか、その程度の違いでしかないだろう。
 だが使役する者コザティブは少し呆れたような表情を浮かべると、軽くため息をついてからわたくしへと語りかけた。

「……自覚はない、ということか……本来あるべき未来から今は大きく逸れている、それはお前が起点になっているのだぞ?」
しおりを挟む
感想 88

あなたにおすすめの小説

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

処理中です...