59 / 116
八
しおりを挟む
エマは苦々しげに顔をゆがめた。
「あいつの借金のために売られて、結局子どもまで取られて。言っておくけれど、マリーだってあんたが考えているような良妻賢母ってわけじゃないんだよ。夫の目を盗んでこっそり男と逢い引きして警察につかまるような女なんだから」
「そ、そのとき、あんたもいたの?」
おや、というふうに薄茶の眉を吊りあげ、エマはいぶかしむ顔になる。
「そんなことまで知っていたのかい? 言っておくけれど、それはあたしじゃないよ。別の女。あいつは、あたしが娼館で必死に働いていたときに、また別の女をつくってそいつとよろしくやっていたんだよ」
それからも魔女の赤い唇から呪詛のような言葉がもれつづけた。
「あんたがなんにも知らず、優しいママンとパパに大事にされて甘やかされているあいだ、あたしは来る日も来る日も自分を騙して売った男と、その女房の生活のために身体を売りつづけたんだ。八年だよ、あたしの青春はめちゃくちゃさ!」
怨恨を吐きだす口から黒い煙が出てきそうだった。コンスタンスは身体がふるえるのを自覚しつつ、訊いてみる。
「そ、それからそこを出てパパと……?」
エマは首を振る。
「出てしばらくは街の酒場で働いていたさ。ちょうどモンマルトルに勤めていたときに……運命のいたずらっていうのかね、あいつと偶然再会したんだよ。恨みもあったけれど、懐かしさも……ちょっとはあったのさ。それで話してみると、ちょうどマリーとはうまくいってない頃で、あたしたちはよりを戻したんだ。言っておくけれど、あいつがマリーと離婚したのはあたしは関係ないよ。お互い別の相手と浮気していたんだからね。あいつもマリーもそういう人間なんだよ。そして、」
エマは親指を自分の胸に向け、いっそ誇りたかいといっていいほど堂々と、いさぎよく言い放つ。
「あたしはこういう人間なのさ。それがあんたの父親と生みの母親と、育ての母親っていうわけさ」
「嘘よ! やめて! やめてよ……」
コンスタンスはいたたまれなさに涙声になってきた。
ふん、とエマはそんなコンスタンスを見て鼻息を荒くした。
「あいつの借金のために売られて、結局子どもまで取られて。言っておくけれど、マリーだってあんたが考えているような良妻賢母ってわけじゃないんだよ。夫の目を盗んでこっそり男と逢い引きして警察につかまるような女なんだから」
「そ、そのとき、あんたもいたの?」
おや、というふうに薄茶の眉を吊りあげ、エマはいぶかしむ顔になる。
「そんなことまで知っていたのかい? 言っておくけれど、それはあたしじゃないよ。別の女。あいつは、あたしが娼館で必死に働いていたときに、また別の女をつくってそいつとよろしくやっていたんだよ」
それからも魔女の赤い唇から呪詛のような言葉がもれつづけた。
「あんたがなんにも知らず、優しいママンとパパに大事にされて甘やかされているあいだ、あたしは来る日も来る日も自分を騙して売った男と、その女房の生活のために身体を売りつづけたんだ。八年だよ、あたしの青春はめちゃくちゃさ!」
怨恨を吐きだす口から黒い煙が出てきそうだった。コンスタンスは身体がふるえるのを自覚しつつ、訊いてみる。
「そ、それからそこを出てパパと……?」
エマは首を振る。
「出てしばらくは街の酒場で働いていたさ。ちょうどモンマルトルに勤めていたときに……運命のいたずらっていうのかね、あいつと偶然再会したんだよ。恨みもあったけれど、懐かしさも……ちょっとはあったのさ。それで話してみると、ちょうどマリーとはうまくいってない頃で、あたしたちはよりを戻したんだ。言っておくけれど、あいつがマリーと離婚したのはあたしは関係ないよ。お互い別の相手と浮気していたんだからね。あいつもマリーもそういう人間なんだよ。そして、」
エマは親指を自分の胸に向け、いっそ誇りたかいといっていいほど堂々と、いさぎよく言い放つ。
「あたしはこういう人間なのさ。それがあんたの父親と生みの母親と、育ての母親っていうわけさ」
「嘘よ! やめて! やめてよ……」
コンスタンスはいたたまれなさに涙声になってきた。
ふん、とエマはそんなコンスタンスを見て鼻息を荒くした。
0
あなたにおすすめの小説
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する
克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
後宮なりきり夫婦録
石田空
キャラ文芸
「月鈴、ちょっと嫁に来るか?」
「はあ……?」
雲仙国では、皇帝が三代続いて謎の昏睡状態に陥る事態が続いていた。
あまりにも不可解なために、新しい皇帝を立てる訳にもいかない国は、急遽皇帝の「影武者」として跡継ぎ騒動を防ぐために寺院に入れられていた皇子の空燕を呼び戻すことに決める。
空燕の国の声に応える条件は、同じく寺院で方士修行をしていた方士の月鈴を妃として後宮に入れること。
かくしてふたりは片や皇帝の影武者として、片や皇帝の偽りの愛妃として、後宮と言う名の魔窟に潜入捜査をすることとなった。
影武者夫婦は、後宮内で起こる事件の謎を解けるのか。そしてふたりの想いの行方はいったい。
サイトより転載になります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる