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He is コイビト??
⑧
しおりを挟む木の実は何も言わずに俯いている。 ジャスティンは、もうそれ以上に何も言葉が出てこなかった。 でも、一つだけちゃんと伝えなきゃいけない事がある、
それを伝えなきゃ、今、俺がここにいる意味はない。
「ヤバい、すごいドキドキしてる…
でも、これだけは言わせてほしい…
俺と、つき合ってもらえませんか…?」
木の実はその言葉を聞くとゆっくりと顔を上げ、大きくまばたきをしてからジャスティンを見た。
でも、何も言わない。
木の実の大きな目は、ジャスティンを通り越して遠い暗闇の風景を見ているように視線がさまよっている。
「ごめん……
俺の中ではすごく単純で純粋な言葉なんだけど、でも、木の実にとっては、難解で重いものなのかもしれないな…
まだ、出会って何日しか経ってないのに、本当、俺ってバカだよな…
でも、バカなついでにもう一つ言わせて……
俺は、木の実と出会えた事に本当に感謝してる。
今まで、長いこと生きてきた中で、多分、精神的なところで幸せを感じた事なんて一度もなかった俺が、初めて、本当の意味の幸せを知る事ができた。
木の実がそばにいる時間は、一分一秒も無駄にしたくない。
だって、幸せだから…
俺の幸せは、木の実がいなきゃ成立しないのかも…」
ジャスティンはそう言った後、頭を掻きむしった。 自分の一方的な強欲な思いに、反吐が出そうだった。
それ以上、もう何も言うな…
困った顔で遠くを見つめる木の実の顔に、もう答えは出てるだろ…?
しばらく沈黙が続いた。
ジャスティンがそろそろ腰を上げようとしたその時、木の実のか細い声が聞こえた。
「シュウさんとつき合ってたの…?」
木の実の口からシュウの名前が出たのが意外だった。
「あ、うん…」
ジャスティンはそう答えるしかできない。
「シュウさんには何て言ったの?」
「ちゃんと話したよ……
シュウも驚いたかもしれないけど、多分、誰よりも一番驚いてるのは俺なんだ…
俺の中の変化は、きっと神様にしか分からない。
宇宙から隕石が落ちてくるよりも低い確率で、木の実は俺の元へやって来た。
男しか愛せないって思ってた俺が、一瞬で女の子の木の実に恋をした。
俺だって、理由なんて説明できないよ。
だから、シュウには、ありのままの俺を見てもらって理解してもらった」
ジャスティンは泣きそうになった。
木の実と出会ってから、一体、何回泣きそうになれば気が済むんだ…?
ジャスティンは、涙なんて自分の中には存在しないと思っていた頃を懐かしく思った。
「ジャスティン、ありがとう……
ジャスティンは、あの時、本当に困ってた私を助けてくれた。
今まで私の周りにはジャスティンみたいな人はいなかったから、最初は興味本位でジャスティンの親切に甘えてた。
でも、私だって、あっという間に、ジャスティンに惹かれていった。
お金持ちとかイケメンとかそういうのは途中から関係なくなって、ジャスティンの全てが魅力的で愛おしくて安心できて、もう大好きで…」
木の実はまた俯いた。
「でも……」
でも……
その言葉がジャスティンの心にこだまする。
「でも、まだ、何も考えられないよ…
ジャスティンの事は好き…
一緒にいたいとも思う…
でも、私の心の中も頭の中も何だか混乱してて、ジャスティンの中で起こってる変化にもまだ何も理解できてない私がいて、だから、今は、返事なんてできないし、しちゃいけないって思うんだ。
もう少し、時間を下さい…
ちゃんと、冷静に、ジャスティンの全てと向き合って考えたい…」
木の実はそう言い終ると、大きく深呼吸をした。
「でも、私は、ジャスティンがそんな大切な事を隠さずに話してくれた事に感謝してる。
私の事を大切に考えてくれてるんだって、心の底からそう思えるから。
だって、私なんか、ジャスティンに隠し事ばっかりだもの…
話したくないことを話す勇気って、そんな簡単なものじゃない事は分かってる」
ジャスティンは木の実の方へ顔を向け力なく微笑んだ。
「話したくない事は話さなくていいんだよ…
俺は、話したいから話したんだ…
勇気が必要だったのは、木の実に嫌われる事が怖かっただけ。
木の実は、俺にたくさん隠し事してても全然構わないよ。
また、木の実は怒るかもしれないけど、たとえ木の実が犯罪者でも、俺は絶対木の実を守る。 この気持ちは何があっても変わらない…」
「また、犯罪者って言うんだから…」
木の実はそう言いながら、涙がこぼれた。
犯罪者だったら、警察に通報しなきゃダメだよ…
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