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第二九一話 シャルロッタ 一六歳 純真なる天使 〇一
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——フェリピニアーダがクリストフェルとソフィーヤの方向へと跳躍したのを見て、シャルロッタ・インテリペリはその目的が分からず戸惑っていた。
「……何をする気?」
わたくしは大きく跳躍したフェリピニアーダが向かう方向に、ほぼ終戦状態で傷だらけで跪くソフィーヤ様と、肩で息をしつつも立っているクリスがいることに気がつき一瞬戸惑った。
この期に及んでクリスを狙う? ソフィーヤ様は悪魔の召喚者なわけで、もしかして加勢する気なのだろうか?
いやいや……わたくしもそこへ集合したら余計に勝ち目が薄くなる……この場合は可能な限りソフィーヤ様の方向へわたくしを近づけないように立ち回るのが普通じゃないのか?
もしかしてクリスを食って何かをしようとしている? わたくしはその意図を読めずに戸惑っていたが、すぐに位置関係を見てクリスが危険だと判断した。
ともかく何がしたいのか理解はできないが、わたくしはクリスの方向へと一気に駆け出す。
当たり前だけどクリスは第二階位の悪魔を相手に無事でいられるほど強くはない、弱くもないけどさ。
すぐに追いつくとはいえ、悪魔によっては強力な魔法攻撃などで瞬時に人間を八つ裂きにすることも可能だ。
わたくしは傍で動けなくなっているユルへと軽く声をかけると、全力でフェリピニアーダを追いかける。
「クリス……! ユル……そこで待ってなさい!」
「クハハハッ! 迷ったな辺境の翡翠姫ッ!」
「な……悪魔?!」
フェリピニアーダが空中でわたくしの方を見て笑う……彼女はソフィーヤ様の背後に着地するが、急に空中から悪魔が降りてきたのを見て、クリスは慌てて跳躍して距離を取るとフェリピニアーダに向かって剣を構えた。
そこへ到着したわたくしがクリスの前へと割り込み、手に持った不滅の切先をソフィーヤ様とフェリピニアーダに向ける。
ソフィーヤ様は全身に傷を負っているが、クリスは相当に手加減をしてたのだろう……命に関わるような重大な怪我などはなく、痛そうだけど治癒すれば問題ないだろう。
「ソフィーヤ様の影に隠れて何をするつもり?」
「シャ、シャルロッタ・インテリペリ……! お前だけは……」
おっとそれまで苦しそうだったソフィーヤ様の目に憎悪の色が浮かぶ……どうしてこんな目でわたくしを見るんだ? という疑問符も多少つくのだけど、そんなにクリスの婚約者を取られたのが悔しかったのだろうか? すぐに変わってあげたいけどな……本音としては。
ソフィーヤ様は手に持った大きな斧を肩で担ぐように構えるが、その重さに肉体が耐えきれていない……ちょっと危なっかしくフラついてしまい、逆にわたくしがハラハラするような光景となってしまっている。
そもそも戦士ではない彼女がいくら良い武器を携えたところでそれほど脅威ではない……わたくしはすぐに彼女の背後に隠れるフェリピニアーダへと視線を移すと、悪魔へと話しかけた。
「出てきなさい、フェリピニアーダ……苦しまないようにぶっ殺してあげるから」
「……シャル……言い方が良くないよ」
「え……う、うーん……フェリピニアーダ、聖女様の影に隠れないでこっちにいらしてくれない? トドメを刺して差し上げますわ?」
「ちょっと違うけど……まあいいや、悪魔……聖女の背後から出てこい」
「……クハハハッ! お主ら能天気じゃの……妾が何をしたいのかまるで理解していないと見える」
「わかるわけないだろ」
クリスの言葉にわたくしは思わずうんうん、と頷く……なんでフェリピニアーダのやりたいことをわたくし達が理解しないといけないんだ。
だがそんな様子を見てもフェリピニアーダは笑みを崩さずに、ソフィーヤ様の体にその細くて美しい白磁のような指を這わせ始める。
その指の動きに合わせてソフィーヤ様は急に息を荒くし、小刻みに震え始め……次第に体を震わせながら、何かを我慢するかのように大きく吐息を吐いた。
それはまるでフェリピニアーダがソフィーヤ様を愛するかのように優しく、そして淫らで、扇情的な光景だった……柔らかそうなソフィーヤ様の体を弄ると、それに応えて彼女は小刻みに震えながら声を必死に抑えて我慢している。
え? 何しているのこのエロ悪魔……急に悶え始めたソフィーヤ様を見てクリスがギョッとした顔と、あわてたのか少し頬を赤らめてその様子を見つめている。
ソフィーヤ様の豊かな胸を愛撫するかのように指を這わせ、手のひらでその感触を確かめるとフェリピニアーダはいきなりソフィーヤ様を背後から抱きしめた。
「クハハ……我ら悪魔は命を糧に進化できる」
「知ってるわよ、そのために殺戮を繰り返すものもいるからね」
「だが辺境の翡翠姫は召喚者本人もその対象となることを知らんな?」
「……そんなことしたらあなたも消滅するわよ?」
「ああ……これ、気持ちいい……ッ! こんなの初めて……ッ!」
ソフィーヤ様が我慢しきれなくなったのか、それまで見なかったような恍惚とした表情で叫ぶと、その体がまるでフェリピニアーダの体の中へとずぶりずぶりと沈み込んでいくように一体化していく。
召喚者を対象に……?! 普通そんなことしたら召喚された悪魔は召喚された意義を失って元の世界へと強制送還される。
だから召喚者や契約者を襲うことは決してない……いや正確には虎視眈々と裏切ることを目論むこともあるけど、それは別の契約者を得た場合だけなのだ。
つまりフェリピニアーダはソフィーヤ様を失った場合、このマルヴァースにとどまることを許されないはずなのだ。
「あっ、あっ……こんな、こんなの我慢できないいッ!」
「快楽に身を任せよ聖女よ……我の中へと溶け込み、快楽と忘我の果てで永遠にイキ狂うと良い……!」
「そ、ソフィーヤ! や、やめろッ!」
焦ったような叫びと共にクリスがわたくしを押し退けて一気に駆け出す……彼とソフィーヤ様は幼馴染でもあり、昔からよく顔を合わせていた間柄だ。
なんせ婚約者候補にも上がってたくらいなのだから、わたくしという異物がなければおそらく婚約者に選ばれていたのはソフィーヤ様だっただろう。
いくら彼女の性格がビミョーなものだったとしても家同士のつながりや、王家としての判断はそうなったに違いない……そんな光景を見つつ、わたくしはどうするかほんの少しだけ迷っていた。
ソフィーヤ様に恨みなどない、正直に言えば別に好きか嫌いかで言ってもそこまで嫌いじゃない……でもわたくしの理解している召喚術で、フェリピニアーダがソフィーヤ様を自らの手で殺すなどあり得ない、脅しの一つなのだと考えていたからだ。
それは……完全にわたくしの認識が間違っていたことをまざまざと思い知らされる結果となった……フェリピニアーダはわたくしをみてニヤリと笑うと、恐るべき言葉を投げかけてきた。
「……妾の契約者は聖女などではない……闇征く者よ」
「……は……?」
「ソフィーヤ! だめだこっちに……!」
「あんっ……あはぁ……これ、ほんとうにさいこおおッ!!」
完全に快楽落ちしたソフィーヤ様が蕩けるような表情を浮かべたまま、フェリピニアーダの肉体と一体化すると、その場に恐ろしいほどの魔力の爆風が巻き起こる。
その爆風でクリスが大きく跳ね飛ばされるが、わたくしは我に帰るとあわてて宙を舞うクリスの体を抱き止める。
そして彼を庇うように防御結界を展開するが、それまでソフィーヤ様がいた場所にはまるで繭のように白亜の翼で覆われたフェリピニアーダがまるで脈動するかのようにその姿を変えつつあった。
神々しいまでの光と、それまでの禍々しく淫靡な雰囲気を持つ魔力とは全く別の清らかな波動……それが絶え間なく周囲の空気を浄化していく。
「そ、ソフィーヤ!」
「クリス……彼女はもう……」
「シャル! なぜ止めてくれなかったんだ!」
「……しょ、召喚者を自ら殺すわけがないと……それは自殺に等しいので……」
「……ッ!」
クリスが本気で怒っている表情を浮かべていることに気がつき、わたくしの心臓がキュッと締まったような感覚に陥る。
彼が絶対にわたくしに対して怒るはずがない、と思っていたのは単なる甘えだっただろうか? クリスは今誰に向かって怒っているのか分からないが、少なくともソフィーヤ様とクリスの関係は破綻していても、一人の幼馴染として親愛の情を抱いていてもおかしくはない。
そうだ、わたくしは自分自身の経験と知識から、ソフィーヤ様をフェリピニアーダが殺すはずがないと思い込んでいた。
だが……あいつは言っていた「召喚者は聖女などではない」と……真の召喚者は闇征く者なのだと。
最初から違和感は感じていたのだ……いくら聖女とはいえ、ソフィーヤ様単体で第二階位の悪魔を召喚できるようになるだろうか? と。
召喚術は術者の能力に強く左右される……ソフィーヤ様の能力は高いけど、六情の悪魔を呼び出せるほどの実力があるかと言われると疑問符がつく。
「……わ、わたくし……ソフィーヤ様を殺すつもりは……」
「く……ソフィーヤ……」
目の前で喘ぎ声にも、悲鳴のようにも聞こえるソフィーヤ様の声と共にフェリピニアーダの姿が風船のようにボゴン! と言う音を立てて数メートルの大きさへと一気に膨らんだ。
次の瞬間、それまで吹き荒れていた魔力の暴風が寝り、周囲の喧騒すらも聞こえなくなっていく……何かが誕生するのか?
奇怪な姿……神々しい美しさをもつ六情の悪魔の姿としてはあまりに醜く変化した後、まるで肉体が引き裂かれるように真っ二つに避けていく。
血飛沫を上げながら引き裂かれたその肉体の中から細く美しい手が突き出すと、美しく輝く輪を頭に浮かべた美しい女性が姿を表す。
その顔は先ほどまで快楽に崩れた表情を浮かべていたはずのソフィーヤ様そのもの……紫色の髪の毛も、優しく微笑む顔も彼女そのものだった。
だが……大きさが違う、ソフィーヤ様のようなその姿とは異なり身長が異常に高い……五メートル近い体高を持ち背中に八対の白亜の翼を広げた存在は、わたくしたちを見下ろしながら話しかけてきた。
「……妾は天使……ノルザルツが第一階位を象徴する純真なる天使なり」
「……何をする気?」
わたくしは大きく跳躍したフェリピニアーダが向かう方向に、ほぼ終戦状態で傷だらけで跪くソフィーヤ様と、肩で息をしつつも立っているクリスがいることに気がつき一瞬戸惑った。
この期に及んでクリスを狙う? ソフィーヤ様は悪魔の召喚者なわけで、もしかして加勢する気なのだろうか?
いやいや……わたくしもそこへ集合したら余計に勝ち目が薄くなる……この場合は可能な限りソフィーヤ様の方向へわたくしを近づけないように立ち回るのが普通じゃないのか?
もしかしてクリスを食って何かをしようとしている? わたくしはその意図を読めずに戸惑っていたが、すぐに位置関係を見てクリスが危険だと判断した。
ともかく何がしたいのか理解はできないが、わたくしはクリスの方向へと一気に駆け出す。
当たり前だけどクリスは第二階位の悪魔を相手に無事でいられるほど強くはない、弱くもないけどさ。
すぐに追いつくとはいえ、悪魔によっては強力な魔法攻撃などで瞬時に人間を八つ裂きにすることも可能だ。
わたくしは傍で動けなくなっているユルへと軽く声をかけると、全力でフェリピニアーダを追いかける。
「クリス……! ユル……そこで待ってなさい!」
「クハハハッ! 迷ったな辺境の翡翠姫ッ!」
「な……悪魔?!」
フェリピニアーダが空中でわたくしの方を見て笑う……彼女はソフィーヤ様の背後に着地するが、急に空中から悪魔が降りてきたのを見て、クリスは慌てて跳躍して距離を取るとフェリピニアーダに向かって剣を構えた。
そこへ到着したわたくしがクリスの前へと割り込み、手に持った不滅の切先をソフィーヤ様とフェリピニアーダに向ける。
ソフィーヤ様は全身に傷を負っているが、クリスは相当に手加減をしてたのだろう……命に関わるような重大な怪我などはなく、痛そうだけど治癒すれば問題ないだろう。
「ソフィーヤ様の影に隠れて何をするつもり?」
「シャ、シャルロッタ・インテリペリ……! お前だけは……」
おっとそれまで苦しそうだったソフィーヤ様の目に憎悪の色が浮かぶ……どうしてこんな目でわたくしを見るんだ? という疑問符も多少つくのだけど、そんなにクリスの婚約者を取られたのが悔しかったのだろうか? すぐに変わってあげたいけどな……本音としては。
ソフィーヤ様は手に持った大きな斧を肩で担ぐように構えるが、その重さに肉体が耐えきれていない……ちょっと危なっかしくフラついてしまい、逆にわたくしがハラハラするような光景となってしまっている。
そもそも戦士ではない彼女がいくら良い武器を携えたところでそれほど脅威ではない……わたくしはすぐに彼女の背後に隠れるフェリピニアーダへと視線を移すと、悪魔へと話しかけた。
「出てきなさい、フェリピニアーダ……苦しまないようにぶっ殺してあげるから」
「……シャル……言い方が良くないよ」
「え……う、うーん……フェリピニアーダ、聖女様の影に隠れないでこっちにいらしてくれない? トドメを刺して差し上げますわ?」
「ちょっと違うけど……まあいいや、悪魔……聖女の背後から出てこい」
「……クハハハッ! お主ら能天気じゃの……妾が何をしたいのかまるで理解していないと見える」
「わかるわけないだろ」
クリスの言葉にわたくしは思わずうんうん、と頷く……なんでフェリピニアーダのやりたいことをわたくし達が理解しないといけないんだ。
だがそんな様子を見てもフェリピニアーダは笑みを崩さずに、ソフィーヤ様の体にその細くて美しい白磁のような指を這わせ始める。
その指の動きに合わせてソフィーヤ様は急に息を荒くし、小刻みに震え始め……次第に体を震わせながら、何かを我慢するかのように大きく吐息を吐いた。
それはまるでフェリピニアーダがソフィーヤ様を愛するかのように優しく、そして淫らで、扇情的な光景だった……柔らかそうなソフィーヤ様の体を弄ると、それに応えて彼女は小刻みに震えながら声を必死に抑えて我慢している。
え? 何しているのこのエロ悪魔……急に悶え始めたソフィーヤ様を見てクリスがギョッとした顔と、あわてたのか少し頬を赤らめてその様子を見つめている。
ソフィーヤ様の豊かな胸を愛撫するかのように指を這わせ、手のひらでその感触を確かめるとフェリピニアーダはいきなりソフィーヤ様を背後から抱きしめた。
「クハハ……我ら悪魔は命を糧に進化できる」
「知ってるわよ、そのために殺戮を繰り返すものもいるからね」
「だが辺境の翡翠姫は召喚者本人もその対象となることを知らんな?」
「……そんなことしたらあなたも消滅するわよ?」
「ああ……これ、気持ちいい……ッ! こんなの初めて……ッ!」
ソフィーヤ様が我慢しきれなくなったのか、それまで見なかったような恍惚とした表情で叫ぶと、その体がまるでフェリピニアーダの体の中へとずぶりずぶりと沈み込んでいくように一体化していく。
召喚者を対象に……?! 普通そんなことしたら召喚された悪魔は召喚された意義を失って元の世界へと強制送還される。
だから召喚者や契約者を襲うことは決してない……いや正確には虎視眈々と裏切ることを目論むこともあるけど、それは別の契約者を得た場合だけなのだ。
つまりフェリピニアーダはソフィーヤ様を失った場合、このマルヴァースにとどまることを許されないはずなのだ。
「あっ、あっ……こんな、こんなの我慢できないいッ!」
「快楽に身を任せよ聖女よ……我の中へと溶け込み、快楽と忘我の果てで永遠にイキ狂うと良い……!」
「そ、ソフィーヤ! や、やめろッ!」
焦ったような叫びと共にクリスがわたくしを押し退けて一気に駆け出す……彼とソフィーヤ様は幼馴染でもあり、昔からよく顔を合わせていた間柄だ。
なんせ婚約者候補にも上がってたくらいなのだから、わたくしという異物がなければおそらく婚約者に選ばれていたのはソフィーヤ様だっただろう。
いくら彼女の性格がビミョーなものだったとしても家同士のつながりや、王家としての判断はそうなったに違いない……そんな光景を見つつ、わたくしはどうするかほんの少しだけ迷っていた。
ソフィーヤ様に恨みなどない、正直に言えば別に好きか嫌いかで言ってもそこまで嫌いじゃない……でもわたくしの理解している召喚術で、フェリピニアーダがソフィーヤ様を自らの手で殺すなどあり得ない、脅しの一つなのだと考えていたからだ。
それは……完全にわたくしの認識が間違っていたことをまざまざと思い知らされる結果となった……フェリピニアーダはわたくしをみてニヤリと笑うと、恐るべき言葉を投げかけてきた。
「……妾の契約者は聖女などではない……闇征く者よ」
「……は……?」
「ソフィーヤ! だめだこっちに……!」
「あんっ……あはぁ……これ、ほんとうにさいこおおッ!!」
完全に快楽落ちしたソフィーヤ様が蕩けるような表情を浮かべたまま、フェリピニアーダの肉体と一体化すると、その場に恐ろしいほどの魔力の爆風が巻き起こる。
その爆風でクリスが大きく跳ね飛ばされるが、わたくしは我に帰るとあわてて宙を舞うクリスの体を抱き止める。
そして彼を庇うように防御結界を展開するが、それまでソフィーヤ様がいた場所にはまるで繭のように白亜の翼で覆われたフェリピニアーダがまるで脈動するかのようにその姿を変えつつあった。
神々しいまでの光と、それまでの禍々しく淫靡な雰囲気を持つ魔力とは全く別の清らかな波動……それが絶え間なく周囲の空気を浄化していく。
「そ、ソフィーヤ!」
「クリス……彼女はもう……」
「シャル! なぜ止めてくれなかったんだ!」
「……しょ、召喚者を自ら殺すわけがないと……それは自殺に等しいので……」
「……ッ!」
クリスが本気で怒っている表情を浮かべていることに気がつき、わたくしの心臓がキュッと締まったような感覚に陥る。
彼が絶対にわたくしに対して怒るはずがない、と思っていたのは単なる甘えだっただろうか? クリスは今誰に向かって怒っているのか分からないが、少なくともソフィーヤ様とクリスの関係は破綻していても、一人の幼馴染として親愛の情を抱いていてもおかしくはない。
そうだ、わたくしは自分自身の経験と知識から、ソフィーヤ様をフェリピニアーダが殺すはずがないと思い込んでいた。
だが……あいつは言っていた「召喚者は聖女などではない」と……真の召喚者は闇征く者なのだと。
最初から違和感は感じていたのだ……いくら聖女とはいえ、ソフィーヤ様単体で第二階位の悪魔を召喚できるようになるだろうか? と。
召喚術は術者の能力に強く左右される……ソフィーヤ様の能力は高いけど、六情の悪魔を呼び出せるほどの実力があるかと言われると疑問符がつく。
「……わ、わたくし……ソフィーヤ様を殺すつもりは……」
「く……ソフィーヤ……」
目の前で喘ぎ声にも、悲鳴のようにも聞こえるソフィーヤ様の声と共にフェリピニアーダの姿が風船のようにボゴン! と言う音を立てて数メートルの大きさへと一気に膨らんだ。
次の瞬間、それまで吹き荒れていた魔力の暴風が寝り、周囲の喧騒すらも聞こえなくなっていく……何かが誕生するのか?
奇怪な姿……神々しい美しさをもつ六情の悪魔の姿としてはあまりに醜く変化した後、まるで肉体が引き裂かれるように真っ二つに避けていく。
血飛沫を上げながら引き裂かれたその肉体の中から細く美しい手が突き出すと、美しく輝く輪を頭に浮かべた美しい女性が姿を表す。
その顔は先ほどまで快楽に崩れた表情を浮かべていたはずのソフィーヤ様そのもの……紫色の髪の毛も、優しく微笑む顔も彼女そのものだった。
だが……大きさが違う、ソフィーヤ様のようなその姿とは異なり身長が異常に高い……五メートル近い体高を持ち背中に八対の白亜の翼を広げた存在は、わたくしたちを見下ろしながら話しかけてきた。
「……妾は天使……ノルザルツが第一階位を象徴する純真なる天使なり」
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