私が嫌いなら婚約破棄したらどうなんですか?

きららののん

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私の、好奇心と、少しばかりの困惑が入り混じった視線を受けながら。

レピオド殿下は、まるで、世紀の大発見でも披露するかのように、もったいぶった仕草で、銀色のワゴンの上に置かれた、ドーム型の蓋(クロッシュ)に、そっと、手をかけた。

「アイ。驚く準備は、いいかな?」

「は、はあ……」

私が、曖昧に頷くと、殿下は、にやり、と、それはもう、満足げな笑みを浮かべた。

そして。

「じゃーん!」

という、およそ、王太子殿下とは思えないような、気の抜けた効果音を、ご自身の口で言いながら、その蓋を、ぱかり、と開けて見せた。

私の目に、飛び込んできたもの。

それは。

「…………」

豪華絢爛な、宝石を散りばめたようなデザートでもなければ、見たこともないような、異国の珍しい果物でも、なかった。

そこに、ただ、ぽつんと置かれていたのは。

ごく、ごく、普通のお店の、ごく、ごく、普通のカップに入った、少しだけ、溶けかかっている、バニラのアイスクリーム、だった。

私は、あまりのことに、一瞬、言葉を失う。

そして、次の瞬間には、じわじわと、呆れたような気持ちが、胸の奥から、込み上げてきた。

「……殿下」

私は、思わず、じとーっとした目で、彼を見つめてしまう。

「これは、その……アイスクリーム、で、ございますか……?」

「ああ、そうだとも!」

殿下は、私の、そんな視線など、全く気にもしていない様子で、それはもう、誇らしげに、胸を張った。

そして、訳の分からない、彼だけの理屈を、得意げに、語り始める。

「よく、考えてもみろ、アイ。俺たちの、この、波乱万丈で、甘い恋物語は、どこから始まった?」

「え……?」

「そう、あの日、俺が、うっかり溶かしてしまった、あのアイスクリームからだ! だから、俺たちの物語の、輝かしい締めくくりも! そして、これから始まる、永遠の愛の物語の、その幕開けも! やはり、これでないと、筋が通らないだろう!」

その、あまりにも、訳の分からない、しかし、自信に満ち溢れた理論に、私は、もう、返す言葉もなかった。

この、ロマンチックで、神聖な、初めての夜の、甘い雰囲気を!

この人は、この、たった一杯の、溶けかけたアイスクリームで、台無しにするおつもりなのだろうか。

「殿下……」

「さあ、遠慮するな、アイ! 俺が、食べさせてやろう!」

殿下は、スプーンで、その、だらしなく溶けかけたアイスを、たっぷりと掬うと、私の口元へと、差し出してきた。

「さあ、あーん、だ」

その、無邪気な笑顔。

けれど、私は、もう、彼の、その手に乗るものか。

私は、ぷいっ、と、そっぽを向いて、きっぱりと言い放った。

「……もう、結構ですわ。そのようなもの、わたくし、いただきません」

今の私は、甘い、甘い、口づけの余韻に、浸っていたいのだ。

アイスクリームの気分では、断じて、ない。

私の、その、つれない態度を見て、殿下は、一瞬だけ、きょとんとした顔をした。

けれど、次の瞬間。

彼の、その赤い瞳が、きらり、と、悪戯っぽく、妖しく、輝いたのを、私は、見逃さなかった。

「……そうか。君が、どうしても、そう言うのなら」

彼は、残念そうに、そう呟くと、アイスクリームのカップを、テーブルに、置く、ふりをした。

「ならば、仕方がないな」

そして。

彼が、アイスクリームを持ったまま、音もなく、私の背後に、すっと、回り込んだことに、私が気づいたのは、一瞬、遅かった。

「え……? 殿下……?」

私が、警戒して、振り返ろうとした、まさに、その瞬間だった。

「えい」

という、世にも可愛らしい、しかし、悪魔のような、掛け声と共に。

ひたっ。

私の、ウェディングドレスの、編み上げが少しだけ解かれた、無防備な、背中の、その素肌に。

信じられないくらい、ひんやりとした、あの、溶けかけたアイスクリームが、ちょん、と、つけられたのだ。

そして、次の瞬間。

王宮の、静まり返った夜の寝室に、私の、人生最大級の、悲鳴が、響き渡った。

「ひゃあああああああああああああっっ!!!」

つ、冷たいっ!

冷たい! 冷たい! 冷たい!

突然、背中を襲った、衝撃的な冷たさと、驚きとで、私は、文字通り、その場で、ぴょん、と、盛大に、飛び上がった。

そして、涙目で、鬼のような形相で、振り返る。

「な、な、な、な……ッ!」

「なーーーーーんてことを、なさるんですか、この、ど◯◯殿下ーーーーーっ!!!」

私の、その、淑女にあるまじき、怒りの絶叫を聞いて。

私の夫となった、この国の王太子殿下は。

腹を、抱えて、床を転げ回りそうなくらい、大爆笑していた。

「はははははっ! あははははっ! す、すまん、すまん、アイ! いや、しかし、今の悲鳴は、実に、傑作だったぞ!」

「傑作、ではございませんっ! 最低です! 最悪です! もう、知りませんわ、殿下のことなど!」

私は、ぷんすかと、頬を膨らませて、仁王立ちになる。

彼は、まだ、笑いの発作が収まらない様子で、ひーひー言いながらも、なんとか立ち上がると、そんな私を、優しく、抱きしめた。

「ああ、怒らないでくれ、俺の、世界で一番、愛しい妃。ほら、背中が、冷たいだろう? 俺が、この、熱い体で、君が、溶けてしまうくらい、温め直してやろう」

その、甘い、甘い、囁き。

まだ、怒っているふりを、続けていたかったのに。

彼の、その、幸せそうな笑顔を見ていたら、私の怒りも、いつの間にか、どこかへ消えてしまって。

結局、私も、つられて、笑ってしまっていた。

二人の、楽しげな笑い声が、幸せな、初めての夜の部屋に、いつまでも、いつまでも、響き渡る。

甘えん坊の、私と。

器の広い(そして、とんでもなく、お茶目な)、レピオド殿下。

私たちの、甘くて、少しだけ、騒がしくて、そして、最高に幸せな日々は、こうして、今、始まったばかり。

きっと、彼は、これからも。

アイスクリームのように甘く、そして、太陽のように、灼熱の愛で。

私を、何度も、何度も、その身も、心も、蕩かされるのだろう。

永遠に、ずっと、いつまでも。

☆*:.。.おしまい.。.:*☆
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みんなの感想(2件)

やむやむ
2025.07.04 やむやむ

自信を ですよね。

解除
チーたぬき
2025.07.01 チーたぬき
ネタバレ含む
解除

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