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七
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「個人でやっている馬車をすべて把握できていないし、ああいう連中は警察とかかわることも警察に協力することも嫌がるもんでね……」
そこで刑事は溜息をもらす。
「我が国でもそろそろ指紋の識別を本気で犯罪捜査に利用できるようになればいいんだがね」
「指紋?」
聞き慣れない言葉にコンスタンスは訝しむような顔になっていた。
刑事の説明によると人は皆指に小さな模様をした皺のようなものがあり、それは全て微妙にちがっており、それを調べることで人物の確定に非常に便利なのだそうだ。
数年前、亜爾然丁では血痕にのこっていた指紋を使って犯人を確定し、逮捕することができたという。二年前には印度の警察に指紋捜査の部局が設立されたそうだ。
「アルゼンチンやインドですでに施行されていることがこの国でできないなんて……。まだ計画の段階だが、イギリスでも近いうちに捜査に指紋を利用できるようにするらしい。我が国の警察は遅れているんだ」
憤懣やる方なさそうにフィオー刑事が顔をしかめる。
「まぁ、その分我が国の警察では犯罪者の身体測定は発達しており、有名なベルティヨン方式があるが。この方法によって、犯罪者が偽名を使っても身元を確定できるんだ」
はぁ……、そうですか、とコンスタンスは力なく呟いた。コンスタンスにはまったく興味のない話である。そのとき、明るい声が聞こえてきた。
「コンスタンス! 良かった、まだいたんだ」
声の方に目をやると、二人のそばに歩み寄ってくる人物がいた。
初夏の光を彼女のみじかい金髪が跳ね返す。そこにいたのは記者のクレオ・ワールである。
「クレオ……さん」
クレオはそばにいるフィオ―刑事を見てかるく会釈した。
「おや、刑事さん。お久しぶり」
こころもち帽子を上げて会釈する。そんな仕草も妙齢のレディというより、洒落た紳士のようだ。クレオを見て刑事は苦々しげに黒い眉をゆがめる。どうやら、驚いたことに二人は知り合いらしい。刑事と記者なのだから、どこかで会っていても不思議はない。
そこで刑事は溜息をもらす。
「我が国でもそろそろ指紋の識別を本気で犯罪捜査に利用できるようになればいいんだがね」
「指紋?」
聞き慣れない言葉にコンスタンスは訝しむような顔になっていた。
刑事の説明によると人は皆指に小さな模様をした皺のようなものがあり、それは全て微妙にちがっており、それを調べることで人物の確定に非常に便利なのだそうだ。
数年前、亜爾然丁では血痕にのこっていた指紋を使って犯人を確定し、逮捕することができたという。二年前には印度の警察に指紋捜査の部局が設立されたそうだ。
「アルゼンチンやインドですでに施行されていることがこの国でできないなんて……。まだ計画の段階だが、イギリスでも近いうちに捜査に指紋を利用できるようにするらしい。我が国の警察は遅れているんだ」
憤懣やる方なさそうにフィオー刑事が顔をしかめる。
「まぁ、その分我が国の警察では犯罪者の身体測定は発達しており、有名なベルティヨン方式があるが。この方法によって、犯罪者が偽名を使っても身元を確定できるんだ」
はぁ……、そうですか、とコンスタンスは力なく呟いた。コンスタンスにはまったく興味のない話である。そのとき、明るい声が聞こえてきた。
「コンスタンス! 良かった、まだいたんだ」
声の方に目をやると、二人のそばに歩み寄ってくる人物がいた。
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