温泉聖女はスローライフを目指したい

皿うどん

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そのころ王都では7

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 もはや収拾がつかぬ。
 やることが多すぎてどこから手を付けていいかわからない状態で、使える者もいない。あれだけ私をもてはやしていた者たちも登城せず、私を支えず、そのくせ権力だけはしっかり握って離さない。

 ……ほんの少し前までは全てがうまくいっていたのに。

 聖女召喚のための魔法陣が消えたことと、癒しの聖女が消え失せたことは、あっという間に広まった。
 召喚のスキルを持つ者が現れないかぎり、もう聖女は召喚されない。聖女は使えるスキルを持つことが多く、身よりも後ろ盾もなく、子供も産めたというのに……。
 各領は私の意思を無視して、勝手に自分の領を守る政策をすすめている。魔物はこちらの状況など考慮せず、いつも突然襲いかかってくるものだが、王をこれだけ軽んじるなどあり得ない。

 あれだけあった自信が急激にしぼんでいく。この国は私のためにあったのに。

 荒れた執務室で頭痛に耐えていると、ノックもせず執事が入室してきた。もはや咎める気にもなれず、いつも不遜な態度の執事をみやる。


「やっと証拠を掴みました。あなたは”王”のスキルの持ち主ではなかった」


 乾いた笑いが漏れる。
 この国ではまれに「王」のスキルを持つ者が生まれる。その者を王にすると、国は栄えるという。
 私は確かに、自分を王のスキルだと偽った。だが、それがどうした!?
 皆が賛成してくれた。私ならば国を治められる。そのために必要な大義名分を得ただけだ。


「その通りだと言ったら?」
「まあ、わかっていましたが。これだけ無能をさらして国を荒らしておいて、王と名乗るのは無理でしょう」
「っ、黙れ!!」
「まだ真実を直視できないほどのプライドがあったとは」


 馬鹿にしたように笑う執事を睨みつける。ここでこいつを始末すれば、何とかなるかもしれない。
 そこまで考えてハッとした。

 ……何とかなる?
 悪化することはあっても、ここから好転することはないのに?

 自分がそう考えることにぞっとする。


「あなたが王のスキルを持っていたから、みんな喜んであなたを王にした。ですが、もう終わりです。あなたの共犯者は全員捕らえて、牢屋に入れています」


 もうどうにもならないという気持ちと、これでやっと終わるという気持ちがせめぎあう。
 だが、死にたくはない。命が消えずとも、平民のような暮らしをすることも無理だ。
 王族としてうまれた。思い通りにならないことはほんの少しで、それが当たり前だった。私のスキルは「王」ではなかったが、それでも王になれると思っていた。王となり国を自分のものにし、より良くすることなど簡単だと思っていたのだ。


「わかりますか? あなたは王の器ではなかった。それどころか、人の上に立ってはいけない人間だった。あなた達が無能だからできない仕事を、誰がしていると思いますか? あなたがさんざん見下してきた貴族たちです。その人たちが、自分の命を削ってまで国のために働いているから、まだこの程度の崩壊で済んでいるのです。あなたを担ぎ上げた貴族たちは、なにをしていたと思います? 国外へ逃げようとしていた!」


 執事は冷たい視線で、見下すように私を見た。


「私の主はあなたではない。この国を真に思う方の命令で、あなたの執事になりました。あなたが、国に必要な人材を次々と追いやったおかげですよ。私の正体を探りもしなかったおかげで、苦労も少なかったです」


 言葉をきり、わずかに何かを期待するように私を見た執事は、ため息をついて首を振った。私を見る目からは憎しみさえ感じられる。


「……最後まで、自分を補佐してくれる者の名前も聞きませんでしたね。だからあなたは、王の器ではないんです」


 その言葉を合図にして兵たちが部屋になだれ込んできて、私を捕まえた。乱雑に扱われ、痛みで声を上げるが誰も私を気遣わない。


「近衛はどこだ! 騎士団は!?」
「もうあなたに従う者はいませんよ。あなたの味方は全員捕らえました」
「誰か! 誰かいないか!」
「短期間でこれだけ国を壊して、聖女召喚さえ途絶えさせた。あなたの罪は重すぎる」


 乱暴に引きずられて入れられたのは軟禁するための部屋でも貴族牢でもなく、極悪人を収容しておく牢屋だった。
 あまりの臭さに鼻を覆うが、逃げる場所などない。椅子どころかベッドさえもない、汚らしい場所。


「っここから出せ! 早く!」
「潔癖症というのは本当だったのか」
「まあいい、どうせここにも少ししかいない」
「屋根のある場所で寝られるだけ、ありがたいと思ってほしいもんだ」


 誰も私に声をかけることなく去っていく。
 ……大丈夫だ。誰か助けに来てくれる。誰か…………誰が?

 私の味方だった者は捕らえられたと言っていた。捕らえる前から登城してこなかった者たちが、私を助けるとは思えない。


「誰か……誰か」


 つぶやいたが、誰の顔も浮かんでこなかった。ただ、死んでしまった両親の顔がまぶたの裏にちらついただけだった。

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