神とモフモフ(ドラゴン)と異世界転移

龍央

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露店のお婆さん不在

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 俺の質問に、アンリさんが答えてルギネさんがそれに抗議するように叫んだ。
 二人共、あれから何も言わずに付いて来てるから、何かあるのかと思ったけど……Aランクだからというのと、参考になる訓練ねぇ……?
 そんな事は何もしていないんだけど、言っても多分信じてくれなさそうな雰囲気と、未だにアンリさんの胸に埋まっているエルサを見て溜め息。
 人間の女性の胸に魅了されるドラゴンっていうのは、どうなんだ?
 もし、エルサと最初に出会ったのが俺ではなくアンリさんだったら、その胸に抱きしめただけで契約してたかもしれないなぁ……。

「多分、参考になんかならないと思うけど……」
「ふん、そんな事言っておいて、何か隠しているんだろう。昨日の怪我を治した魔法も、何がなんだかわからないものだったしな」
「そうよねぇ。ルギネ的には、嬉しかったんですものねぇ? まぁ、あの魔法は、今まで見た事なかったけどぉ……」
「う、嬉しくなどない! 冒険者をしていれば、怪我くらいする事はある! あれくらいなんともなかったんだ! それをこいつは……」

 俺達について来ても、ヘルサルをブラブラとするだけだし、特に参考になるような事はないと思い、ルギネさんに呟いたんだけど……そうは思ってもらえなかったみたいだ。
 怪我を治した魔法というのは、俺が考えた治癒魔法の事なんだけど、確かに魔法に詳しいフィリーナ達に聞いても知らなかったし、ルギネさんやアンリさんが知らなくても無理はないね。
 ルギネさんの言うように、戦う事の多い冒険者は怪我をするのも当然だから……ちょっと余計な事をしちゃったかな? と、少しだけ後悔。
 跡になるかはともかく、致命傷でもないし後遺症の残るような深い怪我でもなかったしね。

 でもまぁ、女性の体に傷が残るのは、避けられるなら避けた方がいいと思う俺は、まだ日本での感覚が抜けていないからなのか……。
 ともかく、一瞬だけ後悔したけど、ルギネさんがなんと言おうと、治療して良かったと思っておこう。

「はぁ……まぁいいか。別に目的があったり、誰かを連れてあるいちゃいけないわけでもないしね。……ユノ、何処か行きたいところはあるか?」
「ん~……お婆ちゃんのところ! 久々に話したいの!」
「そうか、わかった。……ルギネさん、アンリさん、移動するよ~?」
「まったくアンリは……あ、おい! ちょっと待て、置いて行くな!」
「あらあら、ルギネったら夢中で追いかけてぇ」
「……リク、今私の事も置いて行こうとしたのだわ」

 溜め息を吐き、ルギネさん達が付いて来る事を受け入れて、ユノにどこへ行きたいか聞いてみる。
 お婆ちゃんというのは、今もユノが首から下げているがま口財布に取りつけてる、ワイバーンの革を買った露店をやってる人の事だね。
 ユノの事を孫のように可愛がってて、王都へ行くまではよくお菓子とかをもらってたみたいだ。
 あのお婆さんにユノも懐いているようだったから、ヘルサルに来た以上、会っておきたいんだろうね。

 ちょうど今は大通りにいるから、お婆さんのやってた露店に行くのにもすぐだ。
 行き先を決め、そちらへ歩き出しながらルギネさん達へも一応声をかける。
 何やら言い合っていた……というか一方的にルギネさんがアンリさんに何かを言っていたようだけど、歩き始めた俺に気付いて、話を止めてこちらへ駆け寄ってきた。
 ……何か妙に距離が近いような気がするけど、多分置いて行かれないためだろうと思う。

 あとエルサ……ちゃんと聞こえてるからな? 置いて行こうとしたわけじゃなく、ちゃんと声かけたし。
 俺の頭じゃなく、モニカさんの腕の中でもないのに、アンリさんの胸に落ち着いてしまってるのが悪い。
 ……怒ってないよ、うん。
 のんびりしている中、キューの事を急かされて騒がれるのも面倒だから……と納得してる。


「あれ? お婆ちゃんがいないの……」
「そうみたいだな。どうしたんだろう?」
「どうかしたのか?」

 大通りを歩き、目的の露店が見えて来た頃、ユノが声を上げる。
 俺もユノの言葉を聞いて、露店を見たけど、確かにいつも椅子に座って物を売っていたお婆さんがいない。
 足を止めて首を傾げる俺やユノに、ルギネさんが不思議そうに聞いているけど……どこに行くか聞いてなかったんだね……アンリさんに言い募ってたし。

 露店は、いつもの場所にあったし、そこで売っている物は距離があっても同じ物とわかる。
 だけど、そこで商品を広げて道行く人に声をかけて商売をしているのは、若い男性だった。
 ……若いと言っても、俺よりは年上で、多分二十代半ばくらいだろうけど。

「あそこに露店があるでしょ? 今は男の人が物を売ってるけど、前まではお婆さんが売ってたんだ」
「そうなのか……ん? あの露店……おい、アンリ?」
「あぁ~、あの露店はぁ……」
「ん? どうかしたの?」

 話を聞いておらず、俺達の事を不思議そうに見ていたルギネさん達に、お婆さんがいた露店の事を教える。
 男性が露店をしている場所を示していると、ルギネさんとアンリさんが、なにやら気まずそうな表情。
 何か知ってるんだろうか?

「どうする、リクに教えるのか?」
「教えないといけないでしょ~? 目的がそうなんだしぃ……まぁ、謝ってお金も払ったんだから、きっと大丈夫よぉ~」
「そ、そうか……うん、そうだな」

 何やら、俺達から離れて、コソコソと内緒話をするルギネさんとアンリさん。
 けど、大通りとはいえ端の方にあるため、人通りが少なめになっているせいもあって、その話し声はしっかり耳に届いていた。
 内緒話をするなら、もう少し声を潜めて欲しいなぁ。
 それはともかく、お婆さんがいない理由を知ってるみたいだけど……?

「あー……と……んんっ! リク、あそこの露店のお婆さんなんだが……」
「うん?」
「数日前に、ここでちょっとした騒ぎがあってな。その時、私が体ごとあの露店に突っ込んだんだ。それで……多分お婆さんが怪我をしていたんじゃないかと……」
「え!? お婆さんに怪我を!?」
「あ、あぁ。そのな、その時は謝って、店の修理費や迷惑料を払って許してもらったんだが……そのお婆さんが、何やら顔を歪める時があってな……多分、怪我を隠して我慢してたんだと思う」
「……なんでそんな事に……?」

 随分言いづらそうに、ルギネさんが咳ばらいをしながら切り出す。
 内容としては、ルギネさん達がここで騒ぎがあった時、お婆さんを巻き込んで露店に突っ込んだ。
 その場は許してもらったけど、もしかしたらお婆さんが怪我をしたのではないか……という事らしい。
 怪我をしたから、今商売をしているのがお婆さんじゃないのか。

 修理費を払ったって言ってるから、それで店自体は直せたんだろうけど。
 お婆さんは、結構な年齢に見えたから、一度怪我をしてしまうと治りが遅い。
 最悪の場合、そのまま……。

「っ!」

 縁起でもない事を考えそうになった頭を振って、その考えを打ち消す。
 そんな俺の様子を、一瞬だけキョトンとした表情をしたルギネさんが、真顔に戻って説明の続きをしてくれた――。

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