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宇多野と二川と江野口
質問
しおりを挟むここ一年の仕事を尋ねた際、残業の多さに辞めたと彼は話していた。愛咲ミミのゲーム配信を支えるため、ゲーム開発を自社で行っていた彼は更なるゲームのリリースを増やすような指示を受けたのかもしれない。
俺と同じ考えに至ったか、宇多野が江野口に訊ねた。
「君は会社からゲーム開発の注文を複数受けたから残業が増えたということなのかな? いや、あまり詳しいことを聞いてもダメか。秘密保持にサインしているだろうから細かいことは話さなくてもいいよ」
既に江野口は、業務内容のことを仔細喋っている。愛咲ミミの裏情報を話している時点で契約に反した行動ではあるが。
『あー、いえ大丈夫です。僕は今すぐに雇用できる状態ではありませんから。通院も暫く必要ですし、失業手当も出ます。今年の12月で30になってしまうので、20代最後の一年間をブラブラして療養に励みます。来年以降はゲームとは関係ない仕事を適当に就いて、人生を謳歌する予定です。なので今ここで僕が喋ることはただの雑談です。折角、開発者の方とお会いできたんで』
どうやら知り合った記念に彼はいろいろと話してくれるようだ。
「そうか。それなら思う存分すべてをさらけ出してスッキリしてもらおうか。俺は配信者を囲うタレント事務所みたいな会社の経営には興味がないけど、知識として知っておくのは大歓迎だから。君が感じた愚痴をどうか俺たちに聞かせてほしい。いつか役に立つかもしれない」
画面の向こう側で、江野口は小さく笑う。
『すみません。僕の愚痴を聞いてもらうなんて、何か申し訳ない気持ちです。逆に質問したいことがあります』
「おう。質問していいぞ。なんだい?」と俺から許可を出した。
『あの、ちょっと無粋な質問ではありますが。安毛さんの過去のアーカイブ配信を見ているとき、コラボはしないという話を聞きました。あと大きな事務所には加入するのも断っていると。本当にずっと個人で活動し続けるんでしょうか?』
他愛ない質問だった。宇多野が答える。
「コラボも事務所への加入もないとは配信で確かに言ったけど、生涯絶対にないとは言ってないからね。何かの拍子で覆ることはあるかもしれない」
サンライブへの加入がある。今は明かせないニュースだが、近い内にニュースにはなる。
宇多野の返答に、江野口の目が少し見開いた。驚いた顔だ。
『まじすか。あり得るのかよ……』
驚き方がやや尋常でない。安リスなら喜びを浮かべるところだが、彼の驚き方は眉間に少し皺を寄せて、困惑した色が見えた。
「えっと、何かまずいかな?」
宇多野が問いかけると彼は言い辛そうに口を開いた。
『予定はないという返事かと思ったんです。でも、もしかしたら、本当にそうなってしまうのかなと思ったもので、えっと』
明らかに何かを言いたそうではあるが、言ってはいけないのか逡巡しているようだった。
「どうしたんだい。江野口君。俺に何か聞きたいことがあれば、この際なんでも聞いてくれても構わないよ?」
宇多野から優しい言葉が掛けられる。目を泳がせていた江野口はウェブカメラに視線を戻した。
『えっと、じゃあ厚かましい質問かもしれませんが、もしかしてナインズとの加入交渉を今進めていたりしますか?』
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