145 / 1,955
夜中に見る夢
しおりを挟むヘルサルで数日、色々やっていたらもう明後日には王都に出発する日だ。
この国の王様……女王様に会う事になるんだけど、失礼な事をしてしまわないよう気を付けないと……と段々緊張して来ている。
そんな頃、時間が空いたのかハーロルトさんに俺達が王都に行く日程を聞いたクラウスさんが、獅子亭を訪ねて来た。
街の代官が、頻繁に訪ねて来て良いのだろうかと思うけど、いつものようについて来ているトニさんがいるから大丈夫なんだと思う。
トニさんがいれば、クラウスさんが仕事をサボる事は出来なさそうだしね。
「私もリク様と一緒に王都へ行きたかったのですが……」
クラウスさんは終始、そんな感じで王都に行けない事を悔やんでいたけど、仕方ないよね。
代官としての仕事があるから、トニさんが許してくれるわけが無いから。
そんな事もありつつ、夜。
いつものように皆で夕食を取った後、エルサのモフモフを丹念に手入れするために風呂に入り、その後はモニカさんやソフィーさん、ユノも混じって皆にドライヤーもどきの魔法を使う。
皆気持ち良さそうにしてるけど、モニカさんだけは王都に行くギリギリまで続けるマリーさんの特訓での疲れで、エルサと一緒に寝てしまった。
「さすがにここでこのまま寝かせているわけにもいかないな。私が連れて行こう」
「お願いします」
エルサとモニカさんは、ドライヤー中並んで横にコテンと倒れてそのまま寝てしまった。
ソフィーさんはモニカさんを肩に担いで部屋を出て行く。
……その持ち方で良いんだろうか?
「さて、俺達も寝ようか」
「……リク」
「ん、どうしたユノ?」
ドライヤーも終わって、エルサをベッドに転がして自分も寝ようとしたところで、ユノが何かに悩むように俺を呼んだ。
「……リク……本当に王都に行くの?」
「ああ、勲章とやらを受け取らないといけないみたいだからな。それに、一度王都を見てみたいし」
「そう……」
ユノはどうかしたんだろうか?
思いつめたような、何かに耐えるような表情をしている。
「俺が王都に行く事で、何かあるのかユノ?」
「……ううん。何でもないの」
「……そうか」
ユノが何でもないと言うのなら、それで良いんだろう。
気にはなるが、今日は教えてくれなさそうだ。
「じゃあ、もう寝るか」
「うん。わかったの!」
俺の言葉で、気を取り直して笑顔になったユノは、エルサを挟んで一緒のベッドに入る。
……寝入る寸前……ユノの声が聞こえた気がした……。
「……リク……頑張ってなの……」
――――――――――――――――――――
その日俺は夢を見た。
夢自体は何度も見ているが、その夢は特別な夢だった。
何の夢だったか……そう、これはいつもの夢だ。
以前に見たのはいつだったか……忘れてしまったな……ユノと出会う前だったような気はするけど……。
――――――――――――――――――――
ごめんなさい。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
……そこは暗い場所……。
……後悔と謝罪だけが繰り返される空間だ…。
……体は動かせない……。
……白い影が這い出て来て、体に纏わり着いて来る……。
……次第に体は影に埋もれ、腕も足も黒く塗りつぶされてしまった……。
……やがて首にまで影は来て埋もれてしまう……。
助けを求めるように周りを見るが、そこには何も無い。
薄っすらと白い光が射しているが、そこにあるのは暗い影だけであり、それが唯一見えるものだった。
「……あぁ……」
何とか呻き声のようなものを発する事は出来たが、ただそれだけ。
「……ク」
ふと、どこからか声が聞こえた。
しかしどこからかわからない。
首はもう影に埋っていて動かせない。
周りを見て、声の主を探るがそこには何もない空間が見えるだけ。
「……うぅぁぁ……」
また、聞こえた。
助けが期待できるような声ではない。
また、助けを呼ぶ誰かの声でもない。
ただただ苦しみだけを訴えるような声。
もう、影は顎まで上り口元まで来ている。
「……うあぁぁぁ」
先程より少しだけはっきりと声が聞こえる。
この声はどこからだろう、何を言おうとしているのだろう。
自分が影に飲み込まれようとしているのにも関わらず、声の主を探し、それが何なのかを確かめようとしていた。
ふと目を下にやると、自分の腰の高さくらいの所にある影が揺れていた。
揺れている影は、少しずつ形をはっきりとさせてくる。
最初は鼻。
次は口。
最後に目が現れ人の顔になる。
それを認識した瞬間、眩暈を覚えるほどの後悔と記憶が頭の中でぐるぐると渦巻いている。
顔が動く、いや、目はこちらを凝視したまま、口だけを動かしている。
「……うぅあぁぁぁぁぁ」
先程の苦しみの声だ。
「……お……え……せ……だ」
影が言葉を発する。
「……うぁぁ……い……い……く……し……リ……ク」
その言葉は途切れ途切れで、何を言っているかはわからない。
だが、分かってしまった。
何を言っているのか分かってしまった。
あれは恨みの声だ。
俺に対する恨みの声だ。
犯してしまった罪への贖罪を求める声だ。
……もう、影は目元まで来ている……
顔の半分以上を覆われてしまい、声を出すどころか呼吸も出来ない。
だが、不思議と苦しさは無かった。
しかし声に対して何も出来ない。
何も出来ない事に対する後悔。
どうすることもできない。
ただ、声にならない声で、心の中でずっと謝る事を繰り返すだけ。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
ついに影は全てを飲み込み、そこにあるのはほのかに白い光が射す空間だけだった…
「はっ! ……はぁ……はぁ……はぁ」
暗闇の中目を覚ます。
まだ夢の続きなのかと思ったけど、ここは現実だ。
いつも寝ている部屋、いつも寝ているベッド……違うのは、俺が汗だくで息を切らしているだけだ。
ベッドから半身を起こし、胸に手を当てる。
起き方に問題があったのか、心臓の鼓動がうるさい。
「……リク」
「……だわ」
ふと、横で声がしたので、そちらを見る。
明かりが無いから、はっきりとは見えなかったけど、そこには俺を見るエルサとユノがいた。
エルサ達と一緒に寝てるんだから、いてもおかしくないよな。
「ごめんな、起こしてしまったか?」
「……リクが苦しんでたから……」
「辛い時は無理しなくて良いのだわ」
うるさい心臓を落ち着かせるように息を吐きながら、起こしてしまったエルサ達に謝る。
だがエルサとユノは、俺の事を心配そうな目で見たままだ。
「……どうかしたのか?」
「リク、夢を見たの?」
「ああ、あんまり気持ちの良い夢じゃ無かったな……ユノが見せてくれたような夢なら良かったんだが」
19
あなたにおすすめの小説
【完結】竜騎士の私は竜の番になりました!
胡蝶花れん
ファンタジー
ここは、アルス・アーツ大陸。
主に5大国家から成り立つ大陸である。
この世界は、人間、亜人(獣に変身することができる。)、エルフ、ドワーフ、魔獣、魔女、魔人、竜などの、いろんな種族がおり、また魔法が当たり前のように使える世界でもあった。
この物語の舞台はその5大国家の内の一つ、竜騎士発祥の地となるフェリス王国から始まる、王国初の女竜騎士の物語となる。
かくして、竜に番(つがい)認定されてしまった『氷の人形』と呼ばれる初の女竜騎士と竜の恋模様はこれいかに?! 竜の番の意味とは?恋愛要素含むファンタジーモノです。
※毎日更新(平日)しています!(年末年始はお休みです!)
※1話当たり、1200~2000文字前後です。
科学×魔法で世界最強! 〜高校生科学者は異世界魔法を科学で進化させるようです〜
難波一
ファンタジー
「魔法ってのは……要はエネルギーの制御だろ?」
高校生にして超人的な科学知識を持つ天才・九条迅は、ある日、異世界アルセイア王国に「勇者」として召喚された。
だが、魔王軍との戦争に駆り出されると思いきや——
「お前、本当に勇者か? 剣も魔法も、まともに使えないのか……?」
「科学的に考えれば、魔法ってのはもっと進化できるはずだ!」
剣も魔法も素人の迅だったが、「魔法を科学的に解析し、進化させる」という異端の方法で異世界の常識を根底から覆し始める!
魔法の密度を最適化した「魔力収束砲」
魔法と人体の関係を解明し、魔力を増大させる「魔力循環トレーニング」
神経伝達を強化し、攻撃を見切る「神経加速《ニューロ・ブースト》」
次々と編み出される新技術に、世界は驚愕!
やがて、魔王軍の知将《黒の賢者》アーク・ゲオルグも迅の存在に興味を持ち始め——
「科学 vs 魔法」「知能 vs 知能」
最強の頭脳戦が今、幕を開ける——!
これは、「魔法を科学で進化させる勇者」が、異世界を変革していく物語!
※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。
真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます
難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』"
ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。
社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー……
……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!?
ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。
「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」
「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族!
「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」
かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、
竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。
「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」
人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、
やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。
——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、
「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。
世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、
最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕!
※小説家になろう様にも掲載しています。
ガチャと異世界転生 システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!
よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。
獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。
俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。
単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。
ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。
大抵ガチャがあるんだよな。
幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。
だが俺は運がなかった。
ゲームの話ではないぞ?
現実で、だ。
疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。
そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。
そのまま帰らぬ人となったようだ。
で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。
どうやら異世界だ。
魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。
しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。
10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。
そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。
5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。
残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。
そんなある日、変化がやってきた。
疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。
その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。
異世界帰りの勇者、今度は現代世界でスキル、魔法を使って、無双するスローライフを送ります!?〜ついでに世界も救います!?〜
沢田美
ファンタジー
かつて“異世界”で魔王を討伐し、八年にわたる冒険を終えた青年・ユキヒロ。
数々の死線を乗り越え、勇者として讃えられた彼が帰ってきたのは、元の日本――高校卒業すらしていない、現実世界だった。
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
勇者パーティーを追放されました。国から莫大な契約違反金を請求されると思いますが、払えますよね?
猿喰 森繁
ファンタジー
「パーティーを抜けてほしい」
「え?なんて?」
私がパーティーメンバーにいることが国の条件のはず。
彼らは、そんなことも忘れてしまったようだ。
私が聖女であることが、どれほど重要なことか。
聖女という存在が、どれほど多くの国にとって貴重なものか。
―まぁ、賠償金を支払う羽目になっても、私には関係ないんだけど…。
前の話はテンポが悪かったので、全文書き直しました。
湖畔の賢者
そらまめ
ファンタジー
秋山透はソロキャンプに向かう途中で突然目の前に現れた次元の裂け目に呑まれ、歪んでゆく視界、そして自分の体までもが波打つように歪み、彼は自然と目を閉じた。目蓋に明るさを感じ、ゆっくりと目を開けると大樹の横で車はエンジンを止めて停まっていた。
ゆっくりと彼は車から降りて側にある大樹に触れた。そのまま上着のポケット中からスマホ取り出し確認すると圏外表示。縋るようにマップアプリで場所を確認するも……位置情報取得出来ずに不明と。
彼は大きく落胆し、大樹にもたれ掛かるように背を預け、そのまま力なく崩れ落ちた。
「あははは、まいったな。どこなんだ、ここは」
そう力なく呟き苦笑いしながら、不安から両手で顔を覆った。
楽しみにしていたキャンプから一転し、ほぼ絶望に近い状況に見舞われた。
目にしたことも聞いたこともない。空間の裂け目に呑まれ、知らない場所へ。
そんな突然の不幸に見舞われた秋山透の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる