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白と黒
ドンピシャ
しおりを挟む『はい。華田です』
「あ、御堂です。あの、フシ君の家に忘れ物をしてきてしまったみたいで、トイレにハンカチを置き忘れてしまいました。申し訳ないんだけど週明けに会社に持ってきてくれると助かります」
『そうでしたか。分かりました。なら今すぐ戻って駅に届けますよ!』
華田のことだから、やはり持って来ると強く主張するだろうと思った。けれど2往復もさせるのは気が引けた。
「大丈夫だから! もう駅のプラットフォームにいるし一度改札の外に出るのも駅員さんに申し訳ないし、ちょっと面倒だしね」
『僕、実は定期を作ったんですよ!』
週3勤務なのに!?
『というか週4に増やしたんですよ』
「え!」
『あまりにも仕事が楽しくなってきてしまったから本間さんに勤務を増やしてもいいかと許諾も得たんで!』
「そうだったんだ」
『なので駅のホームで待っててください。風よけできる自販機と窓のあるベンチがあるんで!』
まさか華田が急いで家に取りに行ってくれるとは思わなかった。断りを入れようとしたが通話は切れてしまった。
仕方なく駅のプラットフォーム上を歩いた。ホームの真ん中に窓で覆われた休憩用のベンチが見えた。
「あれね」
ドアを押して中に入る。確かに屋根付きでガラス窓に囲われているから、風も入ってこなくて寒くなかった。
恐らく10分くらいは掛かるだろうから温かいお茶を買って一息付くことにした。
ベンチに座る直前だった。ホーム上を歩く人物が見えた。電車は数分前に行ってしまったから、今しがた改札口を通って入って来たのだろう。こちらに向かって歩いてくる人物が目立つので、なんとなく目に入った。
「あれ? もしかして、光姫さん?」
フシの家を出て恐らく家路に着くのだろう。
「どうしよう。一言、声を掛けるべきかなぁ」
フシの家を出るときに挨拶をした。また挨拶をするのはウザいだろうか。しかし今日は会社の人間が、どういう人物なのかを確かめに来たのだから、また会うと彼女を緊張させてしまうかもしれない。
「家路に就くときくらいはリラックスしたいわよねぇ」
幸い、ガラス窓に覆われた部屋の外には柱が立っている。自販機のある横に座れば彼女の位置からは見えにくいだろう。
彼女の視界に入らないよう配慮してベンチに座った。
光姫はガラス部屋など目に入らないのかプラットフォーム上を真っ直ぐに歩いて行く。ちょうど私の目の前を通り過ぎるかと思ったが、ドンピシャ、私の目の前のガラス一枚を隔てた前で立ち止まり背中を向けた。彼女はガラスを背にして寄りかかり電話をしているようだった。
「分かってますよ!」
急に怒声を上げた。苛ついた口調で彼女は何かを話していた。
「毎度毎度電話を掛けて来ないでください。監視されてるみたいでウザいんですけど!」
何やらトラブルだろうか。相手を怒鳴りつけているようにも思えたが、しかし急に声を落として幾分落ち着いた口調に変わった。
「新田さん。大丈夫です。ええ」
一体どういう話だろう。大学の友人か、それとも先輩あたりと何か衝突でも起きているのか。
「あ、どうしてもというのなら一つ報告します。今日はフシ君の家に行きました。配信者のフギって人と、本社の人で企画部の御堂さんという方とお会いしました」
今、なんと言った?
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