1,808 / 1,955
何かが滲み出るリク
しおりを挟む――先に城に戻る、というか一刻も早く研究を続けたいという雰囲気を醸し出すアルネを送り出し、俺達も少しだけ片付けを手伝っていた。
大きな瓦礫などの撤去はさすがに大掛かりなので、片付けといっても小さい物の除去や、火がくすぶっていないかくらいの見回り程度だけど。
それを続けて、大分片付いたというか現場がかなり落ち着いて、そろそろ俺達も王城に戻ろうかとアマリーラさんやリネルトさんと話していた時、ててて……と一人の女の子が折れに近付いてきた。
炎に囲まれても赤ん坊の男の子を守っていた女の子だね。
「ありがとう、ございました。おかげで助かりました」
「うん、無事でよかった。でも、大丈夫? 無理はしなくていいんだよ?」
ある程度治療は済ませてあるんだろうけど、火傷が体のあちこちにある女の子が、ペコっと俺の前でお辞儀と共に感謝を口にする。
助け出した時に着ていた服は、所々焼けていたためか着替えて綺麗になっているけど、腕や足、それに顔など外に出ている部分に見える火傷が痛々しい。
「痛いけど、でもこれは勲章だから!」
「勲章?」
「うん! 弟を守ったっていう勲章! だから、痛くても我慢できるの!」
「そうなんだ。うん、そうだね。君がいなかったら、あの子はきっと助からなかった。俺が突入した時にはもう手遅れだったかもしれないからね。頑張ったね」
「うん!」
誇らしげに笑う女の子の頭を優しく撫でる。
俺が心配する必要もなく、この女の子は強くてもし跡が残ったとしても大丈夫なんだと思えた。
ただ、あの赤ん坊の男の子とは本当に姉弟ってわけじゃなかったと思うけど……まぁ、弟みたいに思って可愛がっているって事かな。
あれだけの炎に囲まれて、火傷を負っても諦めずに守ろうとした強い女の子、その弟君は色々と大変かもしれないが、頼もしくもあるか……。
なんて、姉を持つ弟として色々と考えてしまいながら、女の子が本当の両親のもとへ駆けて行くの手を振って見送った。
女の子の両親は、泣きながら深く俺に頭を下げ、女の子を連れて行った。
助けられて良かったなぁ。
「よし、少しは元気が出て来たかな」
救助活動で、多くの人を助けられたからといってそれに対する達成感みたいなものは、正直あまりなかった。
アマリーラさんやリネルトさんの報告で、被害が当初考えられていたものより少なくなっていた、と聞いてもだ。
周囲はまだ瓦礫の山だし、まだ完全に煙は晴れていないうえ、強い焦げた臭いに様々なものが混じって思わず鼻を覆いたくなる程だから、清々しい気持ちになんてなれるわけもない。
でも、助けた女の子やその両親が喜んでいる姿を見て、やって良かった、助けられて良かったという気持ちが、心の中に広がっていた暗鬱としたもやのような物を少しだけ晴らしてくれた気がする。
もちろん全てではないけど……でも、決心ができるくらいには前を向いていられる。
女の子は俺にありがとうって言っていたけど、こちらこそ助かってくれてありがとう、俺に助けさせてくれてありがとう、と言いたいくらいだ。
「アマリーラさん、リネルトさん。王城に戻りましょう」
「はっ!」
「はいぃ~」
「戻ったらキューを所望するのだわ~」
もう一度、完全に火が消し止められた周囲の状況を目に焼き付け、アマリーラさん達に声をかける。
そして、王城へと歩き出しながら……。
「エルサも頑張ったから、戻ったらいっぱいキューを食べられるようにお願いするよ」
「お腹がパンパンになるまで食べたいのだわ」
「ははは、まぁ少しは加減してよ? 王城の人達も困るかもしれないから……」
「一応、考慮しておくのだわ」
なんて、エルサへのご褒美の話をしていつもの雰囲気になるよう、自分を抑え込む。
エルサとこれまでと変わらない会話ができているのを確認してから、爆発現場から少し離れた場所で、今話している趙氏と変わらないよう心掛けながら声を出す。
「アマリーラさん、リネルトさん。それからエルサ。王城に戻ったら陛下や他の皆に報告や話をしないといけないけど、それ以外にも大事な話があるんだ。俺がそうするのがいいのかどうか悩んでいたんだけど……決めたよ」
「だ、大事な話……ですか?」
「うん。向こうがどうでもよくなったっていうわけじゃないけど、少なくともこの町に、広く見ればこの国の人達に、大きく悲しむ人が少なくなるように……そうするための決意、決心がね。あ、じゃなかった……決心しましたから」
いけないけない、自分を抑える事やいつも通りの調子で話す事に意識を向けすぎて、アマリーラさん達相手にもエルサと話すような口調になっていた。
多分アマリーラさんは特に気にしたりはしないだろうけど、やっぱりいつも通りを意識するなら、ちゃんとこれまで通り年上のアマリーラさん達と話す時は、言葉遣いに気を付けないとね。
「は……はっ! 了解いたしました! 不肖このアマリーラ、リク様のお話とあれば神経を総動員して耳を傾ける所存です!」
「わ、私も、リネルトも了解しました!」
「……わかったのだわ。ちゃんと聞くのだわ」
「うん、お願いします」
今一緒にいる皆の返ってくる言葉を聞いて、さらに決心を深めつつ、自然に笑っているように口角を上げた。
……ところで、なんで頭にくっ付いているエルサはギュッと、締め付けるようにしながら震えているんだろう?
アマリーラさんやリネルトさんも、何故か尻尾を股に挟もうとしながら体を震わせているんだろうか?
歩きながらだから、上手くいっていないけど。
帰ってきた言葉も、なんだか緊張しているようだったような気がするし……おかしいな。
俺、ちゃんといつも通りに話せていたはずなんだけどなぁ……?
後日聞いた話によると、アマリーラさん、リネルトさんの二人からはヒュドラーやレムレースを見た時の絶望感が可愛く思えるくらいで、よく失神しなかったと自分を褒めたかったと言われた。
エルサは、隔離空間でロジーナを目の前にした時が遊びに思えるくらいだったのだわ、なんて事も言っていたね。
笑顔って威嚇の意味もあるんだと聞いた事があるけど、その時初めて実感した――。
――なんだかんだあって、王城に戻るとすぐヒルダさんに捕まった。
というより、ヴァルニアさんやエッダさんなど、野盗から助けて王城の使用人になった人たちを引き連れ、俺が戻って来るのを待ち構えていたようだ。
ミラルカさん達、クランに所属する予定の人達までいて勢ぞろいだ。
そして何故か、がっしりと両腕を掴れて全員で俺を連行していく……というか、十人近い人たちが全員で掴むって、歩きにくいと思うんですけど。
それと、別に俺は逃げるつもりはないし、怒られるような事はしていないはずなのに……。
あれかな、地下牢を使った事とか? でも許可はちゃんと取ったし。
気分は捕獲された宇宙人だね……宇宙人がどんな事を考えていたのかはわからないし、地球で有名なあの古い白黒写真は実は偽物だったとか言われているけども。
とりあえず、俺は異世界からきているわけだから、ある意味で宇宙人と変わらないのかな? なんて的外れっぽい事を考えながらおとなしく連行された。
途中、ナラテリアさんだかカヤさんだかの手が、エルサのモフモフを撫でていたけど。
うむ、やはりモフモフの普及は必要だね……。
0
あなたにおすすめの小説
「餌代の無駄」と追放されたテイマー、家族(ペット)が装備に祝福を与えていた。辺境で美少女化する家族とスローライフ
天音ねる(旧:えんとっぷ)
ファンタジー
【祝:男性HOT18位】Sランクパーティ『紅蓮の剣』で、戦闘力のない「生産系テイマー」として雑用をこなす心優しい青年、レイン。
彼の育てる愛らしい魔物たちが、実はパーティの装備に【神の祝福】を与え、その強さの根源となっていることに誰も気づかず、仲間からは「餌代ばかりかかる寄生虫」と蔑まれていた。
「お前はもういらない」
ついに理不尽な追放宣告を受けるレイン。
だが、彼と魔物たちがパーティを去った瞬間、最強だったはずの勇者の聖剣はただの鉄クズに成り果てた。祝福を失った彼らは、格下のモンスターに惨敗を喫する。
――彼らはまだ、自分たちが捨てたものが、どれほど偉大な宝だったのかを知らない。
一方、レインは愛する魔物たち(スライム、ゴブリン、コカトリス、マンドラゴラ)との穏やかな生活を求め、人里離れた辺境の地で新たな暮らしを始める。
生活のためにギルドへ持ち込んだ素材は、実は大陸の歴史を塗り替えるほどの「神話級」のアイテムばかりだった!?
彼の元にはエルフやドワーフが集い、静かな湖畔の廃屋は、いつしか世界が注目する「聖域」へと姿を変えていく。
そして、レインはまだ知らない。
夜な夜な、彼が寝静まった後、愛らしい魔物たちが【美少女】の姿となり、
「れーんは、きょーも優しかったの! だからぽるん、いーっぱいきらきらジェル、あげたんだよー!」
「わ、私、今日もちゃんと硬い石、置けました…! レイン様、これがあれば、きっともう危ない目に遭いませんよね…?」
と、彼を巡って秘密のお茶会を繰り広げていることを。
そして、彼が築く穏やかな理想郷が、やがて大国の巨大な陰謀に巻き込まれていく運命にあることを――。
理不尽に全てを奪われた心優しいテイマーが、健気な“家族”と共に、やがて世界を動かす主となる。
王道追放ざまぁ × 成り上がりスローライフ × 人外ハーモニー!
HOT男性49位(2025年9月3日0時47分)
→37位(2025年9月3日5時59分)→18位(2025年9月5日10時16分)
科学×魔法で世界最強! 〜高校生科学者は異世界魔法を科学で進化させるようです〜
難波一
ファンタジー
「魔法ってのは……要はエネルギーの制御だろ?」
高校生にして超人的な科学知識を持つ天才・九条迅は、ある日、異世界アルセイア王国に「勇者」として召喚された。
だが、魔王軍との戦争に駆り出されると思いきや——
「お前、本当に勇者か? 剣も魔法も、まともに使えないのか……?」
「科学的に考えれば、魔法ってのはもっと進化できるはずだ!」
剣も魔法も素人の迅だったが、「魔法を科学的に解析し、進化させる」という異端の方法で異世界の常識を根底から覆し始める!
魔法の密度を最適化した「魔力収束砲」
魔法と人体の関係を解明し、魔力を増大させる「魔力循環トレーニング」
神経伝達を強化し、攻撃を見切る「神経加速《ニューロ・ブースト》」
次々と編み出される新技術に、世界は驚愕!
やがて、魔王軍の知将《黒の賢者》アーク・ゲオルグも迅の存在に興味を持ち始め——
「科学 vs 魔法」「知能 vs 知能」
最強の頭脳戦が今、幕を開ける——!
これは、「魔法を科学で進化させる勇者」が、異世界を変革していく物語!
※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。
真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます
難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』"
ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。
社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー……
……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!?
ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。
「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」
「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族!
「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」
かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、
竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。
「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」
人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、
やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。
——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、
「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。
世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、
最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕!
※小説家になろう様にも掲載しています。
異世界帰りの勇者、今度は現代世界でスキル、魔法を使って、無双するスローライフを送ります!?〜ついでに世界も救います!?〜
沢田美
ファンタジー
かつて“異世界”で魔王を討伐し、八年にわたる冒険を終えた青年・ユキヒロ。
数々の死線を乗り越え、勇者として讃えられた彼が帰ってきたのは、元の日本――高校卒業すらしていない、現実世界だった。
異世界に降り立った刀匠の孫─真打─
リゥル
ファンタジー
異世界に降り立った刀匠の孫─影打─が読みやすく修正され戻ってきました。ストーリーの続きも連載されます、是非お楽しみに!
主人公、帯刀奏。彼は刀鍛冶の人間国宝である、帯刀響の孫である。
亡くなった祖父の刀を握り泣いていると、突然異世界へと召喚されてしまう。
召喚されたものの、周囲の人々の期待とは裏腹に、彼の能力が期待していたものと違い、かけ離れて脆弱だったことを知る。
そして失敗と罵られ、彼の祖父が打った形見の刀まで侮辱された。
それに怒りを覚えたカナデは、形見の刀を抜刀。
過去に、勇者が使っていたと言われる聖剣に切りかかる。
――この物語は、冒険や物作り、によって成長していく少年たちを描く物語。
カナデは、人々と触れ合い、世界を知り、祖父を超える一振りを打つことが出来るのだろうか……。
ガチャと異世界転生 システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!
よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。
獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。
俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。
単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。
ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。
大抵ガチャがあるんだよな。
幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。
だが俺は運がなかった。
ゲームの話ではないぞ?
現実で、だ。
疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。
そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。
そのまま帰らぬ人となったようだ。
で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。
どうやら異世界だ。
魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。
しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。
10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。
そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。
5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。
残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。
そんなある日、変化がやってきた。
疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。
その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
目を覚ますと雑魚キャラになっていたけど、何故か最強なんです・・・
Seabolt
ファンタジー
目を覚ますと雑魚キャラに何の因果か知らないけど、俺は最強の超能力者だった・・・
転生した世界の主流は魔力であって、中にはその魔力で貴族にまでなっている奴もいるという。
そんな世界をこれから冒険するんだけど、俺は何と雑魚キャラ。設定は村人となっている。
<script src="//accaii.com/genta/script.js" async></script><noscript><img src="//accaii.com/genta/script?guid=on"></noscript>
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる