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2-2 回帰と変心
第59話 顛末の沙汰
しおりを挟む王立統治機構在辺境都市サウド支部庁舎、通称”役所”。
統治官から直接話があるという事で、俺と未知の緑翼の面々は、役所三階にある応接間でその時を待っていた。
「ヤマトさん、これはもういよいよですね」
リーダーのマルクスが何やら仰々しく口を開いた。
「む? 何がですか?」
「ん、俺の言ってきた通り」
「ショートはずっとヤマトの事評価してたもんなぁ」
「そうね~『奇跡の生還!』となれば確かにそうかも」
「もう平凡モドキじゃなく、"ウソ平凡"」
「ウソ平凡って……」
(まるで俺が嘘つきな人間みたいに聞こえるなぁ……語呂も悪いし)
「いやショート、さすがにウソ平凡はどうかなぁ」
「あだ名……名付けだったら私こそが──!」
扉を叩く音が響く。
「失礼致します。統治官様がお呼びです」
格式高い装いの女性が頭を下げ促している。
(あ、危ないところだった……あのままだったらウソ平凡よりも悪くなってたかも)
◇
「ヤマト君、安心してくれたまえ。報告書には目を通しているので説明は不要だ」
「しかし……災難な目にあったものだな」
統治官リーゼス・リム。この街を治める最高権力者。
久しぶりの面会だが、相変わらず嫌味なところも高圧的な態度でも無く、エルフ族とはまた違う系統の男前ぶりだ。
「あいえ……元はと言えば私の日課が招いた事態でありますので」
「この街を──ギルドも統括する立場として改めて謝罪させてもらう。すまなかった」
リーゼスが椅子から立ち上がり頭を下げ正式な礼をしている。
「は、はい、ありがとうございます」
「脱走を許した顛末なのだがね。とは言え死人に口なし。本人から尋問する事は叶わない為あくまでも推論ではあるが、襲われた見張りを担当していた冒険者の証言から、どうやらダムソンはカメレオンのように自分の身体を周囲と同じ色に変化させるユニーク魔法が使えたようだ」
「牢内で突如として姿を消したダムソンを捜索する為にカギを開け中に入ったところ、不意打ちを受け短剣を奪われ、逃走を許してしまったそうだ」
「なるほど」
(あの時俺が予測した能力と大体同じ証言だな)
「正当防衛なのは明白。罪に問うどころか、手配書の重罪人を仕留めた功労者として、今日は君を表彰する為に来てもらった」
「ホーホ! (ヤマト!)」
定位置の肩に止まるリーフルが誇らしげに翼を広げる。
しかし思い切り顔に被ってしまい、なんとも締まらない。
「……それでだが、実は未知の緑翼の皆を、ダムソン逮捕の成果で先に表彰しようとしたのだが『ヤマトさんは絶対に戻って来る、そんな無責任な人じゃない。だから待ってください』と言って突っぱねられてしまってね」
「俺達は信じてましたから」
「当たり前だぜ。あの慎重堅実なヤマトが、あんな小悪党ごときにやられるはず無いってな」
「クエスト正帰還率最上位は伊達じゃない」
「そうよ、この件に決着をつけたのはヤマトさんなのに、私達だけ表彰されるなんて嫌よ」
巻き込んでしまったのは俺の方だというのに、皆は煙たがるどころか親身になって俺を励ましてくれている。
俺が突如として居なくなった後、捜索の為に随分と奔走してくれた事もキャシーから聞いている。
冒険者をやっていると身の危険はしょっちゅうで、正直心が折れそうになる瞬間もある。
だがこうして仲間の存在を感じると、冒険者になって良かったという相反する感情も抱く。
俺が冒険者を続けているのは、そういう一種の中毒的刺激のせいもあるのかもしれない。
「報告書によると、君はエルフ族の村で人命救助に尽力したそうだな?」
「あのような事態に見舞われたというのに、その出先で自分の身も顧みず献身を尽くすとは、恐れ入ったよ」
「いえ……御恩返しに少しだけ協力しただけですので」
「いやぁ、話を聞いて俺達もびっくりしましたよ」
