【本編完結】召喚? 誘拐の間違いでは?

篠月珪霞

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番外編

試行

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知らずにいたのなら、どれほどよかっただろう。

己が己でなくなるような感覚を。制御できなくなる感情を。
視線を、思考を、心という不確かなものを、奪われ、埋め尽くされるような想いを。
喜びも悲しみも怒りも、己というすべてを、ただひとりに左右される熱情を。
身を焦がすような、狂おしいまでの衝動を。

──誰かを愛しいと、想う感情を。










「陛下、次の議会の件ですが」
「……ああ」
「あからさまに辟易した顔をしないでいただけますか」
「そうは言うが」
「国が安定して、外交も今のところ問題という問題も上がっていません。となれば」

ウリエルの言いたいことも分かるのだが。

「我の妃なぞ、どこぞの貴族家から適当に選べばよかろうに。番がどうのと」
「未だに根強いですからね。番信仰は」

獣人には生涯にたった1人、運命の相手と言われる『番』というものが存在する。平たく言えば子孫を残すのに相性のいい相手ということだろうが、殊に王家は代々、子ができにくい傾向にある。
番が見つかればまた違うが、よくてなんとか1人といったところ。それでは、不測の事態が起こった場合、血筋が途絶えてしまう。懸念は理解できなくもない。
しかし、王位継承権は王家だけではなし、子もできにくいというだけで、できないわけではないのだ。

「そもそも我の番は、この世界には存在しないのではなかったか」
「スイエルからの報告では確かに」
「まさか、番召喚でもしろというわけでもあるまいに」
「…ああ。最後に召喚されたのは、200年以上前ですからね」

召喚方法は文献として残っているが、不確定要素が多い上に、召喚に必要な鉱石が希少石ときている。採掘量が少量なため、王家管理のものがいくつかある。

「この世界どころか、存在さえ疑わしい番などのために、貴重な資源を使うのは気が乗らん」
「それなりに高価ですしねえ」
「…ウリエル、我が国の国家予算の5分の1は、それなりなのか」
「それなりですよ。公爵家、侯爵家辺りなら可能でしょう?」
「どちらも筆頭くらいでないと難しいだろうが」
「ですが、天文学的数字というわけではありません」

腹の読めない宰相の笑顔に、埒が明かないとばかりに溜息をつく。

「まあいい。取り敢えず、その件は適当に処理しろ」
「仰せのままに」














「──どうしてこうなった」
「…陛下が面倒がったのが原因では?」
「言うな。分かってる」

議会は荒れに荒れた。番を伴侶にしている容認派と、否定派の押し問答が延々と続いたのである。否定派も、強硬に反対というわけではなく、限られている予算を召喚に割くより優先すべきことがあるのでは、というもので。
後継も軽んじていいわけではないが、他に議題もあるというのに、いつまでたっても平行線な言い争いに閉口した。閉じたままで解決するならよかったが、結局は己にかかってくる。決定権という意味で。
無益に時間だけが過ぎていくのもと、最終的に決断を迫られたため、仕方なく折衷案を出したのだ。予算は国ではなく、個人資産から賄うと。どちらにしても死に金になっているので、別段構いはしなかった。

そうして成功するかも分からない、番召喚が決まったのである。















─────*─────*─────*─────*─────*───── 

陛下サイド始めました。
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