12 / 190
1-2 冒険者
第10話 帰還する平凡
しおりを挟む「……っ──みんな無事か……」
疲れ果てたロットが皆の無事を確認している。
「なんとかなったな……」
「ロット大活躍」
「さすがに焦ったわね……」
「お疲れ様ですみなさん」
偶発的遭遇で魔物達と戦う事になった俺達だが、なんとか撃退しミミズクを救うことが出来た。
そういえばあのミミズクはどうなっただろうか、隙を見て逃げ出しただろうか。
「ちょっとあのミミズクの様子を見てきます。すぐに戻ります」
先程隠した木陰を確認に向かう。
「ホ……(ニゲル)」
どうやら逃げ出す体力は残っていなかったようで、ケガを負っている左翼を広げ地面に伏せている。
布を取り出し、応急処置として患部に巻きつけようと翼に触れる。
ミミズクは抵抗のそぶりを見せ力無く翼を動かしている。
「ごめんな。ちょっと我慢してくれ」
加護のおかげで相手の気持ちが伝わろうと、こちらの意思が伝わる訳ではない。
こういう場合はもどかしいが、そのうち伝えられるようになるのだろうか。
◇
「お待たせしました。ケガを負っていたようです」
みんなの元に戻り報告する。
「ホント、ケガしてたのねその子。だから飛んで逃げられなかったんだ」
「先程ヤマトさんはミミズクとおっしゃってましたけど、フクロウとは違うんですか?」
「似てますけど厳密には違います。ほらここ、目の上辺り。ぴょこんと羽が生えてますよね」
「これは羽角と言って、これのある無しで分けられます」
そう説明するものの、俺の記憶では地球に居た時に見たミミズクの羽角と比べて3倍ぐらい大きい気がする。
しかもそれは右側にしか無く、生まれついたものなのか、欠損なのかはわからないが、地球のミミズクとは少し異なるようだ。
「それにしてもヤマト、お前記憶喪失になったって聞いてたけど、よくそんな事知ってるな」
「き、記憶を取り戻そうと色々勉強しまして──ハハハ……」
騙すつもりなどないが、誤魔化す度に罪悪感を感じる。
「そ、それよりも! これからは帰りなので、ブラックベアとローウルフは持ち帰りますよね?」
「ですね。またアイテムBOXお願いできますか?」
「わかりました。モギも含めて買取に出しておこうと思いますけど、どなたか付き添いをお願いできますか?」
「いらない。換金後に後日集合で良い」
そう端的に言いきるショート。案外俺を信用してくれているようだ。
「そうだぜ、もうクタクタだ、さっさと街に帰ってメシ食って寝てえ」
「その子はどうするの?」
「とりあえず回復するまでは俺が街で面倒見ようと思います」
「それじゃあ帰ろうか!」
無理をしない方針の俺からすれば、しっかりとした命の危機を感じたのは転移初日のスライム以来か。
未知の緑翼のみんなのおかげで難を逃れた俺は、ミミズクを抱えて帰路についた。
◇
「じゃあ明後日の夜、ギルドの酒場で待ち合わせましょう」
「今日は本当にありがとうございました」
「ふふ、ヤマトさん、大活躍だったわね。命拾いしたわ、ありがとね」
「雑談は明後日だ! メシだメシ!」
「ロット、挨拶は大事」
街へ着いた頃には陽も落ち、辺りを照らす街灯代わりの魔道具に火が入れられすっかり夜の雰囲気だ。
さすがに俺も慣れない仕事に疲れたので、早々に受付へ向かうことにする。
「あ! お帰りなさいヤマトさん。どうでした?──ってその鳥ちゃんは……?」
「ハハ、色々ありまして……調査は無事終了しました」
「そうですか……今日はお疲れでしょうし、書類を提出いただいて詳しい話はまた後日で構いませんよ」
「ありがとうございます。それと、買取をお願いできますか? 預かってまして。少々量が多いので、カウンターの前に出しますね」
収納していたモギと、撃退した魔物達をギルド内に放出する。
『はあっ? なんだあの量……』 『おいおい……ブラックベアが二体だと⁉』
他の冒険者達がざわついている。
「きょ、今日は随分大量ですね……」
「ええ、ですけどもちろん全て未知の緑翼のみなさんの成果ですよ。俺はただの荷物持ちなんで」
『──ああ、ちげえよ。そういや荷物持ちだもんなあいつ』 『そうだった。今朝未知の緑翼と出掛けるとこ見たわ俺』 『でもあんな大量に……』
わずかに聞こえてくる内容からして、どうやら誤解のまま厄介を招く事は無さそうだ。
「査定には時間がかかるでしょうし、今日はこれで失礼します」
「はい、承りました。お疲れさまでした!」
用事を済ませ寄り道することなく宿へと帰ることにした。
◇
「お帰り、ヤマトさん。今日は遅かったわね」
「ただいまシシリーちゃん。うん、今日は遠出だったからね」
「──って! わぁ……鳥ちゃんだ。ケガしてるみたいだけど、どうしたの?」
「森で保護したんだよ。治るまでは俺が面倒見てやろうかと思って」
「あでも、宿的にはマズい………かな?」
「ん~ん、問題ないわよ。ヤマトさんが見るなら滅多なことはないと思うし」
「そう言ってくれて助かるよ」
1年の付き合いの賜物か。地球でもそうだったが動物を入れる行為は嫌がられる事が多いが、受け入れてもらえてよかった。
「食べてないでしょ? 夕飯はどう──部屋よね。鳥ちゃんもいるし。」
「うん、部屋にお願い。あと、生の状態で肉を一切れ用意してくれないかな?」
「鳥ちゃん用ね。わかった、後で持っていくわね~」
迷惑料も含めて普段の倍、銀貨二枚を手渡し部屋に帰る。
(しまった、止まり木が無い………まぁ伏せの状態の方が今は楽だろうし、明日以降考えるか)
備え付けのタンスの上にある、底の深いパンを入れる籠に枕を入れ、その上にミミズクを寝かせてやる。
(こんな激動の日は転移後初だな……それにこの子………治るといいけど)
イスに腰掛け、今日の出来事を思い出しながら一呼吸つく。
扉を叩く音が響く。
「シシリーよ。夕食を持って来たわ」
「あ、ありがとう。今開けるね」
明日の仕事は休みにして、ミミズクの世話をしよう。
250
あなたにおすすめの小説
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします
雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました!
(書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です)
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。
神に同情された転生者物語
チャチャ
ファンタジー
ブラック企業に勤めていた安田悠翔(やすだ はると)は、電車を待っていると後から背中を押されて電車に轢かれて死んでしまう。
すると、神様と名乗った青年にこれまでの人生を同情され、異世界に転生してのんびりと過ごしてと言われる。
悠翔は、チート能力をもらって異世界を旅する。
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
連載時、HOT 1位ありがとうございました!
その他、多数投稿しています。
こちらもよろしくお願いします!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。
もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。
異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。
ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。
残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、
同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、
追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、
清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる