622 / 1,955
魔物の集団へと向かうリク
しおりを挟む兵士さんの報告を聞いて南の方へ向くと、薄っすらと何かが街へ向かって来ているのが、遠目に見えた。
俺達は門の近くで高い場所にいるわけではないので、魔物の姿がはっきり見えるわけじゃないけど、それでもあれが人間じゃない事はわかる。
人間だったら、もっと近寄らないと見えないくらいの大きさだからね。
キュクロップスが先頭だから、巨体のおかげで微かにでも確認できるんだろう。
「来たみたいですね……」
「そのようです。……本当に、よろしいのですか?」
「大丈夫です。なんとかしますよ」
「……自分の無力さが、これ程までに苦しいものとは。リク殿……いえ、英雄リク様。我々を、ルジナウムの街をよろしくお願い致します」
「はい」
俺だけでなく、他の人達も遠目に確認したようで、にわかに緊張が走る西門前。
俺が突撃をする事は、既に全体へ伝えているので、とりあえず浮足立った様子がないのは助かる。
深々と頭を下げるフランクさんは、俺一人に任せて自分の不甲斐なさを悔いるよう、下唇を噛みしめていた。
「リクさん……リクさんなら大丈夫だと信じているけど、無事で帰って来てね?」
「うん、もちろんだよ。また、モニカさんの料理が食べたいからね」
「もう……これが終わったら、腕によりをかけて用意させてもらうわ。父さんの料理には負けるけど……」
「それは楽しみだ、頑張らないとね。マックスさんの料理は確かに美味しいけど、俺はモニカさんの料理も好きだよ?」
「……リクさんったら」
「なんじゃ、こんな状況でモニカ嬢ちゃんを口説いておるのかの? 大物じゃのう……こりゃ、マックスに報告するかの……」
「エアラハールさん……そんなんじゃありませんよ?」
「モニカ嬢ちゃんは、そんなつもりのようじゃぞ?」
「エアラハールさん! もう……! リクさん、とにかく戻って来たら、美味しい料理をいっぱい用意するからね!」
「その時は、私も協力させてもらうとしますよ。街中、いや我が領地から食材をかき集めて、提供させて頂きましょう!」
「いや……あははは、それはさすがに食べきれないんじゃないかなぁ? うん、よし……それじゃユノ、ここは頼んだよ?」
「任せるのー!」
「モニカさん、エアラハールさん、フランクさん、ちょっと行って来ます!」
「行ってらっしゃい。月並みだけど、気を付けて!」
「遊びに行くような気軽さで言うのう……。うむ、気張るのじゃぞ!」
「よろしくお願い致します……っ!」
「それじゃ、行くよエルサ!」
「わかったのだわー」
モニカさん、エアラハールさん、フランクさんとそれぞれ軽く話し、ユノにここの事を任せてエルサを頭にくっ付けたまま、魔物が迫ってきている方向へ駆けだす。
戻って来たら、モニカさんの手料理か……楽しみだね。
「おー、いっぱいいるなぁ」
「ふてぶてしいのだわ。ドラゴンがここにいるのにだわ……」
「ははは、向こうはまだこっちの事が見えてないんじゃないかな?」
街から全速力で走り、かなりの距離を取って立ち止まって魔物達を見る。
これくらい離れれば、街への影響は少ないだろう……と、ちらりと振り返って確認。
エルサは魔物の様子を見て、何やら憤慨している様子。
向こうはキュクロプスとかキマイラとか、大型の魔物が多いんだから、人間一人やその頭にくっ付いている小さい毛玉……ドラゴンには気づかないだろうな、まだ相当な距離があるし。
「焼き払っていいのだわ?」
「いいけど、さらに南下したら森があるんだから、そっちを燃やさないようにね?」
「森程度、数百年も経てば再生するのだわ」
「いやいや、それはエルサがドラゴンで、長い間生きているから言える事だからな? 人間は良くても百年前後しか生きられないし、森がなくなると街にも迷惑がかかるから!」
「面倒だけど、仕方ないのだわー」
木の一本や二本ならともかく、森全体が再生する時間なんて、人間が生まれて寿命で亡くなるよりも長い時間が必要だ。
千年以上も生きているエルサだから、気軽に言える事だけど、人間からしてみればとてつもなく長い時間になる。
その間、森からの恵みがなくなるだけでなく、場合によっては、この辺りの環境ががらりと変わる可能性だってあるから……森まで燃やしてしまうのはなしだ。
……俺も、やり過ぎないよう気を付けないとね。
とは言え、大きな魔物が多いおかげで、多少なら壁代わりになってくれそうでもあるけど。
「それじゃ、エルサは大きくなって魔物を威嚇。それと、大きめの魔物を相手にしてくれるかな?」
「わかったのだわー。動きやすいように、少し小さめにしておくのだわ。リクは私に踏まれないよう気を付けるのだわ?」
「……そこは、エルサにも気を付けて欲しいけど……俺も踏まれたくないから、気を付けるよ」
「よろしくなのだわー……」
エルサに言って、大きくなってもらうようお願いする。
一番大きな魔物はキュクロップスだろうけど、俺は人間で今のままの大きさでしかないから、巨大な魔物を相手にするのは時間がかかってしまいそうだからね。
……とりあえず、エルサに踏まれるのは俺も勘弁だから、気を付けよう。
体を発光させて、徐々に大きくなって行くエルサ。
いつも俺達を乗せて飛ぶよりは小さいけど、それでもキュクロップスより大きいだろう……大体、七、八メートルくらいかな。
エルサにばかりじゃなく、俺の方も魔物と戦う準備をしないとね。
「グルゥ……やるのだわ」
「頼む」
「グルゥアァァァァァァァァ!!」
大きくなった状態で、一度こちらを窺うエルサ。
頷いて促し、念のため耳に手を当てて塞いでおく。
塞いだ耳すらも貫通する程、激しい咆哮が辺りに響き渡った。
「少しは、向こうの足も遅くなったかな? よし、今のうちに……」
エルサの咆哮に驚いたのか怖れをなしたのか、先頭にいるキュクロップスを始めとした魔物達の進行が少し遅くなる。
とはいえ、その後ろからも続々と魔物が押し寄せているため、完全に止まる事はなさそうだ。
エルサの咆哮で稼いだ時間を有効に使うため、先程からイメージしていた魔法を解き放つ――。
「ウィルオウィスプ……ウィルオウィスプ……ウィルオウィスプ……」
何度も続けて、火の魔法……いや、火の精霊だったっけ? それを呼ぶ魔法を発動させる。
俺の周囲に、人の頭くらいの火の玉が続々と出現。
「って、こんな感じだったっけ?」
俺が使っているのは、火の魔法というよりも召喚魔法の一種らしく、火の精霊を召喚するものになっているらしいけど、以前召喚した時よりも、少しだけ様子が違っていた。
火の精霊……早い話が大きな火の玉なんだけど、その火の玉の中にぼんやりと目や口が付いているように見えるんだ。
なんというか、つぶらな瞳をしているようにも見えて、ちょっと可愛い。
いや、今は和んでいる場合じゃないな。
理由はわからないけど、ちょっと変わった精霊を呼び出しても、やる事は変わらない。
「魔物達をできるだけ逃さないように、でも、森や木々は燃やさないように……できるかな?」
俺の指示を聞いて、コクコク頷く火の玉は何処か愛嬌があるように見える。
火の精霊らしく、無暗に対象を焼いて周囲に影響を及ぼす事が少ないのは、以前呼び出して確認している。
これなら、魔物達を倒した後も、この周辺には強い影響は残らないはずだ……多分。
1
あなたにおすすめの小説
科学×魔法で世界最強! 〜高校生科学者は異世界魔法を科学で進化させるようです〜
難波一
ファンタジー
「魔法ってのは……要はエネルギーの制御だろ?」
高校生にして超人的な科学知識を持つ天才・九条迅は、ある日、異世界アルセイア王国に「勇者」として召喚された。
だが、魔王軍との戦争に駆り出されると思いきや——
「お前、本当に勇者か? 剣も魔法も、まともに使えないのか……?」
「科学的に考えれば、魔法ってのはもっと進化できるはずだ!」
剣も魔法も素人の迅だったが、「魔法を科学的に解析し、進化させる」という異端の方法で異世界の常識を根底から覆し始める!
魔法の密度を最適化した「魔力収束砲」
魔法と人体の関係を解明し、魔力を増大させる「魔力循環トレーニング」
神経伝達を強化し、攻撃を見切る「神経加速《ニューロ・ブースト》」
次々と編み出される新技術に、世界は驚愕!
やがて、魔王軍の知将《黒の賢者》アーク・ゲオルグも迅の存在に興味を持ち始め——
「科学 vs 魔法」「知能 vs 知能」
最強の頭脳戦が今、幕を開ける——!
これは、「魔法を科学で進化させる勇者」が、異世界を変革していく物語!
※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。
真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます
難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』"
ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。
社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー……
……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!?
ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。
「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」
「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族!
「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」
かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、
竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。
「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」
人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、
やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。
——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、
「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。
世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、
最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕!
※小説家になろう様にも掲載しています。
異世界帰りの勇者、今度は現代世界でスキル、魔法を使って、無双するスローライフを送ります!?〜ついでに世界も救います!?〜
沢田美
ファンタジー
かつて“異世界”で魔王を討伐し、八年にわたる冒険を終えた青年・ユキヒロ。
数々の死線を乗り越え、勇者として讃えられた彼が帰ってきたのは、元の日本――高校卒業すらしていない、現実世界だった。
ガチャと異世界転生 システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!
よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。
獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。
俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。
単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。
ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。
大抵ガチャがあるんだよな。
幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。
だが俺は運がなかった。
ゲームの話ではないぞ?
現実で、だ。
疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。
そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。
そのまま帰らぬ人となったようだ。
で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。
どうやら異世界だ。
魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。
しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。
10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。
そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。
5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。
残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。
そんなある日、変化がやってきた。
疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。
その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜
霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……?
生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。
これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。
(小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)
セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~
空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。
もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。
【お知らせ】6/22 完結しました!
猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る
マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・
何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。
異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。
ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。
断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。
勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。
ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。
勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。
プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。
しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。
それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。
そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。
これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる