59 / 190
2-1 第二の故郷
第53話 ぶっつけ本番
しおりを挟む『ラフボアの群れがこっちに向かってる‼』
鬼気迫る伝令により災害現場は一瞬にしてその緊迫感を増した。
強さとしてはローウルフと同程度で退治すること自体は容易な相手だが、この状況に対し厄介な習性──群れを成し大群で突進する──が重なるとなると話は別だ。
「なんだとッ⁉──急ぎ防御陣形を組め! 屋根へは絶対に近付けさせるな‼」
ラインの号令がこだまする。
エルフ族達は災害現場から距離を取り横に広く防御陣形を組み、弓や魔法で応戦する体制を取る。
「ヤマト、安心しろ。一匹たりともお前の元へは通さん」
「ええ、任せます。俺は少しでも多く収納していきます」
ラフボアへの対処はエルフ族達に任せ、俺は土砂の撤去作業を急ぐ。
地響きを伴う轟音がその気配を増している。
いよいよラフボアの群れがこの一帯に接近しつつあるようだ。
「来た──! まずは壁だ! 勢いを殺すんだ‼」
『ファイアーウォール‼』 『クリエイト・マッドフィールド‼』 『レイズ・ストレングス……』
総勢二十数名程のエルフ族達が炎で形成される壁を創り出す魔法や、地面をぬかるみへと変化させる魔法、身体補助をする魔法等を次々に発動してゆく。
魔法が使えない者は弓を引き絞り、来たるラフボアを狙いすまし待ち構える。
さすがに精霊の末裔と言われるだけの事はあり、魔法に関しては非常に長けているようだ。
魔法の色も意に介さず、まさに猪突猛進といった勢いでこちらに迫る無数のラフボア。
ある個体は炎の壁にそのまま突入し、焼け焦げた姿が手前に倒れ込む。
またある個体は出現した沼地にその豪脚をとられ、甲高い悲痛な叫びを上げている。
賢い──運良く魔法の隙間を縫いにじり寄る個体も、エルフ族たちの精緻な弓術により的確にその動きを止められている。
直線的に突進するのが習性である以上、予測もつけ易い。彼らに任せていれば大丈夫だろう。
◇
「なんだ、おかしい……何故途切れない──これ程の数、何かに追われでもしたのか……?」
ラインがボソリと呟く。
エルフ族達はあれからゆうに三十匹は仕留めただろうか。
迫り来るラフボアの攻勢が緩むことなく続いている。
「ラインさん、この辺りには普段からこんなにもたくさんのラフボアが生息しているんですか?」
防御陣形の一間後方で万が一に備え俺の傍で見張っていたラインに問いかける。
「いや……当然生息はしているが、こんなにも纏めて、さらに言えば皆が皆同じ方角を向いて走り来るなんて、見たことが無い……」
この辺りに住むラインの言であれば間違いないのだろう。
明らかに何かおかしい。呟きの通り"何か"に追われ、生息域から逃げて来ていると考えるのが自然だ。
「ラフボア達の生息域で野火でも起こって、エサが無くなって大移動しているという可能性は?」
「我々はこの辺りを拠点とし生活して久しいが、火災が起こった事など記憶にないな」
「でしたらやはりラフボアより上位の存在……ですか」
「可能性としてはそうだろうな……くっ、しかし何と間の悪いことだ。一刻も早くアメリアを救出せねばならないというのに……」
ラインが焦りの表情を見せる。
妹、家族の生死が懸かっているんだ。家族の居る俺にも痛いほど理解できる。
『ダ、ダメだ……もう魔力が──』
ラインと原因の推察中のことだった。
ファイアーウォールを維持していた一人のエルフ族が膝をつき、防御陣形の一角に穴が開いてしまった。
「──‼ カバーに回る! 後ろは気にするな、お前はそのまま続けてくれ──!」
即座に反応したラインが戦線を維持するため防御陣形に加わるべく駆けだす。
(早く取り除かないと……!)
「ホホーホ(ナカマ)」
「うん、ありがとなリーフル」
リーフルも応援してくれている。
(そうだ、どのみちそんなに器用な人間かよ。後よりも前に集中するんだ……!)
期待に応えるべく体調の事も忘れ撤去作業に集中していたその時、後方からラインの叫び声が聞こえた。
「──ヤマトーー‼ 振り返るんだーーッ‼ 一匹抜けていった‼」
声に反応し振り返る。
すると、通常のラフボアよりも一回り大きく見える個体が、体表に焦げ跡や刺さる矢もそのままに、俺目掛け突進してくる様子が目に飛び込んできた。
(──な⁉──弓……くそっ、ラインの家か──そうだ!)
ふと長にロングソードを借り受けていたことを思い出し、柄に手を掛ける。
(ロングソード……筋力が足りなくて短剣一筋だった俺に扱えるか?)
ロングソードを鞘から引き抜いた瞬間、俺は違和感を覚えた。
(え……こんなに軽かったっけ──いや、細かいことは後だ!)
妙に軽く感じるロングソードを一振りすると、どういうわけか今まで愛用してきた短剣のように軽く扱える体感がした。
そんな俺の自問自答などお構いなしにラフボアが俺目掛け一直線に突進してくる。
応戦する時間稼ぎのため少し後退し、ラフボアの軌道上、正面から向き合う。
大口を開け牙を剥き、一切のブレも無く俺を目掛けその重量が迫り来る。
(思い出せ……あの動きだ……ッ!)
迫るラフボアの動線よりすれ違いざまに二歩右にずれる。
そしてロングソードを下から上へ振り上げる──。
(振り抜け──‼)
──頭部が胴体と別れラフボアは地面に倒れこむ。
「出来た……」
虚しくなるだけなので、あまり意識しなようにはしていた。
ロングソードを事も無げに扱っている冒険者達を見ては、本心では羨ましく思っていたのだ。
今の仕事柄、戦闘に対するイメージトレーニングはそのまま自分の生死に関わるので、重要な訓練の一つだ。
なので『もし自分がロングソードを振れれば』と、情けないが想像してはいたのだが。
「おぉッ! やるなヤマト‼」
ラインが感嘆の声を上げている。
「何とかなった……それより撤去を──」
突如頭上高くから迫る気配。
想定される最悪を察知した俺は天を仰いだ。
「──なッ⁉」
ラフボア達が駆ける振動の余波だろうか。直径五メートルはあろうかと思われる大岩が、斜面を転げ落ち、斜面の凹凸で跳ね上がり宙を舞っている。
その膨大な質量を備えた大岩が向かう先はまさに俺の地点。
接近に伴い太陽光が遮られ、捉える表面のディテールが万事休すを告げている。
(クッ……間に合わない‼)
剣を振り上げた半身を翻す体勢。傷口が開いた影響で機敏に動けない体調。
悪条件が相まり咄嗟に動くことが出来ない。
「ホーホ‼ (ヤマト‼)」──
おかしい。
リーフルが叫ぶや否や、まるで物理法則を無視しているかのように、落下する大岩の速度が遅くなっている。
(──ハッ! 避けないと‼)
身体を倒れ込ませ地を転がる。
その後飛来する大岩は突如勢いを取り戻し、無人の地面へと大きな音を立てて落下した。
「えッ⁉ 今のは……それにリーフル、今『ヤマト』って……?」
確かにリーフルが俺の名前を呼んだのが伝わってきたのだ。決して錯覚ではないはず。
それに今目の前で起こった現象はなんだったのだろうか。
「ホホーホ(ナカマ)」
リーフルが頬擦りしてくる。
「リーフル、お前……」
「──あれ……?……なん、だ……」
突然全身から力が抜けて意識が遠のいていく。
142
あなたにおすすめの小説
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします
雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました!
(書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です)
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。
弱者の庭〜引きこもり最強種専用施設の管理人始めました〜
自来也
ファンタジー
人間が好きすぎて魔界を追放された元・魔王。
世界を救って燃え尽き気味の元・勇者。
派手に振られて落ち込んでいる精霊王。
逆セクハラが過ぎて追放された千年狐。
可愛すぎて人間が苦手になった真竜。
戦場のトラウマで休養中の傭兵――。
そんな“最強だけどちょっとズレてる”面々が集まる、
異世界のちょっと変わった施設《弱者の庭》。
異世界転生してきた平凡な青年・アルキは、
このゆる〜い最強たちの管理人に任命されてしまった。
日常はバタバタだけど、どこかあたたかい。
そして――住人が一人、また一人と“卒業”を迎えていく。
傷ついた彼らと過ごすのんびりスローライフ。
猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める
遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】
猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。
そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。
まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。
執事なんかやってられるか!!! 生きたいように生きる転生者のスローライフ?
Gai
ファンタジー
不慮の事故で亡くなった中学生、朝霧詠無。
彼の魂はそのまま天国へ……行くことはなく、異世界の住人に転生。
ゲームや漫画といった娯楽はないが、それでも男であれば心が躍るファンタジーな世界。
転生した世界の詳細を知った詠無改め、バドムス・ディアラも例に漏れず、心が躍った。
しかし……彼が生まれた家系は、代々ある貴族に仕える歴史を持つ。
男であれば執事、女であればメイド。
「いや……ふざけんな!!! やってられるか!!!!!」
如何にして異世界を楽しむか。
バドムスは執事という敷かれた将来へのレールを蹴り飛ばし、生きたいように生きると決めた。
五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~
よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】
多くの応援、本当にありがとうございます!
職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。
持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。
偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。
「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。
草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。
頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男――
年齢なんて関係ない。
五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!
転生したらスキル転生って・・・!?
ノトア
ファンタジー
世界に危機が訪れて転生することに・・・。
〜あれ?ここは何処?〜
転生した場所は森の中・・・右も左も分からない状態ですが、天然?な女神にサポートされながらも何とか生きて行きます。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初めて書くので、誤字脱字や違和感はご了承ください。
『異世界ごはん、はじめました!』 ~料理研究家は転生先でも胃袋から世界を救う~
チャチャ
ファンタジー
味のない異世界に転生したのは、料理研究家の 私!?
魔法効果つきの“ごはん”で人を癒やし、王子を 虜に、ついには王宮キッチンまで!
心と身体を温める“スキル付き料理が、世界を 変えていく--
美味しい笑顔があふれる、異世界グルメファン タジー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる