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1-8 生きていく世界
第47話 羨望の鬼畜 怒りの平凡 1
しおりを挟む(俺は……見抜けなかったんだ……)
供述の際、キャシーから話を聞いて最初に思ったことは、現実味が感じられない、どこか他人事のような思いだった。
現在は翌夕方頃。場所はギルドの事務室の一角だ。
俺の調書はキャシーが取っている。ただただ何でも協力したい想いで一杯だ。
「……それで怒号を聞いて駆け付けた先で、虐待現場に遭遇した、と。そういうことですね?」
「はい。その通りです」
「ありがとうございました。お話は以上で大丈夫です」
「それにしてもヤマトさんにお願いした依頼が、こんなことになっているなんて……」
「ええ、俺も衝撃でした。なんせ奴と一緒に診療所にまで行きましたからね」
「あの男、尋問して判明したんですが、実は本名を"ダムソン"と言いまして、ヤマトさんに名乗ったと言うケビンは偽名なんです」
「偽名……」
「元は王都の方で手配書の出ているお尋ね者でして。強盗、暴行、殺人、他多数の容疑がかけられた極悪人だったようです」
「……でもそれが何で動物を虐待することに……憂さ晴らしとか……でしょうか」
「それなんですが……手配から逃れるためにこの街に流れ着いた後、どうやらヤマトさんの噂を耳にしたらしいんです」
「俺……ですか」
「『この街には平凡ながら動物に優しく真面目で、とても信頼できる冒険者がいる』と」
「……それと奴の所業とどう関係するんでしょうか」
「お尋ね者ですから、新たに冒険者として記録を残すとそこからばれてしまいます」
「なので、自分もヤマトさんを真似て動物を救ったり、エサをやったりして、"善人"としての表の顔を売って裏の顔を隠し、別人に生まれ変わってから冒険者として登録し、手配から逃れようと画策していたようです」
「という事はあの子猫や子犬は……」
「……ええ、自作自演だったようです。最近野良の子供が増えているんじゃないかという街の方々のお話も、ダムソンが街中や街周辺から連れ去ってきた、自分で用意した子達だったようです」
「なんて事を……そ、それじゃあ! 俺に助けを求めて、一緒に診療所に行った事は⁉」
「そこそこ評判が広がり始めたと肌で感じたようで、ダメ押しとしてヤマトさん本人にも善人として認知してもらい、お墨付きを得ようと考えたそうです」
「そんな事の為にあの子猫は……‼」
「そうですね……ワンちゃんも……一命は取り留めましたけど……」
あの時、奴が捕縛され我に返った俺は、未知の緑翼にポーションを強請り、あの子犬はなんとか救うことができたが、それは俺のせいだ。
子猫だってそうだ。
俺が目立ちさえしていなければ、あんな酷い目に合うことは無かったはずだ。
おそらく俺が魔導具を得る機会をくれたあの子猫も、奴が連れて来たに違いない。
奴は自作自演の救い出す様、あるいは微かな目撃者を捻出できるタイミングを毎度見計らい、虐待を行うタイミングを見計らっていたのだ。
地球に居た頃に、動物保護のドキュメンタリーを見たり、地域猫活動の仲間から話を聞いたりして、動物に非道を行う人間が実際に居るということは知っていた。
その時々も深い憤りの念を覚えたものだが、ましてや俺自身がその原因になってしまうなんて。
「……くっ──」
怒りとも悲しみともつかない、言いようのない感情が頭を支配する。
「……ヤマトさん? 酷い事をしたのはダムソンです。ヤマトさんに責任は無いんですからね?」
「ホホーホ……(ナカマ)」
見透かされたのか、キャシーとリーフルが励ましの言葉をかけてくれる。
「ヤマトさんも終わったかしら?」
ネアが話しかけてきた。
どうやら未知の緑翼の聞き取りも終わったようだ。
「はい……何と言うか──巻き込んでしまってすみませんでした」
「え? 何でそうなるの? 私たちは偶然に街の治安維持に協力しただけよ?」
「ネアの言う通り。俺達はこの街を守る一員として行動しただけです」
「それより聞いたかよ、あのド畜生め! 胸糞悪くて仕方ねえぜ……」
「死刑が妥当」
「俺が野良達にエサやりなんてやってたばかりにこんな事に……」
「違いますよヤマトさん! ヤマトさんがやっていた事はとても立派な事です!」
「そうよ! ヤマトさんが野良達を面倒見るようになってから、実際に街の治安は良くなったんだもの」
「狂人は何やったって絡んでくるもんだ。気にすることはねえよ」
「ヤマトは正義」
「みなさん……」
本当に良い人達だ。
奴を捕縛できたのも彼らの助けあっての事。本当に有難い。
「ヤマトさん、胸張って帰りましょう! 大罪人を捕縛出来たんです。むしろ誇るべきですよ」
「……そうですね、帰りましょう」
励ましてくれている手前申し訳ないので口ではそう返事するが、恐らく空返事に聞こえたことだろう。
◇
ギルドを後にし、街灯の灯りだけが手がかりの街並みを宿を目指し歩く。
目に映る景色は、まるで俺の心中を現しているように暗く冷たい。
この世界に転移させられた事も衝撃だったが、自分が動物好きのせいか、今回の事件が人生で一番ショックかも知れない。
──「ホー! (テキ)」
突然リーフルが騒ぎ出した。
「どうしたリーフル──敵?」
辺りを見渡すが人影は見当たらない。
「ホー! (テキ)ホー! (テキ)」
肩に乗るリーフルが首だけ九十度後ろに回し訴えている。
俺も後ろを確認するが、やはり誰の姿もない。
「なんだ、誰も居ないけどな……」
確認を終え、前に向き直し歩き出したその時──。
──まるで覚えの無い鋭利で強烈な刺激が脇腹を突き刺す。
「うっ‼──ぐ、あぁッッ……‼」
「へへ……お前が悪いんだぜ」
「ぐっ……なん……で……お前……」
「ホーッ!──ホーッ‼」
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