466 / 1,955
エルフの集落にもお願い
しおりを挟むクラウスさんに、少しでもいいので畑の土地を使ってスイカを作ってくれないかというお願いをすると、フィリーナが首を傾げながらの意見。
確かに、距離が離れていれば土質が違う可能性もあるし、そもそもスイカを育てた事のない人達に頼む事になるから、問題なく育つという保証はない。
気候は……あまり変わらないと思うけどね。
「確かに、スイカを作っている村と、ヘルサルじゃ色々環境が違う可能性はあると思うけど……」
「けど?」
以前……まだこの世界に来ていない時、家庭菜園という程でもないけど、食べたスイカの後に残った種を植えてみた事がある。
その時は何も知らずに適当に植えただけだったから、結局芽が出る事はなかったけど、その失敗を生かして少しだけ調べたんだ。
実際にスイカを育てようというわけじゃなく、なんとなく悔しかったから調べたって程度なんだけどね。
それでわかったのは、スイカは酸性の土壌を嫌い、水はけの良い土を好むという事。
酸性雨という言葉があるように、雨が降って染み込み、さらにはろくに手入れすらしてない土に、スイカの種を植えた事が失敗の要因だったんじゃないかと思う。
この世界の雨が酸性かどうかはわからないけど、少なくとも結界によって直接畑へ振る事は防ぐ事ができる。
そのうえで、ガラスを埋めたり掘り起こしたりする事で、なんとなくだけど土の水はけが良さそうだなという印象を受けた。
専門家じゃないから詳しい事はわからないけど、近くに川がなく、地盤は固そうじゃない……というのは魔法で掘り起こしたりしてるからあまり感じないのかも。
ともかく、掘り起こした時に地下水脈があるわけでもなく、泥や沼状の土はないように見えたから、水はけが悪いという事はないと思う。
逆に、湿地を好むリザードマンやビッグフロッグが出た、クレメン子爵領の畑は水はけが悪いのかもしれないと考えられる……近くに湿地があるとも言ってたしね。
だから、俺が知る限りで頼めるのはヘルサルだけだ。
いやまぁ、頼めばエルフの集落やその近くの村でも作ってくれるだろうけど……遠いし、何より今から農業を始めるという事で、頼みやすいからね。
そう考えて、クラウスさんやフィリーナにスイカを育てるために必要だと思う事が、揃っていると説明した。
「……だから、ヘルサルはスイカを栽培するのに向いてる気がするんだ。農業に詳しいとまで言えないから、確実とは言えないけど。だから、試験的に少し植えてもらえないかな、とね」
「十分、詳しいと思うわよ?」
俺が水はけの事やスイカの好む土壌の話をした事で、フィリーナは驚いたようだ。
とはいっても、俺の場合は調べた事のあるスイカの事くらいだからなぁ……他の作物がどういった条件を好むとか、ほとんど知らない。
日本にいた時は、多少の事ならネットっで調べられるから、興味のある事はこの世界で調べるより簡単だったのは確かだけれども。
「リク様の言う通りなのであれば、確かにそのスイカという作物は育ちそうですな……」
「ですが、好む土壌だからと言って、順調に育つかどうかはわかりませんよ?」
クラウスさんが堀の深い顔に皺を寄せ、考えるように呟く。
その呟きはどちらかというと肯定的だけど、フィリーナが疑問を差し挟んだ。
フィリーナはどちらかというと反対のようだね……まぁ、農業に詳しかったら、思い付きで育つかわからない作物を追加するのに賛成とは言いづらいか。
数日で結果が出るような事じゃないから、年間を通しての作付け計画とか、必要そうだしなぁ。
「そうですな……リク様のお願いなので、キューの事と同じく聞き入れたいとは思いますが……」
「さすがに、キューとは違い、栽培に関する実績がなさ過ぎますね。キューであれば、国内の多くの場所で作られているので、栽培方は確定されておりますし、ノウハウも蓄積されております。センテが近い事もあり、情報を仕入れるのにも困りません」
「むぅ、そうだな。トニの言う通り、今まで育てた事のない作物だ。すぐに成功するとは限らない。リク様の頼みを安易に受けて、失敗する事は許されない……」
「いやあの……別に失敗してもいいんですけどね?」
クラウスさんが悩んでいる後ろから、トニさんが進言する。
それに対し、俺からのお願いは失敗できないと考えている様子のクラウスさんに、思わず声が出てしまった。
試しに……という訳なのだから、失敗しても俺が文句を言ったりはしない。
とはいえ、それを作る人達の収入に繋がるのだから、失敗は避けたいと思うのは当然の話なんだけどね。
「あとこれは、少し難しいかもしれませんが……」
「何か、方策でもおありですか?」
「フィリーナ、ここからエルフの集落まで、急いでも結構かかるよね?」
「そうね……馬を急がせたとして……どれだけ頑張っても半月程度かしら?」
「まぁ、時間がかかるのは仕方ないか。エヴァルトさんに頼んで、集落近くのスイカを作ってる村から、知識のある人を呼んで来るというのは、できないかな?」
「ん~、エヴァルトなら、リクの頼みを喜んで受けるだろうけど……その村の人が受けるかどうかは、わからないわ」
「そこで、クラウスさん」
「はい?」
「ヘルサルからの要請というか……お願いという事で、こちらに来てもらうようにはできませんか?」
「ふむ……新しく農地を作る事で、広く知識を求めるため……という事でしたら、可能ですかな。――トニ?」
スイカを作るうえでのもう一つ考えた事。
結局のところ、クラウスさんやトニさんが悩んでいる事や、フィリーナが反対したがる理由は、育てる方法が確立していないから。
だったら、実際に作っている人から聞けばいい。
あわよくば、その人に来てもらって教えてもらうというのも、ヘルサルの農業の幅が広がっていい事づくめだしね。
フィリーナはまだ少し懐疑的だけど、エヴァルトさんは協力してくれるだろうと頷いてくれた。
会った事のない村の人達の方は俺から頼むんじゃなく、権力者としてのクラウスさんを使ったらどうかと聞く。
少し悩んだ後、要請するための名目を考え、トニさんへと視線を向ける。
クラウスさんからの視線を受けて、トニさんが頷いた……よし、上手くいきそうだ……あとはお願いする村の人達が来てくれるのを願うだけだと一安心。
……決して、俺自身がスイカを食べたいからと必死なわけじゃない……うん。
エルサが気に入ってるようだし、スイカのおかげでキューの事を少しの間だけとはいえ、騒がなくなってるしね。
それに、村の方で多く作ってもらうように働きかけるよりは、今新しく準備してる農地を使った方が手間が省けるしね。
その村で、大量に作る事のできない事情がある可能性もある。
とはいえ、とりあえず試験的に作ってみようというお願いなだけなんだけどね……何せ、今ある種が少ない。
できるだけ多く食べたいなぁ……。
毎日とまでは言わないけど、週に一度……いや、月に一度くらいは食べたいよね。
保存手段が少ないから、年間を通して……というわけにはいかないだろうけど……はぁ……。
11
あなたにおすすめの小説
「餌代の無駄」と追放されたテイマー、家族(ペット)が装備に祝福を与えていた。辺境で美少女化する家族とスローライフ
天音ねる(旧:えんとっぷ)
ファンタジー
【祝:男性HOT18位】Sランクパーティ『紅蓮の剣』で、戦闘力のない「生産系テイマー」として雑用をこなす心優しい青年、レイン。
彼の育てる愛らしい魔物たちが、実はパーティの装備に【神の祝福】を与え、その強さの根源となっていることに誰も気づかず、仲間からは「餌代ばかりかかる寄生虫」と蔑まれていた。
「お前はもういらない」
ついに理不尽な追放宣告を受けるレイン。
だが、彼と魔物たちがパーティを去った瞬間、最強だったはずの勇者の聖剣はただの鉄クズに成り果てた。祝福を失った彼らは、格下のモンスターに惨敗を喫する。
――彼らはまだ、自分たちが捨てたものが、どれほど偉大な宝だったのかを知らない。
一方、レインは愛する魔物たち(スライム、ゴブリン、コカトリス、マンドラゴラ)との穏やかな生活を求め、人里離れた辺境の地で新たな暮らしを始める。
生活のためにギルドへ持ち込んだ素材は、実は大陸の歴史を塗り替えるほどの「神話級」のアイテムばかりだった!?
彼の元にはエルフやドワーフが集い、静かな湖畔の廃屋は、いつしか世界が注目する「聖域」へと姿を変えていく。
そして、レインはまだ知らない。
夜な夜な、彼が寝静まった後、愛らしい魔物たちが【美少女】の姿となり、
「れーんは、きょーも優しかったの! だからぽるん、いーっぱいきらきらジェル、あげたんだよー!」
「わ、私、今日もちゃんと硬い石、置けました…! レイン様、これがあれば、きっともう危ない目に遭いませんよね…?」
と、彼を巡って秘密のお茶会を繰り広げていることを。
そして、彼が築く穏やかな理想郷が、やがて大国の巨大な陰謀に巻き込まれていく運命にあることを――。
理不尽に全てを奪われた心優しいテイマーが、健気な“家族”と共に、やがて世界を動かす主となる。
王道追放ざまぁ × 成り上がりスローライフ × 人外ハーモニー!
HOT男性49位(2025年9月3日0時47分)
→37位(2025年9月3日5時59分)→18位(2025年9月5日10時16分)
科学×魔法で世界最強! 〜高校生科学者は異世界魔法を科学で進化させるようです〜
難波一
ファンタジー
「魔法ってのは……要はエネルギーの制御だろ?」
高校生にして超人的な科学知識を持つ天才・九条迅は、ある日、異世界アルセイア王国に「勇者」として召喚された。
だが、魔王軍との戦争に駆り出されると思いきや——
「お前、本当に勇者か? 剣も魔法も、まともに使えないのか……?」
「科学的に考えれば、魔法ってのはもっと進化できるはずだ!」
剣も魔法も素人の迅だったが、「魔法を科学的に解析し、進化させる」という異端の方法で異世界の常識を根底から覆し始める!
魔法の密度を最適化した「魔力収束砲」
魔法と人体の関係を解明し、魔力を増大させる「魔力循環トレーニング」
神経伝達を強化し、攻撃を見切る「神経加速《ニューロ・ブースト》」
次々と編み出される新技術に、世界は驚愕!
やがて、魔王軍の知将《黒の賢者》アーク・ゲオルグも迅の存在に興味を持ち始め——
「科学 vs 魔法」「知能 vs 知能」
最強の頭脳戦が今、幕を開ける——!
これは、「魔法を科学で進化させる勇者」が、異世界を変革していく物語!
※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。
真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます
難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』"
ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。
社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー……
……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!?
ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。
「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」
「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族!
「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」
かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、
竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。
「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」
人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、
やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。
——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、
「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。
世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、
最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕!
※小説家になろう様にも掲載しています。
異世界帰りの勇者、今度は現代世界でスキル、魔法を使って、無双するスローライフを送ります!?〜ついでに世界も救います!?〜
沢田美
ファンタジー
かつて“異世界”で魔王を討伐し、八年にわたる冒険を終えた青年・ユキヒロ。
数々の死線を乗り越え、勇者として讃えられた彼が帰ってきたのは、元の日本――高校卒業すらしていない、現実世界だった。
異世界に降り立った刀匠の孫─真打─
リゥル
ファンタジー
異世界に降り立った刀匠の孫─影打─が読みやすく修正され戻ってきました。ストーリーの続きも連載されます、是非お楽しみに!
主人公、帯刀奏。彼は刀鍛冶の人間国宝である、帯刀響の孫である。
亡くなった祖父の刀を握り泣いていると、突然異世界へと召喚されてしまう。
召喚されたものの、周囲の人々の期待とは裏腹に、彼の能力が期待していたものと違い、かけ離れて脆弱だったことを知る。
そして失敗と罵られ、彼の祖父が打った形見の刀まで侮辱された。
それに怒りを覚えたカナデは、形見の刀を抜刀。
過去に、勇者が使っていたと言われる聖剣に切りかかる。
――この物語は、冒険や物作り、によって成長していく少年たちを描く物語。
カナデは、人々と触れ合い、世界を知り、祖父を超える一振りを打つことが出来るのだろうか……。
ガチャと異世界転生 システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!
よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。
獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。
俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。
単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。
ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。
大抵ガチャがあるんだよな。
幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。
だが俺は運がなかった。
ゲームの話ではないぞ?
現実で、だ。
疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。
そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。
そのまま帰らぬ人となったようだ。
で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。
どうやら異世界だ。
魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。
しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。
10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。
そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。
5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。
残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。
そんなある日、変化がやってきた。
疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。
その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
目を覚ますと雑魚キャラになっていたけど、何故か最強なんです・・・
Seabolt
ファンタジー
目を覚ますと雑魚キャラに何の因果か知らないけど、俺は最強の超能力者だった・・・
転生した世界の主流は魔力であって、中にはその魔力で貴族にまでなっている奴もいるという。
そんな世界をこれから冒険するんだけど、俺は何と雑魚キャラ。設定は村人となっている。
<script src="//accaii.com/genta/script.js" async></script><noscript><img src="//accaii.com/genta/script?guid=on"></noscript>
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる