9 / 9
番外編
試行
しおりを挟む
知らずにいたのなら、どれほどよかっただろう。
己が己でなくなるような感覚を。制御できなくなる感情を。
視線を、思考を、心という不確かなものを、奪われ、埋め尽くされるような想いを。
喜びも悲しみも怒りも、己というすべてを、ただひとりに左右される熱情を。
身を焦がすような、狂おしいまでの衝動を。
──誰かを愛しいと、想う感情を。
「陛下、次の議会の件ですが」
「……ああ」
「あからさまに辟易した顔をしないでいただけますか」
「そうは言うが」
「国が安定して、外交も今のところ問題という問題も上がっていません。となれば」
ウリエルの言いたいことも分かるのだが。
「我の妃なぞ、どこぞの貴族家から適当に選べばよかろうに。番がどうのと」
「未だに根強いですからね。番信仰は」
獣人には生涯にたった1人、運命の相手と言われる『番』というものが存在する。平たく言えば子孫を残すのに相性のいい相手ということだろうが、殊に王家は代々、子ができにくい傾向にある。
番が見つかればまた違うが、よくてなんとか1人といったところ。それでは、不測の事態が起こった場合、血筋が途絶えてしまう。懸念は理解できなくもない。
しかし、王位継承権は王家だけではなし、子もできにくいというだけで、できないわけではないのだ。
「そもそも我の番は、この世界には存在しないのではなかったか」
「スイエルからの報告では確かに」
「まさか、番召喚でもしろというわけでもあるまいに」
「…ああ。最後に召喚されたのは、200年以上前ですからね」
召喚方法は文献として残っているが、不確定要素が多い上に、召喚に必要な鉱石が希少石ときている。採掘量が少量なため、王家管理のものがいくつかある。
「この世界どころか、存在さえ疑わしい番などのために、貴重な資源を使うのは気が乗らん」
「それなりに高価ですしねえ」
「…ウリエル、我が国の国家予算の5分の1は、それなりなのか」
「それなりですよ。公爵家、侯爵家辺りなら可能でしょう?」
「どちらも筆頭くらいでないと難しいだろうが」
「ですが、天文学的数字というわけではありません」
腹の読めない宰相の笑顔に、埒が明かないとばかりに溜息をつく。
「まあいい。取り敢えず、その件は適当に処理しろ」
「仰せのままに」
「──どうしてこうなった」
「…陛下が面倒がったのが原因では?」
「言うな。分かってる」
議会は荒れに荒れた。番を伴侶にしている容認派と、否定派の押し問答が延々と続いたのである。否定派も、強硬に反対というわけではなく、限られている予算を召喚に割くより優先すべきことがあるのでは、というもので。
後継も軽んじていいわけではないが、他に議題もあるというのに、いつまでたっても平行線な言い争いに閉口した。閉じたままで解決するならよかったが、結局は己にかかってくる。決定権という意味で。
無益に時間だけが過ぎていくのもと、最終的に決断を迫られたため、仕方なく折衷案を出したのだ。予算は国ではなく、個人資産から賄うと。どちらにしても死に金になっているので、別段構いはしなかった。
そうして成功するかも分からない、番召喚が決まったのである。
─────*─────*─────*─────*─────*─────
陛下サイド始めました。
己が己でなくなるような感覚を。制御できなくなる感情を。
視線を、思考を、心という不確かなものを、奪われ、埋め尽くされるような想いを。
喜びも悲しみも怒りも、己というすべてを、ただひとりに左右される熱情を。
身を焦がすような、狂おしいまでの衝動を。
──誰かを愛しいと、想う感情を。
「陛下、次の議会の件ですが」
「……ああ」
「あからさまに辟易した顔をしないでいただけますか」
「そうは言うが」
「国が安定して、外交も今のところ問題という問題も上がっていません。となれば」
ウリエルの言いたいことも分かるのだが。
「我の妃なぞ、どこぞの貴族家から適当に選べばよかろうに。番がどうのと」
「未だに根強いですからね。番信仰は」
獣人には生涯にたった1人、運命の相手と言われる『番』というものが存在する。平たく言えば子孫を残すのに相性のいい相手ということだろうが、殊に王家は代々、子ができにくい傾向にある。
番が見つかればまた違うが、よくてなんとか1人といったところ。それでは、不測の事態が起こった場合、血筋が途絶えてしまう。懸念は理解できなくもない。
しかし、王位継承権は王家だけではなし、子もできにくいというだけで、できないわけではないのだ。
「そもそも我の番は、この世界には存在しないのではなかったか」
「スイエルからの報告では確かに」
「まさか、番召喚でもしろというわけでもあるまいに」
「…ああ。最後に召喚されたのは、200年以上前ですからね」
召喚方法は文献として残っているが、不確定要素が多い上に、召喚に必要な鉱石が希少石ときている。採掘量が少量なため、王家管理のものがいくつかある。
「この世界どころか、存在さえ疑わしい番などのために、貴重な資源を使うのは気が乗らん」
「それなりに高価ですしねえ」
「…ウリエル、我が国の国家予算の5分の1は、それなりなのか」
「それなりですよ。公爵家、侯爵家辺りなら可能でしょう?」
「どちらも筆頭くらいでないと難しいだろうが」
