黒の神官と夜のお世話役

苺野 あん

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03.夢か現か

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 現れたベルナルドに目を奪われ、思わずじっと見つめてしまったアンジェリアだったが、眉をひそめられてはっと我に返る。
 じろじろと見てしまったことが、気に障ったらしい。高貴な相手に対し、無礼な態度をとってしまったと、アンジェリアは慌てて謝罪した。
 名乗って、どうすればよいのか教えてくれという、恥の上塗りともいうべき願いを述べる。
 すると、ベルナルドは唖然として固まってしまった。
 当然だろう。世話役として待機していながら、何をすればよいのか当の相手に尋ねるなど、恥知らずもよいところだ。あきれられてしまったと、アンジェリアはさらに消え入りそうになる。

「あ……あの……申し訳……」

 沈黙に耐え切れず、謝ろうとするアンジェリアだったが、ベルナルドの手が伸びてきて、口をつぐんだ。
 白い頬に、無骨な手が触れる。
 びくりとして、思わずアンジェリアは目を閉じてしまった。

「……んっ」

 唇に熱が生じ、アンジェリアは鼻にかかった吐息を漏らす。
 口づけをされているのだと気づくと、全身に熱が広がっていく。
 初めての感覚に、アンジェリアは混乱して、まともに物事が考えられなくなってしまう。
 甘くほろ苦い葡萄酒の香りがして、ぼんやりとした頭で、大人の香りだと思う。まるで口づけから葡萄酒が体に入り込み、酔いが広がっていくようで、くらくらする。

「あっ……」

 ベルナルドの手がおりてきて、アンジェリアのまとっていた薄衣が、さらりと音を立てて床に落ちた。
 白い乳房が露わになり、アンジェリアは羞恥で身を震わせる。
 初めて男性に肌をさらす恥ずかしさと、立派な相手に貧相な体を見せねばならないという後ろめたさの両方で、今すぐこの場から逃げ出したくなる。
 このような粗末なもの、食えたものではないと放り出されるのではないかと、不安に押し潰されそうになってしまう。
 しかし、ベルナルドはアンジェリアを抱え上げると、寝台にそっとおろした。
 アンジェリアの心には、拒否されなかったことへの安堵が広がる。さらに自分を軽々と抱え上げてしまうなど、なんて逞しい方だろうとうっとりしてしまう。

「あっ……やっ……」

 包み込むように手のひらが胸に覆いかぶさってきて、アンジェリアはつい拒絶の声が漏れそうになってしまい、慌ててこらえた。
 失敗しただろうかと焦るアンジェリアだったが、ベルナルドは気にした様子もなく、大きな手の中におさめた乳房を弄ぶ。
 アンジェリアはほっとすると同時に、己の身に起こっている出来事を、まるで夢でも見ているかのように眺める。
 未知の感覚は、現実味がなかった。
 ベルナルドの手によって柔らかく形を変える乳房は、まるで自分の体の一部とは思えない、別の生き物であるかのようにすら思える。
 だんだん、もどかしい熱がこもっていくのも、どうしてよいのかわからない。

「あっ……そんな……」

 戸惑うアンジェリアに構うことなく、ベルナルドの唇が、白い乳房の中心で淡く色づく乳頭に触れた。存在を主張するように尖りかけていたそれを咥えられ、吸い上げられると、アンジェリアの体には甘い痺れが走り、頭は混乱に満たされる。
 何も知らないアンジェリアには、こういったことをするのかという驚きと、それがもたらす甘い感覚が何かという戸惑いの両方がある。

「んっ……あぁ……」

 自分が出したとは思えないような、甘ったるい声がアンジェリアの唇からこぼれた。
 片方の乳首を舌で転がされ、もう片方は指先でやさしくつまみ上げられる。アンジェリアはわきあがる甘い感覚に戸惑い、身をよじる。胸だけではなく、別の場所も疼いてくるようで、逃れるように内腿をこすり合わせた。
 すると、ベルナルドの手が、アンジェリアの足の間に割り込んでくる。あらぬ場所をまさぐられ、アンジェリアの背が軽く反った。
 秘裂を撫で上げられ、ぬるりとした感触が伝わってきたのだ。
 まさか粗相をしてしまったのだろうかと焦るが、ベルナルドは構うことなく、秘所をさらになぞる。

「やっ……」

 濡れた音が響き、さらに蜜があふれ出してくる。
 粗相ではないようだったが、その音があまりに淫らではしたなく聞こえて、アンジェリアは顔を横に背けた。それでも音は止まず、甘い疼きも止まらない。
 さらにベルナルドは隠された花芽を探し出し、あふれ出た蜜を指先に絡めて、くすぐるようにゆっくりと撫で始めた。

「えっ……あぁ……んっ……これ、なに……あぁ……っ」

 はじけそうな強い快楽が、そこに生じる。アンジェリアは甘い悲鳴をあげながら、首を左右に振った。
 このような感覚があるなど、知らなかった。
 徐々に指先は動きを早め、快楽が波のように押し寄せてくる。だんだん波は大きくなっていき、何かを越えてしまいそうになる。
 どこか遠くにさらわれていってしまうようで、アンジェリアの瞳に涙がにじむ。

「だっ……だめぇ……へんなのが、へんなのがきちゃう……やぁ……っ……あぁあああ……!」

 とうとう絶頂に達し、アンジェリアは白い喉をのけぞらせて、甘い叫びをあげた。
 ひくひくと痙攣した蜜壷から、どろりと蜜があふれてくる。
 荒い息をついて脱力するアンジェリアの花芽から、ベルナルドの指が離れていく。だが、ほっと息をつく間もなく、指は再び秘裂をまさぐり出す。
 今度はなぞるだけではなく、指はゆっくりと蜜壷へと侵入していった。

「ひっ……! い、痛っ……」

 ぐったりと放心していたアンジェリアだったが、狭い内壁を押し広げられて、不意打ちのように生じた痛みに、思わず悲鳴をあげてしまう。
 痛みはわずかではあったが、初めて侵入を許すそこは恐れから感覚が鋭敏になっており、さらにそれまでの甘い感覚との落差で、本来以上の痛みと認識してしまったのだ。
 すると、即座に指が引き抜かれた。

「んっ……」

 喪失感を覚え、アンジェリアの唇からかすかな呻きが漏れる。
 悲鳴などあげてしまい、失敗してしまったかと、おそるおそるベルナルドの様子を伺う。
 ベルナルドはアンジェリアに覆いかぶさった状態のまま、しばし呆然と固まっていた。やがて何も言わずにアンジェリアから身を離し、起き上がる。そして、自らの頬を平手で殴った。
 バシン、と乾いた音が、やけに大きく響いた。
 いったい何をやっているのだろうと、アンジェリアは訝しんだが、もしかしたらこれも行為の一貫なのかもしれないと、黙って見守る。

「……すまない」

 ところが、ベルナルドは一言だけぼそりと呟くと、部屋を出て行ってしまった。

「えっ……?」

 アンジェリアは理解が追いつかず、ベルナルドが出て行ったドアを見つめる。
 先ほどのベルナルドをまねるように、自らの頬を叩いてみると、じんわりとした痛みが広がった。
 だがそれだけで、何かが起こるわけでもない。
 頬の痛みは、今が夢の中ではなく、現実であると教えてくれるだけだった。
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