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満たされる心/テーマ:パニック
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人がパニックになる時は、いつだって自身が予期せぬ自体に直面したとき。
そう思っていたのに、視線の先で唇を重ねる私の恋人と親友を目にしても、驚く程落ち着いていた。
私の存在に気づかないまま、校舎の影で重なる二人。
三人で帰る約束をしていたのに、私は一体何時まで待てばいいのか。
痺れを切らして近づいていけば、やっと気づいた二人が私を見る。
バッと離れた彼は「こ、これは違うから」なんて言い訳を並べ、親友は気まずそうに視線をそらしていた。
今もまだつらつらと言葉を並べる彼。
私は一体いつまでそれを聞かなければいけないのか。
等に痺れを切らしていた私は二人に背を向け「三人で帰るんじゃないの」と顔だけ振り返り声をかける。
あまりに私の態度が変わらないことで安心したのか、やっと歩き始めた。
帰り道、二人は必死に私に声をかけてくる。
何故私は落ち着いているのに、二人の方がパニックのように延々と話し続けるのか。
普通に返事も返しているのに、二人は先程よりも慌てているように見える。
人がパニックになる時は、いつだって自身が予期せぬ自体に直面したとき。
つまり二人は予期せぬ自体に直面したからパニックになっているわけだけど、なら私は何故冷静なのかと考えたとき簡単に答えは出た。
「ああ、知ってたんだ」
突然私が声を上げたことで、両隣から煩かった二人の声がピタリと止まる。
それでも歩みが止まらないのは、こうでもしないと落ち着かないからなんだろう。
そんな二人とは対照的に、私が足を止めると二人も止まらざるを得ない。
両隣からの視線を感じながら、私は数歩前に歩いて二人に振り返る。
表情が強張っていて、よく見れば汗もかいているみたい。
今日はまだ涼しいくらいなのに。
「私、ずっと二人の関係知ってたよ」
そう言ってニタリと笑った私は二人にどう映っているのだろう。
親友は脚が少し震えてる。
彼は、まるで怖いものでも見たかのように表情を歪ませている。
この状況に私の鼓動は大きく脈打ち息が上がる。
私は二人のこの表情が見たかったんだ。
親友が膝から崩れ落ちると「ごめんなさい、ごめんなさい……」と謝り続けた。
彼は固まったままピクリともしない。
人が恐怖で怯え、パニックになる姿を見るのってこんなにも楽しんだ。
今初めて知った感覚のはずなのに、前にも似たようなことがあった気がする。
それに何故、私は二人の関係を知っていながら今まで黙っていたんだろう。
記憶を遡って思い出したのは、元彼のこと。
初めての恋人が家に来るって連絡をくれたから、コンビニで飲み物やお菓子を買ってきた帰りの出来事だった。
家の近くの路地で、彼と知らない女の人が唇を重ねている。
私の存在に気づいた彼は「えっと、これはさ……」なんて言い訳を考え始めた。
「この女だれ?」
「お前は黙ってろって」
初めての恋人。
初めての浮気現場。
私の心は不思議と落ち着いているけれど、彼は家に来るって言ったんだから早くこの状況なんとかならないものか。
なんか二人で揉めだしたから時間がかかりそう。
「あんた彼女なんだ。私のがイイ女だったんだから仕方ないよねー」
「おい、余計なこと言うな」
私まで巻き込んでくるのか。
時間の無駄だなと思い「家に来るんでしょ」と彼に言葉をかければ、関係ない女の人が声を上げてきて煩い。
邪魔な人には去ってもらおうと、女の人の目の前まで近づき手を伸ばす。
女の人の顔をぐっと掴んだ私は、ただ一言「邪魔」と言って手を放すと、両頬の辺りが赤紫に変色しているのが見える。
女の人は顔を真っ青にしてその場から走り去ったので彼の方に振り返れば、後退った彼は尻餅をつき、あの女の人と同じ表情を浮かべている。
冷静だった私の鼓動は高鳴り「じゃあ、家に行こっか」と彼に手を差し伸べた。
その後、直ぐに彼とは別れることになり、そして出会ったのが今の彼。
全てを理解したとき私は高らかに笑う。
またあの表情を私は見たかったんだ。
