わたくし、前世では世界を救った♂勇者様なのですが?

自転車和尚

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第三六二話 シャルロッタ 一六歳 魔王 一二

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「はああああああッ!!」

 わたくしの気合いと共に魔力が大きく膨れ上がる……魔王トライトーンと大魔法のぶつけ合いを初めて五回目、お互い一歩も引かない魔力と魔力のぶつかり合いが繰り返されている。
 この王城に来た直後のわたくしだったらここまで魔法を行使することはできなかったかもな……それを見越した女神様のアシストがなければ今この場に立っていることはできなかったかもしれない。
 今のわたくしは転生した直後よりも魔力が充実しており、神滅魔法を何発ブチかましてもガス欠になるようなことがないと思える、それくらい満ちていると言える。
 女神様は直接この世界に干渉することは難しい……神が世界に干渉し続けることは、最終的に別陣営の神々同士による最終戦争になりかねないからだ。
 だからこそクリスを勇者の器とし、彼を代理者として力を授けた……その力はかなり限定されていて、わたくしの魔力を完全に回復させ、全ての負傷を癒すだけしかできていない。
 それでもその治癒だけで……わたくしは今魔王トライトーンと互角の魔法対決が行えているのだ。
 ったく……あの女神様に感謝しなきゃいけないじゃない……! わたくしの口元が軽く緩むのを見たのか魔王トライトーンは黄金の瞳を輝かせて笑い声を上げた。
「素晴らしい……! 魔王との戦いでそれほど喜びをあらわにする勇者などいやしないだろう……!」

「アンタこの世界の魔王様なんでしょ? 他の世界なんか知らないのでは……?」

「混沌の眷属はあらゆる世界、あらゆる次元、あらゆる場所に存在している……その中には星をも砕く破壊の光を持って争う世界や、天高く伸びる城を建て空を目指そうとする世界の記憶も同時に存在している」
 つまり魔王や混沌の眷属達は複数の世界に同じような連中がいて、それらはある程度の記憶を共有しているってことかな?
 先ほどの天高く伸びる城ってのは言い方によっては前々世の高層ビル群にも聞こえるし、星をも砕く破壊の光……は遠い未来に超兵器を持って争うスペースオペラみたいな世界が存在しているのかもな。
 うーん、どれもちょっと見てみたいなあ……と思うのだけど、実際にはその世界ではレーヴェンティオらやマルヴァースよりも遥かにひどく、陰鬱な世界などもあるだろうし、今の生活はちゃんと気に入っているのでやめておくべきか。
 わたくしが不思議そうな反応を見せず、むしろ何かを考えるように黙ったことに魔王トライトーンは不思議そうな光を瞳に宿す。
 いや……今は考えるべき時ではないか、わたくしがこの世界に転生した理由……それが全てなのだから。
「クハハ! 貴様は面白い……! 先ほどの話に理解をしているような顔をしていた!」

「いいえ、不思議な話だと思ったわよ? ただ少しだけそんな世界を見てみたいと思っただけ……!」

「ならば我がお前を滅ぼしその世界へと送りつけてやるわッ!!」

「やってみろよこの混沌神の小間使いがッ!!」
 お互いの魔力が膨れ上がる……だが、先ほどから魔王トライトーンとわたくしの力は正直言って拮抗しており、お互いに決め手を持っていない状態だ。
 魔法の威力、破壊力、そして発動までの速度を全て総合して考慮しても、ほぼ互角……多少なりとも魔法の特性によっては押し負けそうになることもあるのだけど、それはほんの少し。
 結果的にほぼ同質量の魔力が衝突していることで、空間内における魔力の総量が飽和し対消滅を繰り返している。
 こういうのなんて言ったっけな? 埒が開かない、か……転生に伴ってわたくしの過去の知識は複雑に思えるものが多く、細かい言い回しなどはうまく表現できなかったりするが、それでもこの状況がきっかけがなければまるで進展しないということだけはわかっている。
 勝負を決める手とすれば、魔王トライトーンはこの調子で魔法を叩きつけていくしかないだろうが、わたくしには戦闘術アーツがある。
 巨獣……ドラゴンに似た姿へと変化している魔王トライトーンは格闘戦において、その巨大な触手による攻撃くらいしか手段がなさそうだ。
 むしろ細々とした戦い方は魔王らしくないというか……本当にこちらの手を防ぐためだったら人間型でいいわけだしな。
 しかし……今戦闘術アーツを放ったところでなんらかの防御する手段を持っているに違いない、なので今現在は相手に合わせた魔法の連発しか手が打てない。

「神滅魔法……雷帝の口付けサンダーキッスッ!」
「混沌魔法……狂気の妄想パラノイド!!」

 お互いの魔法が放たれると共に周囲に破壊が広がっていく……凄まじい魔力と魔力の衝突により、周囲の地面が破壊され、ゴバアアッ! という音と共に空中へと巻き上がる。
 これも互角? いや今のはほんの少しだけわたくしが押している……その事実に気がついたのだろう、魔王はその黄金の瞳を輝かせると共に触手を一気に伸ばす。
 魔力同士の対消滅が起きたと同時にわたくしに向かって槍のように打ち出された触手が迫る……ようやくこう着状態を打開しようと動き始めたな?
 瞬時に虚空より魔剣不滅イモータルを引き抜くと、黒い触手を空中で叩き切っていく……その全てが空中で黒い霧となって消滅していく中、わたくしは放たれた矢のように前に出る。
「焦れたら負けって決まってんのよ!!」

「クハハハッ! 掛かったな!」
 魔王トライトーンの言葉と同時に、地を割って黒い触手が飛び出す……視界外からの攻撃ね、へー……少しは考えてるわけだ。
 だけど……ッ! わたくしは空中で体を回転させると、地面から無数の針のように突き出した触手を一刀の元に切り裂いてのけた。
 魔王トライトーンの黄金に輝く瞳が鈍く光る……だがまさかこの程度の攻撃でわたくしが斃れるなどと思ったわけではないだろう? わたくしはそのまま空中を蹴って加速した。
 だが、それをみた魔王は口に似た器官を大きく広げると、まるで中から散弾でも放出するかのように、ぬらりとした黒に輝く何かを凄まじい数吐き出した。
 ドパパッ! という小気味良い音を立てて放たれたそれは、空中で羽を広げるように大きく姿を変化させると共に、まるで鏃のような形となってわたくしへと向かって飛んでくる。
「な、なん……だこれッ!」

「クハハハッ!」

 一発一発の威力はそれほどじゃない……だが、その数が凄まじくわたくしは空中で剣を振って当たらないように撃ち落としていくが、あまりの数に空中で防戦一方に追いやられ加速の勢いを失う。
 初めからある程度近寄らせて動きを止めることを目的にしていたのだろう、魔王トライトーンは空中で黒い鏃を叩き落とすために動きを止めたわたくしをみて瞳を輝かせた。
 わたくしの視界の端で、魔王の広げられた器官に漆黒のに輝く魔力が渦巻き始める……まずいあの漆黒の光線、空中にいる際に直撃でもしたら肉体が消滅してしまう。
 魔力ではほぼ互角ではあるが、あの光線だけはまるで別……あれは魔王トライトーンの切り札とも言える攻撃なのだ。
「ま、まず……ッ! 戦神の大盾アイギスシールド!!」

「カアアアアッ!」
 黒い光が満ちる……時を同じくしてわたくしの前面に展開された白銀に光り輝く盾は、その黒い光を受け止めて大きく揺らぐ。
 恐ろしいまでの魔力の奔流……戦神の大盾アイギスシールドによる防御は全ての攻撃を完璧に受け止めると言われているが、先ほどまでの経験からこの魔王トライトーンが放つ黒い光線はそう長く受け止められるわけじゃないとわかっている。
 まるで荒波に攫われる小舟のように、わたくしと白銀の盾は黒い奔流に押し流されそうになる……耳には凄まじいゴオオオッ! と轟音が響きそれ以外は何も聞こえない。
 恐るべき力の奔流……ようやくその勢いがおさまったと思うまもなく、白銀の盾が再び光となって砕けていく……何とか受け止めた?
 わたくしが何とかその攻撃を受け止めたとことに安堵した次の瞬間……ゴッ! という短い音と共に視界の半分がいきなり真っ黒に染まった。
「……は?」

「クハハッ! 漆黒の弾丸ショットインザダークッ!」
 混沌の眷属である悪魔デーモンなどが扱う魔法……漆黒の魔力による弾丸が、わたくしの頭の半分を吹き飛ばしたのだ。
 本来こんな威力が出る魔法じゃない、魔力による防御結界を貫き肉体を吹き飛ばす……? わたくしの体がぐらりと揺らぐ。
 欠損した部位はほぼ頭の半分……普通の人間であれば即死するような一撃であっても、わたくしの魔力は自動的に欠損した肉体を一気に修復していく。
 それは吹き飛ばされたはずの脳や瞳、そしてそれを構成するための神経や骨までもが一気に元通りにに修復される……腕や足が吹き飛ばされるだけなら大したことはないんだけどな。
 頭の半分ともなると流石に多少の時間がかかるので、じわじわと視界が戻る感覚に多少気持ち悪さを感じながらもわたくしはほっと息を吐く。
 いやマジで、今のは洒落にならないレベルの攻撃だ、次くらって頭全部吹き飛ばされたら復活まで時間かかるぞ……頭だけは何とか守らないと。
 だが、それをみた魔王トライトーンは失笑するかのような引き攣るような笑い声をあげた。
「ク、クハハッ! なんだ貴様も化け物ではないか……!」

「ちょっとだけ魔力が多いだけの勇者よ……頭半分吹き飛ばされるとは思わなかったけどね」

「人間は頭を半分吹き飛ばされれば死ぬ、それは自然の摂理だろう……お前は人間を捨てている」
 そうだな……人間重要な器官を失うと死ぬんだけど、勇者として最強になったわたくしは、肉体を瞬時に再生するという魔力による再生を可能にしてから容易に死ねなくなった。
 多分本来は流石に死ぬ一撃である、だがわたくしを殺すには前世レーヴェンティオラの魔王のように全てを吹き飛ばすような一撃でなければ難しい。
 魔王トライトーンも失った触手などは瞬時に回復している……つまり魔力勝負だけでなく、肉体欠損の修復力においてもお互いに決め手を欠いた状態はまるで変わっていない。
 面倒すぎる……可能な手段としてはすり潰すとか、一瞬で消滅させるとか圧倒的な攻撃力がなければいけないのに……あらゆるものが僅差であるが故にわたくしと魔王トライトーンは不毛な叩き合いを状況が好転するまで続けなければいけないのだ。
 わたくしと魔王トライトーンはその事実に気がつくとほぼ同時にお互いが軽いため息をついた。

「……なんて面倒な……」
「面倒すぎる……」
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