41 / 190
1-7 想う心
第36話 草食動物
しおりを挟む(ちょっと気持ち悪いけどしょうがないよなぁ……討伐の証明に必要だし、換金しないともったいないしな)
異次元空間を操作し、ストークスパイダーを収納する。
特に虫が苦手という訳では無いのだが、さすがに二メートル級のジョロウグモとなるとえらく迫力があり気色悪いもので、自分の専用空間に存在すると思うと直接触れたわけでもないのに何だか鳥肌が立つ。
こんな時思い出すのは、やはり地球での暮らしだ。
同じ蜘蛛でも地球の"ハエトリグモ"は益虫として親近感もあったし、よく見ると愛くるしい顔をしていて、家の中で見かけても追い払う事無く一緒に住んでいたものだ。
「あんたすごいねぇそれ。ユニーク魔法ってやつかい?」
「ええ、そのような物です」
初見の人には驚かれる事が多いアイテムBOX。だが"スキル"であって"ユニーク魔法"とは説明を受けていないので、厳密には違うのだろう。
仮に違うのであれば、俺にもユニーク魔法が発現する可能性があるのだろうか?
疑問は尽きないが、折角牧場へと来られる仕事を選んだのだから、一つお願いしてみる事にした。
「あのぉ……突然ですが、お邪魔でなければ牧場の見学をさせていただけませんか?」
「別に構わないけど、ここには牛とニワトリぐらいしか居ないよ?」
「あんた、牛なんて珍しくもないだろうに、変わり者だな。はは」
「いえ、それがいいんです!」
クエストの報酬とは別の報酬。
どこか能天気に期待していた牧場の見学させてもらうことにした。
◇
(おぉ~……お乳がパンパンに張ってる)
(観光牧場じゃないし、乳搾り体験なんてやってないんだろうなぁ)
牛舎に整列して用意された干し草を食んでいる牛を眺めていると懐かしく感じる。
故郷に対する寂しさもない訳では無いが、この世界には動物を愛でたり飼育する習慣がまだまだ少ないので、それをもどかしく想う方が大きい。
(外に放牧されてる牛のところに行ってみよう)
戦闘をしていた入り口側とは反対側へと牛を眺め歩いていると、聞き覚えのある鳴き声が聞こえてくる。
「キュルキュルキュル……」 「プイプイププ……」
どこか気の抜けたような高い鳴き声。
"モルモット"だ。
牛に与えられた地面に広がる干し草を、モルモットが数匹集まって盗み食いしている。
後ろを付いてきていた従業員の男性に事情を聞いてみることにする。
「あの、このモルモット達は飼育されているものですか?」
「んにゃ、そいつらは野生だよ。いつも牛達にエサをやりだすと、どこからやって来るのかねぇ、いつの間にかいるんだよ」
「えっ、ペットじゃ無いんですか⁉」
「当たり前だろ? モルモットを飼ってるやつなんて見た事ないよ」
この世界ではモルモットが野生で存在するらしい。
確か我々に親しみのあるモルモットとは、野生種が家畜化されて久しい動物だったはず。
まぁ魔物なんてものが存在する世界で、地球との多少の差異は今更の話なのだが。
種類に関しては地球とあまり違いは無いようで、つむじがある巻き毛の子だったり、短毛な子だったり、毛色も二、三色を纏っている。
「プーイ! プーイ!」 「グルルル」
どうやら俺達に気づいて、仲間に警戒を呼び掛けているようだ。
俺も日本に居た頃飼っていたが、よく喋り表情豊かで癒される。
モルモットは意外と上下関係に厳しく、複数飼いしていると、実力行使──前歯を当ててどちらが上かをはっきりさせる行動──の現場をよく目にしたものだ。
自分に縁のある動物に出会うと、俺のペット達はどうしているかと気掛かりだが、同僚の坂本さんに任せると神様が言っていたし、大丈夫だろうと納得するしかない。
「実は昔モルモットを飼ってまして。かわいいですよね~」
「え? モルモットをかい? ホント変わってるねえあんた。干し草勝手に食べちまうし、うちとしてはいい迷惑だよ」
「対策はどのように?」
「組合に所属してる人間が当番制な都合で、毎日同じ人間が作業してる訳じゃなくてね。だから対策も人によりけりだなぁ。俺の場合は見逃してる事が多いな」
「牛達の分を脅かすほど盗み食いされるわけでは無いんですね」
「まぁあんたの言う通り見てて可愛くはあるからな。一つ作業中の癒しだよ」
見た目が可愛いのは誰が見ても間違いない。
この世界でも動物を飼い愛でる習慣が根付けば、ビジネスチャンスも生まれ、人の生活がより豊かな物になりそうなんだが。
この従業員が言ったように、潜在的には皆一様に愛でる心を持ってるはず。
「なら思い切ってこの牧場で飼育してみるというのはどうでしょうか?」
「はっ、どうしてまたそんな。無理無理。牛の面倒見るだけで手一杯だよ」
「どうせ盗み食いされるならペットとして飼って、正式に癒してもらうんです。モルモット達はエサを貰え、外敵から保護されて安心出来ますし。従業員のみなさんはホッと一息つく時間に、愛らしい姿を見て癒される。お互いに得出来ますよ?」
「う~ん、とは言ってもなぁ。確かに魅力を感じる考え方だが俺の一存では決められないし……」
「なんならクエストの完了報告のついでに、ギルドを通して畜産組合へ提案しておきますよ」
「お。そうかい? そういう事なら俺も興味が出て来たし、色々と根回ししてみるか……」
どのみち数が増え過ぎればモルモット達は害獣認定されて、駆除対象となってしまうのだ。
<求 モルモット駆除>
なんて依頼が掲示板に張り出され、俺が担当する事になるかもしれない未来なんてごめんだ。
だったら事前に少し動いて『観光牧場としての運用もありますよ』と提案した方がいい。
乳搾り体験を勧めてみるのもいいかもしれない。
冒険者なので野生との接触は多いが、夕方のエサやりだけではなく、たまには癒しの動物と殺伐としないふれあいをしたいものだ。
173
あなたにおすすめの小説
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします
雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました!
(書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です)
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。
弱者の庭〜引きこもり最強種専用施設の管理人始めました〜
自来也
ファンタジー
人間が好きすぎて魔界を追放された元・魔王。
世界を救って燃え尽き気味の元・勇者。
派手に振られて落ち込んでいる精霊王。
逆セクハラが過ぎて追放された千年狐。
可愛すぎて人間が苦手になった真竜。
戦場のトラウマで休養中の傭兵――。
そんな“最強だけどちょっとズレてる”面々が集まる、
異世界のちょっと変わった施設《弱者の庭》。
異世界転生してきた平凡な青年・アルキは、
このゆる〜い最強たちの管理人に任命されてしまった。
日常はバタバタだけど、どこかあたたかい。
そして――住人が一人、また一人と“卒業”を迎えていく。
傷ついた彼らと過ごすのんびりスローライフ。
猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める
遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】
猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。
そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。
まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。
執事なんかやってられるか!!! 生きたいように生きる転生者のスローライフ?
Gai
ファンタジー
不慮の事故で亡くなった中学生、朝霧詠無。
彼の魂はそのまま天国へ……行くことはなく、異世界の住人に転生。
ゲームや漫画といった娯楽はないが、それでも男であれば心が躍るファンタジーな世界。
転生した世界の詳細を知った詠無改め、バドムス・ディアラも例に漏れず、心が躍った。
しかし……彼が生まれた家系は、代々ある貴族に仕える歴史を持つ。
男であれば執事、女であればメイド。
「いや……ふざけんな!!! やってられるか!!!!!」
如何にして異世界を楽しむか。
バドムスは執事という敷かれた将来へのレールを蹴り飛ばし、生きたいように生きると決めた。
五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~
よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】
多くの応援、本当にありがとうございます!
職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。
持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。
偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。
「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。
草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。
頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男――
年齢なんて関係ない。
五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!
転生したらスキル転生って・・・!?
ノトア
ファンタジー
世界に危機が訪れて転生することに・・・。
〜あれ?ここは何処?〜
転生した場所は森の中・・・右も左も分からない状態ですが、天然?な女神にサポートされながらも何とか生きて行きます。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初めて書くので、誤字脱字や違和感はご了承ください。
『異世界ごはん、はじめました!』 ~料理研究家は転生先でも胃袋から世界を救う~
チャチャ
ファンタジー
味のない異世界に転生したのは、料理研究家の 私!?
魔法効果つきの“ごはん”で人を癒やし、王子を 虜に、ついには王宮キッチンまで!
心と身体を温める“スキル付き料理が、世界を 変えていく--
美味しい笑顔があふれる、異世界グルメファン タジー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる