『冒険者ギルドへようこそ(最強剣士と娘巫女) ~全ての謎を解き明かし、全てを救う物語~』

此木、大(しばいぬ)

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第-1章 迷星の時量剣師(めいせいのときはかし)

第19話 馬車に揺られて

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「はじめまして、兄ちゃん、これから暫く宜しくな」
2頭立ての馬車の御者台でうっつらうっつらとしていた中年のオヤジは、俺に気が付くと馬車から降りて明るく声を掛けて来た。

「俺の名はエッジ、お前さんは?」
「あ、颯竢です、宜しくお願いします」
「あそうし、か良い名だ」
「いや、颯竢です…」
「いやそうし、か? 悪くないぞ?」
「えっと… わざとですよね?」
「何がだ?」
名前とは裏腹に、鋭さの欠片も感じないこのオヤジと4日も一緒に過ごす事に一抹の不安を感じていた。

「荷物が少ないからキャビンに乗って良いぞ」
エッジは馬車の幌を開けると、中に案内してくれた。
確かに荷物はそんなに多くないが、貨物スペースの奥にはストーブや椅子、布団等が所狭しと押し込められ、生活感にあふれていた。
どこと無く、キャンピングカーの様な雰囲気だ。
少し迷ったが、一応護衛任務も頼まれている。
周りの状況が分かる様に、御者台のエッジの横に座る事にした。

馬車は時速10キロ程の速度で南へと進んだ。
街道は石畳で整備され平坦だった。
エッジは元々冒険者だったらしいが、引退してセカンドライフを楽しんでいるらしい。
「ふむ、するってーと、彼女が原因不明の病気で倒れちまったって訳だ」
彼女でも無ければ病気でもないが、面倒だから訂正する気にもなれなかった。
口から産まれて来た様なオヤジのペースに巻き込まれ、普段なら言わない様な事も喋らされていた。
「まぁ、大丈夫だ、ことわざにも言うだろ『病も気から落ちる』ってな」
「いや、言わねーよ、何からどう落ちるって言うんだよ…」
時々訳の分からない事を言うのは俺を気遣っての事だろうか?
ただの天然かもしれないが、そこを見極めるにはもう少し時間が掛かりそうだった。

『アシハラ』を朝7時頃に出発して、昼前には『フナツ』という街に到着していた。
防壁の正門を通り抜けると、アシワラと同じ様な街並みだった。
「なんだか似たような街並みなんだな…」
「まぁ、同じエチゼン国だからな、馬を替えて飯を食ったら出発するぞ」
「こっちでも越前って言うんだ?」
「地形は日本と似てる所もあるからな。 転生者が2000年前から来てるって話だし、誰がそう呼び始めたのかは分からんが、ことわざにも言うだろ? 『目糞、尻糞を笑う』ってな」
「いや、言わねーし、使いどころも合ってないし、ってか尻糞っていくら何でも臭すぎる…」
エッジは俺の抗議を軽く受け流して馬に鞭を打った。

エッジは厩舎まで馬車を移動させると、ブリーダーに何やら話し掛けた。
ブリーダーは何度か頷き、隣の宿を指差した。
「よし、飯にしよう。 そこの旅籠にいくぞ」
エッジはそう言うと馬車から降り、ブリーダーが指差した旅籠に入って行った。
ウェイターを捕まえて何かを注文し、奥まった所のテーブルに陣取る。
どうやら俺の分も注文した様子だ。
結構ワンマンな男だな。
「エッジさんは転生して何年目?」
エッジの正面の椅子に腰掛けながら尋ねる。
「うーん、俺はこっち産まれの転生者だからな、いつこっちに来たのかは正直わからん」
「どういう事?」
「転生して来て、こっちで死んで、赤ん坊として生まれ変わる。 それを何回繰り返したのか、死んでから生まれ変わるまでどれだけ経っているのかよく分からないんだ」
「え? この世界で輪廻転生? というか前世の記憶が残ってるの?」
「赤ん坊の時はかなり覚えているが、3歳になる頃には一度全部忘れちまうんだ。 その後は、ふと思い出す、って感じだな」
シドからはそんな話、一切聞いてないぞ…

「はい、お待たせー」
ウェイターがとんかつのような物がどーんと乗ったオムライスを運んできた。
「うわ、何だこれ?」
「まぁ、食ってみろ、美味いぞ」
それは見た目通り、普通に美味いとんかつと、普通に美味いオムライスだった。
「うん、美味い…」
「何か不満でもあるのか?」
エッジがガツガツと食いながら尋ねてくる。
「いや、良いんだけど… スプーンだととんかつが食いにくいし、箸だとオムライスが食いにくいな~って」
「………」
「…………」
「ことわざで言うところの『2階から痔薬』ってやつか…」
「それ一生入らない奴だから、ってか飯食ってる時に痔とか言うなよ…」
エッジと組んで新たな自分を発見し始めている、そんな気がしてきた。

「この先の山を超えたら今日の旅は終わりだ」
エッジは馬に鞭を打ちながら言った。
どうやら山越えをする為に、馬を交代したようで、ずんぐりとした体型の馬に変わっていた。
「結構登るんだな」
「このルート一番の難所だからな、 日が沈む前には目的地の『ケヒ』に到着するぞ」
エッジは自分に言い聞かせるように言った。
道は思ったより急な登り坂で、馬車は予想以上に揺れた。

それでも1時間ほど登ると、山の尾根に辿り着いた。
緩やかなカーブを抜けると、突然視界が開け、右手に海が見えてきた。
太陽が海面をキラキラと輝かせている。
海を挟んだ対岸に半島が見える。
半島は南側に行くと地続きになっていて、半島の付け根の湾に港町が見えていた。
「あれが『ケヒ』の街だ」
エッジは遥か遠くに見える港街を指差した。
「いや、日が沈む前に着く?」
「大丈夫だ、あとは下り坂ばかりだからな、思ったより早いぞ? いわゆる『鶴瓶の太陽おとし』って奴だな」
「何か雑な必殺技の名前かよ… 多分『秋の日のつるべ落とし』の事を言ってるんだろうけど、それだと早いのは日が落ちる方なんだよな…」
「心配するな、俺はこう見えてこの道のプロだからな」
どう見えてると思ってるのか全く分からないが、エッジは自信満々に胸を張って答えた。



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