平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ

文字の大きさ
76 / 190
2-3 恋と出会いとお化け

第66話 ラブレター

しおりを挟む

 先程間違って訪れた伝書鳩が落としていった手紙。
 文末にはしっかり差出人と受取人が把握できる内容が書かれていた為、届ける事自体は簡単なのだが、どうも嫌な予感がしてならない。

 伝書鳩を利用した手紙の外側には、それを示す判が押される。
 なのでこういう場合、事業主の下へ送り届ければ話が早いのだが、何かの手違いかこの手紙には押印されておらず、"伝書鳩の手紙"という事を証明する事が出来ない。
 そうなると、この手紙の差出人を知っている俺が返しに行く方が話が早いので、中央広場で果物の露店を営むお姉さん、"ルーティ"の所までやってきた。

「こんにちは」 「ホホーホ(ナカマ)」

「あら、こんにちはお兄さん。リーフルちゃんはもうアプル食べちゃいました?」

「いえ、与える量は俺が管理してるので、無くなった訳じゃないんですけどね……」
 どう切り出したものか、言い淀んでしまう。

「? 今日はどうしたの? またかき氷の材料でも探してるのかしら」

「──すみません!」

「ど、どうしたんですか、いきなり」

「先に謝っておきますが、実は先程ですね……」
 伝書鳩に関する事情を説明する。


「や、やだっ! 恥ずかしいわ……それになんてだらしないのっ! 宛先はかすれて読めなくなってるし、伝書鳩の判子もないし!」
 ルーティが顔を少し赤らめ狼狽した様子でうつむく。
 どうやら利用した業者はかなり杜撰な管理を行っているようだ。

「あ~……ですので『すみません』なんです。も、もちろん全文は読んでませんので、信用して頂けると有難いです」

「う、うん……お兄さんなら、ずけずけとそんな事しなさそうなのは分かるから大丈夫よ」

「ありがとうございます。では、今日はそれを届けに来ただけなので俺はこの辺で──」
 別に急いでいる訳では無いが、早口にそう告げ立ち去ろうとする。

「──乗り掛かった舟よ!」
 ルーティが俺の言葉を遮り、大きめの声量で宣言する。

(むぅ……やっぱりそうなるか……)

「ど、どういう事でしょうかね~? な、なぁリーフル」

「ホ~?」

「お兄さんが未知の緑翼と懇意なのは知ってるのよ! ここは私に協力するべきじゃないかしら!──というよりお願いよ~、ライバル達恋敵を出し抜くには伝書鳩程度じゃ足りないのよ~」
 ルーティが胸の前で両手を組み、懇願するポーズで訴えかける。

「い、いやぁ懇意と言っても仕事仲間なんでプライベートな事は……」

「……アプル半額」
 ボソりと呟く。

「えっ……?」
 立ち去ろうと半身に構えていた姿勢が、自然にルーティへと向き直る。

「成功報酬よ。もし成就した暁には、今後、お兄さんにはアプルを半額にしてあげる!!」

「なっ!!」
 
(き、汚いぞルーティさん……)
 リーフルが果物の中でも、特に"アプル"がお気に入りなのを知っての提案だ。
 高額では無いとは言え、時期により一つ銅貨三、四枚程する。
 出費はなるべく抑えるに越したことはない、半額で手に入るというのはあまりにも魅力的な報酬に思う。

「ホーホホ? (タベモノ?)」

「むぅ……リーフル……」
 リーフルが、さもお願いしているかのような声色で訴えてくる。
 確かに例えデザートの事であろうと、なるべく我慢させたくない気持ちがあるのも事実。
 
「どう? どうかしら!? 半額よ?──半額!」
 期待を込めた眼差しでルーティが迫る。

「っく……わかりました」
 デザート代を節約出来る可能性があるなら、相棒として受けざるを得ない。

「ホント!? ありがとうお兄さん! 未知の緑翼のと名高い"平凡ヤマト"が協力してくれるんなら、勝ったも同然ね!」
 
(盟友って……噂の一人歩きには注意しないといけないな)

「め、盟友では無いのでその辺り、周りにも訂正しておいて頂けると助かりますが……取り敢えず"段取り"すれば、後はルーティさんご自身で決着されるという事でいいんでしょうか?」

「そうね……うん、そうしてくれるだけでも、かなりの優位が取れるもの。それに、変な幻想を抱かせて欺いたところで、面と向かえばすぐバレるものね」
 潔くそう語るルーティには好感が持てる。
 経験値零の俺の援護なんて焼け石に水程度の効果も無いだろうし、そういう事なら協力しても大丈夫だろう。

「じゃあルーティさんの休みの予定と、軽くどう想っているかだけ教えてもらえますか?」

「そうね、基本的に露店を出すのは……」

 手紙を預かり、ルーティと綿密な打ち合わせ──情報収集を行い、俺はギルドへと向かった。


 
 昼時のギルドは昼食を取る冒険者達が酒場の方では賑わいを見せているが、掲示板や受付には一般の出入りする人達が散見されるだけで、静かなものだ。
 俺は件の探りを入れるために、未知の緑翼の予定を把握しようと、キャシーに尋ねていた。

「こんにちは」 「ホホーホ(ナカマ)」

「こんにちはヤマトさんリーフルちゃん。今日はどちらへ?」

「いえ、俺は今日は休みます──すみません、未知の緑翼の皆さんが今どこに居るかご存知ですか?」

「あ~。皆さんなら午前中に一件終えられて、今は孤児院にいらっしゃると思います」
 
「孤児院ですか。どうしてまた?」

「あれ、ヤマトさんはご存知無かったんですか? 未知の緑翼の皆さんは孤児院出身なんですよ」

「あ、そうだったんですね」

「何かご用件でしたら、私がお伝えしておきましょうか?」

「あぁ……い、いえ。直接お伝えしないといけない事柄なので。ありがとうございます」
 親切にもキャシーが伝達すると提案してくれるが、流石に恋愛事を他人に任せる訳にはいかないので遠慮しておく。

「そうですか。それにしてもきっぱりとだなんて、珍しいですね?」

「体調管理の一環に、たまにはいいかなと思いまして」

「最近お疲れになられる事が続きましたもんね。リーフルちゃんもヤマトさんとのんびり出来て嬉しいんじゃないかしら」

「ホーホ(ヤマト)」
 リーフルが嬉しそうに頬擦りしてくる。

「リーフルも大変だったろうしな」
 頭を撫で返す。

(そういえばキャシーさんは自他共に認める"看板娘"だもんな……ある程度ファンも居る事だろうし、何か参考になる情報を聞き出せないかな)
 
「ところでキャシーさん。突然ですけど、キャシーさんは看板娘として勤務されていて、男性から好意を寄せられる事も多いのでは?」

「はっ! ヤマトさん……!──ごめんなさい。受付嬢と冒険者の恋愛はご法度。いくら慎重なヤマトさんでも、隠し通す事は難しいでしょう……」
 キャシーは口に手を当て、視線を落とし、まるで往年の名俳優かのように大袈裟に、悲壮感漂う振る舞いを見せる。

「ホーホホ(タベモノ)」

「そっかぁ、お腹すいたか~」

「……ヤマトさん? 反応が無いと寂しいんですけど!」

「慣れとは怖いものですね」

「もう! ヤマトさんとのやり取りは、私にとって勤務中唯一の癒しなんですから、冷たくするならもう受付してあげません!」
 キャシーが語気を強めそっぽを向いてしまった。

「ご、ごめんなさい。受付拒否だけは勘弁してください……たまにはこちらが冗談を返すのもいいかと思いまして」

「ふふ。やっぱりヤマトさんは仕事がしやすくて助かります」

 それにしても未知の緑翼が孤児院出身だとは初耳だった。
 彼らとは何度も一緒に仕事クエストをこなしているが、今思い返すとプライベートな会話をあまりしたことがない。
 手紙を届ける都合もあるわけだし、一度孤児院を見学してみるのも、この街をさらに知るきっかけになると思う。
 ダムソンの被害に遭った子猫も孤児院に引き取られたと聞いている。
 その経過も気になっていたので、リーフルと共に孤児院に向かう事にした。
しおりを挟む
感想 237

あなたにおすすめの小説

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします

雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました! (書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です) 壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。

弱者の庭〜引きこもり最強種専用施設の管理人始めました〜

自来也
ファンタジー
人間が好きすぎて魔界を追放された元・魔王。 世界を救って燃え尽き気味の元・勇者。 派手に振られて落ち込んでいる精霊王。 逆セクハラが過ぎて追放された千年狐。 可愛すぎて人間が苦手になった真竜。 戦場のトラウマで休養中の傭兵――。 そんな“最強だけどちょっとズレてる”面々が集まる、 異世界のちょっと変わった施設《弱者の庭》。 異世界転生してきた平凡な青年・アルキは、 このゆる〜い最強たちの管理人に任命されてしまった。 日常はバタバタだけど、どこかあたたかい。 そして――住人が一人、また一人と“卒業”を迎えていく。 傷ついた彼らと過ごすのんびりスローライフ。

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

執事なんかやってられるか!!! 生きたいように生きる転生者のスローライフ?

Gai
ファンタジー
不慮の事故で亡くなった中学生、朝霧詠無。 彼の魂はそのまま天国へ……行くことはなく、異世界の住人に転生。 ゲームや漫画といった娯楽はないが、それでも男であれば心が躍るファンタジーな世界。 転生した世界の詳細を知った詠無改め、バドムス・ディアラも例に漏れず、心が躍った。 しかし……彼が生まれた家系は、代々ある貴族に仕える歴史を持つ。 男であれば執事、女であればメイド。 「いや……ふざけんな!!! やってられるか!!!!!」 如何にして異世界を楽しむか。 バドムスは執事という敷かれた将来へのレールを蹴り飛ばし、生きたいように生きると決めた。

五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】 多くの応援、本当にありがとうございます! 職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。 持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。 偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。 「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。 草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。 頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男―― 年齢なんて関係ない。 五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!

転生したらスキル転生って・・・!?

ノトア
ファンタジー
世界に危機が訪れて転生することに・・・。 〜あれ?ここは何処?〜 転生した場所は森の中・・・右も左も分からない状態ですが、天然?な女神にサポートされながらも何とか生きて行きます。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初めて書くので、誤字脱字や違和感はご了承ください。

『異世界ごはん、はじめました!』 ~料理研究家は転生先でも胃袋から世界を救う~

チャチャ
ファンタジー
味のない異世界に転生したのは、料理研究家の 私!? 魔法効果つきの“ごはん”で人を癒やし、王子を 虜に、ついには王宮キッチンまで! 心と身体を温める“スキル付き料理が、世界を 変えていく-- 美味しい笑顔があふれる、異世界グルメファン タジー!

処理中です...