『冒険者ギルドへようこそ(最強剣士と娘巫女) ~全ての謎を解き明かし、全てを救う物語~』

此木、大(しばいぬ)

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第-1章 迷星の時量剣師(めいせいのときはかし)

第17話 紅の頬

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「アイリス?」
いつもならすぐに返事を返してくる娘は、虚ろな表情のまま、俺の呼びかけには全く反応しなかった。
「一体何が?」
「待て…」
ライルが油断無く構えた。
「まさか… 本当にオーガなのか?」
リーゼルの視線の先には、頭に角を生やした巨人の姿があった。
そいつは身長6メートルほどあり、筋骨隆々とした体型をしている。
見た目で判断すれば人間が勝てる相手には見えないが、タイマンで互角、と言っていたのを思い出す。
現れたオーガの数は2体で、計算上は勝てる戦いだ。
ライルはうずくまっているグラードを庇うように移動した。
俺はアイリスを守る様に移動し、剣を構えた。
一人一体ずつ相手にするなら何とかなる。

「グラード?」
リディアの声と共に、背後から矢で撃たれるイメージが視えた。
身体をひねってギリギリで回避すると、ライルの背中に矢が突き刺さっているのが見えた。
「グラード、許せ! 炎よ!」
リーゼルがグラードに炎の魔法を使ったようだ。
パチパチと軽い燃焼音が聞こえて来る。
「精霊よ、この者を癒せ! ヒール!」
リディアが回復魔法を唱える。
「一体、何が起こっているんだ…」
背後でグラードが何をしているのか気になるが、俺がオーガから目を離す訳にはいかない。

オーガは地響きをたてて、ゆっくりと迫ってくる。
あまり引き寄せ過ぎると後衛を守りにくくなる。
恐怖より、仲間を護りたいという欲求に突き動かされていた。

疾風!
向かって左側のオーガの懐に飛び込み、バスタードソードを全力で横に振った。
最も力を入れやすい腰の高さで振ると、オーガのスネにヒットした。
スネの肉は斬れるが、骨に当たって鈍い音と共に弾き返される。
それでも無理矢理剣を振り抜き刃を切り返す。
虎切!
返す刀でさっき斬ったのと同じ所に斬撃を叩き込む!
虎切! 虎切! 虎切! 虎切!

自分でも信じられない程のスピードで5連撃を叩き込んだ所で、オーガの鉄拳が俺の脳天を叩き割るイメージが視えた。
躊躇無く後方に跳び退くと、オーガの鉄拳が俺の立っていた地面を打ち砕いた。
何という破壊力なんだ…
しかし、避けてしまえばどうという事は無い。
そしてオーガの動きはそれほど速くない。
「これなら何とかなる」
スネの痛みで立ち上がれないオーガを見て、つい独り言が口を衝いて出た。

もう一体のオーガが、俺を無視してライル達の方へ向かっている。
ライルの背中にはまだ矢が刺さっていて、リディアが必死に回復を試みるが、金属鎧を貫通して刺さった矢を抜くのに苦戦しているようだ。
リーゼルはグラードの弓矢を魔法で燃やし、なんとか拘束したようだ。

目の焦点が定まらないままのアイリスが、右手に持ったワンドをスっと上げ何かを呟く。
「リディア、リーゼル! 避けろ!」
嫌な予感がして叫ぶが、アイリスの使った魔法が仲間たちを切り刻む。
血飛沫が舞い散り、リディアたちが悲鳴をあげる。

まずはアイツを何とかしないと!
疾風!
ライル達の方へ突き進むオーガの背後に飛び込み、右脚の膝裏を狙ってバスタードソードを叩き込んだ。
虎切!
切り返し、再び膝裏にバスタードソードを叩き込むが、しなやかな腱に刃が跳ね返される。

バックブロー!
オーガの右の裏拳が俺の頭を吹き飛ばすイメージが視える。
バックステップでオーガの裏拳を紙一重で回避する。
今や、敵の攻撃がハッキリと視える様になり、こんな真似も出来るようになっていた。
疾風!
からの旋風!
裏拳を放つことで俺の方へ振り返ったオーガの背後に踏み込み、再び右脚の膝裏にバスタードソードを叩き込んだ。
『バチン!』と大きな音を立ててオーガの膝裏の腱を切断した。
オーガがたまらず転倒する。
その巨体を片足で支える事は出来ないようで、オーガ2体はうずくまって動かない。

アイリスの方に目を向けると、俺にワンドを向けていた。
アイリスの背後でメルトワルドがニヤニヤ笑っているのが見えた。
アイリスの魔法が俺を中心に直径3メートル程度の範囲で発動するイメージが視えた。
2歩アイリスの方へ踏み込むことで、魔法の効果範囲から抜け出すが、発動した魔法は俺を中心に捉えていた。
足元から風が巻きあがり、硬化した草が鋭い刃となり、俺に襲い掛かって来た。
「くっ!」
草に斬られた頬から血が噴き出すが、殆どの攻撃はコートが弾き返してくれた。
リングの効果か!
魔法の効果時間が終わり、風が収まったタイミングでアイリスの懐に飛び込んだ。

───斬る訳には行かないが、殴って気絶させるか?

わずか一瞬の事だが、悩みに悩んだ結果、アイリスの脇をすり抜けて馬車に飛び乗った。
元凶を叩く!
剣の柄でメルトワルドのこめかみを殴りつけ、馬車の上から蹴り落とした。
白目をむいたメルトワルドは頭から地面に落下し、その手から笛が転がり落ちる。
それと同時にアイリスとグラードは意識を失い、オーガも気絶した。

その後、意識を取り戻したリーゼルの手によって魔物たちの死体は焼却処分された。
脚を負傷したオーガの処遇は冒険者ギルドに一任する事にした。
本来高度な文明を持つオーガが人里に現れて人を襲う事は無いらしい。
無抵抗のオーガをこの場で殺す事にライル達、熟練冒険者達は反対だった。
リディアの回復魔法で傷を癒した俺達は冒険者ギルドに引き返し、事の顛末を報告した。
メルトワルドの馬車は冒険者ギルドにより回収され、笛は危険物として没収された。
メルトワルド本人も、グラードとアイリスを魔法のアイテムで傷つけた容疑で冒険者ギルドに拘束されている。

アイリスとグラードはその後も意識が戻らず、冒険者用の病院に担ぎ込まれた。
医師によると、原因が分からないため、意識が戻るまで預かるという対応になる様だ。
しばらくは面会謝絶になると聞き、かなり長い間、アイリスの寝顔から目を離す事が出来ないでいた。
病室の窓から射し込む夕日がアイリスの頬を紅く染めていった。


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