冤罪で処刑されることになりましたが、聖女の力で逆に断罪してあげます

霜月琥珀

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一話

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 それはとても唐突な出来事でした。
 しかし、そう思っていたのは私ただ一人。
 神に祝福された聖女を騙った罪として、私は処刑を宣告されました。準備はすでに完了しているよう……。
 私はどうやらこの国には不必要みたい。それならば、処刑ではなく追放でよかったと思うのですが……。
 まぁ、それは無理なのでしょう。私が聖女だとこの国の人ならば誰だって認めている。だからこそ、追放ではダメ。殺さなければ、新たな聖女は生まれないから。

「…………」

 後はギロチンで処刑すれば完了。もうすぐそこまで来ている。だけど、私に恐怖はない。
 聖女はこんなことで処刑されるような存在ではないのだ。この国の人間は、聖女を舐め過ぎだ。
 今も目の前で私に対して罵詈雑言を吐いているけれど、それはあなたの命を無駄にしていることと同じ。
 この国をその文字通り守っている――いいえ、生かしている私からすれば、命の選別など余裕。
 だから、今のうちに罵るだけ罵ればいい。

「……見て、マルス様。お姉様の無様な姿。今まであたしたちはあれを聖女だと慕っていたんですって」

「君のおかげだ、ルイズ。イリアが偽物であると密告してくれたおかげで、俺たちはこれ以上過ちを犯すことがなくなるのだ」

「嬉しい、マルス様……」

 ……どこからか声が聞こえてくる。最も悪意を持っているからこそ、姿が見えずとも聞こえる。
 そうか、やっぱりルイズか。ルイズの力は異端だ。端的に言えば、嘘が事実になる力。
 だから、私は偽物だと疑われ、処刑される。

 マルスもルイズの毒牙にかかって可哀想。
 ルイズにさえ会わなければ、聖女の夫として地位を確立させられたというのに……。本当に馬鹿な男。
 言っておくけれど、慈悲はない。婚約者だったからと言って、殺されないとでもお思いで?

「……下らないわ」

「罪人の分際で、何か言ったか?」

「下らないと言ったのよ」

「流石、聖女の名を騙った大罪人。肝が座っている。だが、非常につまらない。無様に泣き喚いて命乞いする姿が見られないとはな……。だから、個人的にストレスを発散させろ。いいよなァァァ――ッ!」

 そう言って、断頭台の前で跪いている私の腹部に蹴りを入れる執行人。
 はい、あなたも死が確定しました。
 聖女に手を出すということは、そういうこと。

 ……いい加減、演技も面倒になってきた。
 私は跪くのをやめて、立ち上がる。その際に、拘束の鎖を引きちぎり、ギロチンをへし折った。
 聖女は身体能力が向上しているのだ。きっと、このまま死刑が執行されても、ギロチンの刃は通らなかった。

「な、何をしている。今すぐ取り押さえ、処刑しろ!」

 この国の王様。名前は何だったかしら? これから死にゆく人間の名前なんて覚えてないわ。
 大体、誰を取り押さえるですって? もう私には触れられないのに、どうするのでしょう?
 聖女は結界術が得意だ。聖女と言えば、結界。そう言われるぐらいに結界術に長けている。
 それこそ、この国全土を結界で覆えるぐらいに。

「王様! 無理です! 見えない壁があって、近づけません!」

「何故だ! この女は聖女ではないのだろう!?」

「……そのはずです!」

「なら、何故この女はここまでの結界を……!」

「教えてあげましょうか? 私が聖女だからよ」

 そう言って、私は指を鳴らした。洗脳を解いたのだ。聖女にはあらゆる魔法効果を解除する力がある。
 今までこれを使わなかったのは、愚かな人間と善良な人間とを見分けるため。
 これからは、善良な人間だけを守りたいのだ。

「な、何故私はこのようなことを……! 聖女イリア様! どうか、どうか私だけでも慈悲を……!」

「…………」

 本当に愚か。この期に及んで、自分だけ助かろうだなんて。これがこの国の王だと言うのだから、笑える。
 今まで罵詈雑言を浴びせていた国民も困っているでしょう? 国民の洗脳は解いていないから。
 
 ……さて、妹のルイズはどこかしら。
 あの子だけは私の手で直接断罪してあげる。
 この人混みでも聖女の力を持つ私なら、すぐにルイズを特定し、見つけることができる。

「そこにいるのでしょう? ルイズ」

 ルイズを見つけた私は、彼女に近づく。

「何で、こんなことに……」

「詰めが甘いのよ。私を殺したかったら、魔王でも連れてくることね」

「イリア! ルイズから離れろ!」

「……あなたも離れなさい。巻き込まれるわよ」

 そう言って、私は手を天に掲げて、振り下ろした。
 すると、太陽の光よりも眩しい極光が天から放たれ、ルイズは声もあげずに膝から崩れ落ちた。
 と言っても、死んではいない。
 聖女は直接人を傷つけることはできないのだ。
 今、ルイズはただ気を失っているだけ。
 でも、自分の過ちや愚かさを認めて、気持ちを改めなければ、二度と目を覚ますことはない。
 
「ルイズに何をした!」

「大丈夫。あなたもすぐに送ってあげる」

 ……まぁ、マルスは私が手を下すわけではない。
 その瞬間、先ほどの光よりもさらに眩しい光がこれでもかと放たれ――周りにいる人全員が倒れた。
 ……どうやら、神も相当お怒りのよう。悪意の度合いで罰を決めたのか、死んでいる者もいる。
 マルスは……かろうじて生きている。
 でも、五感全て奪われ、神経が焼き切れている。
 これでは、いかなる治療を受けても全快することはないだろう。

「さて、騒ぎになる前にさっさと国を出るとしましょう」

 国にいなくても、国民は守ることができますし。
 それに、聖女として崇められるのも飽きてきた。
 私はもっと自由に生きたいのだ。
 だから、これからは――聖女としてではなく、一人の人間として、人生を歩んで行こうと思う。

                  完
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