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はじまり
贈り物
しおりを挟む「岸君。起きて!」
窓の外が住み慣れた街に変わり急いで彼を起こす。貰ったペットボトルの蓋を開けて、覚醒しない彼に与えた。
「うう…あー、飲み過ぎた…」
低い声で彼が言葉を漏らした。ようやく起きてくれたようだが、酔いが酷いのか頭をしきりに擦っている。
「ほんと飲みすぎです。バーテンの人から電話が来たんですよ?」
なるべく大きな声ではなく、優しく問いかけたが、体を起こした彼と目が合った。
「え…な、なんで御堂さんがここに?」
彼は驚いた表情を浮かべると周囲を見渡した。
「もしかして、夢?」
「夢じゃないです。それはこっちの台詞です」
「え?」
彼に会いたいと、帰り際に、ふと思った。楓とパンキッシュ・ファミリーの話で盛り上がっていたから、もちろん岸光牙のことも浮かんだ。刹那に浮かんだ人物から電話が来て正直浮かれた。
出た人物は違ったけど、行かずにはいられなかった。
「もうすぐ私の家なんですけど、とりあえず着いたあとは運転手さんに自分の自宅を言って、ちゃんと家に帰ってくださいね?」
「あー、ごめん。迷惑掛けて」
彼は目をこすって、窓の外を見た。見知らぬ土地を走るからジロジロと注意深く見ているようだ。
「ここってどこら辺?」
「あ、三鷹です」
「三鷹。俺、来たことない」
「ごめんなさい。本当は、あなたの家に送る予定だったんですけど全然起きなくて」
「そっか。それで自分の家に、俺をねぇ?」
窓から振り返った彼に細い目で見られた。怪しんだ表情で「ふーん?」と唸られた。
「ち、違いますよ!」
「違う?」
「介抱に決まってるじゃないですか!」
「はー、どうだか。俺を家に上げて裸にして写メって付き合わないと晒すからって要求すんのかと」
ニヤニヤしながら意地悪く詰められた。
「そんなことしません。全然違います!」
面白がって私をからかうのは、ワザと彼は指摘しているのだろう。
「着きましたよー」
タクシーが減速して、ゆっくり止まった。私は素早く鞄からお金を出して、運転手にピッタリ言われた金額を渡した。
「すみません。運転手さん。このまま、この人を送ってください。あ、岸さん。もう飲み過ぎないでくださいね?」
車から降りて後部座席のドアを閉めた。窓がスルスルと下りてきて岸が顔を出した。
「ごめんね。御堂さん。御礼はいつかするから」
彼は両手を合わせて謝罪する。先ほどまで、意地悪な態度で私をいじめていたのに。
「御礼は別にいいです。それじゃ、おやすみなさい」
走り出したタクシーを見送る。彼から電話が来たのかと思わぬ驚きがあったが、嬉しい再会だった。
彼の住まいはどこなのか、気にならないわけじゃない。ただ、ふいに思う。ほんの少し、彼が早めに起きて住んでいる家までいけちゃったりするのかな、と。
そんな淡い期待と共に、日が明けた翌々日のことだ。
日曜の午前中、家の中で響くインターンホンに出ると私宛に届け物が来たようだった。
ドアを開けると、玄関に立つ人物は両手いっぱいに、それを持参した。
「贈り物のお花でーす!」
ピンク色のバラの花束だった。
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