配信の果て

ほわとじゅら

文字の大きさ
123 / 401
宇多野と二川と江野口

愛咲ミミ

しおりを挟む


『僕が言うのも何ですが、多分ですけど配信者としてデビューできるという見本が必要だったから用意されていたんじゃないかと思います。女性の声は実際可愛らしい声でしたから、視聴者もある程度は付いていました』

「なるほど。人気の女性配信者が活躍しているっていうのを、新興事務所としての成功例だっていうことを示すためか。ちなみにリスナーはどれくらいいたのかな?」

 宇多野が、江野口に質問を投げたが俺の方が先に特定できた。

「宇多野。多分コレじゃないかな。愛咲あいさきミミとかいう子の紹介がラブリーアカデミアの公式サイトで紹介されている。チャンネルページもある。URLを今チャットに打ったよ」

『あ、それです!』

 愛咲ミミのチャンネル登録者数は、3万人強だった。軽くコンサート会場くらいはいっぱいにできる数字ではある。

「主にカバーソングの動画が上がっていて、ゲーム実況でライブをすることが多いのか。5分から10分くらいの切り抜き動画もあるな。毎日一回、動画の更新が入ってるようだ。結構、活発じゃないか。確かにコレなら見本にはなりうるけど、彼女もスクール出身なら例え成功例が一人だけでも新興事務所としては大きな成果じゃないか?」

 宇多野は単純に褒めたつもりだ。だが江野口の様子が可笑しい。眉を八の字にして困惑した表情を浮かべていた。

『あまり大きな声では言えないですが、ミミさんのチャンネルはアカウントを買って取得したものですから、一からチャンネル登録者数を築いたものではありません』

 宇多野も俺も一瞬反応できなかった。先に質問を切り出したのは宇多野の方だった。

「え、買ったというのは、登録者数があるチャンネルアカウントを買ったっていうのかい?」

 彼は画面上で深く頷いた。

『はい。僕と同じエンジニアとして雇用された先輩が言ってました。購入後、運用で使えるようにチャンネルの中身を整理して動画を上げ直して、また動画の再生数も業者に頼んで数字を付けたんです。この話を聞いたとき詐欺じゃんと思いました。でもミミさんのライブ配信には、かなりの書き込みも毎回多いです。実際には身内が書き込んでいたんですけど、最近になってようやく本当のファンが付いてコメントも自然と付くようになったんです。それも実力だから成功例であることには違いないって先輩は言ってましたが』

 江野口は深い溜め息を吐いた。納得していない顔だ。

「そうか。そんな裏事情があるんだね。ちょっとにわか信じられないけど、世の中にはチャンネルアカウントの売買って実際にあるから、スタートを良く魅せるために、お金で数字面を解決させておく企業も存在する。最初から収益化が出来ている状態なら、あとは集客をどうするか解決できれば利益はもっと生まれるからね。差し詰め、江野口君は、その実情を知って仕事をしていくのはまずいと思ったってことかな?」

 宇多野の問いに彼は頷いた。

『はい。正直、配信者はスタートから成長するまでの過程が大事だと思うんです。ズルして数字を誤魔化してやっていくというのは、何か従業員としても応援できないっていうか。僕自身、甘い考えなのかもしれないですけど、できれば胸を張れる仕事をしたいというか。日が経つにつれてメンタルが下がって、また転職を考えるようになったんです。けど、ある日から物凄く忙しくなりまして残業が増えて体を壊しました』

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

旦那様に愛されなかった滑稽な妻です。

アズやっこ
恋愛
私は旦那様を愛していました。 今日は三年目の結婚記念日。帰らない旦那様をそれでも待ち続けました。 私は旦那様を愛していました。それでも旦那様は私を愛してくれないのですね。 これはお別れではありません。役目が終わったので交代するだけです。役立たずの妻で申し訳ありませんでした。

至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件

こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

​『イージス艦長、インパール最前線へ。――牟田口廉也に転生した俺は、地獄の餓死作戦を「鉄壁の兵站要塞」に変える』

月神世一
SF
​【あらすじ】 ​「補給がなければ、戦場に立つ資格すらない」 ​ 坂上真一(さかがみ しんいち)、50歳。  かつてイージス艦長として鉄壁の防空網を指揮し、現在は海上自衛隊で次世代艦の兵站システムを設計する男。  背中には若き日の過ちである「仁王」の刺青を隠し持ち、北辰一刀流の達人でもある彼は、ある日、勤務中に仮眠をとる。 ​ 目が覚めると、そこは湿気と熱気に満ちた1944年のビルマだった。  鏡に映っていたのは、小太りで口髭の男――歴史の教科書で見た、あの「牟田口廉也」。 ​ しかも時期は、日本陸軍史上最悪の汚点とされる「インパール作戦」決行の直前。  部下たちは「必勝の精神論」を叫び、無謀な突撃を今か今かと待っている。 ​ (……ふざけるな。俺に、部下を餓死させろと言うのか?) ​ 現代の知識と、冷徹な計算、そして海自仕込みのロジスティクス能力。  すべてを駆使して、坂上(中身)は歴史への介入を開始する。  精神論を振りかざすふりをして上層部を欺き、現地改修で兵器を強化し、密かに撤退路を整備する。 ​ これは、「史上最も無能な指揮官」の皮を被った「現代の有能な指揮官」が、確定した敗北の運命をねじ伏せ、数万の命を救うために戦う、逆転の戦記ドラマ。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

【完結】身代わりとなります

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
レイチェルは素行不良の令嬢として悪名を轟かせている。しかし、それはレイチェルが無知ゆえにいつも失態をしていたためで本人には悪意はなかった。 レイチェルは家族に顧みられず誰からも貴族のルールを教えてもらわずに育ったのだ。 そんなレイチェルに婚約者ができた。 侯爵令息のダニエルだ。 彼は誠実でレイチェルの置かれている状況を知り、マナー講師を招いたり、ドレスを作ってくれたりした。 はじめは貴族然としている婚約者に反発していたレイチェルだったがいつのまにか彼の優しさに惹かれるようになった。 彼のレイチェルへの想いが同情であっても。 彼がレイチェルではない人を愛していても。 そんな時、彼の想い人である隣国の伯爵令嬢フィオラの国で革命が起き、彼女は隣国の貴族として処刑されることが決まった。 そして、さまざまな思惑が交錯する中、レイチェルは一つの決断を下し・・・ *過去と未来が行ったり来たりしながら進行する書き方にチャレンジしてみました。 読みにくいかもしれませんがご了承ください。

処理中です...