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善処します
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お城を出るまでのことをエルンストが、冒険者ギルドに行ってからのことはレオが説明してくれるのを、黙って聞く。
自分のことを説明されているのを聞くのは、どうして気恥ずかしいんだろう。
最後まで聞いたギルは、すぐには何も言わずにお茶を飲んだ。そして、私に問う。
「これは本当のことか?」
「うん、大体は。エルンストはちょっと誇張しすぎかなと思うけど」
「私はありのままお話しました」
「もちろん、間違っていないです。ただ、私は数回しか部屋を出ていないので、あまり嫌なことは言われていないんです。毎日部屋から出て必要なものを持ってきてくれたリラや、エルンストさんのほうが嫌な目にあっていたと思います」
「聖女を不快な気持ちにさせることが有り得ないのです!」
「わかった、落ち着け」
ギルに言われたエルンストが、謝罪して口を引き結ぶ。エルンストはお城でのことをとても気にしているので、過剰に反応してしまうようだ。
コツコツと指で机を叩いて思考を整理していたギルが、形のいい唇を開いた。
「サキに聞く。必要な品は届かず、エルンストの厚意によって得ていた。使用人と同じ食事をとった。聖女どころか、女性に対して有り得ない態度をとった。これらに間違いは?」
「間違いないよ。有り得ない態度っていうのが、よくわからないけど……。この世界の知識はあまりないから」
「ふむ……では、どんなことがあった?」
「サキ、はっきりと城であったことだと言わないなら、大丈夫だ」
お城で私に話しかけてきた貴族たちを見ているので、話すのはちょっと怖い。
でもレオがこう言ってくれたし、契約違反をしても痛いだけで死ぬわけではない。
息を吸って背筋を伸ばして、城でのことを思い出す。
「惨めなハズレスキルの持ち主で、卑しい存在で、私が土下座して頼んでも夫にはなりたくないとか、そういう感じです」
「サキさんにそんなことを言ったのですか!? なんて……なんてことを!」
「……そうか、城にいる貴族か。そうか、そうか」
「殺しましょう」
「同感だ」
「ふっ、ふたりとも落ち着いて! 落ち着いてください!」
ゆらりと立ち上がったふたりから殺気が漏れている。慌ててふたりの腕を掴むが、力の差がありすぎる。
「今思えば酷いこと言われたと思いますけど、ほら! ね! 慣れてましたし!」
「慣れていた……? サキさんが?」
優しい笑みを浮かべたエルンストが、腕を掴んでいる私の手をそっとなでる。
「大丈夫ですよ。全員いなくなりますから」
「大丈夫じゃないです!」
「サキ、俺は実力だけ見るとS級だ。心配するな」
「心配するよ! 慣れていたのは前の世界の話だから!」
「前の世界、ですか……? そういえば、サキさんに異世界に関することをお聞きしていませんでしたね」
「あとでお話します! 今はギルさんのことです! 厄介な事情があるんですが、鑑定はしてもらえますか?」
「問題ない」
ギルは、こちらが驚くほどあっさりと頷いた。ぽかんとする私に、ギルは簡単に説明してくれた。
「元から、レオから訳ありの女性が来ると聞いていた。その上で鑑定すると返事をしている。……まあ、思っていた以上に厄介だったが」
「すみませ……じゃなくて、ごめんなさい」
美しい美貌がわずかに歪む。
こういうのを見ると、ギルは生きている男性だと思う。死んでいると思っているわけじゃなくて、黙って考え込んでいる姿は、絵画や彫刻のような美しさがあるのだ。
「……むやみに謝るな。敬語を使うな。ギルさんと呼ばれるのは虫唾が走る」
「あっハイ善処します」
思わず日本人的な返事をしてから、慌てて言い直す。
「よろしく、ギル!」
「それでいい。ここは僕が認めた人間以外入れないようになっている。出入りできるのは、僕とレオだけ。だからサキとエルンストがここにいても、誰も知らない」
「ギルに迷惑がかからないなら、よかった。よろしくお願いします」
「サキさんのスキルを知ることは急務です。ありがとうございます」
エルンストと揃って頭を下げると、ギルは少しだけ眉を寄せてから立ち上がった。
「そろそろ鑑定結果が出る頃だ。見てくる」
そのまま行ってしまったギルの背中を見送って、エルンストと顔を見合わせる。
やっぱり、見知らぬ他人が突然家に来るなんて嫌だったのかな。そういうのを歓迎する人もいるけど、私は歓迎しない派だ。
リラックスできる自分の家に誰かを呼ぶと、掃除したりしなきゃいけないからね……。
今も家賃を引き落とされているかわからないワンルームの賃貸を思い浮かべていると、突然レオが頭を下げた。
「二人ともありがとな。あんなに楽しそうなギルを見るのは久しぶりだ」
「突然お邪魔したので心配だったのですが、楽しんでいただけているなら何よりです」
「えーと、敬語を使ってギルを不快にさせないようにするね」
どんな返事が正解かわからなかったけれど、レオにとっては十分だったようだ。白い歯を見せて明るい笑顔を見せる。
「おう、よろしく!」
なんとなくほっこりとして、出してもらったお茶とクッキーを楽しんでいると、ギルが勢いよくドアを開けて競歩で出てきた。
その顔は興奮して、目が輝いている。驚く私たちに向かってギルは告げた。
「このスキルはすごいぞ!」
自分のことを説明されているのを聞くのは、どうして気恥ずかしいんだろう。
最後まで聞いたギルは、すぐには何も言わずにお茶を飲んだ。そして、私に問う。
「これは本当のことか?」
「うん、大体は。エルンストはちょっと誇張しすぎかなと思うけど」
「私はありのままお話しました」
「もちろん、間違っていないです。ただ、私は数回しか部屋を出ていないので、あまり嫌なことは言われていないんです。毎日部屋から出て必要なものを持ってきてくれたリラや、エルンストさんのほうが嫌な目にあっていたと思います」
「聖女を不快な気持ちにさせることが有り得ないのです!」
「わかった、落ち着け」
ギルに言われたエルンストが、謝罪して口を引き結ぶ。エルンストはお城でのことをとても気にしているので、過剰に反応してしまうようだ。
コツコツと指で机を叩いて思考を整理していたギルが、形のいい唇を開いた。
「サキに聞く。必要な品は届かず、エルンストの厚意によって得ていた。使用人と同じ食事をとった。聖女どころか、女性に対して有り得ない態度をとった。これらに間違いは?」
「間違いないよ。有り得ない態度っていうのが、よくわからないけど……。この世界の知識はあまりないから」
「ふむ……では、どんなことがあった?」
「サキ、はっきりと城であったことだと言わないなら、大丈夫だ」
お城で私に話しかけてきた貴族たちを見ているので、話すのはちょっと怖い。
でもレオがこう言ってくれたし、契約違反をしても痛いだけで死ぬわけではない。
息を吸って背筋を伸ばして、城でのことを思い出す。
「惨めなハズレスキルの持ち主で、卑しい存在で、私が土下座して頼んでも夫にはなりたくないとか、そういう感じです」
「サキさんにそんなことを言ったのですか!? なんて……なんてことを!」
「……そうか、城にいる貴族か。そうか、そうか」
「殺しましょう」
「同感だ」
「ふっ、ふたりとも落ち着いて! 落ち着いてください!」
ゆらりと立ち上がったふたりから殺気が漏れている。慌ててふたりの腕を掴むが、力の差がありすぎる。
「今思えば酷いこと言われたと思いますけど、ほら! ね! 慣れてましたし!」
「慣れていた……? サキさんが?」
優しい笑みを浮かべたエルンストが、腕を掴んでいる私の手をそっとなでる。
「大丈夫ですよ。全員いなくなりますから」
「大丈夫じゃないです!」
「サキ、俺は実力だけ見るとS級だ。心配するな」
「心配するよ! 慣れていたのは前の世界の話だから!」
「前の世界、ですか……? そういえば、サキさんに異世界に関することをお聞きしていませんでしたね」
「あとでお話します! 今はギルさんのことです! 厄介な事情があるんですが、鑑定はしてもらえますか?」
「問題ない」
ギルは、こちらが驚くほどあっさりと頷いた。ぽかんとする私に、ギルは簡単に説明してくれた。
「元から、レオから訳ありの女性が来ると聞いていた。その上で鑑定すると返事をしている。……まあ、思っていた以上に厄介だったが」
「すみませ……じゃなくて、ごめんなさい」
美しい美貌がわずかに歪む。
こういうのを見ると、ギルは生きている男性だと思う。死んでいると思っているわけじゃなくて、黙って考え込んでいる姿は、絵画や彫刻のような美しさがあるのだ。
「……むやみに謝るな。敬語を使うな。ギルさんと呼ばれるのは虫唾が走る」
「あっハイ善処します」
思わず日本人的な返事をしてから、慌てて言い直す。
「よろしく、ギル!」
「それでいい。ここは僕が認めた人間以外入れないようになっている。出入りできるのは、僕とレオだけ。だからサキとエルンストがここにいても、誰も知らない」
「ギルに迷惑がかからないなら、よかった。よろしくお願いします」
「サキさんのスキルを知ることは急務です。ありがとうございます」
エルンストと揃って頭を下げると、ギルは少しだけ眉を寄せてから立ち上がった。
「そろそろ鑑定結果が出る頃だ。見てくる」
そのまま行ってしまったギルの背中を見送って、エルンストと顔を見合わせる。
やっぱり、見知らぬ他人が突然家に来るなんて嫌だったのかな。そういうのを歓迎する人もいるけど、私は歓迎しない派だ。
リラックスできる自分の家に誰かを呼ぶと、掃除したりしなきゃいけないからね……。
今も家賃を引き落とされているかわからないワンルームの賃貸を思い浮かべていると、突然レオが頭を下げた。
「二人ともありがとな。あんなに楽しそうなギルを見るのは久しぶりだ」
「突然お邪魔したので心配だったのですが、楽しんでいただけているなら何よりです」
「えーと、敬語を使ってギルを不快にさせないようにするね」
どんな返事が正解かわからなかったけれど、レオにとっては十分だったようだ。白い歯を見せて明るい笑顔を見せる。
「おう、よろしく!」
なんとなくほっこりとして、出してもらったお茶とクッキーを楽しんでいると、ギルが勢いよくドアを開けて競歩で出てきた。
その顔は興奮して、目が輝いている。驚く私たちに向かってギルは告げた。
「このスキルはすごいぞ!」
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