「平凡、やる時はやる男」
「ヤマトらしいぜ。無事帰ってくるどころかお節介までこなしてくるとはな」
「さっき挨拶したけど、ラインさん? ちょ~イケメンよね。さすがエルフ……」
「……表彰の件に話を戻すが、手配犯──ダムソンを捕らえた功績として、諸君には定められた懸賞金に基づき金貨二十枚」
「別途ヤマト君単身には首を刈り取った功績と、私からの個人的な見舞金として金貨五枚。褒賞金だ、受け取ってくれたまえ」
そう言ってリーゼスが金貨の詰まった袋を取り出した。
「いいんでしょうか……突発的とは言え、私刑を働いたようなものですが……」
「む? わからないな。ダムソンは憂慮する必要の無い重犯罪者だ。無暗な私刑は看過されるものではないし、法律は当然遵守せねばならぬものだが、時と場合による」
「今回に関しては誇りこそすれ、何を迷う事が? それに法の執行者は私だ。私の判断において、君は大いに治安に貢献した優良市民だ」
「……はい。では有難く頂戴したいと思います」
死が身近な世界だから、多角的に検証し更生や酌量を考えるという暇が無いのかもしれない。
矛先が自分に向く可能性もあるのだから恐ろしい事ではあるが、分かりやすいと言えば分かりやすい。
都度思う事だが、日本人としての価値観とのズレには中々慣れないものだ。
◇
ギルドへ帰る道中、折角なので冒険者仲間同士ラインも交えて親睦会でもと話していたのだが、湖の近くにブラックベアが現れたとの急報があり、未知の緑翼の面々は討伐へと向かってしまった。
ダムソン捕縛による褒賞、金貨二十枚は俺達五人で分けると言われたが、なんとか説得し俺の分はそのまま収めてもらった。
そもそも俺は茫然と事の成り行きを眺めていただけで、事件に巻き込んだ負い目もあれば、捜索活動の対価も支払わねば冒険者界隈での示しも付かないからだ。
見舞金の金貨五枚に関しては──俺としては何とも複雑な心境ではあるが、自分のした事のけじめとして受け入れる事にした。
ギルドの酒場に腰を降ろし、ラインと別れの挨拶を交わしている。
「証言、非常に助かりました、ありがとうございました。ラインさんが居なかったら、俺もリーフルも日常に帰って来る事は出来ませんでした」
「何を言う。俺の方こそ妹を救ってもらったんだ」
「それにリーフル様とも触れ合うことができ、あまつさえ精霊様──ウンディーネ様とあんなにも歓談出来る日が訪れようとは。全てお前のおかげだヤマト。こちらこそ礼を言う」
「ホーホホ(タベモノ)」
「リーフル様……お別れの御言葉、痛み入ります……」
お祈りの所作をとっている。
(敬ってくれているところ申し訳ないけど『お腹すいた』って言ってるだけなんだよな……)
「それではな。知っての通り俺は定期的にサウドへやって来る。その時はまた一緒にキノコティーでも楽しもう」
「ええ、お気をつけて。本当にありがとうございました」 「ホホーホ(ナカマ)」
そう言ってラインは綺麗な長髪をなびかせながら酒場を後にした。
ラインに命を救われリーフルの神話を知り、人命救助にラフボアとコカトリスの襲撃。かつてないほど目まぐるしい事象の連続だった。
冒険者らしいと言えばそうなのかもしれないが、俺の強さには少し荷が重すぎる。よく生き延びたものだと自分でも驚きだ。
だが今回の一連の経験は、必ず後に活きるに違いない。
今回ばかりは後輩であるロングにでも教訓を説くフリでもして、冒険譚──武勇伝でも語ってみようか。
「ホーホ(ヤマト)」
「ん~?」
「ホーホホ(タベモノ)」
「そうだった、はい」──
──んぐんぐ「ホ……」
「ん……ちょっと待てリーフル」
「名前を呼んでくれるようになったのは嬉しいけど、今の催促するスムーズな流れ……ちょっと人間ぽくて可愛くないぞ?」
「ホ? (ワカラナイ)」
「確信犯だな、こりゃ……」
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