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第119話 四つ脚たちの巣 2
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(……体力的には徐々にってところだな)
(怖い。でも同じか、それ以上に確信もある)
何度か拳を握り確認する。
(あ……また取り合いしてる)
取り出すアプルの在庫が、あれよあれよとはけてゆく。
行列の向こう側、一度食べ終えたのだろう三匹のマーモットが背筋を伸ばし張り上げた胸を押し合い争っている。
(はは、案外平和的な力比べなんだなぁ)
(──力……無事に合流出来たら、なんて説明すればいんだろう……)
少し冷えた頭に去来したあの瞬間のイメージ。
これまでも魔導具だと苦しい言い訳で乗り切ってきたが、あの規模の現象を納得させるモザイクの大きさはどれほどだろうか。
隠し事をしている罪悪感が無かったわけではない。
だがリーフルのこともあるし、真実は己の生活基盤を揺るがしかねない世迷言でもある。
しかしせめてロングにさえ共有できれば。そう思えるほどには、俺たちは信頼し合えているとも思っている。
(……無事生き残ってからの話か。最悪、エドワードさんでも頼ってセンスバーチに鞍替え──)
──「むむむぅ~……」
宙に浮き瞑想しているシルフィから集中の呟きが聞こえる。どうも神力を練り上げてくれているのだそうだ。
これまでの事情を話し判明した、今後の指針とも言える作戦がある。
現在の俺の目的は二つ。リーフルを街に無事連れ帰ること。そして、ロングたちの無事を確認する事だ。
このような状況になってしまった以上、極めてシビアな判断ではあるが花の捜索の優先順位は三番手に回さざるを得ない。
無事に合流出来た上で時間的猶予も残っている。そういった都合のよい状況を引き寄せられた場合に限り、本来の目的へ向かえるのだ。
そして幸いにも、どうやらシルフィには件の狩場の心当たりがあるらしく、この情報により二つの目的──必然的に三つめも包括でき得る目途が立ったのだ。
俺がみんなを救出しようなどと息巻いているわけではない。
相互に目指し合う距離を、こちらからも縮める努力が必要だと考えているのだ。
しかしこれは無謀な思考では無く、安全を担保し得る一つの根拠があってのことだ。
その為の精霊の力。マーモットたちを守護しなければいけない都合で、シルフィはこの巣を離れることが出来ないらしいが、代わりに神力で練り上げた分身が力を貸してくれるらしい。
もっと正確に言えば、縁というウンディーネ様とも体験したあの現象を用い、思念を俺の体に憑依させるらしいのだ。
その効果を確認するべく先程試しにリンクしてもらったのだが、身体の内からシルフィの言葉が聞こえ、リーフルを含めた全身が透明化するという、捜索において願っても無い力を拝借出来るとなれば、多少大胆な作戦に打って出る事は妥当なところのように思う。
この巣の中でただ淡々と救助を待つのが一番安全で確実なのは承知の上だ。
だがその選択は、恐らく今の俺のほとんどを否定する愚策だろう。
このピンチを乗り切ってこそ、真にリーフルを守り切る力を得る試練だと己を奮い立たせ、前を見る選択をするのだ。
「ホーホホ~? (タベモノ)」
「ホッ……」
リーフルが翼を上下させマーモットたちに訴えかけている。
恐らく『ちゃんとみんなの分があるから』と諭しているのだろう。
「はは、そうだなリーフル。アプルはまだまだいっぱいあるもんな」
また二、三個取り出しマーモットたちに分け与える。
「……ヤマト君も寂しい?」
目を瞑ったまま、まるで俺の心を見透かしたように優しげに呟いた。
「え?」
「さっきの君の真剣な瞳。本気なんだなぁってさ」
「ああ……うん」
「だからだよ。助けてあげるのは。へへ……」
「うん。ありがとうシルフィ君」
(寂しさ、か……精霊なんて存在でも、感情的には人間と同じものを抱くなんて意外だったなぁ)
余程俺との出会いを楽しんでいるのか、シルフィが先程語ってくれた話は印象深いものがあった。
『生る』と言っていた、この世に顕現する現象の後、精霊たちはこの世を彷徨う存在となるらしいのだが、シルフィの場合はこの深域に産まれ、しかし周りは攻撃的な生き物ばかりと、しばらくは孤独に暮らしていたのだそうだ。
そんな折、一匹のマーモットを助けた縁から、この大木に住み着きマーモットの群れを守護するようになったらしいのだが『いっぱい懐いてくれて寂しくない』と、心底幸せそうに語っていた。
寂しさとは、知ってしまった以降は抗い難い衝動だろう。
幼少のころから動物に憧れ、小動物を飼う生活を途切れずに継続していた地球での人生。
異世界にやってきても、リーフルを軸に据えたこの人生も。
そして何より、ロングたちやティナも。
喪失の寂しさほど恐ろしいものはない。
リーフルを失ったかもしれないと思ったあの絶望に比べれば、お化け屋敷の踏破など取るに足らないものだろう。
今の俺には理由や動機といったものが多ければ多い方がいい。
平凡が絶対的な恐怖に打ち勝つには、あらゆるものを頼らねばならないのだ。
(三人の戦力を考慮すれば、勝負さえしてもらえるならどんな魔物だろうと勝ちは揺るがないはずだ)
(問題はその後。消耗の具合や次への思考までは推し量れない……)
仮に五体満足に勝利を納めたとして、迅速に次の行動に移れるのか。
指揮という点ではビビットの存在が逞しいし、パーティーの士気もロングがいることで問題にはならない。体力の回復もベルがいれば取り返せる。
問題になるのは相互関係──経過時間の差異になる。
俺が気絶していた空白と、三人が次の行動へと移るまでの時間。そしてこの地点から狩場までの距離。
この広大な森の中ですれ違いなど起きようものなら、もはや俺の、リーフルの死は確定的だ。
危険な捜索行の本質は魔物の存在ではなく、いかに互いの信頼を辿れるかという点にある。
「──ヤマト君。もう少しで溜まりそうだけど、もう行っちゃう?」
「うん。名残惜しいけど、行かなきゃね」 「ホ! (イク)」
立ち上がり周囲のマーモットたちを見渡す。
(会えるよな……!)
ブレスレットを取り出し、確かに巻き付けた。
(怖い。でも同じか、それ以上に確信もある)
何度か拳を握り確認する。
(あ……また取り合いしてる)
取り出すアプルの在庫が、あれよあれよとはけてゆく。
行列の向こう側、一度食べ終えたのだろう三匹のマーモットが背筋を伸ばし張り上げた胸を押し合い争っている。
(はは、案外平和的な力比べなんだなぁ)
(──力……無事に合流出来たら、なんて説明すればいんだろう……)
少し冷えた頭に去来したあの瞬間のイメージ。
これまでも魔導具だと苦しい言い訳で乗り切ってきたが、あの規模の現象を納得させるモザイクの大きさはどれほどだろうか。
隠し事をしている罪悪感が無かったわけではない。
だがリーフルのこともあるし、真実は己の生活基盤を揺るがしかねない世迷言でもある。
しかしせめてロングにさえ共有できれば。そう思えるほどには、俺たちは信頼し合えているとも思っている。
(……無事生き残ってからの話か。最悪、エドワードさんでも頼ってセンスバーチに鞍替え──)
──「むむむぅ~……」
宙に浮き瞑想しているシルフィから集中の呟きが聞こえる。どうも神力を練り上げてくれているのだそうだ。
これまでの事情を話し判明した、今後の指針とも言える作戦がある。
現在の俺の目的は二つ。リーフルを街に無事連れ帰ること。そして、ロングたちの無事を確認する事だ。
このような状況になってしまった以上、極めてシビアな判断ではあるが花の捜索の優先順位は三番手に回さざるを得ない。
無事に合流出来た上で時間的猶予も残っている。そういった都合のよい状況を引き寄せられた場合に限り、本来の目的へ向かえるのだ。
そして幸いにも、どうやらシルフィには件の狩場の心当たりがあるらしく、この情報により二つの目的──必然的に三つめも包括でき得る目途が立ったのだ。
俺がみんなを救出しようなどと息巻いているわけではない。
相互に目指し合う距離を、こちらからも縮める努力が必要だと考えているのだ。
しかしこれは無謀な思考では無く、安全を担保し得る一つの根拠があってのことだ。
その為の精霊の力。マーモットたちを守護しなければいけない都合で、シルフィはこの巣を離れることが出来ないらしいが、代わりに神力で練り上げた分身が力を貸してくれるらしい。
もっと正確に言えば、縁というウンディーネ様とも体験したあの現象を用い、思念を俺の体に憑依させるらしいのだ。
その効果を確認するべく先程試しにリンクしてもらったのだが、身体の内からシルフィの言葉が聞こえ、リーフルを含めた全身が透明化するという、捜索において願っても無い力を拝借出来るとなれば、多少大胆な作戦に打って出る事は妥当なところのように思う。
この巣の中でただ淡々と救助を待つのが一番安全で確実なのは承知の上だ。
だがその選択は、恐らく今の俺のほとんどを否定する愚策だろう。
このピンチを乗り切ってこそ、真にリーフルを守り切る力を得る試練だと己を奮い立たせ、前を見る選択をするのだ。
「ホーホホ~? (タベモノ)」
「ホッ……」
リーフルが翼を上下させマーモットたちに訴えかけている。
恐らく『ちゃんとみんなの分があるから』と諭しているのだろう。
「はは、そうだなリーフル。アプルはまだまだいっぱいあるもんな」
また二、三個取り出しマーモットたちに分け与える。
「……ヤマト君も寂しい?」
目を瞑ったまま、まるで俺の心を見透かしたように優しげに呟いた。
「え?」
「さっきの君の真剣な瞳。本気なんだなぁってさ」
「ああ……うん」
「だからだよ。助けてあげるのは。へへ……」
「うん。ありがとうシルフィ君」
(寂しさ、か……精霊なんて存在でも、感情的には人間と同じものを抱くなんて意外だったなぁ)
余程俺との出会いを楽しんでいるのか、シルフィが先程語ってくれた話は印象深いものがあった。
『生る』と言っていた、この世に顕現する現象の後、精霊たちはこの世を彷徨う存在となるらしいのだが、シルフィの場合はこの深域に産まれ、しかし周りは攻撃的な生き物ばかりと、しばらくは孤独に暮らしていたのだそうだ。
そんな折、一匹のマーモットを助けた縁から、この大木に住み着きマーモットの群れを守護するようになったらしいのだが『いっぱい懐いてくれて寂しくない』と、心底幸せそうに語っていた。
寂しさとは、知ってしまった以降は抗い難い衝動だろう。
幼少のころから動物に憧れ、小動物を飼う生活を途切れずに継続していた地球での人生。
異世界にやってきても、リーフルを軸に据えたこの人生も。
そして何より、ロングたちやティナも。
喪失の寂しさほど恐ろしいものはない。
リーフルを失ったかもしれないと思ったあの絶望に比べれば、お化け屋敷の踏破など取るに足らないものだろう。
今の俺には理由や動機といったものが多ければ多い方がいい。
平凡が絶対的な恐怖に打ち勝つには、あらゆるものを頼らねばならないのだ。
(三人の戦力を考慮すれば、勝負さえしてもらえるならどんな魔物だろうと勝ちは揺るがないはずだ)
(問題はその後。消耗の具合や次への思考までは推し量れない……)
仮に五体満足に勝利を納めたとして、迅速に次の行動に移れるのか。
指揮という点ではビビットの存在が逞しいし、パーティーの士気もロングがいることで問題にはならない。体力の回復もベルがいれば取り返せる。
問題になるのは相互関係──経過時間の差異になる。
俺が気絶していた空白と、三人が次の行動へと移るまでの時間。そしてこの地点から狩場までの距離。
この広大な森の中ですれ違いなど起きようものなら、もはや俺の、リーフルの死は確定的だ。
危険な捜索行の本質は魔物の存在ではなく、いかに互いの信頼を辿れるかという点にある。
「──ヤマト君。もう少しで溜まりそうだけど、もう行っちゃう?」
「うん。名残惜しいけど、行かなきゃね」 「ホ! (イク)」
立ち上がり周囲のマーモットたちを見渡す。
(会えるよな……!)
ブレスレットを取り出し、確かに巻き付けた。
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