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新天地
避難先
しおりを挟む「とりあえず仕事を覚えるところからよね」
入社日に仕事が大変そうだという状況なのは分かったが、2週間後には神代鷹恵が退職する。そうなれば企画部には、実質、残るのは私と部長だけ。
月末にはマーケティング部出身の市河という社員が大阪支社から戻って来るらしいが、どんな人なのかは会ってみないと分からない。仕事に厳しい人なら、気まずくなるだろう。
それに顔もまだ合わせていない新入社員の美浜には、この先で会えるかどうかも分からない。なのに初めての企画部。私は、神代の引継ぎだけで、やっていけるのか不安を感じた。
「だめだめ。不安とか言ってられない。生活費を稼がなくちゃ」
実のところ、長期間、正社員の仕事が決まらないままで来た所為で、食生活がやばいのだ。
ご飯と漬物とインスタントの味噌汁を食べるギリギリのひもじい毎日。
一次的に、スーパーでのアルバイトも挟んだことはある。長く働くお局様のような主婦歴30年のベテランから強くビシバシとしたレジ打ちのレクチャーに、一週間も付いて行くことができなかった。
もはや仕事の経歴としてはカウントしていない。
だからこそ、やっと決まった仕事だ。何十年も働かなくたって、それなりに頑張ればサンライブでの仕事はキャリアになる。次なる仕事を求めるなら、ここは踏ん張って行くしかない。
「なんとか仕事をこなして、ともかく貯金もしなくちゃ」
今年で28歳を迎える年。既にバツイチを得ている私は、まだ潰れるには早い歳だ。
「よし。そろそろ戻ろうかな」
5分くらいだ。気を利かせて戻るには十分な時間だと思い、トイレから出ようとしたときだ。
通路先のエレベーターから出てきた女性社員らしい二人組が、まっすぐこちらに向かって来た。
「あ、どうしよう。挨拶しておいた方が良いのかな?」
誰かがトイレにやってきても、普通は会釈くらいするだろう。だが、スーパーでも同じようなことがあった。あの頃は、トイレで鉢合わせたときに挨拶をしたら「図に乗るんじゃないよ。新人が」と叱責を受けた。
ショックを受けて言葉も出ないとき勤めて数年の若手主婦に教えられた。お局の目に映る視界の中で、先にトイレを使うのはマナー違反だと言われた。あまりの理不尽なルールに、一週間だけの勤務で対人恐怖になった。
「まだ人間関係のルールも良く分かってないし、入って早々波風立てたくないし。顔を合わせるのはマズいかな」
迷ってる暇はなかった。
二人の女性がトイレに入る直前で、奥の個室トイレに私は静かに入った。
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