786 / 1,955
男の末路
しおりを挟む「息絶えたのに、魔力を扱う? そんな事、できるわけがないが……その者の持つ魔力は所持者の意思を反映させるはずだ。息絶えている状態なのに、意思があるはずがない」
「私もそう思うわ。けど、実際に私の目だけでなく多くの兵士がそれを見ているの。――陛下、その魔力は馬車内だけでなくその外にまで漏れ出す程、大量の魔力でした」
「……その全てが、可視化されていたのか?」
「はい。魔力による影響が何かしらあるかもしれないと、すぐに触れないよう距離を取りました。幸いにも、魔力の限界なのか、馬車の外に漏れだした魔力はあまり広くまでは広がらなかったのです」
「ふむ……まぁ、可視化されるだけでも異常な魔力だ、それが広がる事は確かにあり得ないとも言えるか。それからどうなった?」
「はっ、その魔力がどうなるのか、我々は戦闘態勢を整えて様子見をしておりましたが……」
「……」
「ん、どうしたのだ?」
魔力がその後どうなったのか、という部分で一度ヴェンツェルさんが言葉を止め、フィリーナも黙ってしまった。
姉さんがいきなり言葉を止めた二人に対し、どうしたのかと首を傾げている。
俺や他の人達も、同じように首を傾げた。
「……魔力が、赤く染まったのです」
「魔力が? 可視化された魔力は、魔法の影響で色を持つと聞くが……」
魔力を魔法に変換する際、使用する魔法の属性に対応する色に変わって見える。
火なら赤、水や氷なら青、風なら緑……とかいう風にね。
何にも変換されていない魔力は、白っぽい色をしているはずで……赤という事は、火の魔法?
いや……もしかしてオーガの研究のように……!?
「まさか……爆発を……?」
「赤という事で連想したのだろうが、違う。オーガのように爆発はしなかったし、火が発生する事もなかった」
「オーガやエクスブロジオンオーガは、爆発する性質を持つように仕組みながら、魔力を注ぐようだが、その男は違ったのだろうな……まぁ、リクがそう考えるのも仕方ないだろう。爆発するオーガの研究をしていた者なのだから」
もしかして、と思って呟くとヴェンツェルさんからは爆発しなかったという言葉と、アルネからオーガとは違うと言われた。
まぁ、赤というだけでそう考えたのは、ちょっと短絡的だったか。
最近、爆発するオーガを相手にする事が多過ぎたから、真っ先にそう考えてしまったんだろうけど。
「しかし、その魔力が赤くなるというのは、結局どういう事なのだ?」
「……血でした」
「血……だと?」
「赤くなった魔力は、そのまま血となって地面を、馬車を濡らしたのです……」
「魔力が……血になるだと? あり得るのか?」
「……絶対にない、とまでは言えません。魔力は生き物であればすべからく持っているものではありますが……人間やエルフは、血と同じように全身を巡っています。血と魔力が関係ない、とは言い切れないでしょう」
血と魔力か……確かに、体内の魔力に意識を向けたら、血管の中を巡る血のように循環しているから、もしかしたら血とは密接に拘わりがあるのかもしれない。
意識したらと言っても、魔力を放出するようにしたり、探査魔法の要領で調べるくらいまでしないと、よくわからないけど。
魔力は生き物であれば必ずあると言っても、全て意識的に感じるわけじゃないからね。
血そのものが魔力というわけじゃないだろうけど、血の中には多くの魔力が備わっていると考えれば、魔力と一緒に血が噴き出したとか、血が魔力になって……という事も考えられる、のかもしれない。
「魔力と血の関係は、今論ずるべきではないな。それで、その後はどうなったのだ?」
「いえ、ただそれだけでした。魔力は赤い血となって地面や馬車を濡らす、ただそれだけです」
「……原因となった男は?」
「落ち着いた事を確認し、馬車の中を調べましたが……乾いた死体となり果てていました。まるで、全身の血という血を抜きとれたかのように……」
「魔力というより、血が魔力になって全身から抜けた、という事なのだと思われます……」
姉さんの質問にフィリーナが答え、最後にヴェンツェルさんが付け加えた。
あまりの内容に、話を聞いていた人達全員……アルネでさえも口を閉ざして眉をしかめている。
魔力となった血が全身から湧き出て広がり、限界を迎えたところで血に戻って力を失った……その発端である男は、魔力というか血を全て放出したためにミイラに近い状態になった、という事なんだろう。
しかし、なんでそんな事に……ヴェンツェルさん達の話では、その前に既に息絶えていたとの事だから自らの意思でそうしたとは考えにくい。
