1 / 103
第-1章 迷星の時量剣師(めいせいのときはかし)
第1話 天使の誘い
しおりを挟む見下ろすと、端正だが白すぎる顔の青年が見える。
白いシーツが敷かれたベッドの上で横になっている彼は天使の様に真っ白だ。
真っ白で清潔な、それでいて硬い部屋。
そこは病院の一室だった。
静かに目を閉じている男の顔を覗き込んでいるのは俺だけでは無い。
「颯竢…私達より先に逝ってしまうなんて…」
化粧っ気の無い女がポツリと呟いた。
女の顔は、その視線の先で横になっている青年に似ていた。
年齢は42だが、見た目は20代後半くらいに見える。
若作りなのは恐らく長年続けてきた剣術の訓練の賜物だろう。
彼女は「真田流抜刀術」八代目宗主であり、彼女に斬れない物はないと言われる程の腕の持ち主だった。
「如何に腕を磨こうとも病には抗えないものか…」
上半身の筋肉が異常に盛り上がった壮年の男は心苦しそうにそう言うと首を横に振った。
雄々しくつり上がった白い眉と、オールバックに撫で付けられた豊かな白髪を持つ強面の男もまた若作りではあるが、年齢は48で「犬上破刀流」27代目宗主だ。
戦国時代から続く武士の家系で、特に24代目は大戦中、職業軍人として最前線まで攻め込んで戦っていた。
時代ごとにアップグレードしていった「犬上破刀流」という戦闘術は剣術、槍術、体術、弓術の様な歴史のある技術の他にも、銃の様な近代的な武器の扱いにも貪欲に取り組んで来たのが特徴だった。
この物騒な男女は二人とも俺の師匠であり、両親でもあった。
「颯竢を失った今、犬上破刀流の失伝は確定した…息子よ…」
男は力なくうなだれてそれだけ言うと足元に目をやった。
男の哀しみは息子との別れが原因なのか、永年続いた流派の失伝が理由なのか、俺には推測する事が出来なかった。
犬上破刀流は一子相伝であり、一人息子を失った今、次の伝承者を育てる事は不可能だろう。
「私は真田流抜刀術の看板を今日を限りに下ろす事にするわ…」
女は青年の顔を見つめて力無く呟いた。
人数は多くは無いが、門下生を擁する「真田流抜刀術」は「俺」がいなくても存続は可能だろう。
男と女は青年が横になっているベッドを挾むように向かい合っている。
「お前にはまだ希望が残っているだろう」
男は無骨な拳を白くなるほど握る締めて女の顔を見た。
「私にとって颯竢だけが希望だったわ」
女の目から涙が溢れた。
俺はふたりのやりとりを黙って見ていた。
黙っている事しかできなかったのだ。
俺は流行り病で倒れた。
何の前触れも無く突然呼吸困難となり倒れた所までは覚えている。
恐らくそれは昨晩の事で、気付けばこの状況だった。
最初はいわゆる「幽体離脱」かと思っていたが、状況は思ったより深刻なようだ。
「やっぱり俺は死んだのだろうか」
ぼんやりとした意識の中、そんな事を考えていた。
突然視界が揺らめいた。
意識も記憶も徐々に薄れていく。
自分と世界の境界線が急速に曖昧になり、人の形を維持する事も出来なくなってきた。
気が付けば手も足もない球形になっていた。
これが人魂という状態なのか…
目がなくなったのか周囲に何も見えない。
薄暗い闇が広がっていた。
いや、遥か遠くに光の筋が見える。
一つ一つはとても細い光の筋だが無数に集まった光の奔流はとても雄々しく見えた。
目の前をフワフワとした何かが横切った。
白く輝くソレは俺の周りを何度か回るとフワリと舞い上がった。
世界に地面は無く、俺には体も無い。
それでも、その白い何かが上昇した事が分かった。
「付いて来いって言っているのか?」
誘われている様な気がして白い何かに近付こうとした。
身体がフワリと浮かぶ感覚を覚えた。
それは今までに経験のない感覚だった。
「このまま付いて行けば天国に行けるのだろうか?」
吸い寄せられる様に白い何かに付いて行く。
もしかしてコレは天使なのだろうか?
ふと気が付けば俺以外にも数十個の魂がその天使に従い空を目指していた。
徐々にスピードが上がって行く。
付いて行くのがやっとだった。
やがて俺達以外の物は何も見えなくなっていた。
光の奔流も、もう見えない。
アレは星の生命エネルギーだったのではないだろうか?
もしかすると取り返しの付かない事をしてしまったのでは無いか?
今この天使を見失ったら本当に迷子になってしまう。
必死になって天使の後を追った。
まるで暗幕を突き抜けたように、突然猛烈な光に包まれた。
そして意識はそこで途切れた。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
是非↓の♥を押して応援して下さい
15
あなたにおすすめの小説
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
湖畔の賢者
そらまめ
ファンタジー
秋山透はソロキャンプに向かう途中で突然目の前に現れた次元の裂け目に呑まれ、歪んでゆく視界、そして自分の体までもが波打つように歪み、彼は自然と目を閉じた。目蓋に明るさを感じ、ゆっくりと目を開けると大樹の横で車はエンジンを止めて停まっていた。
ゆっくりと彼は車から降りて側にある大樹に触れた。そのまま上着のポケット中からスマホ取り出し確認すると圏外表示。縋るようにマップアプリで場所を確認するも……位置情報取得出来ずに不明と。
彼は大きく落胆し、大樹にもたれ掛かるように背を預け、そのまま力なく崩れ落ちた。
「あははは、まいったな。どこなんだ、ここは」
そう力なく呟き苦笑いしながら、不安から両手で顔を覆った。
楽しみにしていたキャンプから一転し、ほぼ絶望に近い状況に見舞われた。
目にしたことも聞いたこともない。空間の裂け目に呑まれ、知らない場所へ。
そんな突然の不幸に見舞われた秋山透の物語。
1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!
マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。
今後ともよろしくお願いいたします!
トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕!
タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。
男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】
そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】
アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です!
コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】
マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。
見てください。
ハズレスキル【地図化(マッピング)】で追放された俺、実は未踏破ダンジョンの隠し通路やギミックを全て見通せる世界で唯一の『攻略神』でした
夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ちだったユキナガは、戦闘に役立たない【地図化】スキルを理由に「無能」と罵られ、追放された。
しかし、孤独の中で己のスキルと向き合った彼は、その真価に覚醒する。彼の脳内に広がるのは、モンスター、トラップ、隠し通路に至るまで、ダンジョンの全てを完璧に映し出す三次元マップだった。これは最強の『攻略神』の眼だ――。
彼はその圧倒的な情報力を武器に、同じく不遇なスキルを持つ仲間たちの才能を見出し、不可能と言われたダンジョンを次々と制覇していく。知略と分析で全てを先読みし、完璧な指示で仲間を導く『指揮官』の成り上がり譚。
一方、彼を失った勇者パーティは迷走を始める……。爽快なダンジョン攻略とカタルシス溢れる英雄譚が、今、始まる!
前世は最強の宝の持ち腐れ!?二度目の人生は創造神が書き換えた神級スキルで気ままに冒険者します!!
yoshikazu
ファンタジー
主人公クレイは幼い頃に両親を盗賊に殺され物心付いた時には孤児院にいた。このライリー孤児院は子供達に客の依頼仕事をさせ手間賃を稼ぐ商売を生業にしていた。しかしクレイは仕事も遅く何をやっても上手く出来なかった。そしてある日の夜、無実の罪で雪が積もる極寒の夜へと放り出されてしまう。そしてクレイは極寒の中一人寂しく路地裏で生涯を閉じた。
だがクレイの中には創造神アルフェリアが創造した神の称号とスキルが眠っていた。しかし創造神アルフェリアの手違いで神のスキルが使いたくても使えなかったのだ。
創造神アルフェリアはクレイの魂を呼び寄せお詫びに神の称号とスキルを書き換える。それは経験したスキルを自分のものに出来るものであった。
そしてクレイは元居た世界に転生しゼノアとして二度目の人生を始める。ここから前世での惨めな人生を振り払うように神級スキルを引っ提げて冒険者として突き進む少年ゼノアの物語が始まる。
最弱無双は【スキルを創るスキル】だった⁈~レベルを犠牲に【スキルクリエイター】起動!!レベルが低くて使えないってどういうこと⁈~
華音 楓
ファンタジー
『ハロ~~~~~~~~!!地球の諸君!!僕は~~~~~~~~~~!!神…………デス!!』
たったこの一言から、すべてが始まった。
ある日突然、自称神の手によって世界に配られたスキルという名の才能。
そして自称神は、さらにダンジョンという名の迷宮を世界各地に出現させた。
それを期に、世界各国で作物は不作が発生し、地下資源などが枯渇。
ついにはダンジョンから齎される資源に依存せざるを得ない状況となってしまったのだった。
スキルとは祝福か、呪いか……
ダンジョン探索に命を懸ける人々の物語が今始まる!!
主人公【中村 剣斗】はそんな大災害に巻き込まれた一人であった。
ダンジョンはケントが勤めていた会社を飲み込み、その日のうちに無職となってしまう。
ケントは就職を諦め、【探索者】と呼ばれるダンジョンの資源回収を生業とする職業に就くことを決心する。
しかしケントに授けられたスキルは、【スキルクリエイター】という謎のスキル。
一応戦えはするものの、戦闘では役に立たづ、ついには訓練の際に組んだパーティーからも追い出されてしまう。
途方に暮れるケントは一人でも【探索者】としてやっていくことにした。
その後明かされる【スキルクリエイター】の秘密。
そして、世界存亡の危機。
全てがケントへと帰結するとき、物語が動き出した……
※登場する人物・団体・名称はすべて現実世界とは全く関係がありません。この物語はフィクションでありファンタジーです。
現実世界にダンジョンが出現したのでフライングして最強に!
おとうふ
ファンタジー
2026年、突如として世界中にダンジョンが出現した。
ダンジョン内は無尽蔵にモンスターが湧き出し、それを倒すことでレベルが上がり、ステータスが上昇するという不思議空間だった。
過去の些細な事件のトラウマを克服できないまま、不登校の引きこもりになっていた中学2年生の橘冬夜は、好奇心から自宅近くに出現したダンジョンに真っ先に足を踏み入れた。
ダンジョンとは何なのか。なぜ出現したのか。その先に何があるのか。
世界が大混乱に陥る中、何もわからないままに、冬夜はこっそりとダンジョン探索にのめり込んでいく。
やがて来る厄災の日、そんな冬夜の好奇心が多くの人の命を救うことになるのだが、それはまだ誰も知らぬことだった。
至らぬところも多いと思いますが、よろしくお願いします!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
