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獣王国へ向かって出発
しおりを挟む「すまないな、獣王国の事を任せてしまって。無事を祈っている」
「ありがとうございます。必ず、獣王国を助けて戻って参ります」
誰に見られても大丈夫なように、それらしい受け答えで姉さんに礼をする。
モニカさんも隣で礼をしているから、多分間違っていないだろう。
姉さんは俺を見送りに来ただけらしく、すぐに分かれて再び運動場へと向かう俺達。
そうして、運動場に到着すると、ユノやロジーナにレッタさん、アマリーラさんとリネルトさんに、冒険者さん、兵士さん達が揃っていた……待たせちゃったかな?
離れた場所には、見送りのようにリーバーを始めとしたワイバーン、さらに騎竜隊の人達だけでなく
「ガァゥガウ」
「ごめんな、今回はリーバー達は連れて行けないんだ」
「ガァゥ……」
集まっていた人達に挨拶をしつつ、エルサに大きくなってもらい、各自の荷物などを載せている間、リーバーとも話す。
俺達を乗せて行けない事を残念がっていたから、戻ってきたらもっと構ってあげないとね。
「あとは……」
「リク様、ヴァルドと申します。以下十五名、陛下の勅命によりこれよりリク様の指揮下に入ります」
「はい、よろしくお願いします」
以前なら俺なんかが、と言っていただろうけど今はそんな問答をしている余裕はない。
クランマスターになったからというのもあるかな? ヴァルドと名乗った兵士さんの言葉を受け取り、頷く。
指揮とかには自信はないけど、合流した兵士さん達はヴァルドさんを含めて全員が訓練の行き届いているのがわかる人達だ、頼りにさせてもらおう。
ちなみに、ヴァルドさんは大隊長になったマルクスさんの代わりに、王軍中隊長に昇格した人で、獣王国へと集まった兵士さん達も隊長格の人ばかりらしい。
さらに言えば、ある程度魔法が使え、弓などが得意な人ばかりだとか。
さすが姉さん……選抜したのは他の人かもしれないけど、俺のやりたい事をちゃんと理解して、選んでくれたらしい。
今も、兵士さん達はそれぞれ自分で使うための弓を持っていたりもする。
支給品っぽくもあるけど、兵士さんによっては使い込まれている雰囲気があったり、形や意匠が少し違ったりと、それぞれの愛用品でもあるみたいだ。
これは期待できそうだね。
「とりあえず、ヴァルドさん達はエルサが作って積み込まれているミスリルの矢の確認をお願いします。見た事もない物をいきなり扱うのは難しいと思いますので」
「はっ、了解いたしました!――各自、物資の積み込みを手伝いつつ、リク様の仰られた通り、自分達が扱う武器の確認だ! 急げ!」
「「「「はっ!!」」」」
ヴァルドさん号令の元、動き出す兵士さん達。
ミスリルの矢……センテでヒュドラーの足止めなどに使った手法だけど、あの時は投擲用だった。
けど今回はさらにそれを進めて、弓矢に近い形で使うように考えている。
もちろん、エルサによる威力増加と標的確定、でいいのかな? そうしたアシストはしてもらうつもりだけどね。
だからこそ、弓の扱いに慣れている人達を集めてもらった。
「リク様! こちら陛下からの書状と――」
「確かに、受け取りました」
準備を進めていると、王城の方から駆けてきたハーロルトさんから、いくつかの書状を渡される。
獣王国の銃王様に渡す物や、その他にもってところだ。
基本的に飛ぶ手段がない世界なので、領空という考え方はないみたいだけど、それでもエルサで急いで向かう以上、それに対する謝罪なりなんなりの物が必要との事だ。
とは言っても、国境に面した関所には一度立ち寄る予定ではあるしそれはしないといけないと言われているけどね……じゃないと、密入国と変わらないし。
ただそれでも、関所から入国したとしてもその知らせが獣王国の王都に到着するのは、俺達よりかなり後になるだろうから、それ以外でも準備が必要だと用意してくれていたってわけだ。
まあアマリーラさんとリネルトさんは、王都に到着し次第魔物がいればそれに対して一度俺達がぶつかれば、力を認められて問題にもならないだろう……なんて事を言っていたけど、さすがにそれだけを頼りにするのは乱暴すぎるからね。
事後承諾に近い方法であっても、これから先国家間の関係のためにもちゃんと正規の段階を経ているというのは、重要だ。
……というのは、冒険者としての依頼でありながら国の要請も含まれているためであるから、と対外対応担当大臣という人に教えてもらった。
日本でいう外務大臣に相当するって姉さんが言っていたけど。
「よし、と」
受け取った書状などを大事にしまい込み、大きくなったエルサの背中に乗り込む。
ちょっと間が開いたけど、やっぱりエルサの背中は相変わらずのモフモフで座り心地がいいなぁ。
初めて乗る人も多く、他の人を見てみると多くの人が何やら感動しているようだった。
頬擦りしている人もいるくらいだけど……まぁエルサが嫌がっていないなら注意する必要もないかな、気持ちはわかるし。
というかエルサは、分厚いモフモフな毛と体が大きい事もあって、ちょっとした事じゃ何も感じない様子だ。
感覚が鈍るのとは違うんだろうけど、大きくなればなるほど小さな事は気にならなくなるのかもしれないね。
「えーっと、全員乗ったかな?」
「えぇ。荷物、人員全て完了したみたいね。今、アマリーラさんとリネルトさんが、エルサちゃんに乗っている時の注意南下を伝えているわ」
先頭、というか一番エルサに声を届けやすい、首に近い辺りに乗る俺が他の人達の確認をするために視線を巡らせていると、隣にやって来たモニカさんがそう言ってくれる。
他の人達の事を気にしてくれていたみたいだ。
アマリーラさん達は、行き先が獣王国だからなのかいつもよりも率先して動いてくれており、エルサに乗る人員や荷物の積載なども指導してくれていたからね。
見れば、頬擦りしていた人もアマリーラさんに言われて止めたようで、落ちないようにしっかり座っている……慣れているのもあるんだろうけど、俺が指揮をするとかよりも全部アマリーラさん達に任せた方がいいんじゃないだろうか?
「おかげで多くの人だけでなく、荷物も多めに乗せられたけど、いつもより随分大きくなれたのねエルサちゃん?」
「リクから多く魔力をもらったのだわ。それを惜しみなく使って飛ぶためにも、大きくしているのだわ」
「まぁ、できるだけ多くの人や物を運ぶためでもあるんだけどね」
今のエルサの大きさは、普段俺達が少数で乗る時よりもさらに大きく、全長で言えば十メートル以上。
多分、これまでに見たエルサの巨大化の中で一番大きい。
ただし、翼は最大の十枚ではなく六枚になっている。
エルサ曰く、物を載せつつそれなりの速度で飛行するためにはこのくらいが一番効率がいいらしい。
魔力に関しては少し前にエルサへまとめて流しておいたし、不足はなさそうだ。
俺から少しずつ流れる魔力だけでは足りなかっただろうけど。
「後で魔力だけじゃなく、キューの補給も要求するのだわ」
「もちろん、そっちもできるだけ積み込んでいるから心配しないで」
むしろエルサにとっては魔力よりもキューの方が重要みたいだけど、それもちゃんと用意している。
カーリンさんのお弁当だけでなく、大柄な男性が二人がかりで運ぶような大きな木箱に大量にね。
獣王国でキューが補充できるかわからないから、往復でエルサが食べるようだったりする。
まぁ、多少はエルサ以外の食料としてでもあるんだけども。
「準備できたのだわ? それじゃあ行くのだわー」
「頼むよエルサ」
「「「「うぉぉぉぉ」」」」
後ろから初めて乗る人達の歓声のような、悲鳴のような声を聞きながら、エルサがふわりと重力を感じさせない様子で浮かび上がる。
ぐんぐんと高度を上げて行くエルサの背中から、地上に向かって手を振った。
俺達を見上げているワイバーン達、兵士さん達に見送られ、そのまま雲が近くなったと感じる頃、北西へと向かって一気に加速。
「ひゃああああ!!」
「ふぉぉぉぉぉ!!」
今度こそ、確実に悲鳴と言える声が後ろに流れて行くのを感じた。
初めてエルサに乗った上に、速度もいつもより速めでお願いしているから、空を飛ぶ機会がほぼないと言っていいこの世界の人からすると、思わず悲鳴が出るのも当然かな。
一応、アマリーラさん達からの注意もあってか、取り乱すほどの人はいないようなので心配しなくても大丈夫だろう。
そのうち、慣れて空からの景色を楽しむ人も出てきそうだ。
「リク、モニカ」
「ん? ユノに、ロジーナも?」
「どうしたの? ユノちゃん?」
王都を飛び立ってから十分程度だろうか。
かなり大きな王城すら遠目にも見えなくなった頃、エルサの背中を走り回っていたユノ達が俺の所に来た。
エルサの背中、人や荷物が多いけどそれでもかなり広いから、慣れると走り回るくらいはできるんだよね、ほぼ揺れないし、方向転換をする時なんかに少し斜めになるのを注意するくらいで落ちる危険も少ない。
……落ちても、風よけのための結界があるから地上まで真っ逆さまという事もないし。
とはいえ、実際に走り回るのはユノ達くらいだろう。
兵士さん達や冒険者さんの一部は、まだ慣れなくて震えているくらいだし……恐怖感の払拭は、もう少しかかりそうだ。
途中で一度食事なども含めての休憩を予定しているから、ちゃんと地上に降りられる事を示せば、大丈夫だろうとは思うけど。
「退屈だから、結界の練習するの」
「退屈って、さっきまで走り回ってたのに……」
まぁ走り回っていた理由は、ユノがロジーナをからかって逃げ回っていただけのようだけども。
仲が悪く反発し合っているように見えて、傍から見ると仲が良さそうに見えるのは、ユノ達にはいわない方がいいんだろう。
ちなみにいつもなら必ず一緒に行動するレッタさんは、何かロジーナに言われたのかこちらに来ていない。
単純に、空を飛ぶ事に慣れていなくてここまで移動するのが怖いのかもしれないけど、でもこちらは、というよりロジーナの事はしっかり視界から外さないようにしている。
「まぁただ飛んでいるだけだから、特に何もないし空の景色を見て楽しむ以外は確かに退屈かもしれないけど……でも結界の練習って、ここでするの?」
「せっかく結界が作れるようになったんだから、できるだけ日を開けずに練習しておくべきなの」
「人間は日が開くと段々忘れる生き物よ。リクが人間かはともかく……」
「いや、俺は人間だよ一応」
「一応はつけちゃうのね……」
隣で苦笑するモニカさん。
いやまぁ、自分でも色々と日本とこの世界を合わせても、人間離れした事をしている自覚はあるからね。
とはいえ自分が人間だというのは、譲れない一線だ。
自信がなくなる時があるから、一応を付けちゃったけど。
「リクが人間かどうかはどっちでもいいの。それより、こうして退屈なのを持て余すよりは結界の練習でもしていた方が有意義なの」
「それは確かにそうだけど……」
「結界の練習なら、動かなくてもいいわ。別に、リクが駄ドラゴンに対して飛んでいる間常に支持を出してなきゃいけないわけでもないでしょ?」
「誰が駄ドラゴンなのだわ!」
ロジーナの声が聞こえたのか、憤慨するエルサ。
それでも、特に揺らすことなく飛び続けているのはもう言われ慣れているからか……。
「リクさんがやる結界の練習、私はあまり傍で見ていないけど、その後の事は任せて」
「まさかのモニカさんもやる気とは」
退屈とは言っても、最近忙しくてあまり話せていなかったモニカさんとゆっくり……なんてのも考えていたのに。
まぁクラン関係だとかその他の話はよくしているんだけども、談笑とか雑談ってのはね。
そのモニカさんに助けを求めるように顔を向けると、何やら意気込んでいる様子。
これは、事前にユノから何か吹き込まれていたっぽい、かな?
「リクが邪な事を考えているのはわかるけど、今はそれよりも重大な事があるの」
「な、なにを言っているのかな? 俺はそんな邪なんて……」
俺の考えを読まれているようで、ギクリとする。
いやでも、ユノが言っているように邪な事なんて考えていないぞ、ただ楽しくモニカさんと話をしたいなぁって程度で……。
「ようやく気持ちやら何やらに気付いて、鈍さの欠片が剥がれたリクの考えはどうでもいいの。それより結界の練習なの」
「どうでもいいって……というか、欠片が剥がれただけなの俺?」
確かにこれまでのモニカさんの様子、冒険者になる前後からこれまでの事を考えると、どうして気付かなかったのかって部分は多いけど。
それも自分の気持ちに気付けたからというのが大きい。
あと、自分に向けられている感情って、意外と言うべきか結構気付きにくいと思うんだよね……なんて心の中で言い訳している俺を他所に、ユノとロジーナ、それにモニカさんが少し俺から距離を取るようにしつつ、スペースを作ってくれる。
……拒否はできなさそうだ、まぁ役に立つ結界の練習をする事に強く反対はしないけども。
「できるだけ早く、私達の求める結界にするの。モニカやソフィー達……ソフィー達は帰ってからになるけど、できれば戻るまでに実用化させておきたいの」
「実用化って……というかモニカさんやソフィー達が、何か関係あるのか?」
「そこは気にしないでいいわ、今わね。それに、モニカ達には既に承諾を得ているから」
「結界を使うのは俺なのに、俺には秘密とはこれいかに……はぁ、何を言っても無駄のようだから仕方ない」
「……秘密にする必要もあまりないけど、リクはまず結界を作る方に集中した方がいいわ」
なんてロジーナが最後にボソッと呟いていたけど、なんにせよ結界にこだわる理由やモニカさん達が関わる内容なんかは教えてもらえそうにないので、溜め息を吐きながら従う事にする。
一応、ある程度移動したら一度休憩をする予定として、その辺りはモニカさんに確認してもらうのと、俺が集中して気付かなかったら教えてもらうようにして、エルサにも一声かけてから結界の準備に入った。
他の人達は、俺が何するのか気になるようでこちらを見ている人がほとんどだ。
注目されているようで、少し緊張するけど……深く集中すると気にならない。
……いや、集中しすぎると魔法としての結界になってしまいすぎるから、いけないのか。
中々難しいな。
「ん……」
皆の視線を感じつつ、自分を中心に魔力を放出し、集中しすぎないように気を付けつつ、形を意識していく。
静まり返っているように感じるのは、誰も喋っていないからか、それとも気にならないくらいには集中しているからか……。
ゆっくりと魔力が変換され始め、イメージの中にノイズが混じり始める。
魔法としての結界を発動させるのではなく、意図的に失敗させる。
でも結界としてはちゃんと形になるように……その見極めが難しいんだけど、一度目の成功から何度か試して少しずつ感覚、コツを掴んできた。
強度を増すために放出する魔力を少し多めに、分厚くさせる。
「ここで……!」
体の奥底、だけど内臓とも言えない部分から感じる痛みが強くなり始め、魔法としての結界になる直前に魔力放出、そしてイメージを止めた――。
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