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宇多野と二川と江野口
特定方法
しおりを挟む「ナインズって、パンキッシュ・ファミリーが所属している事務所のこと?」
俺からの質問である。カメラの前で彼は深く頷いた。
『そうです』
つかさず宇多野からも質問が飛んだ。
「どうしてナインズと加入交渉をしていると思ったんだい?」
何かの拍子で覆ることはあるかも――と、ついさっき喋っていた匂わせから事務所への加入を想像するにしても、急にナインズと断定するには早すぎるからだ。
『すみません。実は、入社してまもなくテストを受けることになりまして。やさいゲームの開発者個人にコンタクトを直接取る連絡先を調べるように言われました。だから僕は、ちょっとした裏技を使いまして個人メールを探して特定したあと報告を上げました。僕はコラボ依頼でもするのかと思っていたら、安毛さんをナインズに引き入れられないか交渉話が浮上したことを耳にしまして』
「なるほど。特定したのは君自身だからこそ、もともと知っていたのか」
江野口は素直に答える。
『はい』
「それにしても、どうやって俺の個人メールを特定できたの? 不思議だったんだよね。公には公開してないからさ。二川との連絡や、ゲームをリリースするサイトへの登録しか使ってないから情報が洩れるなんて考えられなくて」
『特定することは難しくありませんでした。今の時代、AIを使えば知りたい個人のメールアドレスを取得することができます。しかも、ゲームをリリースするオンライン販売ページというのは、必ず責任者のメールアドレスが登録されています。AIを使えば抽出できるんです』
「へぇ。AIって、そんなこともできるんだ!」
宇多野が驚いて声を上げるが、俺は――その手があったか!――と溜め息が出た。AIの進歩も怖いものである。
『海外ではアマチュアが作ったソフトウェアを大手が買収するときや、もっと大きなマーケットで販売しないかと開発者に交渉することがあります。未公表の開発者を特定するのに、最近ではAIを使って個人情報を特定することもあるそうです。僕は、そんなやり方を1社目の会社で知っていましたが、使う機会はなくて。だから特定は簡単だったんですけど、僕としてはあんまり喜べなくて』
「業務で調べて欲しいと言われて君は仕事をしたのだから、気に病むことはないよ」
宇多野がフォローを入れたが、彼の表情は暗いままだ。
『いえ、そうではなく。ミミさんの件とか知ってしまうと、僕としては加入して欲しくないというか。打診を考えているなら、考え直してほしいといいますか』
「ちょっと待ってくれ。江野口くん。ラブリーアカデミアの会社で働いていたのに、何で宇多野の個人メールを上司の人は欲しがったんだ? しかも、どうして宇多野のメールがナインズに流れたんだい?」
無性に気になり、俺は言わずにはいられなかった。江野口は、『あ!』と急に大きな声を上げた。
『すみません。僕は新興事務所でのゲーム開発をメインにした仕事ではありますが、雇用主はナインズになるんです。僕を採用したのは、パンファミのマネージャーさんである与田さんです。またラブリーアカデミアは合同会社で、ナインズに雇用を受けた僕はナインズからの出向社員として勤務していました。事務所が軌道に乗ったら株式会社にするそうです。あとゲームがヒットするならナインズ所属の配信者にもプレイしてもらうというのが目標になっていました』
彼の説明で、ようやく見えてきた。ナインズは、事業拡大のために着々と手広く進めているのだ。しかし成功の道までに築き上げる過程には、チャンネルアカウントの買収や、再生数を業者に頼み数字を盛るなど手段を厭わない。あまり褒められる、やり方ではない。
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