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He is ナニモノ??
⑤
しおりを挟む木の実は、成り行きなのか必然なのか、ジャスティンの甘い誘い文句に乗ってしまった。
きっと、ジャスティンは、本当に困っている人に手を差し伸ばさずにはいられない性格なのだろう。そうじゃなきゃ、あんな風に女の子には興味はないなんて陳腐な嘘をつくはずがない。
そこまで親切にしてくれるのならと、木の実はジャスティンのお宅にお邪魔することにした。
ジャスティンの車は何だかとても高そうな車だった。とはいうけれど、木の実は全く車の知識がない。分かるのは普通車と軽自動車の違いくらいだ。でも、そんな木の実でさえも、ジャスティンの車は超高級車という事は分かった。
「ジャスティンさん、何でそんなに私に親切なんですか?」
木の実は左ハンドルで上手に運転しているジャスティンを見て、そう聞いた。
「ジャスティンでいいよ、それかジャスでも。
あ、それと、それは何でだろう…?
俺もよく分かんないけど、でも、なんか、森の中から間違えて街中に出て来ちゃった子リスを保護したって感じかな。
うん、そんな感じ」
「子リス?」
ジャスティンは木の実を横目で見た。
「そう、似てるよね。よく言われるでしょ?」
木の実は小さくため息をついた。確かに子供の頃はよく言われたけれど、大人になってからそう言われるとちょっと凹む。
「子供の頃はよく言われましたけど、大人になってからは初めてです」
ジャスティンは隣で拗ねている木の実の雰囲気を感じ取っていた。可笑しくて笑いがこぼれる。
「褒めてんのに。
木の実のチャーミングポイントじゃん。
俺は、木の実の子リスのような顔好きだよ…」
木の実は、きっと今、この瞬間は夢を見ているのだと思った。
お金持ちで、それでいてイケメンで外国人で日本語がペラペラで、そんな最高にクールなジャスティンが私の顔を好きだと言ってくれた。それも名前を呼び捨てにして。
もうそれだけで三年は生きていける。
「あ、ありがとうございます…」
恥ずかしい話だけれど、さっきから甘い言葉を囁かれているせいなのか、どうやら私、ジャスティンに恋をしてしまったかも…
「ほら、見えてきた。あのビルが俺の住んでる所」
「え…?」
木の実は東京の一等地にそびえ建つ超高層マンションを間近に見て、口をあんぐりと開けてしまった。
やっぱり私、夢を見ている…?
ジャスティンは木の実を誘導しながら、自分の突拍子もないこの行動を頭の中で整理していた。そして、駐車場に車を入れた後、シートに座ったまま映司にメッセージを送る。
“急用が入ってそこに帰れないから、皆にそう伝えて、代金は明日ちゃんと払う”
“急用って何?”
映司からの返信は無視をした。だって、本当に急用って何だよ?って自分自身に問いかけたくなる始末だから。
高校生の頃は、まだ自分のセクシャリティをよく理解していなかったから、女の子ともつき合ったりした。自分から好きになったわけではなく、つき合ってと言われたからつき合っただけだ。
でも、自分の性への欲求は男にあると分かってからは、極力女の人との付き合いは避けていた。
それでも、女性によっては、自分はゲイだと告白してもしつこくつきまとってくる人がいる。ジャスティンが男とつき合っていても、その関係性の中でジャスティンが男役であるという事が、女達を惑わせてしまうのかもしれない。
ま、でも、実際には、男であれ女であれ、人というものを真剣に好きになった事はない。男の人との付き合いの方が性に合ってるし、好意を抱くのも行為に満足するのもやっぱり男の方だったから。
それなのに…
この子リスの顔をした木の実だけは何かが違う気がして、今、こうやって家にまで連れて来ている。
慈善事業? ボランティア?
うん、一応、そういう事にしておこう。
そうじゃないと、自分自身にも周りの人間にも言い訳ができないから。
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