君の中で世界は廻る

便葉

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花冷えの頃 …8

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「院長先生、奥様、あの…」


きゆは二人の前へ走り寄ったものの、何を言っていいのか言葉に詰まってしまい何も話せない。


「きゆさん…
僕達を許してほしい…

きゆさんがどんなにいい子かっていうのは、僕達が誰よりも知っていたはずなのに、変なプライドに縛られてそういう大切な事まで分からなくなっていた。

僕達もたくさんたくさん悩んで、考えて、やっとここに辿り着いたんだよ。

僕達のせいで、きゆさんがどれだけ苦しんできたかも、手に取るようにわかる。
君は、素直で真面目で本当にいい子だから、身を引くためにここに帰ってきたのも知っていた。

長い間、君を僕達はちゃんと見てきたから、君がそうするだろうとも思っていたんだ。
本当に悪い親だった、今ではきゆさんを傷つけた事を相当に後悔しているよ。

それに、流人はきゆさんなしじゃ生きていけないらしい。
きゆさん、流人をよろしく頼むよ。

それを早く流人ときゆさんに伝えたくて、慌ててこの島までやって来ました…

きゆさん、流人、結婚おめでとう」


大粒の涙を流すきゆに、流人の母がハンカチを渡してくれた。

きゆが涙を拭いて顔を上げると、桜の花びらが舞う中、たくさんの知っている顔が並んでいる。
流人はそんなきゆの手を引いて、その皆が作っているアーチの中を歩き始めた。


きゆがこの島で一番大好きで大切な場所…
流人はちゃんと覚えていてくれた…

この島に一本しかない満開の桜の木の下で、私達は唯一無二の結婚式を挙げる。
指輪がまだ準備できていなかったため指輪の交換はできなかったけれど、流人はこの島の人達を証人にして、誓いの言葉を述べ始めた。


「わたくし、池山流人は、この島の人達に誓います。
固く約束をします。

何があっても浮気はしません」


いきなりのこの言葉に場内に笑いがこぼれる。


「どんなに忙しくても、どんなに億劫でも、どんなに天気が悪く海がしけようとも、この島に一年に一回は必ず帰ってきます。


そして……

この島で生まれ育ったきゆのことを、大切にし、永遠に愛します。

きゆを愛するように、この島も、この島の人達も、大切に思っていきます。

こんないたらない僕達を受け入れてくれて、本当にありがとうございました」



この桜の下に集まっている人々は、皆、本当に流人を愛していた。

海沿いに住んでいる本田のおじいちゃんはマルを連れて離れた所から見ている。
光浦のおばあちゃんは、一番いい場所を陣取って流人の目の前に立っている。

そして、瑛太は、ちゃんとスーツを着こなしてきゆの両親の隣で微笑んでいる。


明日にはこの島から出て行く二人だけれど、流人の残した軌跡は決して消えない。

東京から島の女の子を追いかけてやって来た若いチャラいお医者さんは、いつの間にか島の人気者になり、誰よりも島を愛する人間になった。

小さな島に起こった小さな奇跡は、この桜の木のようにいつまでも皆に愛される。




そして、二人は誓いのキスをした。
真っ青な空とひらひら輝く桜の花びら、そして、島のみんなの黄色い歓声に包まれながら……



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みんなの感想(1件)

あのこ
2020.05.02 あのこ

他のサイトで便葉さんの作品は全部読んでます!
この作品も大好きです
応援してます

2020.05.04 便葉

あのこさん、
素敵なコメントありがとうございます。
「君の中で世界は廻る」の小説も以前のものと少しだけ違ったりするので、楽しんで頂ければ嬉しいです😃
どうぞよろしくお願いします(^^)

解除

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