『冒険者ギルドへようこそ(最強剣士と娘巫女) ~全ての謎を解き明かし、全てを救う物語~』

此木、大(しばいぬ)

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第0章 神在月の占い師(かみなきせかいのうらないし)

第41話 牛歩

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「船員達を連れ帰ったら直ぐに出航する、そのつもりで準備しておいてくれ」
ハーロックはテキパキと指示を出して出発の支度を整える。
強い風と雨はまだ続いており、船の外からは何かがバサバサと聞こえてくる。
「大変だ!」
外を確認していた船員が息を切らせて船内に飛び込んできた。
「どうした? 何があった?」
「帆が…」
ハーロックの問いに船員がマストの方を指差して応える。
「なっ!」
船員達もハーロックも言葉を失い唖然としている。
停泊中は風の影響を受けないように束ねていた帆が、完全に真っ二つに裂けて強風になびいていた。
「この風と雨では直ぐには治せないぞ…」
船員の一人が絶望的な表情を浮かべて泣き言を言う。
「取り敢えず安全第一で、最善を尽くしてくれ」
ハーロックはそう言いながら唇を噛んだ。

リックは、アルベルトとフォーゲル、リディアと共にハーロックを引き連れて北へと向かった。
ハーロック不在の船員達の士気は低い。
船員達は20~30歳に見えるが、特に30代の船員達はやる気のなさを隠す気も無い。
「おい、お前たち、帆を縫うから風が収まったら下ろしとけ」
20代の船員達にそう指示すると船室に戻って行ってしまった。
「おい、トチロー、下ろしとけ」
20代の船員達もそう言い残してそれぞれ船室に戻って行く。
トチローはどう見ても10代で、面倒な事は押し付けられるのだろう。
「はぁ、いつもこんな感じなんですけどね」
残された俺達にそう言いながら、トチローはため息まじりに苦笑いした。

風が多少弱くなり、トチローが一人で甲板に出て行くのが見えた。
「いや、一人でやるのかよ?」
流石に気の毒になり俺も一緒に甲板に出た。
雨も弱まり、風も殆どない。
「濡れたままだと接着剤が付かないんです、取り敢えず帆を下ろして乾かさないと…」
「縫うって言ってなかった?」
「これだけ破れてると、接着剤で付けた後で縫わないと駄目ですね」
「なるほど…」
下ろしてみると、分厚い帆が何メートルにも渡って破れている。
「こんなにバッサリ破れる物なのか?」
「そんな訳無いですよ… 風で破れるくらいなら先に船が倒れてる筈です」
「そう…だよな」

よく分からないが、帆布は触ってみるとかなり分厚い事が分かった。
この強度なら切れ味の悪い刃物くらいなら弾いてしまうだろう。
その帆布がバッサリと裂けている。
裂け目を見ると、ところどころ溶けていて、力づくで引き裂いたようにも見える。
「一体どうやったらこうなるんだ…?」
「刃物で切った、とかではなさそうですね」
「こんなの多分俺の力でも裂けないと思うぞ」
俺とトチローが下ろした帆布を前に悩んでいると、背後で扉が開く音がした。

「お、ちゃんと下ろしてるな」
「あ、セドリックさん、ちょっと見てください」
30代位の船員はセドリックと言うらしい。
トチローが帆布を見せると、「どれどれ」と言いながら裂け目に指をなぞらせる。
「溶けたところは酸だな、これは自然になったって訳じゃなさそうだぞ」
「おぉ、どうだ?」
後ろから船員達が数人顔を出して声を掛けて来た。
「ラシード、これを見てくれ」
ラシードと呼ばれた30代くらいの船員も興味深そうな顔で帆布を確認する。
「劣化じゃないな、何者かが故意に破っている」
「そうなると、誰が? いつ? 何故? どうやって? って謎が出て来るな」
一番老け顔の船員がそう尋ねて来た。
「トーレスさん、そうなんだ、帰りたくない奴なんていないと思うんだよな…」
結局謎は深まるばかりだったが、破れた帆布を両面テープのような物で修復を始めたのを確認して、俺は船から降りた。

ティファとアイリスが磯で貝を獲っているのを見て、何となくそちらに足を向けた。
「あ、颯竢さん」
俺の姿を見てティファが声を掛けて来た。
「ラナちゃんが寝込んでしまって、後でお見舞いに行ってあげて、もちろん、私も付き合うけどね」
「流石に女の子が寝てる部屋に一人で行かせられないですもんね、私も付き合います」
アイリスもそう言って微笑んだ。
「あの子、時々自分に回復魔法を使っているみたいなの。 生命の精霊が付いていると、普通の人より抵抗力が強くなって病気になりにくい筈なんだけど、どうかしたのかしら?」
ティファの言葉にアイリスも頷いた。
「ここだけの話し、夜に船の甲板から海に吐いてたんです。 かなり苦しそうにしてたけど何も言わないんですよね…」
肉体的にも精神的にも疲弊しているのだろうか。
「確かに心配だね、良ければ今からでも行かないか?」
俺の言葉に二人とも頷いて応えた。

コンコン
ティファがドアをノックして数秒待つが返事が無い。
申し訳無さそうな顔で俺の顔を見て来るのに戸惑っていると
「少しだけあっち見てて頂けるかしら?」
言われるままに後ろに顔を向けると扉を少し開ける気配がした。
なるほど、そんな事に気が付かないとは確かに俺の配慮が足りなかったな…
「颯竢さん、もう大丈夫ですよ」
アイリスに言われて部屋の方に顔を向けると、ラナがベッドの上でぐっすりと寝ていた。
確かに目に見えて顔色が悪い。
桜色だった唇も血色が悪くて紫色に見える。
「風邪なのかな? 寒い中、磯で貝とか獲ってたから…」
「ちょっと分からないわ、医者が居れば良いんだけど…」
俺の疑問に答えたのはティファだったが…
「いや、多分だけど、船にも医者はいるんじゃないのかな?」
そう言うとアイリスとティファが驚いたように顔を見合わせた。
「私、ちょっとトチローさんに言って来る!」
アイリスがバタバタと部屋を飛び出していった。

アイリスがトチローと船医を連れて戻って来るまでに掛かった時間は僅か5分程度だった。
船医は「失礼」と言うと、ラナの手首で脈を測り、額に触れて熱を測った。
「うぅん」
ラナが目を覚ますと、驚いたようにこちらに目を向けた。
「おはようございます、ラナさん、船医のオリオンです、体調はいかがですか?」
「ちょっと疲れちゃったみたいで…、大丈夫です」
オリオンはラナの目を見て、
「血圧が下がっているみたいですね、他に具合の悪い所はありませんか?」
「ちょっと気持ち悪くて、吐き気がします」
「そうですか、念のためにお薬出しておきます。後で持ってきますね」
そう言うとオリオンは部屋から出て行った。
「それじゃ、お大事にして下さい」
オリオンに続いてトチローも部屋を去る。
「私、温かいココアでも淹れて来るね」
アイリスはそう言うと部屋を出て行った。

「本当に大丈夫? 無理しちゃ駄目よ?」
ティファの言葉に微笑みを浮かべながらラナは再び眠りについた。



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