平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ

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1-7 想う心

第36話 草食動物

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(ちょっと気持ち悪いけどしょうがないよなぁ……討伐の証明に必要だし、換金しないともったいないしな)

 異次元空間を操作し、ストークスパイダーを収納する。

 特に虫が苦手という訳では無いのだが、さすがに二メートル級のジョロウグモとなるとえらく迫力があり気色悪いもので、自分の専用空間に存在すると思うと直接触れたわけでもないのに何だか鳥肌が立つ。

 こんな時思い出すのは、やはり地球での暮らしだ。

 同じ蜘蛛でも地球の"ハエトリグモ"は益虫として親近感もあったし、よく見ると愛くるしい顔をしていて、家の中で見かけても追い払う事無く一緒に住んでいたものだ。

「あんたすごいねぇそれ。ユニーク魔法ってやつかい?」

「ええ、そのような物です」

 初見の人には驚かれる事が多いアイテムBOX。だが"スキル"であって"ユニーク魔法"とは説明を受けていないので、厳密には違うのだろう。

 仮に違うのであれば、俺にもユニーク魔法が発現する可能性があるのだろうか?

 疑問は尽きないが、折角牧場へと来られる仕事クエストを選んだのだから、一つお願いしてみる事にした。

「あのぉ……突然ですが、お邪魔でなければ牧場の見学をさせていただけませんか?」

「別に構わないけど、ここには牛とニワトリぐらいしか居ないよ?」

「あんた、牛なんて珍しくもないだろうに、変わり者だな。はは」

「いえ、それがいいんです!」

 クエストの報酬とは別の報酬。

 どこか能天気に期待していた牧場の見学させてもらうことにした。



(おぉ~……お乳がパンパンに張ってる)

(観光牧場じゃないし、乳搾り体験なんてやってないんだろうなぁ)

 牛舎に整列して用意された干し草を食んでいる牛を眺めていると懐かしく感じる。

 故郷日本に対する寂しさもない訳では無いが、この世界には動物を愛でたり飼育する習慣がまだまだ少ないので、それをもどかしく想う方が大きい。

(外に放牧されてる牛のところに行ってみよう)

 戦闘をしていた入り口側とは反対側へと牛を眺め歩いていると、聞き覚えのある鳴き声が聞こえてくる。

「キュルキュルキュル……」 「プイプイププ……」

 どこか気の抜けたような高い鳴き声。

 "モルモット"だ。

 牛に与えられた地面に広がる干し草を、モルモットが数匹集まって盗み食いしている。

 後ろを付いてきていた従業員の男性に事情を聞いてみることにする。

「あの、このモルモット達は飼育されているものですか?」

「んにゃ、そいつらは野生だよ。いつも牛達にエサをやりだすと、どこからやって来るのかねぇ、いつの間にかいるんだよ」

「えっ、ペットじゃ無いんですか⁉」

「当たり前だろ? モルモットを飼ってるやつなんて見た事ないよ」

 この世界ではモルモットが野生で存在するらしい。

 確か我々に親しみのあるモルモットとは、野生種が家畜化されて久しい動物だったはず。

 まぁ魔物なんてものが存在する世界で、地球との多少の差異は今更の話なのだが。

 種類に関しては地球とあまり違いは無いようで、つむじがある巻き毛の子だったり、短毛な子だったり、毛色も二、三色を纏っている。

「プーイ! プーイ!」 「グルルル」

 どうやら俺達に気づいて、仲間に警戒を呼び掛けているようだ。

 俺も日本に居た頃飼っていたが、よく喋り表情豊かで癒される。

 モルモットは意外と上下関係に厳しく、複数飼いしていると、実力行使──前歯を当ててどちらが上かをはっきりさせる行動──の現場をよく目にしたものだ。

 自分に縁のある動物に出会うと、俺のペット達はどうしているかと気掛かりだが、同僚の坂本さんに任せると神様が言っていたし、大丈夫だろうと納得するしかない。

「実は昔モルモットを飼ってまして。かわいいですよね~」

「え? モルモットをかい? ホント変わってるねえあんた。干し草勝手に食べちまうし、うちとしてはいい迷惑だよ」

「対策はどのように?」

「組合に所属してる人間が当番制な都合で、毎日同じ人間が作業してる訳じゃなくてね。だから対策も人によりけりだなぁ。俺の場合は見逃してる事が多いな」

「牛達の分を脅かすほど盗み食いされるわけでは無いんですね」

「まぁあんたの言う通り見てて可愛くはあるからな。一つ作業中の癒しだよ」

 見た目が可愛いのは誰が見ても間違いない。

 この世界でも動物を飼い愛でる習慣が根付けば、ビジネスチャンスも生まれ、人の生活がより豊かな物になりそうなんだが。

 この従業員が言ったように、潜在的には皆一様に愛でる心を持ってるはず。
 
「なら思い切ってこの牧場で飼育してみるというのはどうでしょうか?」

「はっ、どうしてまたそんな。無理無理。牛の面倒見るだけで手一杯だよ」

「どうせ盗み食いされるならペットとして飼って、正式に癒してもらうんです。モルモット達はエサを貰え、外敵から保護されて安心出来ますし。従業員のみなさんはホッと一息つく時間に、愛らしい姿を見て癒される。お互いに得出来ますよ?」

「う~ん、とは言ってもなぁ。確かに魅力を感じる考え方だが俺の一存では決められないし……」

「なんならクエストの完了報告のついでに、ギルドを通して畜産組合へ提案しておきますよ」

「お。そうかい? そういう事なら俺も興味が出て来たし、色々と根回ししてみるか……」

 どのみち数が増え過ぎればモルモット達は害獣認定されて、駆除対象となってしまうのだ。

<求 モルモット駆除>

 なんて依頼が掲示板に張り出され、俺が担当する事になるかもしれない未来なんてごめんだ。

 だったら事前に少し動いて『観光牧場としての運用もありますよ』と提案した方がいい。

 乳搾り体験を勧めてみるのもいいかもしれない。

 冒険者なので野生との接触は多いが、夕方のエサやりだけではなく、たまには癒しの動物と殺伐としないふれあいをしたいものだ。
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