「ですが、天文学的数字というわけではありません」
腹の読めない宰相の笑顔に、埒が明かないとばかりに溜息をつく。
「まあいい。取り敢えず、その件は適当に処理しろ」
「仰せのままに」
「──どうしてこうなった」
「…陛下が面倒がったのが原因では?」
「言うな。分かってる」
議会は荒れに荒れた。番を伴侶にしている容認派と、否定派の押し問答が延々と続いたのである。否定派も、強硬に反対というわけではなく、限られている予算を召喚に割くより優先すべきことがあるのでは、というもので。
後継も軽んじていいわけではないが、他に議題もあるというのに、いつまでたっても平行線な言い争いに閉口した。閉じたままで解決するならよかったが、結局は己にかかってくる。決定権という意味で。
無益に時間だけが過ぎていくのもと、最終的に決断を迫られたため、仕方なく折衷案を出したのだ。予算は国ではなく、個人資産から賄うと。どちらにしても死に金になっているので、別段構いはしなかった。
そうして成功するかも分からない、番召喚が決まったのである。
─────*─────*─────*─────*─────*─────
陛下サイド始めました。
10
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
番など、今さら不要である
池家乃あひる
恋愛
前作「番など、御免こうむる」の後日談です。
任務を終え、無事に国に戻ってきたセリカ。愛しいダーリンと再会し、屋敷でお茶をしている平和な一時。
その和やかな光景を壊したのは、他でもないセリカ自身であった。
「そういえば、私の番に会ったぞ」
※バカップルならぬバカ夫婦が、ただイチャイチャしているだけの話になります。
※前回は恋愛要素が低かったのでヒューマンドラマで設定いたしましたが、今回はイチャついているだけなので恋愛ジャンルで登録しております。
『番』という存在
彗
恋愛
義母とその娘に虐げられているリアリーと狼獣人のカインが番として結ばれる物語。
*基本的に1日1話ずつの投稿です。
(カイン視点だけ2話投稿となります。)
書き終えているお話なのでブクマやしおりなどつけていただければ幸いです。
***2022.7.9 HOTランキング11位!!はじめての投稿でこんなにたくさんの方に読んでいただけてとても嬉しいです!ありがとうございます!
私が一番嫌いな言葉。それは、番です!
水無月あん
恋愛
獣人と人が住む国で、ララベルが一番嫌う言葉、それは番。というのも、大好きな親戚のミナリア姉様が結婚相手の王子に、「番が現れた」という理由で結婚をとりやめられたから。それからというのも、番という言葉が一番嫌いになったララベル。そんなララベルを大切に囲い込むのが幼馴染のルーファス。ルーファスは竜の獣人だけれど、番は現れるのか……?
色々鈍いヒロインと、溺愛する幼馴染のお話です。
いつもながらご都合主義で、ゆるい設定です。お気軽に読んでくださったら幸いです。
あなたの運命になりたかった
夕立悠理
恋愛
──あなたの、『運命』になりたかった。
コーデリアには、竜族の恋人ジャレッドがいる。竜族には、それぞれ、番という存在があり、それは運命で定められた結ばれるべき相手だ。けれど、コーデリアは、ジャレッドの番ではなかった。それでも、二人は愛し合い、ジャレッドは、コーデリアにプロポーズする。幸せの絶頂にいたコーデリア。しかし、その翌日、ジャレッドの番だという女性が現れて──。
※一話あたりの文字数がとても少ないです。
※小説家になろう様にも投稿しています
義弟の婚約者が私の婚約者の番でした
五珠 izumi
ファンタジー
「ー…姉さん…ごめん…」
金の髪に碧瞳の美しい私の義弟が、一筋の涙を流しながら言った。
自分も辛いだろうに、この優しい義弟は、こんな時にも私を気遣ってくれているのだ。
視界の先には
私の婚約者と義弟の婚約者が見つめ合っている姿があった。
番認定された王女は愛さない
青葉めいこ
恋愛
世界最強の帝国の統治者、竜帝は、よりによって爬虫類が生理的に駄目な弱小国の王女リーヴァを番認定し求婚してきた。
人間であるリーヴァには番という概念がなく相愛の婚約者シグルズもいる。何より、本性が爬虫類もどきの竜帝を絶対に愛せない。
けれど、リーヴァの本心を無視して竜帝との結婚を決められてしまう。
竜帝と結婚するくらいなら死を選ぼうとするリーヴァにシグルスはある提案をしてきた。
番を否定する意図はありません。
小説家になろうにも投稿しています。
彼女は白を選ばない
黒猫子猫
恋愛
ヴェルークは、深い悲しみと苦しみの中で、運命の相手とも言える『番』ティナを見つけた。気高く美しかったティナを護り、熱烈に求愛したつもりだったが、彼女はどうにもよそよそしい。
プロポーズしようとすれば、『やめて』と嫌がる。彼女の両親を押し切ると、渋々ながら結婚を受け入れたはずだったが、花嫁衣装もなかなか決めようとしない。
そんなティナに、ヴェルークは苦笑するしかなかった。前世でも、彼女は自分との結婚を拒んでいたからだ。
※短編『彼が愛した王女はもういない』の関連作となりますが、これのみでも読めます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる