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第三二〇話 シャルロッタ 一六歳 地下水路 一〇
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「ターヤ! もう目を覚まして!」
「アハハ! ハハハッ! 目はもう……さメテるぅ!」
狂ったような笑い声を上げながらガクガクと痙攣する様な動きを見せるターヤ……表情は笑っているのに涙をボロボロと流しているのは彼女の魂自体が悲鳴をあげているからか。
彼女の影から湧き出しているシャドウワーム……もうすでにそれだけではなく、巨大なムカデの魔物であるダークセンチピードや、黒いナメクジを巨大化したようなシャドウスラッグなどありとあらゆる混沌の魔物が湧き出しわたくしへと襲いかかってきており、勢いが凄まじすぎて剣や拳で振り払うのが精一杯の状態になっている。
見た目がすでにグロすぎて正直形容し難いものばかりだが……色々な器官が出鱈目に生えているし、変な粘液というか汁を垂れ流しながら怒涛の勢いで湧き出している。
魔力による防御結界にも食いつく魔物が現れているが、まあこれは津波のような魔物の群れに引っかかってそのうち弾き飛ばされるから放置するにしても、これでではターヤに近づくことすらできない。
「怖い、怖い、怖い……! アレが来るッ! 来るのよ!」
「……アレ?」
「私が一人になって心細かった時に手を差し伸べた……でも、それは‥…アハハハハッ!」
ターヤのいうアレってなんだ……? 心細かった時に手を差し伸べる? そんなことやれそうなものはわたくしが知る限り悪魔か訓戒者くらいしか思い浮かばない。
王都にずっと残っていたのであれば、そういった混沌の眷属から接触を受けるケースも増えるだろうし、実際に王都内に侵入してからというもの、ひどく重ったるい嫌な感覚が肌にへばりついているような気がしてずっと不快な状態が続いている。
すでに王都事態には混沌の眷属が蔓延しており、下手をすると住民すらも気がつかないうちに喰われているなんてことが発生しているのかもしれない。
「アレって何? 教えてターヤ……!」
「それでもアレは優しかった……美しくて……そして私を助けてくれた……」
「助けて……? 何があったの?」
わたくしの問いにターヤがそれまで垂れ流していた黒い魔力は次第に収まりを見せ、影から洪水の様に湧き出していた魔物の勢いが止まると同時に、突然自己崩壊を始める。
こいつらは混沌の魔物……本来この世界には存在し得ない連中だからこそ召喚者の魔力が続かないと生存できないのだろう、彼らは黒い煙となって悲鳴をあげて崩壊し消滅していく。
ターヤとわたくしを遮るものがなくなったことで、彼女のそばへと駆け寄るがターヤはそのまま地面に膝をつくとボロボロと涙を流しながら嗚咽を漏らす。
わたくしがどう彼女に声をかけていいのか分からずに戸惑っていると、少しの間をおいてターヤは消え入りそうな声で話し始めた。
「……王都に残った人はみんな息を潜めていた……私だけじゃない、お世話になった人も……」
「……王都に残った人は無事なの?」
「ほとんど無事……でも下町にいた私たちは酷い目にあった……」
ターヤは地面にぺたりと座ったまま、ぽつりぽつりと話し始める……ひどく混乱し、脱線なども多くてよく分からない部分も多かったが、それでもまとめるとなんとか意味のある結論へと辿り着く。
それはわたくしが考えているよりもはるかに酷い王都の現状を、ターヤが体験した出来事として伝えられた事実であった。
最初は防御施設化が終わった王都で職にあぶれた浮浪者が惨殺される事件が起きた……朝になると軒先に野犬に食い殺されたかのような死体が捨てられているという。
衛兵も兵士も、そして冒険者も流石にこれほどの事件を調査しないという選択肢はなかったのだろう、夜の警備が増えていったが、それでもなお浮浪者だけでなく衛兵や兵士、そして庶民までもが毎晩のように行方不明となっていった。
犠牲者が増える中調査が進み、冒険者達が王都の地下にある地下水路から魔物が這い出しているという報告を受けた。
冒険者組合のアイリーン様は当初地下水路に軍隊の派遣を要請していたらしい……だが第一王子派の貴族達はその要請を一蹴し、結果的に冒険者だけで地下水路へと攻撃を行うことになったのだろう。
「お姉様が私を守ってくれていたけど、いなくなって私は下町に戻ったの……」
「お姉様?」
「そう……そして、あの日が来た、私を迎えに来て力を与えてくれた……アレ……」
ターヤはうっとりとした瞳で私を見上げる……そこには先ほどまで泣き続けていたことなど嘘だったかのように、蕩けるように恍惚とした微笑みを浮かべている。
そこでわたくしはふと気がついた……遠くを見つめる彼女の瞳、それは深い海と同じ色をしているのだが、その瞳の中はまるで渦を巻くような不気味な虹彩によって形作られている。
どろりとした、それでいて濁った汚水のような‥…違和感を覚えたわたくしは思わず彼女の側から離れようと、一歩後退りした瞬間、それまで宙を見つめていたターヤがそれまでに見せなかったような凶暴な笑顔を浮かべてわたくしへと話しかけた。
「……あらダメよ、まだ作り話の途中なのに近くで聞いて♡」
「……え?」
「こんガアアッ! 私が作ってグビャ! 出鱈目だっていって……バビュ!!!」
メキョ、という鈍い音と共にターヤの可愛らしい顔がまるでおもちゃの箱を握りつぶしたように思い切り変形する……飛び散る鮮血と、眼窩からこぼれ落ちた瞳がゆっくりと地面へと落ちていくのをわたくしは呆然と見つめている。
メリッ! ボリボリッ! メキョッ! という肉が引き裂かれ、骨が砕け散る音を響かせながらターヤの体が砕け、引き裂かれまるで違う何かのように変形していく。
それは体の内部から崩壊していくような、そして彼女の中から別のものが生まれ出でるような、そんな奇怪な光景であった。
鮮やかな色をした内臓がひとりでに盛り上がり、肉片が付着したままへし折れた骨がゴトリと音を立てて地面へと落ちる。
わたくしは友人だったはずのその肉塊が自ら自壊していく様子を見せつけられて思考が完全に停止してしまっている……なんだ? 何を見せられて……ターヤが死んでいく?
「……あ、あ……ターヤ? 何が……」
「ゴボボ……そう、そういう顔見たかったのよ、私のアソコがキュンキュンしちゃう表情を見せてくれて……嬉しいわ、シャルロッタ・インテリペリ♡」
ターヤの砕け散る肉塊とも言える中からずるり、とターヤの血液と臓物に塗れた黒髪が姿を表す……肌を濡らす血液の赤よりも鮮やかに光る瞳、そして歪んだ笑みを浮かべた絶世の美女がターヤだったものから姿を見せる。
完璧に左右対称で作られたような美貌、怪しい雰囲気を醸し出すその魔力は淫らで、そして淫雛な匂いを放っている。
白磁のようにきめ細やかな肌と、この世の全ての彫像よりもはるかに完璧なプロポーションを持つ女性……いや、この感覚は悪魔よりもはるかに高次元の存在であることを伝えてくる。
「……お初にお目にかかるわ、私は淫乱にして快楽の具現者ノルザルツ神の訓戒者たる存在……欲する者」
「……あ、あ……」
「驚いて声も出ない? ああ、この娘のことが気になるぅ? ごめんね、もうだいぶ前にこの子は頂いたわ」
目の前の欲する者と名乗る訓戒者……彼女の感覚には覚えがある、どこかで見ていた視線、そして先日戦った第二階位の六情の悪魔と酷似した魔力を放っている。
ノルザルツ神の眷属……それ故の完璧な美貌とプロポーションなのだろう、この混沌神は眷属に完璧な外見と、ひどく淫らで倒錯的な性愛を与えると言われている。
見ただけで相手を虜にし、思うがままに操ってみせたり、快楽の虜にして従わせるなど信者もよく使う手法であるからだ。
だがその知識が今はまるでふわふわした状態で真っ白になった思考のどこかへと消え去っていく……ようやく会えたターヤが目の前でグチャグチャに崩壊した肉塊へと変化している。
笑顔が可愛かった、上目遣いで話しかけてくるターヤは小動物的で守りたいと思っていた……でもわたくしは王都脱出の際に彼女を連れて行かなかった。
その結果が……目の前に肉塊として転がっているターヤなのだ、これはわたくしの所為で起きたことなのだろうか?
彼女の瞳が地面に転がり、流れ出した血の中でひどく鈍い光を放っている……その瞳がわたくしをじっと見つめているような気がして呆然としたわたくしは膝を落とした。
「あれぇ? どうしたのかな? もしかしてこの娘とイイことしたかったのかしら?」
「タ、ターヤ……わたくし、わたくし……貴女を守れなくて……」
「ターヤはとても良い声で哭くのよ……何度も犯したけどずっと貴女の名前を呼んでたわ……最後は従順なペットになったのよ、クハハハハハッ!」
いつの間にかわたくしの側に立っていた欲する者がそっとわたくしへと囁く……呆然としたままわたくしは訓戒者を見上げた。
その顔を見た欲する者はまるで至高の快楽を得たかのように、涎を垂らしながら大きく歪んだ笑みを浮かべ、それまでになかったような引き攣った笑い声を上げ始める。
……なんだその顔は、なんだその笑みは……真っ白だった心に荒れ狂う溶岩のような感情が押し寄せる……わたくしの中に制御できない激しい怒りが巻き起こると、それに気がついたのかふわりと大きく距離を話すように欲する者が跳ぶ。
拳が震える……ギリギリと奥歯を噛み締めわたくしはゆっくりと立ち上がると、憎しみに包まれたままの感情を覆い隠すことをやめて魔力を一気に放出していく。
ゴオオオオオオッ! という凄まじい音を立てて空間内に魔力が吹き荒れる……欲する者は妖しく笑うとわたくしに向かって叫んだ。
「ウフフフッ! ここで私欲する者と辺境の翡翠姫どちらが生き残るのか、愛し合いましょうか」
「アハハ! ハハハッ! 目はもう……さメテるぅ!」
狂ったような笑い声を上げながらガクガクと痙攣する様な動きを見せるターヤ……表情は笑っているのに涙をボロボロと流しているのは彼女の魂自体が悲鳴をあげているからか。
彼女の影から湧き出しているシャドウワーム……もうすでにそれだけではなく、巨大なムカデの魔物であるダークセンチピードや、黒いナメクジを巨大化したようなシャドウスラッグなどありとあらゆる混沌の魔物が湧き出しわたくしへと襲いかかってきており、勢いが凄まじすぎて剣や拳で振り払うのが精一杯の状態になっている。
見た目がすでにグロすぎて正直形容し難いものばかりだが……色々な器官が出鱈目に生えているし、変な粘液というか汁を垂れ流しながら怒涛の勢いで湧き出している。
魔力による防御結界にも食いつく魔物が現れているが、まあこれは津波のような魔物の群れに引っかかってそのうち弾き飛ばされるから放置するにしても、これでではターヤに近づくことすらできない。
「怖い、怖い、怖い……! アレが来るッ! 来るのよ!」
「……アレ?」
「私が一人になって心細かった時に手を差し伸べた……でも、それは‥…アハハハハッ!」
ターヤのいうアレってなんだ……? 心細かった時に手を差し伸べる? そんなことやれそうなものはわたくしが知る限り悪魔か訓戒者くらいしか思い浮かばない。
王都にずっと残っていたのであれば、そういった混沌の眷属から接触を受けるケースも増えるだろうし、実際に王都内に侵入してからというもの、ひどく重ったるい嫌な感覚が肌にへばりついているような気がしてずっと不快な状態が続いている。
すでに王都事態には混沌の眷属が蔓延しており、下手をすると住民すらも気がつかないうちに喰われているなんてことが発生しているのかもしれない。
「アレって何? 教えてターヤ……!」
「それでもアレは優しかった……美しくて……そして私を助けてくれた……」
「助けて……? 何があったの?」
わたくしの問いにターヤがそれまで垂れ流していた黒い魔力は次第に収まりを見せ、影から洪水の様に湧き出していた魔物の勢いが止まると同時に、突然自己崩壊を始める。
こいつらは混沌の魔物……本来この世界には存在し得ない連中だからこそ召喚者の魔力が続かないと生存できないのだろう、彼らは黒い煙となって悲鳴をあげて崩壊し消滅していく。
ターヤとわたくしを遮るものがなくなったことで、彼女のそばへと駆け寄るがターヤはそのまま地面に膝をつくとボロボロと涙を流しながら嗚咽を漏らす。
わたくしがどう彼女に声をかけていいのか分からずに戸惑っていると、少しの間をおいてターヤは消え入りそうな声で話し始めた。
「……王都に残った人はみんな息を潜めていた……私だけじゃない、お世話になった人も……」
「……王都に残った人は無事なの?」
「ほとんど無事……でも下町にいた私たちは酷い目にあった……」
ターヤは地面にぺたりと座ったまま、ぽつりぽつりと話し始める……ひどく混乱し、脱線なども多くてよく分からない部分も多かったが、それでもまとめるとなんとか意味のある結論へと辿り着く。
それはわたくしが考えているよりもはるかに酷い王都の現状を、ターヤが体験した出来事として伝えられた事実であった。
最初は防御施設化が終わった王都で職にあぶれた浮浪者が惨殺される事件が起きた……朝になると軒先に野犬に食い殺されたかのような死体が捨てられているという。
衛兵も兵士も、そして冒険者も流石にこれほどの事件を調査しないという選択肢はなかったのだろう、夜の警備が増えていったが、それでもなお浮浪者だけでなく衛兵や兵士、そして庶民までもが毎晩のように行方不明となっていった。
犠牲者が増える中調査が進み、冒険者達が王都の地下にある地下水路から魔物が這い出しているという報告を受けた。
冒険者組合のアイリーン様は当初地下水路に軍隊の派遣を要請していたらしい……だが第一王子派の貴族達はその要請を一蹴し、結果的に冒険者だけで地下水路へと攻撃を行うことになったのだろう。
「お姉様が私を守ってくれていたけど、いなくなって私は下町に戻ったの……」
「お姉様?」
「そう……そして、あの日が来た、私を迎えに来て力を与えてくれた……アレ……」
ターヤはうっとりとした瞳で私を見上げる……そこには先ほどまで泣き続けていたことなど嘘だったかのように、蕩けるように恍惚とした微笑みを浮かべている。
そこでわたくしはふと気がついた……遠くを見つめる彼女の瞳、それは深い海と同じ色をしているのだが、その瞳の中はまるで渦を巻くような不気味な虹彩によって形作られている。
どろりとした、それでいて濁った汚水のような‥…違和感を覚えたわたくしは思わず彼女の側から離れようと、一歩後退りした瞬間、それまで宙を見つめていたターヤがそれまでに見せなかったような凶暴な笑顔を浮かべてわたくしへと話しかけた。
「……あらダメよ、まだ作り話の途中なのに近くで聞いて♡」
「……え?」
「こんガアアッ! 私が作ってグビャ! 出鱈目だっていって……バビュ!!!」
メキョ、という鈍い音と共にターヤの可愛らしい顔がまるでおもちゃの箱を握りつぶしたように思い切り変形する……飛び散る鮮血と、眼窩からこぼれ落ちた瞳がゆっくりと地面へと落ちていくのをわたくしは呆然と見つめている。
メリッ! ボリボリッ! メキョッ! という肉が引き裂かれ、骨が砕け散る音を響かせながらターヤの体が砕け、引き裂かれまるで違う何かのように変形していく。
それは体の内部から崩壊していくような、そして彼女の中から別のものが生まれ出でるような、そんな奇怪な光景であった。
鮮やかな色をした内臓がひとりでに盛り上がり、肉片が付着したままへし折れた骨がゴトリと音を立てて地面へと落ちる。
わたくしは友人だったはずのその肉塊が自ら自壊していく様子を見せつけられて思考が完全に停止してしまっている……なんだ? 何を見せられて……ターヤが死んでいく?
「……あ、あ……ターヤ? 何が……」
「ゴボボ……そう、そういう顔見たかったのよ、私のアソコがキュンキュンしちゃう表情を見せてくれて……嬉しいわ、シャルロッタ・インテリペリ♡」
ターヤの砕け散る肉塊とも言える中からずるり、とターヤの血液と臓物に塗れた黒髪が姿を表す……肌を濡らす血液の赤よりも鮮やかに光る瞳、そして歪んだ笑みを浮かべた絶世の美女がターヤだったものから姿を見せる。
完璧に左右対称で作られたような美貌、怪しい雰囲気を醸し出すその魔力は淫らで、そして淫雛な匂いを放っている。
白磁のようにきめ細やかな肌と、この世の全ての彫像よりもはるかに完璧なプロポーションを持つ女性……いや、この感覚は悪魔よりもはるかに高次元の存在であることを伝えてくる。
「……お初にお目にかかるわ、私は淫乱にして快楽の具現者ノルザルツ神の訓戒者たる存在……欲する者」
「……あ、あ……」
「驚いて声も出ない? ああ、この娘のことが気になるぅ? ごめんね、もうだいぶ前にこの子は頂いたわ」
目の前の欲する者と名乗る訓戒者……彼女の感覚には覚えがある、どこかで見ていた視線、そして先日戦った第二階位の六情の悪魔と酷似した魔力を放っている。
ノルザルツ神の眷属……それ故の完璧な美貌とプロポーションなのだろう、この混沌神は眷属に完璧な外見と、ひどく淫らで倒錯的な性愛を与えると言われている。
見ただけで相手を虜にし、思うがままに操ってみせたり、快楽の虜にして従わせるなど信者もよく使う手法であるからだ。
だがその知識が今はまるでふわふわした状態で真っ白になった思考のどこかへと消え去っていく……ようやく会えたターヤが目の前でグチャグチャに崩壊した肉塊へと変化している。
笑顔が可愛かった、上目遣いで話しかけてくるターヤは小動物的で守りたいと思っていた……でもわたくしは王都脱出の際に彼女を連れて行かなかった。
その結果が……目の前に肉塊として転がっているターヤなのだ、これはわたくしの所為で起きたことなのだろうか?
彼女の瞳が地面に転がり、流れ出した血の中でひどく鈍い光を放っている……その瞳がわたくしをじっと見つめているような気がして呆然としたわたくしは膝を落とした。
「あれぇ? どうしたのかな? もしかしてこの娘とイイことしたかったのかしら?」
「タ、ターヤ……わたくし、わたくし……貴女を守れなくて……」
「ターヤはとても良い声で哭くのよ……何度も犯したけどずっと貴女の名前を呼んでたわ……最後は従順なペットになったのよ、クハハハハハッ!」
いつの間にかわたくしの側に立っていた欲する者がそっとわたくしへと囁く……呆然としたままわたくしは訓戒者を見上げた。
その顔を見た欲する者はまるで至高の快楽を得たかのように、涎を垂らしながら大きく歪んだ笑みを浮かべ、それまでになかったような引き攣った笑い声を上げ始める。
……なんだその顔は、なんだその笑みは……真っ白だった心に荒れ狂う溶岩のような感情が押し寄せる……わたくしの中に制御できない激しい怒りが巻き起こると、それに気がついたのかふわりと大きく距離を話すように欲する者が跳ぶ。
拳が震える……ギリギリと奥歯を噛み締めわたくしはゆっくりと立ち上がると、憎しみに包まれたままの感情を覆い隠すことをやめて魔力を一気に放出していく。
ゴオオオオオオッ! という凄まじい音を立てて空間内に魔力が吹き荒れる……欲する者は妖しく笑うとわたくしに向かって叫んだ。
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