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奥の手を思い出すリク
しおりを挟む「さて、どうするか……」
触手を避け、それでも少しは意味がある事を願って、魔力吸収モードの剣を突き刺し、叩き付けながら考えを巡らせていると……。
「っ!?」
ドクンッ! と、何かが脈動するような感覚がミュータントを中心に広がった。
思わず後ろに飛んで距離を取る……が、触手が襲い掛かるような事もない。
……なんだ? 魔物達も感じたのか、吸収されまいとミュータントから逃げようとしていたのすら、動きを止めているようだ。
止められている、というより広がった脈動のような感覚を、警戒しているようだね、それは俺も変わらないけど。
「ブガジギグゲゲゴギバリィリュボベベベベベベベベベベベ!!」
「うぅっ!」
大量の魔物がいるというのに、静まり返ったその空間に突然、耳をつんざくような声……いや音が響き渡った。
とんでもない大きさの音は、俺の耳に突き刺さり痛みを感じるくらいだ。
「ギョブバウリリャリャリャゴグビボペヂヂヂヂヂヂヂ!!」
「くぅ……!! あれは……!」
耳を塞いでも貫通してくる大音量。
これは意味をなさない音、いや叫びなのかもしれない。
それが何度も響き渡り、一部の魔物が動きを……いや、生命活動すら止め始めた辺りで、再び突然ミュータントが膨れ上がった。
どんどんと膨れ上がるミュータントは、叫びによって動けない魔物を取り込みつつ膨張。
爆発的に体を膨らませ、そして触手を伸ばし周囲どころか離れた場所にいる魔物をも取り込んでいく。
「俺も取り込もうとしているねっ! っと!」
「ゲギギギギグボベベベポポポプビビデダドドドギュギュパパパ!!」
延々と続く叫びに、耳を塞ぐ手を離せず反撃ができないため、ひたすら距離を取る。
俺が後ろに下がるとほぼ同じくらいの速度で、ミュータントが大きく、膨張、広がっている!
もう、数メートルで収まるような大きさじゃない!
「くっそ……!」
もしかしたら、これがレッタさんの危惧していた事なのか!?
このまま膨張し続ければ、確かに獣王国の王都は壊滅するかもしれない……いや、壊滅なんて生易しい、取り込まれる!
「どうしたら、どうしたらどうしたら……!」
耳を塞ぎ、膨張を続けるミュータントの体や触手から逃れつつ、頭の中はフル回転。
魔物の大群の中を進んでいた時に感じていた嫌な予感は、常に最高を更新し続けている。
このまま成長させては駄目だ、という感覚ばかりで気が焦るけど、対処法が思いつかない!
いっその事、取り込まれて内部で抵抗するか? 外殻が固い魔物などは内部が弱点っていうセオリーみたいなのはあるはずだし。
とはいえ、斬った手応えが液体などの不定形のミュータントの内部が、生物のようにちゃんとした器官が詰まっているとも思えない。
俺が取り込まれて、その魔力すら利用されたらどうしようもない。
吸収された魔物の様子を見るに、全身を覆われた時点で抵抗らしい抵抗はできていなかった。
もし俺が取り込まれたら、それと同じようになる可能性もあるから、わざと取り込まれるのは悪手か……!
「くそっ! くそっ! くそぉ!」
延々と膨張を続けるミュータントは、数十メートル、という大きさすら簡単に超えて、全長も全高も百メートルを優に超える程になっている。
ヒュドラーどころの大きさじゃないぞ……。
もし斬りかかるにしても、もはや大したダメージを与えられそうにない。
失敗したかも……!
「グギョペビパギキキョキョキョキョケキププププペガガガギギビビブ……ゲピョ」
「……ん? 音が、止んだ? それに、膨張も止まった……」
どうしよう、どうすればいい! と頭の中でグルグル考えていると、突然耳障りな、突き刺すような叫び声が止まった。
それと同時に、とんでもない速度で膨張を続けていた体や触手も動きを止める。
静寂が、周囲を包み込む。
「……動かない?」
膨張も叫びも止まり、周囲の魔物も様子を見ているのか動かない。
それだけでなく、先程まで散々撒き散らすように伸ばしていた触手も止まった。
「よくわからないけど、動かないなら今のうちに……!」
どうして止まったのか、理由はわからないけどただ見ているだけというわけにもいかない。
対処法なんて全然考えついていないけど、それを見出すためにも行動を起こすのみ。
再び、巨大になったミュータントへと斬りかかった……。
「っ! ふぅ、はぁ……!」
細切れにする気で何度も斬り付ける。
が、巨大化する前と同じように、斬った手応えもほとんどなく、歪で人の形すらなくした胴体の一部を切り取っても瞬間的に再生する。
ならばと、先程までと違い魔力吸収モードにした白い剣を突き刺してみる。
「……効果は、ないか!」
少しでも効果があれば、と思ったけどほんの少し端の方が朽ちて消滅した程度で、それ以上の効果は見込めなかった。
構造などはわからないけど、もっと奥に魔力が溜まっていて表面的な部分の魔力を削いでも意味がない、とかだろうか。
「結局、打つ手なし……なのか……っ!?」
何をしてもダメ、最終手段としては巨大な胴体を斬り刻みながら、内部へと進むくらいしかできないのかも、と考えていたら、再びミュータントから脈動が発せられた。
それは、確かに心臓の鼓動のような、ドクンッ! という音や振動を周囲に響かせる。
「ま、魔物が!!」
何度か続いた脈動のあと、周囲の魔物達、ミュータントを中心に近い魔物から外へと広がるように消滅していく。
黒い霧のような……おそらく魔力の塊だけを残して、魔物の体が粒子のようになって消えて行っていた。
粒子が黒い魔力の塊になり、引き寄せられるようにミュータントへと向かう。
「うわ、気持ち悪っ!」
思わず声に出てしまったが、消滅した後に残った魔力の塊がミュータントの胴体に近づくと、触手を伸ばすとかではなく生き物の口が表面に現れ、飲み込んだ。
周囲にいる無数の魔物が魔力の塊になり、それら全てを飲み込むために無数の口を開く……。
百目と言う妖怪、全身に無数の目があるという妖怪だけど、それの目を口にしたような感じだ。
体の大きさは規格外すぎるけど。
ミュータントと比べると、巨大化したエルサですら小さく見えるくらいだろう。
そんな巨大すぎる体の全身で無数の口が開くとか、実際に見なくても想像するだけで気持ち悪い。
「こんなの、本当に俺一人でどうにかできるのかな……?」
レッタさんは俺ならと言っていたし、さっきも嘘は言っていないだろうと考えたけど、それも怪しく感じてきた。
斬っても瞬時に再生するし、衝撃も柔らかすぎる胴体に吸収される。
多少魔力を削いでも周囲の魔物から延々と補充されるし、魔力の塊を飲み込み始めてからは、また更に膨張を始めた。
先程の驚異的な速度の膨張ではないけど、それでも脈動と共に膨れ上がるミュータントは、どうにかできるようには思えない。
「というか、触れてもいないのに周囲の魔物から魔力を吸収するって……しかも、魔物が抵抗する間もなく消滅するなんて」
もしかしなくても、レッタさんが危惧していた事はこれなのかもしれない。
オルトスやガルグイユなど、比較的魔力の多い魔物でも一瞬で消滅させられて吸収している。
俺の体からも、多少魔力が吸われている感覚もあるし、魔物と人の区別なんてつけずに無差別に吸収しているんだろう。
そんなの、獣王国の王都に近づけばどうなるかなんて簡単に想像できる。
獣王国の王都が壊滅する……獣人、人間、魔物、その他の種族問わず、全ての生物の魔力が吸われて消滅してしまうだろう。
いや、生き物に限らず魔力を持つ存在なら全てだ。
現に、ミュータントに近い地面の植物、魔物に踏み倒された物も全て消滅し、土も色をなくし……いや、黒く塗り潰されている。
どうして黒いのかとかはわからないが、あれではミュータントがいなくなっても植物が育つのかすらわからない。
こんなの、高次元魔力だっけ? あれを使った赤い光や緑の光よりも、絶望を振りまいているじゃないか。
レッタさんが焦って、俺に早くと急かしていた理由もわかるってものだね。
「レムレースの時はなんとかなったけど、こいつはなんともできそうにないなぁ……ん? レムレース……」
そういえば、レッタさんはレムレースと似ているというのを強調していた。
以前レムレースと戦った時、どうやって倒したっけ? ヒュドラーと共にセンテへ向かっていたのとは違う、森の中にいたレムレースだ。
考えていればあの時、必要ないだろうと高を括っていて、白い剣は持っていなかったはず。
魔力吸収で倒したわけではない……けど、魔力を使わせてとかでもない。
次善の一手などの、魔力を介する攻撃は通用していたけど、でもとどめはそうじゃなかったはず。
「一か八か、という程ではないけど。でも、やってみる価値はあるかもね……」
連戦に次ぐ連戦、さらにミュータントから少量でも魔力を吸収されている状況で、魔力残量が少し心もとないけど、やれるなら試すしかない。
白い剣のおかげで、思ったより減っていないけど、それでも大体半分ってところか。
「魔法以上に雑な感じで、大量の魔力を使うんだけど、仕方ないよね……って、んん!? 今度は何!?」
やって駄目なら、また別の方法を……思いつくかは別として考えなければいけないけど、とにかく試すため魔力を集中させようとした時、再びミュータントが大きく動いた。
今度は、脈動とか膨張とは違い、胴体の形をどんどん変えていく。
胴体の表面からは何かわからない突起のようなものが飛び出し、また別の場所では魔物のような頭が出現する。
グシュ、グチュ……と、耳障りの良くない音と共に、生物のようにも見える何かが胴体の表面に飛び出す。
それは、吸収した魔物の物なのだろうか、見覚えのある頭、尻尾、腕や脚などなど、同じものもあれば歪に形を変えた異形の物まで。
多種多様な黒い物が飛び出した。
「もしかしなくても、吸収した魔物の器官とかなんだろうか……あれとか、どう見てもオルトスだし。あっちはオークかな」
狼っぽい頭が二つ隣り合わせで突出したと思えば、別のところでは豚鼻のオーク顔が出てくる。
アラクネの人間っぽい胴体が飛び出たと思えば、その胴体からアラクネの足や別の魔物と思われる頭なども飛び出た。
歪で醜悪、ただ滅茶苦茶に魔物の部位を掛け合わせ、混ぜたような姿。
おおよそ、生物がしていい姿ではなく、どう見ても不自然で気持ち悪い嫌悪感しか沸かない。
出来の悪い抽象画のようだ、というのはさすがに抽象画が好きな人に文句を言われそうだけど。
しかも全てが黒く、試しに剣で斬ってみたらミュータントの胴体と同じ手応え。
おそらく飛び出てきた物全てが、ミュータントと同等の性質というか一部なんだろう。
「……驚いたし、吐き気がするくらいだけど、とにかくやってみるか……っ!」
ただ観察しているだけではどうにもならない。
とにかく、対処法を見出すために剣を収めて魔力を集中させ、体の奥底から絞り出すように右手の人差し指へと収束させ、固めていく。
魔力を練る、だけでなく本来の魔力としての性質ではなく、魔力そのものを打ち出す……。
「これも、もっとそれっぽい名前を付けたいけど、とにかく……魔力弾!」
手で作るよくある拳銃の形。
それをミュータントへと向け、放つ魔力弾。
数センチ程の太さを持つ光線が、ミュータントへと放たれた。
狙いなんてつけなくても、向こうは視界を覆いつくすほどの巨体、全高も幅も二百から三百メートルはあるんじゃないかという程だ、外れる事なんてない!
「お、これは期待通り……以上かな!?」
人差し指から放たれた魔力弾は、ミュータントの体へと直進し、そのまま風穴を開けつつ貫通していった。
さすがに巨大すぎるため、穴が開いても向こう側の景色が覗けるなんてことはないけど、魔力弾の性質なのかなんなのか、風穴の空いたミュータントの体の再生がかなり遅い。
というより、ほぼされていないに近い……当たりみたいだ!
「アルセイス様には、感謝しないとね!」
魔力弾は、アルセイス様との邂逅によって使えるようになったもの。
引き出してもらったに近い力。
ロジーナに閉じ込められた時や、センテに迫る魔物の一部を削いだ時、レムレースと森で戦った時など、重要な場面で役立ってきた。
それが今回もとは……レッタさんはもしかしたら、この事を知っていたのか?
レッタさんの前では使った事はないし、話していないはずだけど、ロジーナに対して使ったし、魔力に関しては感知する力も含めて特殊な能力を持っている。
もしかしたら、センテで魔物に対して使った時に見ていたのかもしれないけど、レッタさんが知る機会はあったのかもしれないね。
とにかく、これならミュータントをなんとかできるかも! 問題は、俺の魔力が足りるかどうか暗いだ……!
「ミュータントと同じ事をしているみたいで気が引けるけど、今更か。これまでも散々やってきたし……」
呟きながら、再び白い剣を抜いて魔力吸収モードへ。
「ふっ! っと……よし、これで少しは補えるはず」
まだ無事な魔物の近くへ飛び、白い剣で突き刺しつつ魔力を吸収。
ミュータントに吸収されるように消滅したりしないけど、倒れた後は他の魔物と同じように、魔力の塊になってミュータントに食べられた。
魔力弾を放つための補充のためだけど、過程が違うだけで俺もミュータントと同じような事をしているな……いや、そんな事を考えて手を止めるわけにはいかないし、今は考えないでおこう。
白い剣のおかげってところも大きいんだから。
「ふぉっ!?」
何体か、魔物を倒して魔力吸収をしていると、動く物に対してなのか……いや、ミュータントの魔力吸収を邪魔していると判断したのか、俺に集中するように無数の触手が伸びてきた。
数十本どころではなく、数百を越えてそうな、視界を埋め尽くすほどの触手。
それを白い剣で斬り払いつつ、ミュータントから距離を取る。
触手はどこまでも伸びて俺に追従してきたけど、速度は俺の方が速いし、剣で斬り払いながらで対処できる!
「魔物から魔力を吸収するより、こっちの方が効率が良さそう、かな!?」
周囲から魔力を吸収し続け、ひしめくような魔物の大群を消滅させていくミュータント。
触手への対処を介してとはいえ、そのミュータントから魔力を吸収する俺。
なんというか、戦いってこういうものだっけ? と何かの感覚が狂いそうにもなる。
「細かい事は、ミュータントを倒してからにしよう……よし! 指尖弾(しせんだん)!」
魔力弾の弱点でもある、体の底から絞り出して練る必要があるため、瞬間的に放てないのは、迫る触手を回避、打ち払い、対処しながら補う。
これはロジーナ達のおかげだろう、魔力放出や魔力の感知能力を鍛えたおかげで、止まって集中しなくてもそれができるようになっていた。
そして魔力の補充をしながら、体内で練っていた魔力が魔力弾を放つのに十分になり、指先からもう一度放つ。
適当に指先から放つから指尖弾と名付けて、ミュータントへ向かって叫ぶと……。
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