イケメンエリート軍団の籠の中~エピローグ・空港編・凪、壊れてます~

便葉

文字の大きさ
1 / 1
空港にて

***

しおりを挟む



「舞衣、さっきから思ってたんだけど、スーツケース小さくないか?」


 凪は何泊になるか分からない旅になるはずなのに、舞衣のスーツケースが小さい事がどうも気になっていた。


「そうなんです…
 あまりに急過ぎて、何を持っていけばいいのか分からないまま、今日になっちゃいました」


 今日になっちゃいましたって……
 空港の中、凪が舞衣のスーツケースを引いている。
 小さいし、軽いし、女の子の旅ってこんなもんなのか?
 凪はそんな事を思いながら、時間がないため、舞衣の手とスーツケースを引いて早歩きで搭乗口まで急いだ。

 そして、舞衣のスーツケースを無事にカウンターに預けると、二人は一般の人達が使う入り口とは別の最上位ステータスを保有している会員ためのラウンジへ入った。


「すごい……」


 凪にとってはいつものラウンジも、舞衣にとっては初めての体験らしい。会員の中でもハイグレードメンバー用のラウンジ内を、舞衣は興奮しながら隈なく見て回っている。


「舞衣、あれは忘れてないよな」


 凪は舞衣のためにジュースを持ってきて、テーブルの上に置いた。


「あれって?」


「あれだよ」


 舞衣はポカンとしている。凪は嫌な予感がした。


「うさ子は、ちゃんと持ってきたか?
 全色が希望だけど、でも、きっとかさばるから、せめて二着はあるよな?」


 舞衣の動きがピタリと止まる。さっきまでの楽し気な表情は一気にどこかへ消えて行く。


「あ、あれは、あの、その…」


「あの、その? 何?」


「スーツケースに…
 たぶん、入れてない……」


 凪は静かに目を閉じた。どうして行きの車の中で確認しなかったのか悔やみながら。


「あ、でも、この間、うさ子が売ってるサイトを凪さんが見つけてくれたから、そこでまた注文しましょう。
 そうしましょう、それでOK」


 凪はショックのあまり、舞衣の提案さえ素直に聞けない。


「一つも持ってきてない…?」


 落胆がひど過ぎて、声を出すのもやっとだった。


「はい、ごめんなさい…」


 舞衣はそう言うと、凪の隣に来て凪の肩を抱いてくれた。


「うさ子は逃げませんから…
 ちょっとだけ辛抱してください。
 ほんのちょっとだけですよ」


 凪はマジで泣きそうだった。舞衣は舞衣で、うさ子はうさ子で、でも、舞衣がうさ子で…

 自分のバカさ加減にため息がでるけど、でも、うさ子の舞衣は俺の大好きなペットみたいなもんで、でも、ペットとか言ったら、舞衣が怒りそうだからそんな事は口が裂けても言わないけど、でも、それだけ愛するうさ子なんだ。


「今、注文する」


 凪はスマホであのサイトを開いた。一日でも早く、うさ子に会いたい。舞衣も一緒にスマホを覗きながら、凪は全色注文した。
 アメリカへの発送は一体どれくらいの日にちがかかるのだろう。お届け日が未定となっているのが辛くて、ますます落ち込んでしまう。


「凪さん、夏になったら、うさ子は冬眠しますからね。それは忘れないように」


 凪はまた泣きそうになる。でも、そんなお別れの期間がある方が俺のためにはいいのかもしれない。
 舞衣がいればそれでいい。
 いや、うさ子だって舞衣であって、とにかく俺は、舞衣のうさ子とうさ子の舞衣が大好きなんだから。

 凪はついたてに隠れて、舞衣にそっとキスをした。


「大丈夫だよ…
 だって、今日からずっと舞衣がそばにいてくれるんだからさ」


 
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

イケメンエリート軍団??何ですかそれ??~エピソード ある日のモナンジュ~

便葉
恋愛
モナンジュのある日のストーリー 本編を楽しんでからどうぞ(^^♪

婚約を解消したら、何故か元婚約者の家で養われることになった

下菊みこと
恋愛
気付いたら好きな人に捕まっていたお話。 小説家になろう様でも投稿しています。

恋色メール 元婚約者がなぜか追いかけてきました

國樹田 樹
恋愛
婚約者と別れ、支店へと異動願いを出した千尋。 しかし三か月が経った今、本社から応援として出向してきたのは―――別れたはずの、婚約者だった。

イケメンエリート軍団??何ですかそれ??【イケメンエリートシリーズ第二弾】

便葉
恋愛
国内有数の豪華複合オフィスビルの27階にある IT関連会社“EARTHonCIRCLE”略して“EOC” 謎多き噂の飛び交う外資系一流企業 日本内外のイケメンエリートが 集まる男のみの会社 そのイケメンエリート軍団の異色男子 ジャスティン・レスターの意外なお話 矢代木の実(23歳) 借金地獄の元カレから身をひそめるため 友達の家に居候のはずが友達に彼氏ができ 今はネットカフェを放浪中 「もしかして、君って、家出少女??」 ある日、ビルの駐車場をうろついてたら 金髪のイケメンの外人さんに 声をかけられました 「寝るとこないないなら、俺ん家に来る? あ、俺は、ここの27階で働いてる ジャスティンって言うんだ」 「………あ、でも」 「大丈夫、何も心配ないよ。だって俺は… 女の子には興味はないから」

【完結】オネェ伯爵令息に狙われています

ふじの
恋愛
うまくいかない。 なんでこんなにうまくいかないのだろうか。 セレスティアは考えた。 ルノアール子爵家の第一子である私、御歳21歳。 自分で言うのもなんだけど、金色の柔らかな髪に黒色のつぶらな目。結構可愛いはずなのに、残念ながら行き遅れ。 せっかく婚約にこぎつけそうな恋人を妹に奪われ、幼馴染でオネェ口調のフランにやけ酒と愚痴に付き合わせていたら、目が覚めたのは、なぜか彼の部屋。 しかも彼は昔から私を想い続けていたらしく、あれよあれよという間に…!? うまくいかないはずの人生が、彼と一緒ならもしかして変わるのかもしれない― 【全四話完結】

どうせ運命の番に出会う婚約者に捨てられる運命なら、最高に良い男に育ててから捨てられてやろうってお話

下菊みこと
恋愛
運命の番に出会って自分を捨てるだろう婚約者を、とびきりの良い男に育てて捨てられに行く気満々の悪役令嬢のお話。 御都合主義のハッピーエンド。 小説家になろう様でも投稿しています。

ホストな彼と別れようとしたお話

下菊みこと
恋愛
ヤンデレ男子に捕まるお話です。 あるいは最終的にお互いに溺れていくお話です。 御都合主義のハッピーエンドのSSです。 小説家になろう様でも投稿しています。

つかまえた 〜ヤンデレからは逃げられない〜

りん
恋愛
狩谷和兎には、三年前に別れた恋人がいる。

処理中です...