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He is 日本男児??
①
しおりを挟む木の実は、朝からジャスティンの車に乗っている。ジャスティンの車は素晴らしい。見た目でも乗り心地でも超高級車という事はすぐに分かる。
でも、残念ながら、車音痴な木の実にはその車のブランド名も名前も何も分からない。この最高にカッコいい車が本当に気の毒だ。車音痴な木の実は、動けばどれも一緒というそういう価値観しか持ち合わせていなかった。
「木の実はさ、今、洋服って何枚くらい持ってる?」
木の実はジャスティンのその質問を聞いて、すぐに自分の格好を見た。
「一通りセットで2パターン位かな…
ダメですか…?」
信号待ちで車が止まった時に、ジャスティンは隣に座る木の実の姿を上から下までわざと観察した。木の実は緊張した顔で縮こまっている。
ジャスティンの見立てでは、中のインナーが違うだけでパンツもカーディガンも昨日と一緒だ。髪型も昨日と同じで頭のてっぺんで大きなお団子を作っている。それはそれで、めちゃくちゃ最高に可愛いけれど。
「荷物ってさ、あのトランク一つなの?」
ジャスティンは車を発進させ、横目で木の実の様子を伺いながら聞いてみた。
「荷物は…
私の一切の家財道具は、埼玉の田舎にあるトランクルームに預けてるんです。
取りに行ってもいいんですけど、何せ遠くて…」
「トランクルーム?」
また、木の実は黙り込む。毎回ちょっとだけ情報をチラつかせてシャットアウトするのがいつものパターンだ。
「夜逃げでもした…?」
木の実は明らかに目をパチクリさせた。その微妙な動きを、ジャスティンは決して見逃さない。
「…夜逃げっていう言葉の意味が今一つ分からないのですが、でも、逃げたと言えば、逃げた…
でも、それは夜じゃない… そんな感じです」
ジャスティンは、これは新しいタイプの男を落とす作戦なのかもしれないと、ちょっとだけ思った。
彼女の情報を小出しにされるたびに、それを聞かされる男はますます興味が増すし、彼女の謎に満ちた全てを知りたくなる。
きっと、今のジャスティンと木の実の関係は、子リスが興味本位で作った罠に気取った狼がまんまと嵌まってしまったみたいなそんな感じだろう。
「ねえ、俺にいつになったら話してくれるの?」
聞きたくてしょうがないジャスティンは甘えた声でそう聞いてみた。
「え? 何も話す事はないですよ。何もやましくてヤバい事はありませんから…」
ジャスティンはハンドルをさばきながら、鼻でフフッと笑った。
やましくてヤバい事が大有りだな。
でも、この話はこれ以上膨らまさない事にした。もう信号の先にはアバンクールヒルズTOKYOが見えていたから。
いつもより遅い出勤になったジャスティンを待ち構えていたのは謙人だった。謙人は、ジャスティンが自分のブースに入ったと同時に声をかけてくる。
「ジャス、おはよう」
ジャスティンは面倒臭そうに謙人を見た。謙人は明らかににやつきながらジャスティンを見ている。
「昨夜さ、あの女の子を追ってったろ?」
確かにジャスティンの隣に座っていたのは謙人で、最初に挙動不審の木の実に気づいたのも謙人だった。
「別にそんなんじゃないよ」
ジャスティンは、謙人だけじゃなく他の皆にも木の実の事を話す気はなかった。
男にしか興味がないはずのジャスが期間限定ではあるけれど女の子と住んでるなんて、凪が舞衣にのぼせ上がった以上にここでのビッグニュースになる。
それに、自分の行動自体を理解できていないのに、皆に突っ込まれたら何も説明できない。
「用があったのを思い出しただけだよ」
「シュウか?」
「それは違う」
ジャスティンは朝の習慣のメールやメッセージのチェックを必要以上にやり始める。謙人はそんなジャスティンを面白がって見ている。
「なあ、謙人、邪魔なんだけど」
謙人はにやつきながら、後ろに束ねた髪をもう一度結び直した。
「ジャス、女の子に困ったらいつでも俺に言うんだぞ。ゲイだからって、女の子を抱けないわけじゃないんだから」
謙人はナルシストなくせに、中身は誰よりも究極の男だった。星の数ほどいるセフレの中から、何人かをジャスティンに紹介する事なんて、食事をするより簡単な事だ。
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