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いよいよ、結婚式を明日に控えた、独身最後の夜。
私は、自室の柔らかな寝台の上に座り、窓の外に浮かぶ、美しい満月を、ぼんやりと眺めていた。
左手の薬指には、殿下がはめてくださった、誓いの指輪がきらりと輝いている。
その冷たい感触を、右手でそっと撫でる。
思い返せば、本当に、色々なことがあった。
殿下に婚約破棄を切り出した、あの雨の日の東屋。
周りの声に傷つき、一人、部屋で泣いていた夜。
ショコラ様の悪意に、心を折られそうになった日々。
そして、どんな時も、私を信じ、守り、その大きな愛で包み込んでくれた、レピオド殿下。
一つ一つの出来事が、まるで走馬灯のように、私の脳裏を駆け巡る。
あの頃の私には、こんな風に、穏やかで、幸せな気持ちで、明日を迎えられる日が来るなんて、想像もできなかった。
すべてが、夢のようだ。
私が、そんな風に、一人で感慨にふけっていると、不意に、部屋の扉が、控えめにノックされた。
「アイ様、夜分に申し訳ございません。カモミール様がお見えでございますが……」
「え? カモミールが?」
こんな、夜も更けた時間に、どうしたのだろう。
何か、緊急の用事だろうか。少しだけ胸騒ぎを覚えながら、私は「どうぞ、お通しして」と答えた。
やがて、部屋に入ってきたのは、カモミールだけではなかった。
彼女の後ろには、リリー嬢、ジャスミン嬢と、私がまだ王太子妃候補として苦しんでいた頃も、変わらずに親しくしてくれていた、心優しい友人たちの顔があった。
その手には、可愛らしい花束や、小さな贈り物の包みが抱えられている。
私が、驚いて目をぱちくりさせていると、友人たちは、にこやかに顔を見合わせた。
そして、代表してカモミールが、悪戯っぽく、片目をつぶって見せた。
「アイ、結婚おめでとう! あなたの、独身最後の夜を、私たちと一緒にお祝いさせてちょうだい!」
「え……! みんな……!」
「今夜は、殿方禁制の、パジャマ・パーティーよ!」
カモミールのその言葉を合図に、侍女たちが、次々と部屋にお菓子や温かいハーブティーを運び込んでくる。
テーブルの上には、色とりどりのマカロンや、フルーツタルト、そして、私の大好物である、チョコレートケーキが並べられていった。
友人たちの、心のこもったサプライズに、私は、驚きと、喜びとで、胸がいっぱいになった。
私たちは、寝台の上に輪になって座り込むと、まるで、学生時代に戻ったかのように、他愛のないおしゃべりに、花を咲かせた。
「本当に、良かったわよね、アイ!」
リリー嬢が、自分のことのように、嬉しそうに言った。
「あなた、一時期は、本当に見ていられないくらい、思いつめていたから。私たち、心配で、心配で、仕方がなかったのよ」
「そうそう!」と、ジャスミン嬢も頷く。
「でも、私たちは、ずっと信じていたわ。あなたの、その誰よりも優しい心を、殿下が、見逃すはずがないって」
友人たちの、温かい言葉。
私が、一人で苦しんでいると思っていた、あの時。
私を、遠くから見守り、心配し、そして、信じてくれていた人たちが、こんなにも、たくさんいたのだ。
「あの、舞踏会での断罪劇は、本当に、胸がすっとしたわ!」
「ええ! ショコラ様が、衛兵に引きずられていく姿といったら……! 少し、不謹慎かもしれないけれど、最高の見世物だったわよね!」
友人たちは、きゃっきゃと声を上げて、楽しそうに笑う。
その、悪意のない、からりとした明るさに、私の心も、軽くなっていく。
私たちは、夜が更けるのも忘れて、語り合った。
これまでの苦労話、殿下の素敵なところ、これからの新婚生活への期待と、少しばかりの不安。
令嬢たちだけの、秘密の恋バナ。
それは、本当に、楽しくて、幸せな時間だった。
そして、私は、改めて、気づかされたのだ。
私が、あの暗いトンネルを抜け出すことができたのは、殿下の愛だけが理由ではない。
こうして、私のことを、自分のことのように心配し、励まし、そして、幸せを願ってくれる、かけがえのない友人たちが、いてくれたからなのだ、と。
その事実に気づいた時、私の目からは、自然と、温かい涙が、ぽろぽろとこぼれ落ちていた。
「あら、アイ、どうしたの?」
「ごめんなさい……嬉しくて……」
私は、友人たち、一人一人の顔を見つめて、言った。
「本当に、ありがとう。カモミールも、リリーも、ジャスミンも……みんながいてくれたから、わたくし、ここまで、頑張ってくることができました」
私の、心からの感謝の言葉に、友人たちも、もらい泣きをして、目元を赤くしている。
カモミールは、そんな私の手を、ぎゅっと握りしめてくれた。
「何言ってるの、アイ。私たちは、当たり前のことをしたまでよ」
そして、彼女は、友人たちを代表するように、力強く、言った。
「私たちは、あなたが、この国の未来の王妃になることを、心の底から、誇りに思うわ。だから、何かあったら、いつでも、私たちを頼ってちょうだいね。私たちは、いつまでも、何があっても、あなたの味方だから」
その、あまりにも力強く、温かい友情の誓い。
私の心にあった、最後の、ほんの僅かな不安の影も、この瞬間、完全に、消え去っていた。
私は、一人じゃない。
私には、世界で一番愛してくれる人と、そして、世界で一番の友人たちがいる。
もう、何も、怖くない。
私たちは、やがて、窓の外が、白み始める頃まで、語り明かした。
そして、部屋を後にする友人たちと、「また、明日、結婚式でね」と、笑顔で約束を交わす。
たくさんの、たくさんの愛に支えられていることを、改めて実感しながら。
私は、人生で、最も幸せで、最も穏やかな気持ちで、独身最後の夜の、終わりを、迎えていた。
私は、自室の柔らかな寝台の上に座り、窓の外に浮かぶ、美しい満月を、ぼんやりと眺めていた。
左手の薬指には、殿下がはめてくださった、誓いの指輪がきらりと輝いている。
その冷たい感触を、右手でそっと撫でる。
思い返せば、本当に、色々なことがあった。
殿下に婚約破棄を切り出した、あの雨の日の東屋。
周りの声に傷つき、一人、部屋で泣いていた夜。
ショコラ様の悪意に、心を折られそうになった日々。
そして、どんな時も、私を信じ、守り、その大きな愛で包み込んでくれた、レピオド殿下。
一つ一つの出来事が、まるで走馬灯のように、私の脳裏を駆け巡る。
あの頃の私には、こんな風に、穏やかで、幸せな気持ちで、明日を迎えられる日が来るなんて、想像もできなかった。
すべてが、夢のようだ。
私が、そんな風に、一人で感慨にふけっていると、不意に、部屋の扉が、控えめにノックされた。
「アイ様、夜分に申し訳ございません。カモミール様がお見えでございますが……」
「え? カモミールが?」
こんな、夜も更けた時間に、どうしたのだろう。
何か、緊急の用事だろうか。少しだけ胸騒ぎを覚えながら、私は「どうぞ、お通しして」と答えた。
やがて、部屋に入ってきたのは、カモミールだけではなかった。
彼女の後ろには、リリー嬢、ジャスミン嬢と、私がまだ王太子妃候補として苦しんでいた頃も、変わらずに親しくしてくれていた、心優しい友人たちの顔があった。
その手には、可愛らしい花束や、小さな贈り物の包みが抱えられている。
私が、驚いて目をぱちくりさせていると、友人たちは、にこやかに顔を見合わせた。
そして、代表してカモミールが、悪戯っぽく、片目をつぶって見せた。
「アイ、結婚おめでとう! あなたの、独身最後の夜を、私たちと一緒にお祝いさせてちょうだい!」
「え……! みんな……!」
「今夜は、殿方禁制の、パジャマ・パーティーよ!」
カモミールのその言葉を合図に、侍女たちが、次々と部屋にお菓子や温かいハーブティーを運び込んでくる。
テーブルの上には、色とりどりのマカロンや、フルーツタルト、そして、私の大好物である、チョコレートケーキが並べられていった。
友人たちの、心のこもったサプライズに、私は、驚きと、喜びとで、胸がいっぱいになった。
私たちは、寝台の上に輪になって座り込むと、まるで、学生時代に戻ったかのように、他愛のないおしゃべりに、花を咲かせた。
「本当に、良かったわよね、アイ!」
リリー嬢が、自分のことのように、嬉しそうに言った。
「あなた、一時期は、本当に見ていられないくらい、思いつめていたから。私たち、心配で、心配で、仕方がなかったのよ」
「そうそう!」と、ジャスミン嬢も頷く。
「でも、私たちは、ずっと信じていたわ。あなたの、その誰よりも優しい心を、殿下が、見逃すはずがないって」
友人たちの、温かい言葉。
私が、一人で苦しんでいると思っていた、あの時。
私を、遠くから見守り、心配し、そして、信じてくれていた人たちが、こんなにも、たくさんいたのだ。
「あの、舞踏会での断罪劇は、本当に、胸がすっとしたわ!」
「ええ! ショコラ様が、衛兵に引きずられていく姿といったら……! 少し、不謹慎かもしれないけれど、最高の見世物だったわよね!」
友人たちは、きゃっきゃと声を上げて、楽しそうに笑う。
その、悪意のない、からりとした明るさに、私の心も、軽くなっていく。
私たちは、夜が更けるのも忘れて、語り合った。
これまでの苦労話、殿下の素敵なところ、これからの新婚生活への期待と、少しばかりの不安。
令嬢たちだけの、秘密の恋バナ。
それは、本当に、楽しくて、幸せな時間だった。
そして、私は、改めて、気づかされたのだ。
私が、あの暗いトンネルを抜け出すことができたのは、殿下の愛だけが理由ではない。
こうして、私のことを、自分のことのように心配し、励まし、そして、幸せを願ってくれる、かけがえのない友人たちが、いてくれたからなのだ、と。
その事実に気づいた時、私の目からは、自然と、温かい涙が、ぽろぽろとこぼれ落ちていた。
「あら、アイ、どうしたの?」
「ごめんなさい……嬉しくて……」
私は、友人たち、一人一人の顔を見つめて、言った。
「本当に、ありがとう。カモミールも、リリーも、ジャスミンも……みんながいてくれたから、わたくし、ここまで、頑張ってくることができました」
私の、心からの感謝の言葉に、友人たちも、もらい泣きをして、目元を赤くしている。
カモミールは、そんな私の手を、ぎゅっと握りしめてくれた。
「何言ってるの、アイ。私たちは、当たり前のことをしたまでよ」
そして、彼女は、友人たちを代表するように、力強く、言った。
「私たちは、あなたが、この国の未来の王妃になることを、心の底から、誇りに思うわ。だから、何かあったら、いつでも、私たちを頼ってちょうだいね。私たちは、いつまでも、何があっても、あなたの味方だから」
その、あまりにも力強く、温かい友情の誓い。
私の心にあった、最後の、ほんの僅かな不安の影も、この瞬間、完全に、消え去っていた。
私は、一人じゃない。
私には、世界で一番愛してくれる人と、そして、世界で一番の友人たちがいる。
もう、何も、怖くない。
私たちは、やがて、窓の外が、白み始める頃まで、語り明かした。
そして、部屋を後にする友人たちと、「また、明日、結婚式でね」と、笑顔で約束を交わす。
たくさんの、たくさんの愛に支えられていることを、改めて実感しながら。
私は、人生で、最も幸せで、最も穏やかな気持ちで、独身最後の夜の、終わりを、迎えていた。
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