メゾン・クローズ 光と闇のはざまで

平坂 静音

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 学院も辞めなければならないかもしれないし、もう行きたいとすら思わない。そうなると、やはり働かなければならないだろう。真剣に職をさがさなければいけないかもしれない。コンスタンスはニール氏にむかって、おずおずと会釈した。

「コンスタンスです」

「可愛いお嬢さんだねぇ」

 ぶあつい手がコンスタンスの手をにぎる。暖かい蛞蝓なめくじがふれてきたような錯覚を起こし、コンスタンスは手をふりはらいたいのを必死にこらえた。匂ってくる整髪料の匂いにも閉口する。

「そうでしょう? 自慢の娘ですのよ。お話のつづきは、食事をしながらにしましょうよ」
 
 エマはしなだれかかるようにしてニール氏の腕をとると、彼を食堂へ案内した。しかたなくコンスタンスもつづく。

 食欲はなかったが、オレンジ風味の家鴨料理はすばらしく、コンスタンスは自分でも驚くほどよく食べた。思えば、今日は朝にタルティーヌ(ジャム付きパン)を食べただけで、昼食はとらず、午後にクオレといっしょにカフェオレを飲む以外はなにも口に入れていなかったのだ。恥ずかしいぐらいよく食べ、いつもはあまり手をつけないサラダやデザートも完食した。

 エマが瑪瑙色の目を見開いている。

「まぁ、この子ったら、よく食べること」

 わざとらしげに腕を組み、胸の谷間をニール氏に見えるようにする。コンスタンスはせっかく食べた料理の後味が悪くなるのを感じたが、顔には出さないように努めた。

「成長期だからねぇ。若い子がよく食べるのを見るのは楽しいものだよ。しかし、コンスタンス、だったかね、綺麗な髪だねぇ。もっと伸ばしたらさぞかし魅力的になるだろう。……お母さんによく似ている」

「え?」

 母の髪は金髪だったはずだ。コンスタンスの髪は瞳とおなじ鳶色である。

 ニール氏は先に飲んでいたワインが効いたのか、すでに赤くなっている顔をさらに赤らめて、物欲しげな目でコンスタンスを見ている。コンスタンスは不快感をおさえて疑問を口にした。

「おじさまは、……ニールさんは、母をご存知なんですか?」

「おじさまでいいよ。そりゃ、知っているさ。長い付き合いだからねぇ」
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