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He is ホモサマ??
⑧
しおりを挟むジャスティンは木の実をモナンジュまで送り届けると、帰りも迎えに来ると約束した。
木の実は困った顔をしてそれでもうんと頷いてくれた。でも、すぐにジャスティンを真っ直ぐに見てこう言った。
「今日も私、不動産屋に行ってその後に物件を見せてもらう約束をしてるの。
ジャスティンが邪魔をしないって約束してくれるなら一緒に行ってもいいけど、この間みたいになるなら一人で行きたい」
ジャスティンは顔をしかめて、でもすぐににこやかに頷いた。
「分かった、約束する。邪魔をしないように努力する」
木の実は子リスのように前歯を見せて笑顔で頷いた。
「じゃ、行ってきます」
ジャスティンは木の実が車から出た後も、しばらく車の中からモナンジュをずっと見ていた。
木の実が仕事に行っただけなのに凄く寂しい…
木の実を迎えに行くまでの間、何をして時間を潰そうか。
っていうか、今までの週末の過ごし方を、俺は忘れてしまったみたいだ。
木の実がいないだけで、週末の世界が灰色になった気がする。
俺はヤバい…
マジでいかれてる…
木の実は思っていたほど土曜日が忙しくない事に驚いていた。実際、この界隈は週末より平日の方が人通りが多い。思いのほか、暇なので少し嬉しかった。
「木の実ちゃん、水田さんから聞いたんだけど、家を探してるって?」
オーナーの奥様が思い出したように聞いてきた。
「あ、はい、そうなんです。
ワケあって前の家を急に出る事になっちゃって、今、必死に探してます」
「あなた~、木の実ちゃん、やっぱりそうだって~」
奥様は奥にいるオーナーにそう声をかけた。
「木の実ちゃん、実はね、美味しい話があるのよ」
奥様は店にお客がいない事を確かめてから、木の実に小さな声でそう言った。
「美味しい話ですか?」
「そうなの。
実はね、私の実家が小さなマンションを経営してるんだけど、一つだけ中々決まらない部屋があって。
それが、私の両親の家と中でつながってるのよね。
行き来するドアがあって、実はこの間まで年の離れた弟がそこに住んでたんだけど結婚して出て行ったもんだから、長い間、その部屋だけが空き部屋なの。
ドアはね、鍵をかけちゃえば何も問題はないと思うんだけど、中々借り手がつかなくて、私達も変な人にはそんな部屋だから貸したくもなかったりして」
木の実は、前のめりになって奥様の話を聞いた。
「あの、場所はどこでもいいんです、駅から離れてても都心から遠くても…
や、家賃はどれくらいになりますか…?」
お金がないなんて恥ずかしくて言いたくはないけれど、でも、この際そんな事言ってる場合じゃない。
「場所は結構いい所よ。
駅にも7分位だし、この店までも30分もあれば来れるかな。
家賃は色々面倒な物件だから、4万5千円でどうでしょう?」
「よ、4万5千円??
そんなに安くていいんですか?」
「その代わり、年老いた両親に優しく声をかけたりしてほしいの」
「全然、OKです!
私、ご両親に何かあったらすぐに飛んでいきます。
毎日、お話に行きます」
木の実は、あまりの興奮に大きな声でそう言ってしまった。
「木の実ちゃんだから、この話をしてるのよ。
まだ何日かのつき合いだけど、もうちゃんと分かっている。
木の実ちゃんの人間性やお年寄りに対する気遣いとか優しいところとかね」
木の実は涙が出そうだった。
でも、図々しいと思うけれど聞く事はちゃんと聞かなければ…
「あの、引っ越しは、いつ頃できますか?
それと、敷金とかは?」
奥様は近くに来たオーナーに目配せをしてこう言ってくれた。
「引っ越しは明日でも大丈夫よ。
敷金は…
じゃ、一か月分いただこうかしら。でも、それは、いつでもいいからね」
木の実はもう我慢できずに泣いてしまった。
オーナー夫妻の親切心に心から感謝して、何度も何度も頭を下げた。
ジャスティンと知り合ってから、不思議と幸せな事が次々とやって来る。
ジャスティンは、私にとって、本当の白馬に乗った王子様なのかもしれない。
あ~、早く、ジャスティンに会って話したいよ…
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‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
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彼女が高木書店で働きはじめたのは、3年ほど前から。
短大卒業後、不動産会社で営業事務をしていたが、同期の、親会社の重役令嬢からいじめに近い嫌がらせを受け、逃げるように会社を辞めた過去があった。
そのことは優紀の心に小さいながらも深い傷をつけた。
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一方、高木書店の目と鼻の先に、優紀の兄の幼なじみで、大企業の社長令息にしてカリスマ美容師の香坂玲伊が〈リインカネーション〉という総合ビューティーサロンを経営していた。
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