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アイが、今頃、友人たちに囲まれて、独身最後の夜を、賑やかに過ごしているであろう、その頃。
俺、レピオド・レイ・カルミナスは、自室の広大なバルコニーに一人立ち、王都の夜景と、満天の星を、静かに見上げていた。
明日。
この日が来ることだけを、ずっと、待ち望んでいた。
明日、アイは、名実ともに、俺の妻となる。
その事実を思うだけで、いつもは冷静沈着を心がけている俺の心臓が、まるで少年のように、どくん、どくん、と、期待に胸を高鳴らせる。
「殿下。夜風が、肌寒うございます。お部屋へお戻りください」
背後から、心配そうな、それでいて、少しだけ呆れたような声がした。
腹心の部下であり、物心ついた頃からの付き合いである、ギルバートだ。
その手には、上質な赤ワインのボトルと、二つのクリスタルグラスが、盆に乗せられている。
「ああ、ギルバートか。すまないな、付き合わせて」
「いえ……。ですが殿下、今宵は、あまり深酒はなさいませんように。明日は、人生で最も大切な日でございますから」
「分かっている。一杯だけだ」
俺は、そう言って笑った。
「どうにも、眠れそうにないんだ。……少し、興奮してしまっているらしい」
俺の、子供のような言葉に、ギルバートは、小さくため息をつきながらも、手慣れた様子でワインをグラスに注いでくれる。
こん、と澄んだ音を立てて、グラスを合わせる。
俺たちは、しばらくの間、黙って、夜景を眺めながら、芳醇なワインを口に含んだ。
やがて、ギルバートが、ぽつりと、呟いた。
「……正直、申し上げますと」
「なんだ?」
「殿下が、アイ様にあれほどまでに御執心になられるとは、最初は、思ってもみませんでした」
その、昔を懐かしむような言葉に、俺も、思わず、苦笑した。
「そうだろうな。……何を隠そう、この俺自身が、一番驚いているんだからな」
グラスの中の、血のように赤い液体を、揺らしながら、俺は、アイと初めて出会った頃のことを、思い出していた。
あれは、確か、彼女が、社交界にデビューして、間もない頃の夜会だった。
周りの令嬢たちが、誰も彼も、俺の気を惹こうと、必死に自分を飾り立て、アピールしてくる中で。
アイだけが、違った。
彼女は、誰に媚びるでもなく、輪の中心から少しだけ離れた場所で、ただ、静かに、そこに佇んでいた。
まるで、自分は、このきらびやかな世界の住人ではない、とでも言うように。
その、どこか儚げで、凛とした姿に、俺は、最初に、興味を惹かれたのだ。
そして、勇気を出して、彼女に話しかけてみた。
返ってくる言葉は、いつも、少しだけ間があって、おっとりとしていて。少し、不器用で。
けれど、その言葉の端々や、ふとした瞬間に見せる、紫水晶の瞳の奥に、俺は、彼女が、誰よりも優しく、そして、強い芯を持っていることを見抜いていた。
だからこそ、見ていられなかった。
そんな彼女が、心ない者たちの、くだらない嫉妬や悪意に晒されて、日に日に、その輝きを失っていく姿を。
自信をなくし、自分を責め、ついには、俺に、婚約破棄を切り出すまでに、追い詰められていく彼女を見て、俺の心は、張り裂けそうなくらい、痛んだ。
その時からだ。
俺が、ただ、彼女を守りたい、彼女の笑顔を取り戻したい、と、心の底から、強く願うようになったのは。
「殿下は、本当に、アイ様を……」
ギルバートの言葉に、俺は、静かに頷いた。
そして、自分でも驚くほど、素直な言葉が、口からこぼれ落ちていた。
「愛している。ああ、それ以外の言葉が見つからない」
俺は、星空を仰ぎながら、続ける。
「彼女は、俺の光だ。俺の、太陽だ。彼女がいなければ、俺の世界は、色を失ってしまう。彼女は、俺の、生きる意味そのものなんだ」
それは、一国の王太子としてではなく、ただ一人の男としての、偽りのない、魂からの告白だった。
ギルバートは、そんな俺の言葉を、静かに、ただ、黙って聞いていた。
そして、俺は、未来の王として、そして、一人の夫として、その決意を、新たにする。
「明日から、俺は、夫となる。そして、いずれは、この国の王となる。その時、俺の隣には、常に、彼女がいるだろう」
その光景を思い浮かべるだけで、胸が熱くなる。
「俺は、彼女と共に、この国を、そして、この国の民を、守っていく。その覚悟は、もう、とうの昔に、できている」
俺の、その力強い言葉を聞いて、ギルバートは、その場に片膝をつくと、深く、深く、頭を垂れた。
「このギルバート、我が生涯のすべてをかけて、殿下と、そして、未来の王妃陛下に、お仕えいたします」
その、変わらぬ忠誠の誓いに、俺は「頼りにしているぞ」と、短く答えた。
俺は、グラスに残っていたワインを、一気に飲み干すと、空になったグラスを、テーブルに置いた。
「さて、と」
俺は、夜空に向かって、大きく伸びをする。
「そろそろ、休むとしようか。明日は、世界で一番美しい、俺だけの花嫁を、万全の体調で、迎えに行かねば、ならんからな」
そう言って、俺は、ギルバートの方を振り返り、子供のように、にっと、笑って見せた。
俺の、独身最後の夜は、愛する人への、深く、静かな想いと、未来への、揺るぎない決意と共に、穏やかに、更けていった。
俺、レピオド・レイ・カルミナスは、自室の広大なバルコニーに一人立ち、王都の夜景と、満天の星を、静かに見上げていた。
明日。
この日が来ることだけを、ずっと、待ち望んでいた。
明日、アイは、名実ともに、俺の妻となる。
その事実を思うだけで、いつもは冷静沈着を心がけている俺の心臓が、まるで少年のように、どくん、どくん、と、期待に胸を高鳴らせる。
「殿下。夜風が、肌寒うございます。お部屋へお戻りください」
背後から、心配そうな、それでいて、少しだけ呆れたような声がした。
腹心の部下であり、物心ついた頃からの付き合いである、ギルバートだ。
その手には、上質な赤ワインのボトルと、二つのクリスタルグラスが、盆に乗せられている。
「ああ、ギルバートか。すまないな、付き合わせて」
「いえ……。ですが殿下、今宵は、あまり深酒はなさいませんように。明日は、人生で最も大切な日でございますから」
「分かっている。一杯だけだ」
俺は、そう言って笑った。
「どうにも、眠れそうにないんだ。……少し、興奮してしまっているらしい」
俺の、子供のような言葉に、ギルバートは、小さくため息をつきながらも、手慣れた様子でワインをグラスに注いでくれる。
こん、と澄んだ音を立てて、グラスを合わせる。
俺たちは、しばらくの間、黙って、夜景を眺めながら、芳醇なワインを口に含んだ。
やがて、ギルバートが、ぽつりと、呟いた。
「……正直、申し上げますと」
「なんだ?」
「殿下が、アイ様にあれほどまでに御執心になられるとは、最初は、思ってもみませんでした」
その、昔を懐かしむような言葉に、俺も、思わず、苦笑した。
「そうだろうな。……何を隠そう、この俺自身が、一番驚いているんだからな」
グラスの中の、血のように赤い液体を、揺らしながら、俺は、アイと初めて出会った頃のことを、思い出していた。
あれは、確か、彼女が、社交界にデビューして、間もない頃の夜会だった。
周りの令嬢たちが、誰も彼も、俺の気を惹こうと、必死に自分を飾り立て、アピールしてくる中で。
アイだけが、違った。
彼女は、誰に媚びるでもなく、輪の中心から少しだけ離れた場所で、ただ、静かに、そこに佇んでいた。
まるで、自分は、このきらびやかな世界の住人ではない、とでも言うように。
その、どこか儚げで、凛とした姿に、俺は、最初に、興味を惹かれたのだ。
そして、勇気を出して、彼女に話しかけてみた。
返ってくる言葉は、いつも、少しだけ間があって、おっとりとしていて。少し、不器用で。
けれど、その言葉の端々や、ふとした瞬間に見せる、紫水晶の瞳の奥に、俺は、彼女が、誰よりも優しく、そして、強い芯を持っていることを見抜いていた。
だからこそ、見ていられなかった。
そんな彼女が、心ない者たちの、くだらない嫉妬や悪意に晒されて、日に日に、その輝きを失っていく姿を。
自信をなくし、自分を責め、ついには、俺に、婚約破棄を切り出すまでに、追い詰められていく彼女を見て、俺の心は、張り裂けそうなくらい、痛んだ。
その時からだ。
俺が、ただ、彼女を守りたい、彼女の笑顔を取り戻したい、と、心の底から、強く願うようになったのは。
「殿下は、本当に、アイ様を……」
ギルバートの言葉に、俺は、静かに頷いた。
そして、自分でも驚くほど、素直な言葉が、口からこぼれ落ちていた。
「愛している。ああ、それ以外の言葉が見つからない」
俺は、星空を仰ぎながら、続ける。
「彼女は、俺の光だ。俺の、太陽だ。彼女がいなければ、俺の世界は、色を失ってしまう。彼女は、俺の、生きる意味そのものなんだ」
それは、一国の王太子としてではなく、ただ一人の男としての、偽りのない、魂からの告白だった。
ギルバートは、そんな俺の言葉を、静かに、ただ、黙って聞いていた。
そして、俺は、未来の王として、そして、一人の夫として、その決意を、新たにする。
「明日から、俺は、夫となる。そして、いずれは、この国の王となる。その時、俺の隣には、常に、彼女がいるだろう」
その光景を思い浮かべるだけで、胸が熱くなる。
「俺は、彼女と共に、この国を、そして、この国の民を、守っていく。その覚悟は、もう、とうの昔に、できている」
俺の、その力強い言葉を聞いて、ギルバートは、その場に片膝をつくと、深く、深く、頭を垂れた。
「このギルバート、我が生涯のすべてをかけて、殿下と、そして、未来の王妃陛下に、お仕えいたします」
その、変わらぬ忠誠の誓いに、俺は「頼りにしているぞ」と、短く答えた。
俺は、グラスに残っていたワインを、一気に飲み干すと、空になったグラスを、テーブルに置いた。
「さて、と」
俺は、夜空に向かって、大きく伸びをする。
「そろそろ、休むとしようか。明日は、世界で一番美しい、俺だけの花嫁を、万全の体調で、迎えに行かねば、ならんからな」
そう言って、俺は、ギルバートの方を振り返り、子供のように、にっと、笑って見せた。
俺の、独身最後の夜は、愛する人への、深く、静かな想いと、未来への、揺るぎない決意と共に、穏やかに、更けていった。
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