理解できないこの状況に、彼と親友は恐怖でパニックになり、私の感情は満たされていく。
《完》
そう思っていたのに、視線の先で唇を重ねる私の恋人と親友を目にしても、驚く程落ち着いていた。
私の存在に気づかないまま、校舎の影で重なる二人。
三人で帰る約束をしていたのに、私は一体何時まで待てばいいのか。
痺れを切らして近づいていけば、やっと気づいた二人が私を見る。
バッと離れた彼は「こ、これは違うから」なんて言い訳を並べ、親友は気まずそうに視線をそらしていた。
今もまだつらつらと言葉を並べる彼。
私は一体いつまでそれを聞かなければいけないのか。
等に痺れを切らしていた私は二人に背を向け「三人で帰るんじゃないの」と顔だけ振り返り声をかける。
あまりに私の態度が変わらないことで安心したのか、やっと歩き始めた。
帰り道、二人は必死に私に声をかけてくる。
何故私は落ち着いているのに、二人の方がパニックのように延々と話し続けるのか。
普通に返事も返しているのに、二人は先程よりも慌てているように見える。
人がパニックになる時は、いつだって自身が予期せぬ自体に直面したとき。
つまり二人は予期せぬ自体に直面したからパニックになっているわけだけど、なら私は何故冷静なのかと考えたとき簡単に答えは出た。
「ああ、知ってたんだ」
突然私が声を上げたことで、両隣から煩かった二人の声がピタリと止まる。
それでも歩みが止まらないのは、こうでもしないと落ち着かないからなんだろう。
そんな二人とは対照的に、私が足を止めると二人も止まらざるを得ない。
両隣からの視線を感じながら、私は数歩前に歩いて二人に振り返る。
表情が強張っていて、よく見れば汗もかいているみたい。
今日はまだ涼しいくらいなのに。
「私、ずっと二人の関係知ってたよ」
そう言ってニタリと笑った私は二人にどう映っているのだろう。
親友は脚が少し震えてる。
彼は、まるで怖いものでも見たかのように表情を歪ませている。
この状況に私の鼓動は大きく脈打ち息が上がる。
私は二人のこの表情が見たかったんだ。
親友が膝から崩れ落ちると「ごめんなさい、ごめんなさい……」と謝り続けた。
彼は固まったままピクリともしない。
人が恐怖で怯え、パニックになる姿を見るのってこんなにも楽しんだ。
今初めて知った感覚のはずなのに、前にも似たようなことがあった気がする。
それに何故、私は二人の関係を知っていながら今まで黙っていたんだろう。
記憶を遡って思い出したのは、元彼のこと。
初めての恋人が家に来るって連絡をくれたから、コンビニで飲み物やお菓子を買ってきた帰りの出来事だった。
家の近くの路地で、彼と知らない女の人が唇を重ねている。
私の存在に気づいた彼は「えっと、これはさ……」なんて言い訳を考え始めた。
「この女だれ?」
「お前は黙ってろって」
初めての恋人。
初めての浮気現場。
私の心は不思議と落ち着いているけれど、彼は家に来るって言ったんだから早くこの状況なんとかならないものか。
なんか二人で揉めだしたから時間がかかりそう。
「あんた彼女なんだ。私のがイイ女だったんだから仕方ないよねー」
「おい、余計なこと言うな」
私まで巻き込んでくるのか。
時間の無駄だなと思い「家に来るんでしょ」と彼に言葉をかければ、関係ない女の人が声を上げてきて煩い。
邪魔な人には去ってもらおうと、女の人の目の前まで近づき手を伸ばす。
女の人の顔をぐっと掴んだ私は、ただ一言「邪魔」と言って手を放すと、両頬の辺りが赤紫に変色しているのが見える。
女の人は顔を真っ青にしてその場から走り去ったので彼の方に振り返れば、後退った彼は尻餅をつき、あの女の人と同じ表情を浮かべている。
冷静だった私の鼓動は高鳴り「じゃあ、家に行こっか」と彼に手を差し伸べた。
その後、直ぐに彼とは別れることになり、そして出会ったのが今の彼。
全てを理解したとき私は高らかに笑う。
またあの表情を私は見たかったんだ。
理解できないこの状況に、彼と親友は恐怖でパニックになり、私の感情は満たされていく。
《完》
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