わたくし、前世では世界を救った♂勇者様なのですが?

自転車和尚

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第三三一話 シャルロッタ 一六歳 序曲 〇一

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「……こんな場所があるんですねえ……」

 魔導ランプの淡い光に照らされた通路をクリストフェル・マルムスティーンの一行が進む中、イングウェイ王国最強格の冒険者であるエルネット・ファイアーハウスは感心したような声を上げる。
 今彼ら一行が進んでいる通路は王族のみが通過を許される隠し通路の一つであり、手入れはさほどされていないがそれでも三人が横一列に並べるほど広く、そして天井は恐ろしく高い位置にあるほど広大なものであった。
 イングウェイ王国の歴史の中で、王族がこの通路を使ったという記録は数回しか残されていない……オーヴァチュア城内で発生した火災を避けるために、当時の国王と王妃が通路を使って城の外へと脱出し難を逃れたというものと、王位継承をめぐって争いが起きた際に敗北した王子が通路を使って逃げ出したが出口で待っていた衛兵隊に捕縛されたという事件などが記録されている。
「……ここは本来王族とその関係者しか通れないのですよ、あまり周りを観察しないで欲しいです」

「マリアン、彼は僕の友人で恩人だ、そういう口を聞いてはいけない」
 侍従であるマリアン・ドナテロがエルネットへと向けた言葉を、すぐにクリストフェルが嗜めるが……エルネットは気にしていないとばかりに苦笑いを浮かべて手を振った。
 ヴィクター・フェラルやマリアンも平民の出ではあるが、侍従に取り上げられた時点で騎士階級としての身分が与えられており、エルネットのような冒険者よりも階級は高い。
 特に長い歴史の中で爵位を持っていない人間が通路を通ったことはないということになっており、そういった意味ではエルネットはその歴史を塗り替えた人物になるのかもしれない。
「まあ、僕は二度とここには来ないでしょうし……大丈夫ですよ」

「それにしても言い方があるじゃないですか……失礼な言動申し訳ありません」

「……いえいえ、僕は本当に気にしていないので……」

「それにイングウェイ王国の歴史は大きく動いている……もしかしたら今後王族なんてものは滅ぶ可能性だってあるからね」

「……殿下がいれば、そんなことは起きえません!」
 マリアンとヴィクターは慌てたようにクリストフェルの自虐めいた言葉を否定するが……実際に隣国マカパイン王国では英雄である「竜殺し」が軍を率いてトニー・シュラプネル・マカパイン三世の軍勢と戦闘状態になっているという情報が流れてきており、大陸中の国家内で様々な動乱が起きようとしている。
 イングウェイ王国の最大のライバル国家であるエクソダス帝国でも帝位継承をめぐって五人の兄弟が互いに権力闘争を繰り広げており、王国の内乱に関与することができなくなっているのだ。
 もしかしたら……自分や兄の代でイングウェイ王国自体が滅ぶ可能性もある……幼い頃には全く想像もつかなかったくらい、時代は大きな変革を迎えている。
「婚約者殿なら大丈夫ですよ、シャルもおりますし……」

「……君は楽観的だな」

「我はシャルさえいればどういう生活でも問題ないので」
 クリストフェルの隣を歩く黒い毛皮の幻獣ガルム族のユルが赤い目を輝かせながら彼へと話しかけるが、この見た目が恐ろしいガルムが気にしていないということは、シャルロッタ・インテリペリの身には危険が迫っていないという証になっており、今は離れているものの愛しい婚約者が無事であることに内心安堵する。
 幻獣ガルムと辺境の翡翠姫アルキオネシャルロッタは契約関係を結んでおり、その契約は生命や思考、感情などを共有するという魔法的な特性が備わっているという。
 幼少期にシャルロッタと出会った際にユルは彼女と契約を結び、生涯を共にするという誓約を課している……話を聞けばすでに彼女はその年で圧倒的な魔力と戦闘能力を有していたという。
 実際に目にするまでは信じられなかった自身の婚約者の秘密……あまりに強大で尚且つ底知れぬ強さをもつ彼女は、勇者の器と呼ばれた自分以上の存在であることに驚きすら感じていた。
「……彼女は無事なんだよね?」

「そうですな……少し距離があるので朧げですが」

「そうか……痛い思いをしていなければいいのだけど」
 クリストフェルからすればシャルロッタ・インテリペリという美しい令嬢は、彼にだけにしか見せない恥ずかしそうにはにかむその表情や、優しく微笑む美しい笑顔を持つ大事な女性でしかない。
 彼女がどれだけ強かろうが、自分よりも遥かに高みにいる存在であろうがそれは関係ない……愛する女性を大事に思わない者はいないのだ。
 クリストフェルはふとシャルロッタの顔を思い出して軽く微笑むが、そんな彼を見て複雑な思いを抱いている人物がいた。
 マリアン・ドナテロ……幼い頃からクリストフェルの侍従として付き従い、平民の生活から脱出させてくれた彼に淡い恋心を抱く女性である。
 シャルロッタ・インテリペリという美しい令嬢を見た時に、マリアンは「この人には勝てない」とはっきりとした敗北感を感じてはいるが、その恋心は諦めることが出来なかった。
「……どした、随分暗い顔してるけど……」

「……あんたには関係ない、周りを確認して」

「……そっか……無理するなよ」
 暗い表情を浮かべたマリアンを心配したのかヴィクターが話しかけるが、その内心に秘めた思いを見透かされるかもという強い恐怖心から、彼女はつっけんどんな対応を返す。
 ヴィクターからすると、幼馴染でありずっとクリストフェルの側に共に仕えている身ではあるが、マリアンがクリストフェルに淡い想いを抱いていることは理解している。
 だがその恋心は決して実ることはない……クリストフェルの心を完全に支配しているのは、銀色の髪にエメラルドグリーンの瞳を持つ絶世の美女シャルロッタであり、マリアンは全く女性として認識されていないからだ。
 だがヴィクターはマリアンの気持ちをそっと汲み取ると、黙って周りへと視線を向けていく……だがマリアンはずっとモヤモヤとした気持ちを抱え、暗い気分に浸り切っていた。
「殿下はずっと……彼女しか見ていない……」

『どうして? なぜ殿下は彼女しか見ていないの?』

「殿下は最初に出会った時に運命だと思ったらしいから……所詮卑しい生まれの私には興味はない」

『そうかしら? 貴女は十分魅力的な女性だと思うわ? 栗色の髪に整ったプロポーション……誰が見ても逸材だとわかる、殿下も貴女を抱けば考えが変わるわ』

「そんなことは……私はガサツだし……」

『違うわマリアン、貴女に足りないのはもう一歩踏み出す勇気……私が後押ししましょうか?』
 マリアンの心に囁く声がゆっくりと彼女の思考へと侵食を始める……この声が誰なのか、マリアンには全く理解ができていないのだが、声は彼女へと囁いていく。
 彼女はクリストフェルが市井に降りて遊んでいた時期からずっと淡い想いを抱え込んできていた……それが強くなったのは、マリアン自身が成長しその想いがなんであるのかを認識したからだ。
 クリストフェルの手に抱かれたい、彼女の全てを愛してほしい……時間が経つに従って、彼女の想いは強くなる一方だったが、それと同時に冷静な部分が自分では身分が違いすぎることも理解していた。
『……が火照るのでしょう? それは正常な反応なの……愛しい人に抱かれたい、愛しい人の子種を受け止めたい……普通のことなの』

「……んっ……私は……そん……な……あっ……」
 マリアンの身体が熱く、そして恐ろしく火照るような感覚に陥り彼女は身を震わせる……周りにいる者たちには気が付かれていないが、思わず腹部に手を添えると彼女は自分の下腹部にほのかな熱さを感じて思わず声を殺した。
 クリストフェルの全てを受け止めたい……自分が殿下の愛を独り占めしたい……強く淫らな欲望が、それまで少し沈み込んでいた彼女の心に炎を灯す。
 頬を染めて口元を抑え、声が漏れないように必死に耐えようとするマリアンの異変に気がついたのか、クリストフェルが振り返って彼女を見つめた瞬間、それまで必死に我慢していた想いが声となって漏れ出てしまう。
「殿下……私を……私もうだめっ……私をめちゃくちゃに……ッ!」

「は?! マリアンお前何を……!」

「マリアン? どうしたんだ?」

「も、もう我慢できないのれす……私はぁもお……ああッ!」

「……迂闊ッ! 炎よ踊れッ! 火球ファイアーボールッ!!」
 マリアンが駆け出しクリストフェルの胸の中へと飛び込むと同時に、王子の隣にいたユルが何かに気がついたのか、姿勢を変えて全身の毛を逆立たせると同時に天井に向かって火球ファイアーボールを撃ち放つ。
 一瞬遅れて天井付近が爆発を起こすが、その爆発の中から一人の女性が飛び出しクリストフェル一行の後方へと着地した。
 黒髪に灰色の肌……すでにこの時点で人間ではないものであることがわかるが、その黒髪の中から二本の角が突き出し、恐ろしく整った外見と金色の瞳がその女性がなんであるかと如実に表していた。
 唸り声をあげてクリストフェル達の前に躍り出たユルを見て、女性はクスッ……と妖艶な笑みを浮かべて笑った。
「あらやだ、もう見つかっちゃった……いけないワンちゃんね」

悪魔デーモン……ッ!」

「そうよぉ……私は快楽の悪魔エクスタシーデーモンガルニアーダ……ちょっとだけ気持ちよくしてあげたのよ……もう何度もイって可愛いんだからぁ……私も勃っちゃうわぁ」

「いやぁ……こんなの……見ないで……あああっ! だめ……も、もうぅ……おッ!」
 ガルニアーダは手のひらを上に向けると人差し指と中指を使って何かを刺激するポーズを見せるが、それはシャルロッタ・インテリペリですら一度は影響を受けた淫ら指ショッカーと呼ばれる権能を示していた。
 その指の動きに合わせてクリストフェルの腕の中で蕩けたような表情を浮かべたマリアンは、涙をボロボロとこぼし緩み切った口元から涎を流しながら何度も身体を震わせ、悲鳴とも嬌声ともつかない声を上げ続けている。
 グルルルルッ! とユルが唸り声を上げる前でガルニアーダはくすくすと笑うと、その見事なまでに隆起した男性たる象徴を左手の指で撫で上げると、クリストフェル達へと語りかけた。

「……さあ、女の子は無限にイかせるとして……ワンちゃんは食肉、かわいい男の子達は後ろを開発してあげるわぁ!」
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