だとしたら、なんらかの力が働いてという事になるけど……当然ながら、死んだ人間から魔力が放出されて、血液が全てなくなるなんて事はない。
魔力は自然の魔力もそうだけど、基本的にそれだけでは何も効力を示さないし、血になったり勝手に放出されたりはしない。
……まぁ、魔力量が多過ぎる俺なんかは、エルサ曰く滲み出ているらしいけど、それは特殊な例だろうしこれだって別に血が外に出ているわけじゃない。
ともあれ、そんな現象を目の前でみせられたら、ヴェンツェルさんやフィリーナが憔悴してしまうのもわかる気がするね。
あり得ないはずの事が起こって、どう報告したらいいものかとか、赤い血が降り注ぐ光景やミイラのような状態になった男を見たりなんて、精神的にかなり辛いだろう。
ヴェンツェルさん達だけでなく一緒にいた兵士さん達も、相当精神的には参っている可能性が高いね……トラウマになってなきゃいいけど。
「……その事を目撃した物は、他には?」
俺と同じ事を考えたのか、姉さんがヴェンツェルさんに問いかけた。
「その場にいた兵士の……約半数程度でしょうか。目撃した者には、数日程休むように言ってあります」
「そうか。ヴェンツェルやフィリーナがあれだけ憔悴していた光景だ……話を聞くだけでも壮絶だった事が想像できるが……我々は想像するだけだな。兵士の心のケアを怠らないようにしろ。もちろん、ヴェンツェルやフィリーナも、しばらくゆっくり休むように」
「はっ! 昨日一日休ませてもらい、多少は持ち直しましたが……まだ脳裏にこびりついております。陛下のお言葉、ありがたく……」
「……仕方ありませんね。兵士の中から離職者が出ない事を、願いましょう。個々人での聞き取りや、話をする事で多少なりとも楽になる者もいると思いますので、そちらも実行します」
「うむ、ハーロルトに任せる」
精神的なケアをするために、目撃した兵士さんはしばらく休むようだ。
激しい戦闘や激務をこなした、というわけじゃないけど、想像するだけでもかなりしんどい光景を見たのだから、今はゆっくり休んで欲しい。
フィリーナはまだしも、ヴェンツェルさんがしばらく休むという事に、ハーロルトさんが難しい表情をしていたけど、精神的な苦痛を考えて渋々承諾……まぁ、こちらは書類仕事を疎かにしているから、戻って来たらやらせようと考えていたからっぽいけど。
兵士の心のケアに関しては、ハーロルトさんが請け負ってくれたようだけど、トラウマになったり、怖くなって兵士を辞めるという人も出そうなのが心配な様子だね――。
0
あなたにおすすめの小説
「餌代の無駄」と追放されたテイマー、家族(ペット)が装備に祝福を与えていた。辺境で美少女化する家族とスローライフ
天音ねる(旧:えんとっぷ)
ファンタジー
【祝:男性HOT18位】Sランクパーティ『紅蓮の剣』で、戦闘力のない「生産系テイマー」として雑用をこなす心優しい青年、レイン。
彼の育てる愛らしい魔物たちが、実はパーティの装備に【神の祝福】を与え、その強さの根源となっていることに誰も気づかず、仲間からは「餌代ばかりかかる寄生虫」と蔑まれていた。
「お前はもういらない」
ついに理不尽な追放宣告を受けるレイン。
だが、彼と魔物たちがパーティを去った瞬間、最強だったはずの勇者の聖剣はただの鉄クズに成り果てた。祝福を失った彼らは、格下のモンスターに惨敗を喫する。
――彼らはまだ、自分たちが捨てたものが、どれほど偉大な宝だったのかを知らない。
一方、レインは愛する魔物たち(スライム、ゴブリン、コカトリス、マンドラゴラ)との穏やかな生活を求め、人里離れた辺境の地で新たな暮らしを始める。
生活のためにギルドへ持ち込んだ素材は、実は大陸の歴史を塗り替えるほどの「神話級」のアイテムばかりだった!?
彼の元にはエルフやドワーフが集い、静かな湖畔の廃屋は、いつしか世界が注目する「聖域」へと姿を変えていく。
そして、レインはまだ知らない。
夜な夜な、彼が寝静まった後、愛らしい魔物たちが【美少女】の姿となり、
「れーんは、きょーも優しかったの! だからぽるん、いーっぱいきらきらジェル、あげたんだよー!」
「わ、私、今日もちゃんと硬い石、置けました…! レイン様、これがあれば、きっともう危ない目に遭いませんよね…?」
と、彼を巡って秘密のお茶会を繰り広げていることを。
そして、彼が築く穏やかな理想郷が、やがて大国の巨大な陰謀に巻き込まれていく運命にあることを――。
理不尽に全てを奪われた心優しいテイマーが、健気な“家族”と共に、やがて世界を動かす主となる。
王道追放ざまぁ × 成り上がりスローライフ × 人外ハーモニー!
HOT男性49位(2025年9月3日0時47分)
→37位(2025年9月3日5時59分)→18位(2025年9月5日10時16分)
科学×魔法で世界最強! 〜高校生科学者は異世界魔法を科学で進化させるようです〜
難波一
ファンタジー
「魔法ってのは……要はエネルギーの制御だろ?」
高校生にして超人的な科学知識を持つ天才・九条迅は、ある日、異世界アルセイア王国に「勇者」として召喚された。
だが、魔王軍との戦争に駆り出されると思いきや——
「お前、本当に勇者か? 剣も魔法も、まともに使えないのか……?」
「科学的に考えれば、魔法ってのはもっと進化できるはずだ!」
剣も魔法も素人の迅だったが、「魔法を科学的に解析し、進化させる」という異端の方法で異世界の常識を根底から覆し始める!
魔法の密度を最適化した「魔力収束砲」
魔法と人体の関係を解明し、魔力を増大させる「魔力循環トレーニング」
神経伝達を強化し、攻撃を見切る「神経加速《ニューロ・ブースト》」
次々と編み出される新技術に、世界は驚愕!
やがて、魔王軍の知将《黒の賢者》アーク・ゲオルグも迅の存在に興味を持ち始め——
「科学 vs 魔法」「知能 vs 知能」
最強の頭脳戦が今、幕を開ける——!
これは、「魔法を科学で進化させる勇者」が、異世界を変革していく物語!
※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。
真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます
難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』"
ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。
社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー……
……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!?
ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。
「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」
「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族!
「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」
かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、
竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。
「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」
人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、
やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。
——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、
「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。
世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、
最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕!
※小説家になろう様にも掲載しています。
異世界帰りの勇者、今度は現代世界でスキル、魔法を使って、無双するスローライフを送ります!?〜ついでに世界も救います!?〜
沢田美
ファンタジー
かつて“異世界”で魔王を討伐し、八年にわたる冒険を終えた青年・ユキヒロ。
数々の死線を乗り越え、勇者として讃えられた彼が帰ってきたのは、元の日本――高校卒業すらしていない、現実世界だった。
異世界に降り立った刀匠の孫─真打─
リゥル
ファンタジー
異世界に降り立った刀匠の孫─影打─が読みやすく修正され戻ってきました。ストーリーの続きも連載されます、是非お楽しみに!
主人公、帯刀奏。彼は刀鍛冶の人間国宝である、帯刀響の孫である。
亡くなった祖父の刀を握り泣いていると、突然異世界へと召喚されてしまう。
召喚されたものの、周囲の人々の期待とは裏腹に、彼の能力が期待していたものと違い、かけ離れて脆弱だったことを知る。
そして失敗と罵られ、彼の祖父が打った形見の刀まで侮辱された。
それに怒りを覚えたカナデは、形見の刀を抜刀。
過去に、勇者が使っていたと言われる聖剣に切りかかる。
――この物語は、冒険や物作り、によって成長していく少年たちを描く物語。
カナデは、人々と触れ合い、世界を知り、祖父を超える一振りを打つことが出来るのだろうか……。
ガチャと異世界転生 システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!
よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。
獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。
俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。
単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。
ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。
大抵ガチャがあるんだよな。
幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。
だが俺は運がなかった。
ゲームの話ではないぞ?
現実で、だ。
疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。
そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。
そのまま帰らぬ人となったようだ。
で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。
どうやら異世界だ。
魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。
しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。
10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。
そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。
5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。
残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。
そんなある日、変化がやってきた。
疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。
その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
目を覚ますと雑魚キャラになっていたけど、何故か最強なんです・・・
Seabolt
ファンタジー
目を覚ますと雑魚キャラに何の因果か知らないけど、俺は最強の超能力者だった・・・
転生した世界の主流は魔力であって、中にはその魔力で貴族にまでなっている奴もいるという。
そんな世界をこれから冒険するんだけど、俺は何と雑魚キャラ。設定は村人となっている。
<script src="//accaii.com/genta/script.js" async></script><noscript><img src="//accaii.com/genta/script?guid=on"></noscript>
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる