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斧だけではないフィネさん
しおりを挟む「ちぃ! せっ!」
「な!?」
そのまま引っ張って引き倒そうと思っていたのに、咄嗟に俺を掴んでいた手を離して、後ろに飛んで距離を取られた。
その際に、上半身を反らして地面に手を付き、さらに両足で俺を蹴る。
蹴った勢いでバク転のような形で、体勢を整えた。
中途半端な離れ方だったら、俺が追撃するチャンスだったけど、両足の蹴りを使って勢いを付けるだけでなく俺への牽制にもするとは……。
「……はぁ、ふぅ」
「斧だけじゃないんですね……ふぅ」
向かい合って、お互いに息を吐く。
俺は体勢が崩れ気味だったのを整え、全力で動き続けているフィネさんは息を整えているようだ。
瞬間的な判断だけでなく、武器だけに頼らない攻撃法も、さすがとしか言いようがない……後ろに飛ぶ際に、叩き落した斧を二つ拾うのも忘れていないし……これ程とは……。
というか、体や柔らかいなぁ……ブリッジのようになったと思ったら、蹴りからのバク転もどきとは。
どこまで計算通りかはわからないけど、計算で動いているにしても、瞬時の判断で動いているにしても、驚異的な動きに見える。
さすがにエアラハールさんのように、瞬間的に目で追えないような速度を出す……というような事はないけど、十分過ぎるくらいBランク冒険者の実力を見せられている。
「ふぅ……武器を投げても、戦えるようになる必要がありますから。もちろん武器を持っていた方がいいですが、素手でもそこらの魔物に負ける気はありませんよ。……リク様には、通用しませんでしたけど」
「十分通用してますよ。斧は最低でも一本は残すと思っていましたし、何度も蹴られました。力比べは、負けませんでしたけど……それだけですからね」
意表を突かれた、というのはかなりあるけど、それだけでなく連続した動きでも捨てる攻撃というか、当たっても大した事がないと思える攻撃がないのは、さすがだね。
距離を取る直前の蹴りは、移動のためだから仕方ないけど、他の攻撃は一つ一つがかなりの威力だ。
斧の投擲は突き刺さるから当然だし、蹴りも痛みや息が詰まる衝撃を感じる程……多分だけど、オーガを悶絶させたりするくらいはできるんじゃないだろうか?
武器を投げるという事は、最終的に自分の手元に一つは残さないと戦えない、なんて考えてしまっていた俺が悪いんだけど、とにかく使える武器を全て投げたうえでもちゃんと戦えるように鍛えているフィネさんには、感服する。
素手で戦うという経験がないわけじゃないし、地下施設ではなんども武装した人間を殴り飛ばしたけど、そういう事ではなく、ちゃんと自分の戦い方に合わせて考えているんだなと。
力任せに剣を振るだけだった、以前の自分が少しだけ恥ずかしく思えるくらいだ。
「あそこで引き倒して、斧を使って止め……というところだったんですけど、さすがです」
「いえ、力比べに勝っても、他では圧倒されっぱなしでしたからね。あまり褒められた事じゃないですよ。さて……それでは今度はこちらから……っ!」
なんだろう、真剣に戦う者同士の共感なのかなんなのか……お互いニヤリと笑い合いながら、今度はこちらからと、木剣を振り上げてフィネさんに向かう。
これが、拳を交えて友になるという感覚だろうか……? いや、違うか……俺が持っているのは木剣だし、殴り合っている喧嘩とかではないから。
とはいえ、なんとなくフィネさんの事は今まで以上に理解できたような気がする。
世の中には、色んな戦い方があるんだなぁ……と勉強になった――。
「はぁ……! ふぅ……!」
「ぜぇ……! はぁ……!」
「ふぅ……なんで、ソフィーとモニカさんまで……」
「リクさん……が……フィネさんと楽しそうに模擬戦をする……から……」
「そう……だ……ふぅ……私達も、体を動かしたくなった……はぁ……んだ……」
フィネさんとの模擬戦、参考になる事が多く俺が木剣だったり、全体的に受けに回る事が多かったため、それなりに長い間戦っていたんだけど、それが終わった後は流れでモニカさんやソフィーとも模擬戦をする事になってしまった。
なってしまったというか、有無を言わさぬ雰囲気でモニカさんとソフィーが、武器を持って対峙したからなんだけど。
フィネさん相手は不慣れな部分も多かったけど、モニカさんとソフィーはここしばらく素振りやらで訓練をしているとはいえ、エアラハールさんの指導込みで何度も模擬戦をしていたからね。
だから、フィネさん程の長期戦になる事はなく、二人の体力が尽きた時点で終了となった。
武器を置き、地面に座り込んで荒い息を吐いているモニカさんとソフィーに対して、なぜか周囲の新兵さんから拍手が送られているけど、気にしないでおこう。
ちなみにフィネさんは、俺との模擬戦による疲労が原因で、離れた場所で突っ伏した状態になっている……エルサ、フィネさんに乗っかって欠伸をしているんじゃない。
というかフィネさん、もしかしなくても全力で攻撃し続けたのを俺が全て防いだから、落ち込んでいるのかも?
いや、危ない場面も多くて何度も蹴られたり殴られたりしたし、怪我はしていないけど、斧がかすって服が斬れたりもしているから、俺の方もいっぱいいっぱいだったんだけど。
……多分、有効な一撃というのが決められなかったのが大きいのかもしれない。
避けたと思った斧がブーメランのように戻って来て、後ろからとかかなり危なかったからね。
どうやったらそんな事ができるのか、いつか聞いてみたい……俺にできるかはわからないけど――。
「はぁ……やっぱりリク様には全然敵わなかったですね……わかっていた事ではありますけど」
「しかも、あれで手加減しているのよ? ほんと、どうなっているのかわからないわ」
「いや……まぁ……自分でも不思議な時はあるけど、手加減という程までは……」
「リクは木剣。私達は使い慣れた武器……この時点で手加減になると思うがな」
模擬戦が終わった後、焚き火を囲んで夕食を食べながら、なぜか責められる俺……。
力任せに攻撃しないというのは意識していたけど、それだけで手加減したとまでは言えない気がするんだけど……と思っているのは俺だけで、木剣を使っている時点で手加減されているという事のようだ。
まぁ、魔力を使う剣でやるわけにはいかないし……怪我させたり、皆の武器を破壊する可能性もあるから……それに木剣だからこそ、攻撃を受け止める際にも気を使ったりする必要があったのは確かだけどね。
三人共冗談で言っているのは雰囲気からわかっているんだけど、こういう時やっぱり男一人というのは肩身が狭いような、それとは違う話のような。
とりあえず、キューを食べているエルサのモフモフを撫でて癒されておこう。
「リク、食べにくいのだわー」
「はい、すみません」
エルサに食事を邪魔しないよう注意され、謝って仕方なく自分の食事に集中する……はぁ……。
なにはともあれ、かなり激しめに体を動かしたおかげで、今日はいつもよりしっかり寝られそうだ――。
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