1話完結のSS集Ⅱ

月夜

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おまじない/テーマ:おくすり

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 私には、信頼出来る人が居なかった。
 信じていた家族や友人に裏切られ、人を信じられなくなり気持ちは沈む。
 そんな私にただ一つあるおまじないお薬は『孤独を愛せ』という言葉。
 孤独はいつも私に有り、決して裏切らない唯一のモノ。



「新人歓迎会をしようと思うんだけど」

「結構です」



 自分達が騒ぎたい場を、新任歓迎会という名目でしようとしてるだけ。
 誰も私の事なんて歓迎してない事くらい知ってる。
 暗い、冷たい。
 コソコソと悪口を陰で言ってる事に気づいてないとでも思ってるんだろうか。



「えー、主役がいなきゃ意味ないよ」



 断っているのに執拗いこの男は私の教育係。
 この人だけは周りが関わろうとしない中、私声をかけてくる物好き。



「教育係だからって気にかけていただかなくても大丈夫ですから」

「それだけじゃないって。君ともっと仲良くなりたいからさ」



 ニコリと笑うその笑顔を見ると、昔の事を思い出して怒りがわく。
 ヘラヘラ笑って味方なふりして、裏切る奴らと同じ。



「迷惑なんですよ。仕事の事だけ教えていただけたらいいですから」



 冷たく一言言い残し、私はその場を離れた。
 心で何度もおまじないお薬の言葉を唱える。
 私には孤独しか信じられるものはなく、孤独だけを愛すると決めた。
 あんな笑顔にはもう騙されないと決めていたのに、その日以降も何度も絡んでくる。
 皆で新任歓迎会じゃなくて俺と二人ならどうかとか、何でこの人はこんなにも執拗いんだろう。
 仕事に関係のない話を毎日繰り返し、帰ろうと外に出た時に声をかけられついにキレた。



「いい加減にしてください! 私は一人が好きですし、貴方と仲良くなりたいとも思わない」

「それってさ、本心?」



 そう聞かれて言葉が出ないのはなんでだろうと考えたとき、私は気づいてしまった。
 おまじないお薬お呪いお薬だったんだと。
 自分が傷つかないように私は、恐怖をお呪いお薬で避けていただけ。



「俺さ、君みたいな子知ってるんだよね。助けられなかった子をさ……」



 いつも笑顔を絶やさない先輩が初めて見せる悲しげな表情を見て、全てを察した。
 聞かなくてもわかる。
 孤独を愛し続けた人間がその先どうなるかなんて。

 いつしか私の中で呪いとなったお薬を、少し手放してもいいだろうか。
 それでまたお薬が必要になったとしても、もう一度だけ人を信じてみたいと思ってしまったから。



「新人歓迎会、二人でならいいですよ」

「本当? やったね」



 嬉しそうにニッと笑う先輩の笑顔につられるように、私は気づかれないようひっそりと口元を緩める──。


《完》
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